サルバドール・ダリの生涯を描く『ダリとガラ』丸尾丸一郎×雷太インタビュー 「ダリの言葉に勇気をもらっている」

インタビュー
舞台
2023.3.8

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劇団鹿殺しの作家であり、数々の話題作を生み出し続ける丸尾丸一郎が脚本・演出を務めるOFFICE SHIKA PRODUCE最新作『ダリとガラ』が、2月〜3月に東京・大阪にて上演される。

本作は、20世紀を代表する画家の一人、サルバドール・ダリと、その妻のガラを題材に、ダリの生涯を通じて芸術との向き合い方を描く意欲作。サルバドール・ダリを演じる雷太と、丸尾に作品に懸ける思いを聞いた。

――丸尾さんが今回、ダリの生涯を描こうと思ったきっかけを教えてください。

丸尾:僕たちはいつも「オフィス鹿」のメンバーで企画会議をするんですが、これまで「オフィス鹿」プロデュースの公演は、僕が書きたいものを上演することが多かったんです。ですが、今回は制作の高橋戦車がこの企画を持って来てくれて、それがすごく面白かった。すぐにチャレンジしてみたいと思ったんですよ。それまで僕は、ダリという人物については画家でアートに生きた人という漠然としたイメージしか持っていませんでしたが、すごく興味はあったのでこの機会に彼を描いてみたいと思いました。これまで実在の人物の生涯を描いたこともなかったので、自分にとってはすごくチャレンジングな企画になるというのも魅力的で、すぐに決まりました。

――実際に実在の人物の生涯を書いてみて、苦労はありましたか?

丸尾:勉強をしなければいけなかったのは大変でした(笑)。僕は、本を読むのが本当に苦手なんですよ。昔、劇団に脚本家がいなかったので、劇団員全員で(脚本を)書いてみて、たまたまラストシーンまで根性で書けたのが僕だったというだけの理由で、脚本家になったんです。その後も、改めて脚本の勉強をすることもなく脚本家を続けているので、何冊も本を読んでその人の生涯を勉強して想像して書いていくというのは初めてのことでした。なので、取り掛かるまではしんどかったです(笑)。ただ、取り掛かってしまったら、ダリの言葉を浴びるのがすごく楽しかったのですが。

――なるほど。丸尾さんの脚本は、画(え)が浮かぶ脚本だと感じていましたが、今のお話を聞いて納得しました。

丸尾:脚本を書く時は、初めてお芝居に触れる方を置いていかないようにしようと思っています。お芝居の沼にハマってほしい。僕たちが作るお芝居よりももっと難解で面白い作品はたくさんあると思いますが、自分たちは絶えず“入口”という存在でありたいんです。今回は、ダリというこれまでよりも難解な題材を扱っていますが、初めてお芝居を観たお客さんが「演劇って楽しいんだ」と思ってもらえるように心がけました。

――雷太さんは、本作のお話を聞いた時の心境はいかがでしたか?

雷太:ちょうどスケジュールが空いていたので、どう過ごそうかなと考えていた時に、タイミングよくお話をいただいて。しかも、サルバドール・ダリの生涯を描くと聞いて、それは面白いとすぐにお返事させていただきました。僕はエンターテインメントが好きでこうして舞台をやっていますが、画家とも共通する考え方があると思いますし、キャラクターとして大きな存在感を残しているダリという画家を舞台で表現するということに興味を惹かれました。何よりも、劇団鹿殺しさんは、僕が演劇を始めた高校生の頃から活躍されていて、観劇してきた劇団だったので、ご一緒できるのが嬉しかったです。

――丸尾さんが、雷太さんにダリ役をオファーしたのは、どういった思いからだったんですか?

丸尾:僕が信頼する、キャスティングに詳しい方に相談したところ、雷太の名前を出してくれたのがきっかけでした。たまたまスケジュールが空いていて、本当にラッキーでした。雷太という新しいアートな空気感をまとった、まだ得体の知れない役者と知り合えたのは、僕にとって奇跡でしたし、すごく貴重な経験になっています。

――雷太さんがダリを演じることになって、脚本や演出に変化はありましたか?

丸尾:今、稽古をしている最中なので、これからだと思います。雷太の役者としての存在とダリの生涯をどうシンクロさせていくのか。それは、ダリの人生を模倣するのではなく、一人の役者である雷太の人生がいかに震えるかということだと思います。これまでにも雷太とそうした話をしてきましたが、まだ正解がはっきりと見えているわけではないんです。これから稽古を通して見えてくるものだと思います。

――雷太さんは、丸尾さんの演出を受けてどう感じていますか?

雷太:本当にクリエイティブな現場だなと思いますし、新しいものを作っていることを肌で感じています。今は、丸尾さんが大事にされている画(え)作りや、イメージしていることがわかってきたので、それにいかに近づけるかが、僕を含めたキャストたちの課題だと思います。僕自身、こうした世界観が大好きですし、みんなで新しいことに挑戦しているのは本当に楽しいです。お互いに良い影響を与えられたらと思っています。

――ダリという人物に対する印象は、この作品に携わる前と変わりましたか?

