米津玄師、Eve、須田景凪、ちゃんみな、iri、XIIX、80KIDZ、Shin Sakiuraなどの楽曲やライブで活躍する堀正輝。ドラマーのみならず、ビートメイカーやアレンジャーとしても才能を発揮する個性に迫る【インタビュー連載・匠の人】

インタビュー
音楽
2022.12.19

■周りとは違う形を目指したほうが自分の個性になる

――ここ数年はドラマーだけではなく、ビートメイカー、アレンジャーとしても活動してます。

それも少しずつ広がった感じですね。レコーディングで「この曲は打ち込みで」ってなると、ドラマーは呼ばれないじゃないですか。僕は生ドラムのRECだけではなくて、ビートのプログラミングもやったりするんですけど、そういう形の仕事を受けてる人ってあまりいないんじゃないかなと。最初のきっかけは、Eveくんの制作かもしれないですね。Eveくんの楽曲アレンジをやっている沼能くん(Numa/沼能友樹)に「ビートを作ってみてくれない?」と頼まれて。その後もビートアレンジをやらせてもらうようになって、今年出たアルバム(『廻人』)でも10曲くらい担当してます。生ドラムが必要なときはレコーディングさせてもらうんですけどね。須田景凪くんとも「この曲のビートだけを変えてみたいんだけど」と依頼されたことがあって。打ち込みで作ったトラックを生ドラムにすることで生まれる変化もあるけど、そうじゃなくて打ち込みでビートだけを差し替える形でも曲がすごく変化するし、面白いです。米津くんの楽曲でも打ち込みで参加させてもらった曲があったり、いろいろと楽しくやらせてもらってます。

――打ち込みにも精通していて、ビートのプログラミングにも長けているドラマー。確かに稀ですね。それも10代後半から“他の人がやっていないこと”を探して、試行錯誤してきた成果かも。

そうですね。逃げの発想じゃないけど、みんなと同じようなものに影響を受けて、頭一つ抜ける自信がなかったんですよ。だったら違うものに影響を受けて、周りとは違う形を目指したほうが自分の個性になるし、人と比べられずに済むじゃないですか。人がたくさんいるところにいる恐怖感があるんですよね。昔から人がいない場所のほうが落ち着きますね。

――そういうスタンスが堀さんの個性につながっているんですね。

結果的には(笑)。演奏が上手い人はどんどん出てくるし、ここ数年は生音の良さを活かす美学が強まってると思っていて。それもいいことだと思うんですけど、「そのなかで自分はどうするか」を常に考えてますね。もちろんドラム自体も上手くならないといけないんだけど、自分のスタイルを変えてしまうと全部がダメになるというか。
自分の長所をしっかり使わないと戦えないし、真正面からぶつかっていくやり方ではないかもしれないけど、いろいろ試行錯誤しながら自分の音作りだったり、スタイルを確立させてきたんだと思います。それはいまも続いてますけどね。

――なるほど。音楽的なトレンドに対してはどう捉えていますか?

そこは意識してますね。そもそも自分が好きな音楽(ダンスミュージック)はトレンドとともに変化してきたし、流行に疎かったらダメだと思うので。そこを把握したうえで(制作のときは)シャットアウトするか、あえて逆の方向にいくか。やり方はいろいろあると思いますけど、トレンドを知らないでやるのは違うのかなと。リバイバルにしても、まだ1周してないのか、もうすぐしそうなのかというタイミングもあるし、何がイケている音なのかをわかってないのは良くないと思うので。ただ、イケてるかどうかっていうのは人それぞれ違うので、大事なのはあくまで自分がイケてると感じる音は何かということ。それを理解するために流行りの音楽をチェックしたりしています。自分が何に感動するとか、どんな音が好きというのは流行は関係なく持っていようと心がけています。最近は有機的な音、かたくない音が好きですね。アーティストでいうとレミ・ウルフの音像とか。

――堀さん自身が好きな音だったり、最先端のビートをJ-POPのアーティストの楽曲に反映させるときは、大衆向けにチューニングするというか、聴きやすく調整することもあるんですか?

いや、今は考えてないですね。僕が上京した10年前くらいは変換が必要だったと思いますけど、今はカッコいいトラックを作っているクリエイターがいっぱい活躍しているし、メジャーのアーティストの楽曲もすごく進化しているので。ライブもそうだと思います。東京に来た頃は同期の音を使っている現場は少なかったんだけど、ライブの音作りに対する考え方もすごく変化したし、受け入れてもらえるようになってきたと思います。ローランド(電子楽器メーカー)には本当にお世話になってます。ドラムパッドやトリガーもそうですけど、ローランドの機材がないと、今のようなライブの音作りができない場面もあるので。

――楽曲の変化とリンクして、ライブの音響も変わっていると。

はい。2019年にm-floのライブに初めて参加させてもらったんですよ。20周年のライブだったんですけど、打ち上げでTaku(Takahashi)さんが「20年、ライブに対してずっと抱えて悩みが最初のリハでなくなったよ。ありがとう」と言ってくれて。

――Takuさんが仰った「ライブに対する悩み」とは、どんなことだったのでしょうか?

たぶんですけど、トラックメイカーが作った曲を生ドラムで演奏するときって、割り切らないといけない部分があると思うんです。たとえば“909”(ローランドのリズムマシン「TR-909」)のキックの音を使った曲をライブでやると、どうしてもその音にはならない。それが違和感になってたんじゃないかなと。m-floのライブに参加して、Takuさんに「ありがとう」と言ってもらえたときは「今までやってきたことが報われた」と思いました。

――素晴らしいですね。さらに2021年からは“堀名義”のソロ活動もスタートさせましたよね。

自分はホームページを作ってないし、名刺も持っていなので、何をやってる人なのかわかりづらいだろうなと思っていて。自分で好きな曲を作って発表すれば、「こういう音楽をやってる人なんだ」と少しはわかってもらえるのかなと。あとはサポートの仕事で知り合ったカッコいいミュージシャンとコラボしたいという思いもありましたね。なかなか出来ずにいたんですけど、コロナでライブが出来ない時期に制作をはじめました。

――サポート活動の広がりとともに、ソロワークもさらに活性化しそうですね。ドラマー、アーティストとしてのこの先のビジョンは?

音楽シーンはどんどん変わっていくし、ずっとアップデートし続けたいですね。“生ドラム+α”の音作りをさらに追及して、妥協せずやっていかないと。

――ストイックですね! 自分にしか出せない音、作れないビートがあるという実感も既にあるのでは?

それを実感しているヒマがないんですよ。関わらせてもらっているアーティストの進化が速いし、どんどん先に行っていて。音楽的に置いていかれないようにいつも必死です。

取材・文=森朋之

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