失われた2000年前の都市に想いを馳せて 特別展『ポンペイ』オンライン報道発表会レポート

レポート
アート
2021.11.5
特別展『ポンペイ』チラシ

特別展『ポンペイ』チラシ

画像を全て表示(10件)

2022年1月14日(金)から4月3日(日)まで、東京国立博物館 平成館にて特別展『ポンペイ』が開催される。

ローマ帝国の豊かな地方都市だったポンペイは、今からおよそ2000年前に、火山の噴火によって街が丸ごと埋没。1万人以上が暮らしていた大都市が、24時間ほどで全滅するという悲劇に見舞われた。火山灰に飲み込まれた人々の住まいや家財などは、タイムカプセルに入ったように時を超え……その後、18世紀から現在に至るまで精力的な発掘調査が続けられている。

本展ではナポリ国立考古学博物館の全面協力のもと、モザイクや壁画、彫像、生活用品など様々な発掘品が展示される。特に強調したいのは「ナポリ国立考古学博物館の誇る名品・優品が、いまだかつてない規模で来日する」というポイントだ。ポンペイに生きていた人々の暮らしや、その息吹を感じられる貴重な機会となるのは間違いないだろう。この記事では、オンラインにて開催された報道発表会の様子をレポートする。

名品を揃え、満を持しての開催!

発表会冒頭では、東京国立博物館副館長の富田 淳氏が登壇。特別展『ポンペイ』開催にあたっての挨拶を述べた。

「ポンペイ遺跡は古代ローマの文明と文化を現在に伝えてくれる、類まれな存在と言えると思います。この度、ナポリ国立考古学博物館の所蔵する名だたる発掘品を展示して古代ローマの文明についてご紹介できることは、東京国立博物館にとって大きな喜びです。新型コロナウイルスの影響は当初の想定を超えて長引いておりまして、私どもの生活を一変させております。こうした中で私達の心の有り様、社会の空気というものが、ややもすると窮屈で内向きなものになってしまっているのではないでしょうか。今こうした状況の中にあるからこそ、海外の文化財を間近に鑑賞できる機会を設けることは、大きな意義があると考えております。この展覧会は東京の後、京都、仙台、福岡に巡回をいたします。一人でも多くの方々にこの特別展『ポンペイ』の開催を知っていただき、発掘品ならではの面白さを感じていただければと考えております。」

そして、本展の総監修を務めた、東京大学名誉教授・奈良県立橿原考古学研究所所長の青柳 正規氏からのコメントが続く。

東京大学名誉教授・奈良県立橿原考古学研究所所長 青柳 正規氏

東京大学名誉教授・奈良県立橿原考古学研究所所長 青柳 正規氏

「日本で初めてポンペイ展が開催されたのは1967年(昭和42年)のことです。イタリアにとっても、ポンペイ展を海外に持ち出す初の試みでした。その時やってきた作品は、大部分がナポリ国立考古学博物館の倉庫にしまわれていたものでした。そして今回の出展作品は、ナポリの誇る優品ばかりです。(日本で初めてポンペイ展が開催された)1967年からちょうど来年で55年になりますが、これだけの素晴らしい作品群を日本に持って来られるというのは、これまでの積み重ねがあったからこそ。まさに“継続は力”ということを本展が示しているのではないかと思います。ポンペイがイタリア半島の中で一番栄えていた頃は、ヘレニズム文化という、ギリシャの爛熟した文化をそのままイタリアで受け継いでいく頃でした。そしてポンペイは地方都市ではあるけれども、非常に活気のある街でありました。日本がこれからは「地方の時代」だと言われる中で、こういう小さな都市でさえ、それも2000年も前にこれだけの文化的な充実を持っていたということは、我々の時代でも一つの指標となり、あるいは目指すべき「文化ある都市づくり」へ繋がるのではないかと思います。」

