西沢栄治(演出)「クスクス笑いながら別役さんの風に身をまかせてみてください」~『あーぶくたった、にいたった』が開幕
『あーぶくたった、にいたった』舞台写真 撮影: 宮川舞子
2021年12月7日(火)新国立劇場 小劇場にて、『あーぶくたった、にいたった』が開幕した。初日を迎えるにあたって演出の西沢栄治よりコメント、また舞台写真が到着した。
本作は「こつこつプロジェクト」から誕生した演劇作品。一年間かけて試演を重ね、その都度、演出家と芸術監督、制作スタッフが協議し、上演作品がどの方向に育っていくのか、またその方向性が妥当なのか、そしてその先の展望にどのような可能性が待っているのかを見極めていくのが「こつこつプロジェクト」だ。時間に追われない稽古の中で、作り手の全員が問題意識を共有し、作品への理解を深め、舞台芸術の奥深い豊かさを一人でも多くの観客の方々に伝えられる公演となることを目標としている。
撮影: 宮川舞子
第一期は2019年3月から20年3月まで行われた。演出家の・西沢栄治は、プロジェクトがスタートした「令和」という新たな時代に、「昭和」という時代とそこに生きた名もなき人々について思いをはせ、別役実がさまざまなかたちで描き続けた「小市民」シリーズ、なかでもこの『あーぶくたった、にいたった』に惹かれた。ネット上での承認欲求、自己発信だらけの現代において、もはや絶滅危惧種となった「小市民」の有様を見つめ捉えなおすことで、生活者レベルの日本人論にたどり着きたいという西沢。別役戯曲を鮮やかに立体化し、次世代にその魅力を伝える。
撮影: 宮川舞子
婚礼で幕が上がる。新郎新婦は、これから生まれる子どもとの将来を想像している。二人の会話の中で彼らの子どもはどんどん成長し、驚くべき結末を迎えてしまう。楽しい新婚時代から子どもが生まれ、落ち着いた結婚生活、そして老境へと。幾千万の名もなき人間が出会うであろう最終景、彼らの上にチラチラと雪が舞いはじめる……。
演出:西沢栄治 コメント
まさかここまで長い付き合いになるとは。こつこつプロジェクトは一年間の試みでしたが、企画立ち上げから数えれば足掛け3年!いまではすっかり別役実のとりこです。そうして時間をかけた愛着のある芝居がやっと御披露目になるのですが、早く観てほしいのと同時に、いつまでも稽古していたいような、なんとも不思議な感覚です。あぁ、これが「こつこつ」の効能なのか。
共に歩んでくれたキャスト・スタッフには本当に感謝。舞台の上には彼らとチャレンジを続けた成果があります。あぁ、やはり早く観てほしい。
不条理劇? いやいや、そんなふうに難しく考えず、クスクス笑いながら別役さんの風に身をまかせてみてください。
本公演は12月19日(日)まで上演される。
公演情報
■作:別役実
■演出:西沢栄治
■キャスト:山森大輔、浅野令子、木下藤次郎、稲川実代子、龍 昇