アイナ・ジ・エンド、THE SPELLBOUND、高橋幸宏プロジェクト、milet等、数々の現場に参加しながら、所属するDATSやyahyelの活動も精力的に行うドラマー、大井一彌。時代にフィットするハイブリッドスタイルに迫る【インタビュー連載・匠の人】

インタビュー
音楽
2022.11.13

■僕にとってyahyelとDATSは陰と陽の関係にある

──一彌くんがハイブリッドスタイルを持ち込んだ最初のバンドは何になるんですか?

やっぱりDATSとyahyelになると思います。どちらも2015年に加入したのでほぼ同じタイミングなんです。

──2019年3月にMONJOEくんがyahyelを脱退したときも一彌くんは両バンドに残ることを決め、現在に至ってます。その矜持であり、両バンドのドラムを担うことの醍醐味を聞いてみたかったんです。

今所属しているバンドで数えると、yahyel とDATS、あとはギターの西田修大と坪口昌恭さんというジャズシンセ奏者とやっているOrtanceというバンド、さらにDATSのギタリストでもある吉田巧とやっているLADBREAKSというバンドもあって。それと、僕がソロで遊んでいるHUMANIZE IN DUBというプロジェクトもあるんですね。その中で僕が所属しているバンドの中で一番長くやっているのがyahyelとDATSで。僕にとってyahyelとDATSは陰と陽の関係にあるなと思っていて。だから、どちらにも参加し続けるのは僕の中では自然なことでした。もちろん、陰と陽の他にもいろんな要素が今の僕にはあります。それこそ、プレイヤーとしての仕事もそうだし、いろんなものが集まって陰と陽では足りないくらいの、巨大な曼荼羅のようなものをドラマーとして描いている実感があります。

──今サポートをツアー単位で参加しているアーティストは何組くらいいますか?

アイナちゃん(アイナ・ジ・エンド)、miletさん、UAさん、AAAMYYY、DAOKOちゃん、佐藤千亜妃さん、あとodolもこの前ライブに参加して、MONJOEのソロプロジェクト、THE SPELLBOUNDもありますね。THE SPELLBOUNDはバンドが始まってライブをやるぞというときからライブメンバーとしてツインドラムで参加しています。

──ビッグ・ビートの流れでいったら、BOOM BOOM SATELLITESを経た中野雅之さんが始動したTHE SPELLBOUNDで叩いているのも特別な思いがあるでしょう。

本当ですよ。中野さん、最高です。彼の作る音楽から彼のバックグラウンドにある音楽まで大好きで、ずっと憧れてますね。

■アイナちゃんは精神的なスペックがバンドマンに近い

──これだけ多種多様なアーティストのドラムを担ううえで一貫して意識しているのはどんなことですか?

精神的なことで言えば、どこで音楽をやっていても研ぎ澄ましていようという、鋭さみたいなものを持っていたいということですね。ありがたいことにどの現場でも僕の特性みたいなものを理解して、それを求めてくださっていることが多いんです。いわゆるハイブリッドスタイルであり、シーケンスに対して親和性の高いビートスタイルを求めてくれているというか。それに一生懸命応える、楽しむということですね。

──たとえばアイナさんは彼女自身の存在感、歌のあり方も含めて今のポピュラーミュージックシーンの中でいかに自らの個を際立たせるかということにすごく意識的なアーティストだと思いますが、そこで受ける刺激もかなりあると思います。

ありますね。アイナちゃんは精神的なスペックがバンドマンに近いと思うんです。それこそBiSHが「楽器を持たないパンクバンド」という看板を掲げているのも象徴的かもしれないですけど。本当に肉体的にも精神的にもバンドマンに近いと思います。たとえばアコースティックギターや生ピアノをバックにしたサウンドをメインにやっていたシンガーソングライターがサポートミュージシャンを入れてバンドサウンドでライブをやってみようとなったときにまず初めにバンドの音がデカいとか、そういうところにけっこう食らって「歌いづらい!」ってなることが多いと思うんです。でも、アイナちゃんを見ていると、どれだけまわりが爆音でも絶対にピッチを外さない。鍛え上げられたバンドマンさながらのスペックだなと思うんです。それであれだけバキバキに踊りまくって歌いまくってシャウトして。だからこそこちらも手加減せずいけるんです。必然的にライブもパワフルなものになりますし、サポートメンバーも高いトルクを持った人たちが集まっているので。バンドがワーッ!と盛り上がったときもアイナちゃんはバンドを背負えるんです。本当にすごいアーティストだと思います。

──ちなみに同時代に生きているドラマーとしてシンパシーを覚える存在はいますか?