そしてここで、ナポリ国立考古学博物館のパオロ・ジュリエリーニ館長からのビデオメッセージが披露された。

ナポリ国立考古学博物館 パオロ・ジュリエリーニ館長からのビデオメッセージ

ナポリ国立考古学博物館 パオロ・ジュリエリーニ館長からのビデオメッセージ

「本展覧会では「竪琴奏者の家」や「ファウヌスの家」などの有名な邸宅から出土した、約150件の第1級の作品を東京でお披露目します。人々の日常生活や信仰といったテーマを紐解いていくと、時代こそ違いますが、富士山をはじめ火山の周辺に定住することを選んできた日本人の文化とも深く類似し、実に多くの共通点を持つことがわかります。最後に希望のメッセージで締めくくり、日本の友人たちの協力に改めて感謝の意を表します。このような文化的取り組みこそが、コロナ時代を乗り越えるための最善の対抗策だと確信しています。」

見どころの一部を、ちょっと先取り

(左)東京国立博物館主任研究員 小野塚 拓造氏、(右)東京大学教授 芳賀 京子氏

(左)東京国立博物館主任研究員 小野塚 拓造氏、(右)東京大学教授 芳賀 京子氏

続いては、東京国立博物館主任研究員の小野塚 拓造氏、そして本展の監修を担当した東京大学教授の芳賀 京子氏が登壇。対談形式で、特別展『ポンペイ』の見どころを熱く語った。序章〜5章にわたる各章から出展作品の一部をピックアップし、そのハイライトを紹介しよう。

【序章 ヴェスヴィオ山噴火とポンペイ埋没】

バックス(ディオニュソス)とヴェスヴィオ山 フレスコ画 ナポリ国立考古学博物館蔵  (C)Luciano and Marco Pedicini

バックス(ディオニュソス)とヴェスヴィオ山 フレスコ画 ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

噴火直前のヴェスヴィオ山を描いた稀少なフレスコ画。現在では吹き飛んでカルデラになっている頂上部分が、しっかり描かれている。それはそうと、左手で全身ブドウに包まれているバックス(ワインの神)も気になる。

本展では、高繊細映像を巨大ディスプレイで味わえるのも楽しみなポイントだ。序章ではヴェスヴィオ山噴火のCG映像が用意され、圧倒的な没入感を誘うという。

【第1章 ポンペイの街:公共施設と宗教】

第1章ではポンペイの街に存在した公共施設(劇場、円形闘技場、浴場など)から発掘された作品や、街の施設をテーマにした作品などを鑑賞できる。当時の街のイキイキした様子に想いを馳せよう。展覧会チラシに採用されている《辻音楽師》のモザイク画や、衣装の金彩まで美しく残る大理石像《ビキニのウェヌス》など、名品揃いのチャプターだ。

ポリュクレイトス「槍を持つ人」 大理石 ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

ポリュクレイトス「槍を持つ人」 大理石 ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

この大理石像は、古代ギリシャの彫刻家ポリュクレイトスが制作したブロンズ像《槍を持つ人》を精巧に複製したもの(ローマン・コピー)で、街の運動場から発掘されたという。古代ローマ帝国の人たちが、古代ギリシャ美術をどう受容したかということを示す貴重な作例と言える。

芳賀教授は「ポリュクレイトスの《槍を持つ人》は古代ギリシャ美術の代表的な作品で、美術史を勉強した人はおそらく教科書で必ず見ている作品かと思います。その数あるコピーの中で、これが圧倒的に一番良い作品ですね」と力強く語った。

【第2章 ポンペイの社会と人びとの活躍】

第2章では、ポンペイ市民の暮らしぶりや嗜好がわかるような出土品が並ぶ。

通称「青の壺」 カメオガラス ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

通称「青の壺」 カメオガラス ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

書字板と尖筆を持つ女性(通称「サッフォー」) フレスコ画 ナポリ国立考古学博物館蔵  (C)Luciano and Marco Pedicini

書字板と尖筆を持つ女性(通称「サッフォー」) フレスコ画 ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

裕福な市民が宴会に用いたと思われる豪奢なカメオ・ガラスのツボや(そもそもガラス製品が、完全な形で2000年もの時を超えていることにもビックリ!)、少女マンガ風に大きな瞳の、愛らしい女性の肖像など。ちなみに、当時の女性像はしばしばこのように理想化されて描かれたのだとか。対して男性像はそうでもなく、小野塚研究員曰く「大してかっこよくない(笑)」というのが面白い。

