青柳翔「三十郎にあって自分にないものは、愛嬌かな(笑)」~『三十郎大活劇』で戦前の映画スター役に挑戦
青柳翔
劇団ラッパ屋が1994年に初演した『三十郎大活劇』が、主演に青柳翔を得て再演される。鈴木聡の手によるこの作品は、戦前の激動の映画史を背景に、大部屋俳優からスターへと昇りつめるも戦争へと巻き込まれていく主人公・紅三十郎と、映画界に生きる人々を描く物語。演出はラサール石井が担当する。紅三十郎を演じる青柳翔に作品への意気込みを聞いた。
ーー出演が決まったときのお気持ちは?
この時代を描く作品をやったことがなかったのですごくチャレンジだなと思いましたし、ラサール石井さんとご一緒するのが初めてなので、楽しみだなと。1994年に初演された版にリスペクトをもちつつ、稽古を通じて自分が演じる意味を見出して、「青柳くんの三十郎、よかったよね」と言われるように頑張りたいと思います。紅三十郎の役どころについてはまだ探っている段階ですが、稽古が始まるとまた違うものが見えてくるのかなと思っています。
青柳翔
ーー三十郎は、役柄を私生活にまで持ち込んでしまうタイプの役者です。
役にのめり込む姿勢は俳優としてすばらしいなと思います。自分自身は、役がプライベートに影響を及ぼすことがまだないので。勉強不足なのかもしれないし、経験不足なのかもしれない、それとも自分がそういう性格じゃないのかもしれませんが。しっかり戦前の時代の人物に見えるように、稽古や勉強をしていきたいと思っています。三十郎は、役にのめり込んで、私生活もそれに影響されてしまう危なっかしさみたいなところがあるのかなと思います。この作品では、様々な人たちが描かれていて、三十郎の物語は要所要所で出てくる感じなので、時代の流れや変化みたいなところを細かく研究しつつ演じたいなと思っています。そんなに難しい言葉の羅列で書かれた脚本ではないので、その裏にあるもの、メッセージ性みたいなものがないと、さらっと言ってしまいそうだなという印象があって。きちんと中身がありつつ、裏のメッセージ性を明確にしながら演じないといけないのかなと。稽古の過程で気づくものを大切にしたいですね。演出のラサールさんとは一回お会いしましたが、とても知識が豊富で、どういう資料を見たらいいか、どういう人物を参考にしたらいいかといったお話をうかがったところ、様々な作品を教えてくださって。市川雷蔵さんの作品を見ておいてと言われました。無声映画も勧められて見たのですが、アクション、上手いなと思って。今回、喜劇という、自分にはない引き出しを勉強しつつ、ラサールさんにも引き出してもらいたいなと思っています。三十郎が勢いよくセリフを言う、その裏にメッセージ性があると思うので、何重にも重ねていけるようなお芝居をやっていきたいなと思います。共演者の方々は、アクション・チーム以外はほぼ皆さん初めてましてなのですが、楽しい現場になりそうだなと。稽古場では悩んで笑って過ごしたいです。
ーーご自身はどう役にアプローチするタイプですか。
自分を下げて下げて下げて下げる方ですかね。自分ができるって鼓舞する方ではなくて、自分に難癖をつけて、ここはできてない、ここもできてない、じゃあ今度はこうしようみたいな感じで取り組んでいっています。
青柳翔
ーー作品の舞台である戦前の映画界についてはいかがですか。
当時のことは勉強するしかないので、その上で今に置き換えるということが大事かなと思っています。血が出過ぎていたらだめとか、画面のトーンが暗いのはあまり映像向きじゃないとか、あまりグロい描写はだめとか、そういう規制ってけっこう多いじゃないですか。そういったところは、自分が思っていることと、この作品における状況とを照らし合わせて、自分の熱い思いも重ねて取り組みたいと思っています。今に置き換えられる、すてきな作品だなと思います。規制が入ったり、だんだんそうやってつまらなくなっていくこととか。そういう問題は常にあるものなのかもしれないですけど。
ーー戦前と今のコロナ禍とでは不安定な状況が似ているところもあるのかなと思いますが、そのあたり思われることとは?
今は確かに大変な時期で、最善の注意を払いながら稽古と公演をしていかなくてはいけない状況ですが、その中でも、舞台や映画やドラマは、人に勇気や元気を与える最高のものだと思っているので、ルールを守りつつ、みんなに楽しんでもらえるように、最後まで完走するということが一番大事かなと思います。自分自身、舞台を観劇したり、映画を見たり、動画を見ることも多いですが、勉強したり笑ったりしていて、それが活力になっているので。単純に見るのが好きなんですよね。それがなかったら、この2年間、けっこう厳しかったなと思っています。
ーー映像や舞台を観るのがお好きとのことですが、どんな感じで観ていらっしゃいますか。
ずるいなと思って観ていたりしますね。それは多分、自分がお芝居をやっているからだと思うんですが。この役ずるいな、こういう役やりたいなとか、今の演技上手いなとか、今の引き出しは自分にはないなとか、そういう見方をしていることが多いかもしれないですね。それで真似してみたりとか。
青柳翔
ーー三十郎を演じるにあたって、苦労しそうな点は?
