高木裕和インタビュー スウィングを経験し今改めて思う「劇場をみんなが安心して楽しめる場所に」/『ミュージカル・リレイヤーズ』file.11
スウィングで舞台に立つとき、絶対にやってはいけないこと
――前回連載に登場いただいた丸山泰右さんからうかがったのですが、高木さんは2021年に4作品でスウィングを務めていらっしゃったとか。
そうなんです。『アリージャンス』『メリリー・ウィー・ロール・アロング』『October Sky』『シン る』(オリジナ・るミュージカ・る『明治座で逆風に帆を張・る!!』)の4本でスウィングを務めました。それまでも本役をやりながら他のアンダーを担うことはありましたが、スウィングとして作品に入ったのは『アリージャンス』が初めてでしたね。
――初スウィングの『アリージャンス』では、実際に名古屋公演と大阪公演に出演されました。
『アリージャンス』に出演することが急遽決まったとき、既に『メリリー・ウィー・ロール・アロング』のお稽古にスウィングとして入って詰め込み始めていたところだったんです。そこから急いで『アリージャンス』に切り替えたので、舞台に立つ直前まで心臓バックバクでしたね。その後他の作品でスウィングを務めるにあたって、『アリージャンス』でスウィングとして舞台に立った経験が大きな収穫になったと思います。
誰かの代役として舞台に立つとき、自分と背格好や年齢が全く違う方の役に入る可能性もあるんです。そういうときにスウィングが本役の方と全く同じお芝居をすればいいわけじゃないんだなと。本役の方を模倣したスウィングが入れば、ポジション・歌・セリフを埋めることはできるかもしれません。でも、作品そのものや空気感はそれだけじゃ埋めることができないんです。かといってそこで僕の芝居をしてしまうと、きっと周りのキャストの人たちは困ってしまいます。みんなにいつも通りの演技をしてもらった上で、どう僕がそこに入るべきか。そういうことをリアルに想像しながらスウィングを務めるようになりました。
――スウィングは何枠もカバーするだけで大変そうなのに、私たちの想像以上に繊細で難しい技術が必要とされているんですね。
技術だけでなくコミュニケーションも大切です。今の日本のスウィングって、どうしても本役の方より経験値の少ない方がキャスティングされることが多いんですね。すると必然的に若い子がスウィングに入り、周りに気を遣い過ぎて「勉強させていただきます」というスタンスになってしまうことも。でも、本当はスウィングが誰よりもみんなとコミュニケーションを取る必要があると思うんです。
緊急事態でスウィングが舞台に立つときは、自分も不安だけれど周りのみんなだって不安なのは同じです。そんなみんなが安心していつも通りのお芝居ができるように、安心感を与えることも大事なスウィングの仕事。稽古の段階から「高木くんがスウィングで出てくれるなら大丈夫! 何かあったらお互い助け合おうね」という空気感をカンパニーで作っておかないと、何の支えにもならないんですよ。
――本役で出演するときとスウィングで出演するときは、取り組み方や考え方が変わると思います。どちらも経験してみて感じた違いを教えてください。
本役で出演するときはアーティスト思考、スウィングのときは理詰めの職人スタイルの考え方になるように感じます。普段から周りを見てはいますが、スウィングのときは周りへの視野をものすごく広く使っていると思います。
面白いのが、本役のときとスウィングのときで台本に書き込む情報が全然違ってくるんです。本役なら自分のセリフや歌詞の部分に演技をする上での注意点などを書き込むのですが、スウィングでは気持ちや演技のことではなく、客観的に見た情報だけを書き込むんです。例えば、何枚目の袖から舞台上に出るのか、曲が終わって何秒で暗転して何秒で照明がつくのか、セットが動くタイミング、吊物が降りてくるタイミング……。
――なるほど。本役だったらお稽古をしながら体感で覚えられることだけれども、スウィングで実際に舞台に立つ機会がほとんどないから動きやタイミングを中心にメモするんですね。
そうですね。そうした動きを全部台本に書き込んでおけば、いざ出演するときに絶対にやっちゃいけないことだけは避けることができるんです。一番怖いのはセリフや歌詞を間違えることではなく、公演を止めてしまうこと。スウィングの僕が出演することによって事故や怪我に繋がってしまうことは、絶対に避けなければいけません。もしスウィングの出演によって事故が起きたら、公演が止まってしまうのはもちろん、スウィングという仕事への信用度も下がってしまうと思うんです。
スウィングを経験して思ったのは、たとえ緊急事態が起きても起きなくても、スウィングがカンパニーのみんなを支える存在になれたらいいなということ。いろんな枠の動きを追っているからこそ気付けることもありますし、役者側とクリエイティブ側の橋渡しのような存在になれたら、スウィングという仕事をもっと深めていけるんじゃないかなと思いました。
――この連載では、注目の役者さんを毎回紹介していただきます。高木さんの注目の方は?