ほかにも、奴隷階級からのし上がった有力者のドヤ顔肖像などにも注目だ。当時のポンペイには様々な出自の人物が存在し、事と次第によっては一発逆転の可能性もあったという。背景を知ると、単なる古代美術・遺物という見方ではなく、一つひとつが誰かの生きた証のように見えてくるだろう。

【第3章 人びとの生活:食と仕事】

第3章では、さらに人々の具体的な生活にクローズアップ。食生活を知るためのキッチン用品や食器類、さらに各職業の仕事道具の類を見ることができる。

パン屋の店先 フレスコ画 ナポリ国立考古学博物館蔵  (C)Luciano and Marco Pedicini

パン屋の店先 フレスコ画 ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

パン屋の店先を描いたこのフレスコ画では、カウンターや棚に積まれた円盤状のパンにご注目あれ。なんと、このパンも出土したそうで、今回この「炭化したパン」が展示されるという。報道発表会にて公開された写真では炭化して真っ黒になっているものの、パンのふんわり感は健在……? なように見えた。会場で実際に見るのが楽しみな一品だ。

【第4章 ポンペイ繁栄の歴史】

そして本展のハイライトとなる第4章では、会場にポンペイの邸宅の一部が再現され、往時にタイムスリップしたような空気の中で作品を鑑賞することができる。再現される「ファウヌスの家」「竪琴奏者の家」「悲劇詩人の家」のうち、とりわけ熱い注目が集まるのは、ポンペイ最大で、最も古く格式ある家の一つの「ファウヌスの家」だろう。ポンペイがローマの属州になる以前の、ヘレニズム時代(紀元前2世紀ごろ)から存在しており、当時の目からしても歴史遺産的な豪邸だったという。

芳賀教授、小野塚研究員は「ファウヌスの家」について、「ポンペイの中でも一番綺麗なモザイクが多い家なんですけど、今回はその床のモザイクも、保存の観点で可能なものは全部持ってきたという……まさに、博物館の目玉であるヘレニズム時代のモザイクを揃って見ることができる、貴重な機会ではないかと思います」と語り、揃って顔をほころばせた。

葉綱と悲劇の仮面 モザイク ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

葉綱と悲劇の仮面 モザイク ナポリ国立考古学博物館蔵 (C)Luciano and Marco Pedicini

例えばこの繊細なモザイクは、「ファウヌスの家」のエントランスの床を飾っていたもの。テッセラと呼ばれるモザイクの一片は、通常は数cm程度のものが多いという中、本作では1mmばかりという細かさ! 驚くべき解像度である。現代で言うなら、自宅の入り口に8Kモニターがあるような感覚だろうか?

このほか、【第5章 発掘の今むかし】では18世紀から現在に至る発掘の歴史が紹介される。ヴェスヴィオ山周辺で東京大学の学術調査隊が発掘した大理石のディオニュソス像など、こちらの章の展示にも期待が高まる。

特別展『ポンペイ』は、2022年1月14日(金)から4月3日(日)まで、東京国立博物館 平成館にて開催される。火山灰に埋もれてしまった古代都市の息づかいを、リアルに感じられる予感! 新しい年の幕開けを、古代のロマンで彩ってみてはいかがだろうか。実に、開催が待ち遠しい展覧会である。


文=小杉美香 写真=オフィシャル提供

展覧会情報

特別展『ポンペイ』
会期:2022年1月14日(金)-4月3日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:午前9時30分-午後5時
休館日:月曜日、3月22日(火) ※ただし、3月21日(月・祝)、3月28日(月)は開館
主催:東京国立博物館、ナポリ国立考古学博物館、朝日新聞社、NHK、NHKプロモーション
特別協賛:住友金属鉱山
協賛:大和ハウス工業、凸版印刷、竹中工務店
後援:イタリア大使館
展覧会公式サイト https://pompeii2022.jp/
観覧料:一般2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円
日時指定券は2022年1月5日(水)より販売開始予定。
※詳細は後日、展覧会公式サイト等でお知らせします。
(注)「日時指定券」の事前のご購入・ご予約(オンラインのみ)を推奨。会場でも当日券をご購入いただけますが、混雑状況により入場をお待ちいただく場合や、当日券の販売が終了している場合があります。
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
シェア / 保存先を選択