多分、絶対、いっぱいあります。べらんめえとか。でも、普通のセリフも苦労するかも。現代人でも言いそうな語尾だったりするので、そこを気をつけて言わないと、現代人に見えかねないなと。当時の人に見えなくてはいけない、その上でべらんめえもあるので、そこは気をつけながらやらなくてはいけない。この当時の言葉がさっと出るようになるところまで稽古しなくてはいけないなと思いますし、そこは楽しみでもあり、難しいところでもありますね。当時の映画を見るのが一番勉強になるかなと。その中から、自分がやったら上手くいきそうかなというポイントをピックアップしてチャレンジしてみたいと思います。作品自体は割と喜劇なのですが、周りの人々の話であって、三十郎自身は喜劇要素にはあまり関わっていないというところがキーかなと思っています。でしゃばりすぎず、時代も年月も流れていくので、そこをしっかり観ていただければと思います。
ーー映像作品に出演するのと舞台作品への出演とで醍醐味はどう違いますか。
映像はイメージとして短距離走というか、スピード重視と言いますか、そのときに発するエネルギーがあって。舞台は、長距離のイメージですね。みんなで一緒に完走するという感じで。それと、リアクションがあるかないかの違いってありますよね。今回の作品は、リアクションはあんまりないのかな。少しは笑いが来るのかな。そのあたり、まだ想像はつかないですけどね。
ーー舞台に立っていて、どんなときに楽しさを感じられますか。
千秋楽が終わった次の日の朝ですかね。そこまでとても楽しいと思いながらやったことはないかもしれないです。終わった後に、苦しかったけどもう一回チャレンジしたいなと思って続けてきた感じです。何だかんだやっていると、毎日問題点が出てくるし、修正点が出てくる、それを考えて、ここは修正しようとか思いながら一生懸命やっていて。それで、千秋楽が終わった次の日の朝に……あれ、ないとなるとさびしいなと思ったり。それの連続という感じです。
青柳翔
ーー稽古に行きたくなくなったとき、どうやってモチベーションを上げるんですか。
行きたくないと思っても真面目に行きはするタイプなんです(笑)。さぼったことはないです。本当はみんなと飲みに行けたらいい気分転換になるのですが、今はそれができそうにないのがネックですかね。ラサールさんもおっしゃってましたけど、稽古が終わってご飯を食べて飲んだら風通しがよくなるといいますか、いろんな話もできるし、勉強にもなる。たまに話長いなって先輩がいますけど(笑)、そういうのも含めて楽しかったりするわけで、息抜きになったりしますし。最初に舞台に出たときも、飲みに行ってる場合じゃないという感じだったんですけど、稽古の後半の方でみんなと飲みに行ったら、次の日からもっとコミュニケーションが取れるようになりましたし、視野が狭くなっていたのが広がるということが本当にあると思うので。飲みに行けないのはきついなって今思ってますけど、しょうがないので、そこを稽古場でクリアにするのが今の取り組み方だと思いますので、頑張っていきたいです。その上で、人とディスカッションしなくてはと。気を遣いつつ、相手を傷つけない程度に、正直に話し合っていこうと思っています。
ーーそもそも舞台に立って演じたいと思われた理由は?
明確にはわからないのですが、最初に舞台をやったときに、二カ月間稽古があって、二カ月間怒られていて、そのときはめちゃくちゃ嫌で、むかつくなとかそういう感情になっていたのが、終わってみたら、何かさみしかったというか。あれ、もう一回チャレンジしてみたいと、そういうモードに切り替わったんです。
ーー青柳さんにとって「役」とはどのようなものですか。
知らないことを勉強するものですね。役を通して様々なことを勉強していることがけっこう多いので。様々な役をやって、自分にないものを勉強していく感じです。今回の三十郎について言えば、時代背景についての勉強もありますし、楽しみながら自由に演じたいとも思うのですが、一番勉強になりそうなのは、その時代の人に見えたいということです。身長が高いので、そんなに背が高い人はあの時代にいないって言われたらおしまいなんですけど、そこを凌駕できるように頑張りたいと思います。今のところ、三十郎と自分とで共通する部分はまだわからないので、これから探っていきたいなと。三十郎にあって自分にないものは、愛嬌かな(笑)。そこは勉強になりそうですよね。
青柳翔
取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=中田智章