この前、何かのリハーサルをしていたときのスタジオで偶然、ベーシストの越智(俊介)くん、西田修大、King Gnuの新井(和輝)くん、サックスの(安藤)康平さんとかと一緒になって、休憩所で集うという時間があったんですよ。

──一番いい時間ですね(笑)。

そうそう、一番いい時間があって(笑)。みんなすごくいいやつらなんで、僕のことを褒めてくれるわけですよ。「一彌、いいじゃん!」みたいなことを言ってくれる中で、僕は「いや、でもカッコいいドラマーいっぱいいるじゃん」みたいな。たとえば石若駿さん、伊吹(文裕)さん、他にももちろんごまんとカッコいい人がいて。僕はなんていうか、石若さんには逆立ちしても敵わないし、それは伊吹さんも同じくそうだし、菅野楓くんとか、すげえやつらはいっぱいいる。本当にすごい人だらけなんですけど、それを踏まえてみんなには「一彌にもならではの色がすごくあるよね」って言ってもらえて。それはもう、ドラマーと一緒にやる他のパートのプレイヤーたちが評価してくれることが僕はすごくうれしかったです。

■どんな音楽でも等しく愛せる。それが僕の才能だと思うんです

──一彌くんくんは今年9月に開催された高橋幸宏さんの50周年記念ライブにも参加しました。そのイベントのテーマソング「LOVE TOGETHER」のレコーディングにも名を連ねていて。そのきっかけというのは、一彌くんの幸宏さんへのリスペクトが届いたからなんでしょうか?

そうだと思います(笑)。いろんな方から推薦をいただいたのが大きくて。本当に光栄ですね。DAOKOちゃんのバンドメンバーに幸宏さんと親交が深い永井聖一さんがいらっしゃったり、バンマスの網守(将平)さんが前に「YMC」というYMOのトリビュートイベントで鍵盤を弾いていたりして。彼は彼で坂本龍一さんに対するリスペクトも特別なものがあって。YMOとか教授界隈に話が広がりやすいところに僕もいられたということかもしれません。あとは、THE SPELLBOUNDなどで一緒にやっているPAの佐々木幸生さんや、レコーディング現場などでご一緒させていただくドラムテックの土田嘉範さんが推してくれたり。本当にありがたいことです。

──イベントはどうでしたか?

本当に素晴らしかったです。幸宏さんは闘病中ということもあり会場にいらっしゃることはなかったんですが、そのぶん僕が幸宏さんを体現するぞという大きな覚悟を持って臨んだので。それにミュージシャンのみなさんも反応してくださって。幸宏さんの記念ライブはこれまで何度か開催されていて、他のミュージシャンのみなさんは参加経験のある方がほとんどだったんですよ。僕だけぽっと出の若造が飛び込んだ形で(笑)。最初は緊張していたんですけど、みなさん快く迎えてくれてありがたかったです。イベントのテーマソング「LOVE TOGETHER」のレコーディングも、イベントのリハからライブ本番も全部、幸宏さんのドラムセットを使って演奏したんです。

──素晴らしい。

最高でした。幸宏さんのセットを初めて触ったのが、「LOVE TOGETHER」のレコーディングの日で。スタジオには幸宏さんの楽器テックの方が、バッチリ幸宏さん用にセッティングしてくださっていて。幸宏さん用にセッティングされているはずなのに、僕がそのドラムセットに座ったら無理なく叩けるスタンスになっていたんですよ。

──すごい。

すごく感動しちゃって。体型的に近いところもあると思うんですが、スネアやシンバルの選定や置き方などにもシンパシーを感じましたね。でも、そりゃそうですよね。僕はずっと高橋幸宏さん的なことを追い求めてやってきたわけですから。その本家本元である幸宏さんのセットが自分にハマるのは生まれた水に触れてるようなことというか。ドラムセットのメーカーはTAMAなんですけど、僕も幸宏さんが好きでTAMAドラムのエンドーサーになったという経緯もあって。

──これまで幸宏さんと直接的なコミュニケーションを取ったことはあったんですか?

ありました。以前、yahyelでMETAFIVEと対バンさせていただいたときの打ち上げで、エレクトロニックドラムのトリガー感度の話題で盛り上がったり。さらに遡ればDATSがリリースした作品に幸宏さんからコメントをいただいたりとか。それでTwitterでちょっと会話させてもらったり。いつかまた直接お会いできる日が来たら、幸宏さんの家に行って飲めないワインをいただきながら、一晩中でもお話したいです。その日が来ることを楽しみにしてます。

──最後に、一彌くんのドラマーとしての今後の展望、これからどういう音楽人生の軌跡を描いていきたいかというその思いを聞かせてください。

ちょっと考えますね…………今、ドラマーとしていろんなところで活動していて、自分のバンドもやって、2足どころか何足の草鞋を履いてるんだという音楽人生を生きてるんですけど。僕はたぶん、どんな音楽でも等しく愛せる。それが僕の才能だと思うんです。どんな音楽でも等しく愛せることっておそらくすごく難しいことだと思っていて。僕は音の羅列自体が好きみたいなレベルで。言ってしまえば、マスメディアのフィールドにも、その逆にあるアンダーグラウンドで先鋭的な音楽のフィールドにも、どちらにも漂うように存在したい。両方に素晴らしさがあるし、そのどちらも楽しめるように生きていきたいと思っています。結局、商売と芸術を対立させて両極をいがみ合わせる構図はナンセンスだと思っていて。その対立構造を描くことがその人たちのエネルギーになるところもあるとは思うんですが、「セルアウトはダサい」とか、その逆で「小さいライブハウスでくすぶってるのはダサい」って言い合うのは超簡単なので。僕はそのどちらにもいたくて、どちらにも愛すべきものがたくさんあると思ってるし、どんなタイプの表現物であっても、本当に研ぎ澄まされたものは等しく美しいです。そういう人生を続けて、美しいものを見つけていきたいです。

取材・文=三宅正一

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