海宝直人に訊く、ペリー来航からの日本を描いたミュージカル『太平洋序曲』歌唱曲への印象「聴けば聴くほどスルメのように中毒になる」
「There Is No Other Way」
浦賀奉行所目付役に任命され、軍艦できたペリーを追い払う命を受けた香山が、家でじっと待つしかない妻のたまてと歌うデュエット。
とても美しい曲ですよね。『太平洋序曲』は、曲の中でモチーフが繰り返される曲が多いのです。聴いているうちに、どんどんとスルメのように中毒になっていきます。「わびさび」をすごく感じて、ちょっと寂しいような曲でもあるなと思います。また、後のたまての場面を予感させるような曲でもありますね。「There Is No Other Way」は、哀愁とか、寂しさとか、複雑な感情がメロディーによって表現されています。どの曲もそうですが、そこも大事にして歌いたいと思います。
たまて役のびびちゃん(綿引さやか)とはミュージカル『ジャージー・ボーイズ』やミュージカル『レ・ミゼラブル』でもご一緒しています。とても素敵な歌声で、表現力も豊かですし、素敵な俳優さんです。一緒に歌えるので、うれしいですね。楽しみです。びびちゃんがどういうふうにたまてを表現するのか。日本のミュージカル俳優はみんなそうですが、日本人役を演じることは少ないので(笑)、日本人役のびびちゃんを観られるのも楽しみです。
「Poems」
アメリカの上陸を避ける奇策を思いついた、鎖国下の罪人ジョン万次郎とともに、たまての待つ浦賀の家へと戻る道中、互いの友情をはぐくみながら歌を詠みあう。
俳句をモチーフにした楽曲で、作品を通してまずこの曲が印象的でした。香山とジョン万次郎が親交を深めていく場面で、ちょっとほっこりして、クスッと笑っちゃうような、ふたりのやり取りが微笑ましいですよね。これが日本語だと、どんな表現になるのか楽しみです。翻訳・訳詞の市川洋二郎さんは、とてもロマンチックで、美しい日本語をチョイスされます。今回のために新たに翻訳されるので、クリエイターチームとお話しながら、響きの美しさと意味合いのはまり具合などのバランスを取りながら素敵な訳詞にしてくださるだろうなと思います。
「A Bowler Hat」
浦賀に上陸した多くの外国人と接する中、ボウラーハット(山高帽)をかぶり、ポケットウォッチ(懐中時計)を持ち、だんだんと西洋文化に傾倒する香山。一方で、アメリカ帰りのジョン万次郎は、徐々に尊王攘夷思想に染まっていく。
この曲は香山というキャラクターを端的に表現した楽曲でもあります。また、万次郎が日本を閉じる方向に進んでいく中で、香山は西洋化に価値を見出していく。それをはっきりと象徴する楽曲だと思います。これも気づいたら口ずさみたくなるくらいクセになりますよね。今、練習してるからかな(笑)。そういう意味では、この作品の中では比較的キャッチーなんじゃないかな。リフレインする中でシーンがどんどん変化していく。そういう表現もすごいなと思いますし、この曲もすごく綺麗な曲です。
海宝直人のお気に入り楽曲
アルバム『Break a leg!』(2020年)、『I wish. I want. ~NAOTO KAIHO sings Disney』(2019年)からお気に入りの1曲を。
せっかくですからね、ミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』から、ソンドハイムさんの「道化をよこして」で。これはソンドハイムさんつながりで選びました。あとは、「おお!」と思っていただけるのは、「Gethsemane」かなと思います。どちらも『Break a leg!』に収録しています。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=岩村美佳
撮影=岩村美佳
ヘアメイク=本名和美(RHYTHM)
スタイリスト=津野真吾(impiger)
衣装協力=suzuki takayuki
公演情報
【大阪】2023年4月8日(土)〜16日(日)梅田芸術劇場メインホール
ジョン万次郎 ウエンツ瑛士・立石俊樹(Wキャスト)
将軍/女将 朝海ひかる
[老中] 可知寛子/ [たまて] 綿引さやか/ [漁師] 染谷洸太/ [泥棒] 村井成仁/ [少年] 谷口あかり/ [提督] 杉浦奎介/[提督] 武藤寛/ [提督] 田村雄一/ [提督] 中西勝之/ [提督] 照井裕隆/ [水兵] 藤田宏樹/ [少女] 井上花菜 (登場順)
脚本 ジョン・ワイドマン
演出 マシュー・ホワイト
翻訳・訳詞 市川洋二郎
音楽監督 キャサリン・ジェイズ
美術 ポール・ファーンズワース
照明 吉枝康幸
音響 山本浩一
衣装 前田文子
ヘアメイク 中原雅子
音楽監督補 小澤時史
指揮 小林恵子
歌唱指導 やまぐちあきこ
演出助手 河合範子
舞台監督 藤崎遊