18禁の猟奇殺人ホラーがあらゆるジャンルを超えていく『マリグナント 狂暴な悪夢』#野水映画“俺たちスーパーウォッチメン”第八十九回
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TVアニメ『デート・ア・ライブ DATE A LIVE』シリーズや、『艦隊これくしょん -艦これ-』への出演で知られる声優・野水伊織。女優・歌手としても活躍中の才人だが、彼女の映画フリークとしての顔をご存じだろうか?『ロンドンゾンビ紀行』から『ムカデ人間』シリーズ、スマッシュヒットした『マッドマックス 怒りのデス・ロード』まで……野水は寝る間を惜しんで映画を鑑賞し、その本数は劇場・DVDあわせて年間200本にのぼるという。この企画は、映画に対する尋常ならざる情熱を持つ野水が、独自の観点で今オススメの作品を語るコーナーである。
今回のコラムは読まないでほしい。映画を勧めるコラムを書いてるくせにどういうことだとお思いだろうが、『マリグナント 狂暴な悪夢』は、それほどに余計な情報を入れないで観てほしい作品なのだ。本音を言えば、読んでくれる人が多いに越したことはないが、一方で純粋な気持ちで作品を楽しんでもらいたい。そんな二律背反を抱えながら、これを書いている。「ならば」と思う方はページを閉じてもらっても構わない。鑑賞後にはここに戻ってきて、コラムを読んでくれるならば。
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あることをきっかけに、マディソンは連続殺人の現場を目撃する悪夢に苦しむことになる。さらに、彼女が夢で見た殺人が次々と現実のものとなってゆく。果たして、犯人は一体何者なのか。やがて、その魔の手はマディソン自身にも及ぶのだった。
翻弄されたほうが楽しい、予測不可な展開
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本作はオカルトホラーの雰囲気をまとって始まる。深夜、リビングで寝ていたマディソンの夫が何らかの気配を感じて目覚め、家の中を探るも、誰も見当たらない。と思いきや、何者かに襲われてしまう。 まさか、「何かがいそうでいない……いや、やっぱりいた!」というノリを繰り返すクラシックなホラーなのだろうか? そういうジャンルももちろん好きだが、本作の監督を務めるのは、なんといってもジェームズ・ワン。『ソウ』『死霊館』ユニバースといったホラー作品の生みの親であり、一方で、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)や『アクアマン』(18)といったアクションジャンルにも進出している大ヒットメーカーだ。そんな彼が、ベタな悪魔ホラーをまた新たに撮るだろうか?と頭を捻った。
しかし、話が進むと、現実に“殺人事件”の被害者が出てくるため、殺人鬼モノのスラッシャーホラーかと手を打った。R18(18歳未満の鑑賞は禁止)だけあって、人体破壊描写がなかなかエグめなのがうれしい。こうして言える範囲だけでも、オカルト、スラッシャーのジャンル要素も含まれているのだが……そんな単純な型におさまる作品ではなかったのだ、コレは。結果的に私は、ジェームズ・ワンの掌の上で踊らされているに過ぎなかった。ネタバレを避けるため、抽象的な表現にとどめるが、本作をワン監督の経歴でたとえるならば、『死霊館』で始まり『ソウ』に変化し、最後は『アクアマン』に変わってゆく作品だと言えよう。もう、「いいから観てくれ!」としか言いようがなーい!
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ちなみに、鑑賞後に振り返ってみれば、「あれはそういうことだったのか」と合点がいく仕掛けに気づいた。たとえば、家の中を歩くマディソンを俯瞰で見下ろすような、“誰か”視点のカメラワークなどがそれだ。今考えると大きなヒントだったが、観ている間はまったく気づかなかったのが悔しい。黙って翻弄されたほうが何倍も楽しめる作品なので、これから観る方は展開を予想せずに観るといいだろう。
やっぱり凄いぞジェームズ・ワン
メイキングより ジェームズ・ワン監督とアナベル・ウォーリス (C)2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
ホラー畑から他ジャンルに進出しても、ワン監督がこうしてまたホラーに帰って来てくれてうれしく思う。いや、むしろアクション作品を経たからこそ、本作が生まれたと言っても過言ではないのだ。クライマックスにはそう確信するシーンも存在する。
ワン監督は本作について、「80〜90年代のホラーサスペンス映画のスタイルを踏襲している」と語る。中でも「ジャッロ」と呼ばれる、猟奇的殺人などを扱う、ホラー色の強いイタリア製サスペンスの影響が大きいという。その特徴がよく現れたポスタービジュアルを見れば、詳しい方はわかるだろう。そんなレトロな雰囲気を醸す作品ではあるが、古き良きテイストにアップデートを重ね、誰も観たことがない斬新なジャンルレスホラーを誕生させたジェームズ・ワンは、やはり凄いと言わざるを得ない。
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核心に触れずにこの面白さを伝える手段が無いというのは悔やまれるが、本作は、一風変わった映画を求めている人にも薦めたい。無論、ホラー映画フリークはマストでおさえるべきだ!
ちなみに、この『マリグナント』は、もしも私がレンタルビデオショップの店長だったなら、フランク・ヘネンロッター監督の『バスケットケース』シリーズの隣に展開したいなぁ。なぜかって? ふふふ……その理由は、観れば、わかる。
『マリグナント 狂暴な悪夢』は公開中。
作品情報