全員が全力で楽しんでいる作品 平方元基とウォーリー木下に聞く、『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』への意気込み
左から ウォーリー木下、平方元基
『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』は、イギリス冒険小説の先駆者ジョン・バカンの小説『三十九階段』と、アルフレッド・ヒッチコック監督による映画『三十九夜』をもとにしたコメディ作品。2006年にローレンス・オリヴィエ賞最優秀コメディ賞を受賞したのちブロードウェイにも進出。日本では2012年に初演を行い、大好評を博した。
今回はウォーリー木下が上演台本・演出を手掛け、オリジナルにさらに潤色を加えるとのこと。そして、平方元基・ソニン・あべこうじ・小松利昌という4名のキャストとインストゥルメントバンド・ザッハトルテの生演奏によって新たな『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』を作り上げる。開幕まで1ヶ月を切った4月上旬、主演を務める平方元基と上演台本・演出のウォーリー木下にインタビューを行った。
左から ウォーリー木下、平方元基
――まずは、これまでに上演された本作や原作の感想、今回との違いを教えてください。
平方:前回(日本初演時)は、イギリスで上演されたオリジナルのレプリカ版だったかと思いますが、英語の色々な訛りを日本語にしている分、物語を追いかけるのが難しい部分もあったかと思います。でも映画(『三十九夜』)を観たことで、舞台版の面白さも深く理解することができましたし、同時にこれを4人の役者ですべてやるのか?と衝撃を受けました。この2つを観て思ったことは、目に飛び込んでくる引っ掛かりが多過ぎるとかえってお客様が劇に入り込みづらくなってしまうのではないかということです。
ウォーリーさんの演出は、不明点を投げかけると、現代に生きている僕たちにとってしっくりくる言葉にして返してくれるので、素直に観ていただければ白黒映画で伝わりきらない色や香り、生の演劇の熱が伝えられると、今は手ごたえを感じながら稽古に励んでいます。
――ウォーリーさんが上演台本を作る上で意識したことは。
ウォーリー:この作品は4人のみで『三十九夜』を上演するのがルールで、その理由は舞台上で繰り広げられているさまがシンプルに面白いからだと思うんです。でも僕の中では「面白い」だけではやり辛いので、4人のキャストでこの作品を上演する理由づけを明確にしました。演出上の入り口や全体の雰囲気だけなので、観ている方には伝わらないかもしれませんが、やる側はやりやすくなったと思います。
ウォーリー木下
――会見の際、稽古が始まって5日で2幕の途中まで進んだというお話がありました。手応えはいかがでしょうか。
平方:すごくありますよ!ウォーリーさんじゃなかったらきっとこの短期間でここまで進まないと思うんですよ。だって、初日まであと何日あります?
ウォーリー:意外とないのよ(笑)。
平方:え!?急に不安にさせさせないで下さい!でも、稽古期間が2週間しかない作品もあるじゃないですか。それを考えたら……そっか、意外とないのか(笑)。今改めて知りました(笑)。やることがたくさんあるってすごく焦っていたんですが、毎日自分達ができる最善を尽くしているんです。「これ以上できない」というところまでやっているので、これで間に合わなかったら仕方がないんじゃないかと(笑)。でもそんなことはなくて、演劇って幕が開いたら最後までやりきるしかないので。
ウォーリー:「Show must go on」的なことはこの作品のテーマの一つ。それと今やってる作業は結構リンクしてますよね。
平方:ドキドキしなくなったら辛いと思います。
ウォーリー:あれを仕事だと思ったら辛いよね(笑)。舞台上で全員着替えたりメイクしたり、照明も小道具もほとんど全部やるんです。それで40場くらいあるし。
平方:それを走り抜けると思うと……。
ウォーリー:楽しくないと無理だよね。
平方:効率よくやることが好きな人がやりたい作品じゃないと思うんです。だからこそ、そこで手を挙げてやっている共演者やスタッフの方々が愛おしいというか。稽古場の中にいる人たち全員が、何としてでも楽しもうと常に考えている。台詞や動きを覚えてしまったら、あとは楽しみがたくさん待っているだろうなと思うので、今は一生懸命走っています。……伝わりました?この熱意。
ウォーリー:そんな作品なんだ……ってびっくりされそうですよね(笑)。
平方元基
――平方さんは、他のキャスト3名がいくつもの役を演じる中で、唯一ハネイのみを演じます。役作りはどう考えていますか?
