朝ドラで注目された小川紗良が、主演映画『ビューティフルドリーマー』を通して感じた映画製作で生まれる責任

インタビュー
映画
2020.11.13
小川紗良 撮影=福家信哉

小川紗良 撮影=福家信哉

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NHK連続テレビ小説『まんぷく』(2019年)など俳優として活躍し、また映像作家として来年、初長編監督作「海辺の金魚」を公開する小川紗良。彼女が、大学映画研究会に所属する学生監督役をつとめるのが、映画『ビューティフルドリーマー』だ。部室の片隅で見つけた『夢みる人』というタイトルの古い脚本と演出ノートを頼りに、文化祭に向けて映画づくりに初挑戦する部員たち。その青春模様を、『踊る大捜査線』シリーズ、『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)、『亜人』(2017年)などのヒットメイカー、本広克行監督が描く。原案『夢みる人』を手掛けたのは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)等の押井守監督。映画づくりという夢のような時間を過ごす若者たちのストーリーについて、主演の小川紗良に話を訊いた。

小川紗良

小川紗良

――この作品は、初めての映画づくりに挑む大学映研の部員たちの物語ですが、小川さんは映画を初制作したとき、どのような雰囲気でしたか。

初めて撮った作品は、映画サークルの身近な人たちと組んでやりました。当時のワクワク感は、この映画の若者たちと似ているかもしれません。『あさつゆ』(2016年)という作品で、ありがたいことに『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016』や『さぬき映画祭2017』に入選もして。私は監督として映画を作るときはスタッフも知り合いが多いんです。信頼を置ける人たちと気持ち良くやるのが一番ですね。

――ただ、この映画のマスコミ用資料に、「映画サークルの活動や映画撮影のあり方が変わり果ててしまった今となっては」とコメントしていらっしゃいますが……。

新型コロナウイルスの影響もあって、映画やドラマの現場でも待ち時間は常にフェイスシールドを付けていますし、そういう意味であり方が変わってしまったんです。映画づくりって人と人の距離の近さが大事だと思っているので、スタッフ同士、キャスト同士のチームワークが重要なんです。コロナのこともあって、その関係が築きにくくなった気がします。

――映像制作は人と人との距離感、関係性含めて密な現場ですもんね。

そうなんです。役者も、昼食時は会話を控えるように言われていますし、一人ひとりで食べることも多くて。食事をしているときに交わす会話をキッカケに関係性が強くなって、役の理解が深まっていくことも多いので、そういう時間を重ねにくくなったことは、弊害と言えるかもしれません。

――『ビューティフルドリーマー』のなかで描かれている映画づくりが、今となってはまさに夢のようなお話になってしまった。

この作品はコロナなんて考えもしなかった時期に撮っていました。役者同士もすごく仲良くなって、撮影の合間も遊んだりしていて。そういう現場は今は作れないですね。

小川紗良

小川紗良

――映画の中身の部分ですが、オーディションシーンがまず特徴的に描かれていますよね。小川さんもご自身の監督作でオーディションを実施されてきたと思いますが、その際は役者のどういうところを見ますか。

私は、俳優さんがドアを開けて入ってきたその一瞬で、「この人が良い」となるんです。直感というか、一目惚れみたいな感じ。「良いな」と感じた人って、台本を読んでもらっても、お芝居してもらっても、「良い」という印象が変わらない。「おはようございます」という挨拶の感じ、出で立ち、雰囲気などで分かるものがある気がします。

――逆に役者の立場に置き換えると、監督やプロデューサーから直感で決められると、オーディションに落ちたとき「ちょっと待って。もっと芝居を見て」と思いませんか?

いや、それはあまりないですね。自分が監督としてオーディションを見る側を経験してから、女優としてオーディションに参加するとき、気持ちが軽くなりました。どのオーディションでも監督、プロデューサーの感覚に合うかどうかなんです。もちろんお芝居も大事ですけど、それ以上に、合う、合わないがあるんです。その時、その作品、監督との巡り合わせみたいなもの。そう思えるようになってからは肩の荷がおりました。

――あえて伺いますが、本広監督との相性はいかがでしたか。

本広監督はお芝居の細かい演出はされず、役者を選んだ時点で仕事の一つが終わっているようなところがあると思います。自分が良いと感じて選んだ役者だから、あとはその人を信頼して任せるタイプなのだと思います。

