草間彌生や村上隆らトップアーティストが勢揃い! 『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』開幕レポート
奈良美智《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》2006年
世界的に高い評価を得ている現代アーティスト6名の作品が、森美術館に集結。『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』(会期:2020年7月31日〜2021年1月3日)は、戦後の高度経済成長期から2000年代までに、日本を起点に国際的に活躍し、自らの信じる道を深く探求してきたトップアーティストたちの活動の軌跡をたどるもの。草間彌生、李禹煥(リ・ウファン)、宮島達男、村上隆、奈良美智、杉本博司の作品が一堂に会する圧巻の空間は、作家ごとに展示室が区切られ、各作家の初期作品と最新作を併せて鑑賞することができる。
村上隆《ポップアップフラワー》2020年 (C)2020 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd All Rights Reserved.
草間彌生《無限の網》1965年
さらに、アーティストたちの活動歴と作家や批評家の言葉を記したパネルや、過去に海外で開催された日本の現代美術展をオリジナル資料をもとに紹介するコーナーなど、貴重なアーカイブ展示も見逃せない。五感と知識欲の両方を刺激する会場より本展の見どころをお伝えしよう。
会場エントランス
展覧会グッズ
リアルな空間で、現代アートのスケールを体感!
新型コロナウイルスの影響により、長らく休館していた森美術館。再開後初めて催された本展覧会は、世界が認めたスターらの作品が集う華々しい空間になっていた。
展示冒頭では、村上隆による巨大な鬼の彫刻作品や、壁一面を覆う大型絵画に圧倒されるだろう。オンラインによる新しい美術鑑賞の楽しみかたが広まりつつあるなか、美術館というリアルな空間で、迫力のあるインスタレーション作品や映像を通して、現代美術ならではの醍醐味を味わいたい。
村上隆《阿像》、《吽像》2014年 (C)2020 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd All Rights Reserved.
オタク文化を反映したキャラクターを生み出し、さまざまな作品を発表してきた村上隆。展示室には、2次元のキャラクターを3次元化した《Ko2ちゃん(プロジェクトKo2)》や、本展のために描かれた約20メートルの巨大絵画《チェリーブロッサムフジヤマJAPAN》のほか、東日本大震災への応答として制作された《阿像》、《吽像》などが出展されている。
手前:村上隆《Ko2ちゃん(プロジェクトKo2)》1997年、奥:村上隆《チェリーブロッサムフジヤマJAPAN》2020年 (C)2020 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd All Rights Reserved.
子どもや動物、植物をモチーフに、鑑賞者の想像力を刺激するようなドローイングや、絵画、彫刻作品を発表してきた奈良美智。展示室内でひときわ存在感を放つのは、中期の代表的なインスタレーション作品《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》だ。本作の傍らには、新作の大型肖像絵画《Miss Moonlight》も展示される。
奈良美智《Voyage of the Moon(Resting Moon)/Voyage of the Moon》2006年
奈良美智《Miss Moonlight》2020年
さらに、1980年代から近年までの初公開を含む約20点のドローイングのほか、音楽への造詣の深さを感じさせるレコードやCDなど、奈良本人の多様なコレクションにも注目したい。圧倒的なスケールの作品を前に、五感が刺激されるような鑑賞体験は、現代美術に馴染みがなくても楽しめるものになっている。
奈良美智の作品(展示風景)
「スターは一日にして成らず」
本展は、異なる6名のアーティストたちの実践が、世界からどのように評価されてきたのかを、日本固有の社会的、文化的、経済的背景をふまえて探るもの。参加アーティストたちのなかには、若くして認められた作家もいれば、晩年になって再評価された作家もいる。彼らの作品を通して、世界が日本に何を期待しているのかが見えてくるかもしれない。
水玉や網目模様を繰り返す表現を特徴とする草間彌生の作品は、幼少期から続く幻覚症状や強迫観念の影響によるものだという。しかし、ポップな色彩とカボチャや花といった親しみやすいモチーフは、幅広い世代から支持を得ている。展示室には、ニューヨークを拠点にしていた1960年代の初期作品から、鏡を用いたインスタレーション作品、最新の絵画シリーズ《わが永遠の魂》などが出品され、草間作品の世界観を存分に堪能できる場となっている。
草間彌生《Infinity Mirrored Room——信濃の灯》2001年
草間彌生の作品(展示風景)
日本と韓国の現代美術界の交流に尽力した李禹煥。日本の高度経済成長期に生まれた、ものや素材そのものを提示する「もの派」を代表する作家であり、李はもの相互の関係性に意識を向けた制作を続けてきた。展示空間には「もの派」の思想を色濃く反映した最初期の作品《関係項》や、新作の大型絵画《対話》などが集い、静謐な空間を生み出している。
李禹煥の作品(展示風景)
李禹煥《対話》2019、2020年
初期作品と最新作を同時に鑑賞する
本展の特徴として、各アーティストが国際的に認められるようになった頃に制作された初期の作品と、最近作や新作を並べて展示していることが挙げられる。
刻々と数字が変化するデジタルカウンターを用いて、インスタレーションや立体作品を中心に制作してきた宮島達男。会場には、時間という普遍的な概念を扱いつつ、テクノロジーや仏教的思想を融合させた作品のなかから、《30万年の時計》、《Monism/Dualism》といった、作家の海外デビュー前後のものが出品されている。
宮島達男《30万年の時計》1987年
《「時の海-東北」プロジェクト(2020 東京)》は、東日本大震災犠牲者の鎮魂と震災の記憶の継承を願うインスタレーション。2017年から継続的に制作されている「時の海-東北」プロジェクトの最新作にあたる本作は、一般参加者がデジタルカウンターの速度を設定する様子を収めた映像とともに紹介されている。
宮島達男《「時の海-東北」プロジェクト(2020 東京)》2020年
現実と虚像の間を往来する「ジオラマ」や、世界各地の水平線を撮影した「海景」など、一貫して明確なコンセプトに基づき写真作品を発表してきた杉本博司。初期の代表的なシリーズ《ジオラマ》より出品される《シロクマ》は、ニューヨーク近代美術館に収蔵された象徴的な作品だ。
杉本博司《シロクマ》1976年
展覧会会場の最後を締めくくるのは、杉本が手がけた初映画作品《時間の庭のひとりごと》。本作は、作家が神奈川県小田原市に設立した「小田原文化財団 江之浦測候所」(2017年開館)の四季折々の姿が、杉本自身の言葉を随所にはさみながら納められている。現代美術に限らず、古美術や建築、伝統芸能に精通する杉本の、人生の集大成ともいえる作品にじっくりと浸りたい。
杉本博司《時間の庭のひとりごと》2020年
音声ガイドやアーカイブ展示から、作品理解を深める
会場には、6名のアーティストの展覧会歴や展覧会評を記した展示パネルや、カタログなどの資料を紹介したコーナーも設置。作家本人や批評家たちが残した言葉の数々はどれも力強く、印象に残るものばかりだ。
アーティスト関連資料(展示風景)
アーティスト関連資料(展示風景)
さらに、1950年代から2010年代までに海外で開催された日本の現代美術展から50展を選び、各展の概要とともに当時の批評や展示写真を紹介するアーカイブ展示も見逃せない。これらの展示は、日本の現代美術の海外における受容を紐解く内容になっている。
アーカイブ展示
また、アーティストへのインタビューを中心に構成された本展の音声ガイドは必聴。6人が自身のキャリアや作品について語る貴重な音源は、ぜひ作品鑑賞のお供に聴いてほしい。『STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ』は、2021年1月3日までの開催。