奥山寛くんです。長年『エリザベート』に出演していて、僕は『プリシラ』で共演しました。元々は飲み友達だったんですよ(笑)。彼は俳優としてコンスタントに舞台に出演しながら、演出の仕事もしているんです。最近では、7月に浅草九劇で上演される『春のめざめ』の演出をしています。いろんな視点から舞台を観ることができる人なので、とても尊敬していますね。
――最後に、高木さんがこれからも役者として仕事をしていく上で大切にしたいことを教えてください。
お芝居もステージもすごく楽しいけれど、第一に安全じゃないといけないなって思うんです。お客様に対しても、共演者に対しても、劇場という空間をみんなが安心して楽しめる場所にしたい。そんな劇場を役者からのアプローチで作っていけたらいいですね。そのためにも、常に自分のメッセージを持って舞台に立ち続けていきたいです。
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=池上夢貢
高木裕和プロフィール
近年の主な出演作品に『生きる』『プリシラ』『メリリー・ウィ・ロール・アロング』『アリージャンス~忠誠~』『夢から醒めた夢』『bare』など。
【Twitter】@BooChan_twit
【Instagram】boo_channel
公演情報
新音楽:ジニーン・テソーリ 新歌詞:ディック・スキャンラン
原作/ユニバーサル・ピクチャーズ同名映画脚本:リチャード・モリス
演出/翻訳:小林 香
出演:朝夏まなと 中河内雅貴 実咲凜音 廣瀬友祐 保坂知寿 一路真輝 ほか
2022年9月7日(水)~9月26日(月)シアタークリエ
一般発売:2022年6月25日(土)
料金(全席指定・税込):11,500円
2022年10月1日(土) ~10月2日(日) 新歌舞伎座
公式サイト:https://www.tohostage.com/modern_millie/
公演情報
期間:2022年12月
会場:日生劇場
主催:ホリプロ
企画制作:ホリプロ
上演協力:劇団ひまわり
<スタッフ>
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作曲・作詞:レスリー・ブリカッス
演出:井上尊晶
<キャスト>
スクルージ:市村正親
ボブ・クラチット:武田真治
ハリー/若き日のスクルージ:相葉裕樹
ヘレン/イザベル:実咲凜音
ジェイコブ・マーレイ:安崎 求
クラチット夫人/過去のクリスマスの精霊:愛原実花
フェジウィッグ夫人:今 陽子
現在のクリスマスの精霊:今井清隆
フェジウィッグ/未来のクリスマスの精霊:阿部 裕
トム・ジェンキンス:神田恭兵
高橋ひろし
中西勝之
さけもとあきら
高木裕和
松岡雅祥
井口大地
家塚敦子
伽藍 琳
三木麻衣子
七瀬りりこ
横岡沙季
森田万貴
脇領真央
公式HP= https://horipro-stage.jp/stage/scrooge2022/
公式Twitter= https://twitter.com/musical_scrooge