平方:作中では目まぐるしく色々なことが起こって、かなりはちゃめちゃなのに、どこかリアルな感覚もありますよね。その中で、ハネイが自分の人生に対する思いを吐露するシーンがあります。ハネイが孤独な少年時代のことを語る場面があって。大なり小なり、そういう気持ちってみんなあると思うんです。隣の芝生が青く見えたり、自分はなんで……みたいな。ものすごくコメディなのに、こんなことを言うの?みたいな部分があって。観ているお客様はさらっと流してしまうかもしれないけれど、演じる僕にはグサッと心に刺さるんです。結末のシーンとかはザ・ミュージカルだったりするんですが、演じる役のリアルな部分も背負っていかないといけないと思う。今は自分の気持ちと役の気持ちを行き来させながら、そしてやるべきことをやりながら、日々模索しています。
――会見の際に「ハネイは変な正義感を持っている」というキャラクター考察がされていましたが、お二人が考えるハネイの魅力はどこでしょうか。
ウォーリー:僕は元々ヒッチコックの映画が好きなんですが、ああいうタイプの主人公が多いんですよね。今回はコメディにするために少しオーバーにしていますが、結構普通の感覚を持った人が主人公になることが多い。受け身な状態の中で、何かに巻き込まれたり人と出会ったりして変わっていく。だから、ハネイは存在していれば勝手にキャラクターができていく人間だと思うんです。さらに、稽古の初日から平方さんのハネイは筋が通っていたんですよ。かなり台本を読み込んでくれているので、あとは共演者によってどう変わっていくか。今稽古場で見ていてもかなりハネイっぽいなと思いますね。
ウォーリー木下
平方:ハネイはよく「愛」という言葉を使うんですよね。そこが一番弱いところで、一番欲しかったものというのが見え隠れする感じに、たまらなく共感しますね。間抜けだったり、カッコつけたいのにつけきれなかったり。好きな女性に対しても、自分がいっぱいいっぱいになるとキツい言い方をしちゃうとか。すごく周りを気にしながら、わがままに生きている人間だと思います。なんなんですかね、ハネイ自身が自分のことを理解していたら冒険には出ないと思うんですよね。僕だったらすぐ逃げる(笑)。
ウォーリー:そうかな。逃げなそうだけど(笑)。
平方:撃ち殺されるかもしれないような冒険はしないですよ!(笑)
ウォーリー:それはそうか。でも、ハネイと親和性の高い心を持っているなと感じましたよ。
平方:知らないものに対してはものすごい興味を持ちますよ。そこかもしれない。好奇心旺盛で、考えるより先に行動に移してしまうというか。結局後から問題が出てきて、それが『ザ・サーティーナイン・ステップス』というドラマになっているんですよね。
平方元基
――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
ウォーリー:僕なりにこの作品をやる上で強く思っているのが、この2年ほど、お客様の方が僕らよりも辛い時間が続いていたということ。今ようやく劇場に行けるようになったけど、まだ以前のように舞台に行くことはできていない。そんな状況下でも来てくださるのだから、ここでしか味わえない特別な約2時間を過ごしてもらえるような舞台を提供したいです。すごくクオリティの高いものをお見せするというよりは、お客様と一緒にものを作りたい。そういう芸術を作りたいので、ぜひ劇場に来ていただきたいですね。
平方:絶賛稽古中の段階ですが、毎日「生きてる!」と感じます。この体感を持ったまま劇場にお客様が入ってくださったら、「生きてる」の先に辿り着くと思う。役者をしていてすごく嬉しい気持ちになる稽古場です。そんな気持ちにさせてくれる稽古場でこの先、何が見えるか楽しみですし、それをお客様と共有したときに何が見えるのか。観に来ていただかないと、僕らがどれだけ熱を持っていてもお届けできない。劇場で、ぜひ僕らの生きる熱や喜びを受け取って頂きたいなと。というか、純粋に観ていて楽しいと思います!……あれ?だめ?
ウォーリー:だめじゃない(笑)!
平方:ぜひ観にきてください!!
「とにかく大変」と言いながらも、二人が終始楽しそうなのが印象的だった。このカンパニーがどんな作品を見せてくれるのか期待が高まる。5月1日(日)より日比谷シアタークリエで上演される本作を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
取材・文=吉田沙奈 撮影=池上夢貢