――役者を選んだ段階で一つの仕事が終わる、というのはおもしろいですね。

役者を選んだ時点で、その人がどういうお芝居をするか、どんな立ち振る舞いをするかはある程度決まってくる。それは監督の好みで選ぶものなので、そうなると選んだ時点でいろいろ出来上がっているものですよね。キャスティングも演出だと思います。

――この映画のなかで、俳優の口に大砲が突っ込んでくるシーンがあります。そこで「これってどういうことなのか」と意味を尋ねられて、サラ監督は「よく分かりません」と返答する。小川さんは監督の立場のとき、役者からそういった質問を受けたり、逆に出演者のときに「わからない」と疑問をぶつけたりしたことはありますか。

私はそういう経験はあまりないです。結局、役に関して言えば、それは役者の責任だと思うんです。もし監督に答えてもらえなかったら、自分で答えを探すしかない。正解がどうかは別として、自分なりの答えは出しておきたいですね。監督が役者からの問いかけに答えるかどうかは、その方の演出方法なので。

――劇中、プロデューサーが「監督にこだわりがないと私たちは(良くない方へ)流されていっちゃう」と言いますよね。あの場面は、監督というポジションの重要性を改めて考えさせてくれます。

監督の持っているこだわりや醸し出している空気は現場全体に伝染するものですしね。私も脚本を書いていて、その内容についてプロデューサーと長時間話したり、画面サイズひとつでもカメラマンとかなり話し合ったり。そういう経験はたくさんあります。

小川紗良

小川紗良

――劇中劇『夢みる人』には、「責任とってね」という大切なセリフがあります。これは元ネタである1984年の押井守監督作のアニメ『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』で、あたるによって夢の世界から現実世界に引き戻されたラムの言葉として重要なもので、今作にもオマージュとして使われていますが、この台詞は、映画づくりという夢から一度は覚めたサラ監督が、仲間たちによって再び映画の現場に戻っていくことへの「責任とってね」に聞こえますね。映画づくりにおける責任のあり方って人によって、もちろん違いますけど。

私が考えるに、映画づくりはまず自分のためだと思います。『パラサイト 半地下の家族』(2020年)でポン・ジュノ監督がアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞したとき「個人的なことが創造的だ」というようなスピーチをされました。本当にその通りで、映画ってすごく個人的なことから始まり、それが普遍性を持っていろんな国や時代に届いていく。自分事から始まったものが、気づいたら人に届いたり、誰かの責任を果たしたりしながら、いろんなところへ転がっていく。そういうところが映画のおもしろさなのではないでしょうか。

――そういう意味では、公開が控えている初長編監督作『海辺の金魚』がどのように広がっていくか楽しみですね。

2019年夏に鹿児島で撮ったのですが、子どもたちがたくさん出演していて、ギュッと濃縮された時間を過ごしました。東京に帰ってきたときは、まさに夢から覚めたような虚無感がありました。自分の思い入れのあるテーマと場所で撮りました。自分という小さなところからはじまった物語ですけど、それがいろんな人に届いたら嬉しいです。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

作品情報

映画『ビューティフル ドリーマー』
【出演】
小川紗良 藤谷理子  神尾楓珠 内田倭史 ヒロシエリ
森田甘路 斎藤工 秋元才加 瀧川英次 升毅 ほか
 
監督:本広克行
原案:押井守『夢みる人』
脚本:守口悠介
キャラクター設定・構成:奥山雄太(ろりえ) 横山翔一
脚本協力:高井浩子
製作:勝股英夫(エイベックス・ピクチャーズ)石川光久(Production I.G)
エグゼクティブプロデューサー:西山剛史 森下勝司
企画・プロデュース:穀田正仁 稲葉もも
プロデューサー:雨無麻友子
アソシエイトプロデューサー:上久保友貴 
宣伝プロデューサー:高原万平
撮影:川越一成
照明:木村伸
録音:倉貫雅矢
美術:相馬直樹
編集:岸野由佳子
サウンドデザイン:大河原将
VFXスーパーバイザー:大見康裕
音楽:菅野祐悟
装飾:桑田真志
衣裳:中島エリカ
ヘアメイク:堀奈津子 
監督補:山口淳太
助監督:松田祐輔
制作プロダクション:LDS
配給:エイベックス・ピクチャーズ
製作:映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会 エイベックス・ピクチャーズ Production I.G 清栄コーポレーション ポニーキャニオン
本編:75分
公式サイト:https://beautifuldreamer-movie.jp/
(C)2020 映画「ビューティフルドリーマー」製作委員会
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