丸尾:僕たちも少なからず、人によって印象が変わることはあると思いますが、ダリの印象はきっときっと10人に聞いたら10人の答えが全く違うと思います。ダリを真面目な人物だと感じる人もいれば、不真面目、ただの売名行為、金もうけ主義と感じる人もいる。真逆の要素が一人の人間の中にあるんだと思います。その中で、僕は、「どこかで自分の才能と自分の愛情に精一杯逆らって、あがき続けて生きた人」という捉え方をしています。

雷太:まさにその通りだと僕も思います。パフォーマンスや奇行が注目されがちですが、演劇という芸術に携わってきた僕としては、パフォーマンスに昇華できるというのはすごいことだと思います。しかも、それで人々を魅了しているわけですから。ただ、表に出る仕事をしている人は、表に見えている面が必ずしも全て素(す)であるということではないと思います。僕自身もやはり人の目にとらわれてしまうこともありますし、そういう弱い自分も自覚しています。ダリもきっと、パフォーマンスの裏にある自分を理解していたと思います。実際にダリについて書かれている本の中には、素(す)を見られてものすごい剣幕で怒ったというエピソードや自分が死ぬ姿を見られたくないと思っていた話などが出てきます。ダリはいわゆる上流階級の出でしたが、自分の兄に大きなコンプレックスを抱いていたそうです。そうした彼のイメージからはかけ離れた一面があるからこそ、あのパフォーマンスができたのかもしれないと思いました。混沌とした人物ですが、調べれば調べるほど魅力的な人だとも思いました。

丸尾:「生きる」ということに真面目なのかもしれないですね。兄へのコンプレックスと言っても、その兄は自分が生まれる前に死んだ兄なんですよ。真面目に生きていなかったら、どうでもいいじゃないですか(笑)。一つひとつのことに真面目に取り組んでいたからこそ、生きづらさを感じていたのかもしれないなと感じました。

――演出する上で、今回特に意識されているところはありますか。

丸尾:今回は、振付に辻本知彦さん(編集註:※辻のつじは正しくは一点しんにょう)に入っていただいているので、僕には想像もつかないことが発生するのを期待しています。今回の稽古では、辻本さんも含めて、稽古場で発生する何かを待ち、そこで出てきた空気感を大事にしています。そのクリエイティブな時間をいかに作り出すのかというのが、自分の中でいつもと違う挑戦だなと感じています。

――劇中には、「兄の亡霊のダリ」「偏執狂のダリ」など8人のダリと、6人のガラが登場しますが、そうしたダリやガラの観念を辻本さんが振り付けたパフォーマンスで表現するというイメージでしょうか? 

丸尾:もちろんそれもありますが、今回はダリの生涯を描いているので、具象で全てを見せることができないため、役者の身体性と表現力を使って表現していけるのかに挑戦しているところです。それに加えて、ワークショップ的な意味合いもあります。辻本さんが実際にシーンを作るというよりは、「こういう体の使い方をするといい」と役者たちに伝える時間も長くとっています。

――そうした現場は学びも多いのでは?

雷太:そうですね。舞台に出演するのに学ぶスタンスでいくのは違うと僕個人は考えてはいますが、それでもそれを超えて今、学んでいるところは大いにあります。丸尾さんは役者のみんなに余白を作ってくれるので、「こうしたい」という役者の気持ちを尊重してくれるんです。同時に、丸尾さんが作り上げたい世界もあるので、それをすり合わせている感覚があります。辻本さんもまた、僕が尊敬している方の一人ですが、的確なアドバイスをくださるので、今回は挑戦、チャレンジ、破壊と創造みたいな(笑)、そんな現場になっています。

――実在した人物を演じるからこその楽しさ、難しさはありますか?

雷太:オリジナルストーリーの場合、自分である程度、キャラクターを作っていって、脚本家や演出家がイメージしたものとすり合わせていくやり方が多いと思いますが、実在した人物の場合は、あまり逸脱してしまうのも違うと思いますし、そこにとらわれ過ぎてしまっても面白い作品にはならない。そのバランスは難しいなと思いますが、その人物へのリスペクトは忘れずに演じたいと思っています。

――この作品を通してお客さんにどんなことを伝えたいですか?

丸尾:お芝居を見た時にお客さんが持って帰るものは千差万別で、それぞれ違う方が面白いと思うので、全て決めるべきじゃないとは思っていますが、この物語の中で、僕はお芝居のラストシーンのダリの演説が強く響きました。その演説の中で、「私にはさっぱり分からない。人間っていうのは何で個性がないんだろう、もっとこんな発想ができるんじゃないか」と話すのですが、こうして便利になった世の中だからこそ、みんなが生きにくさを感じ、発想が狭まっていくのかなと感じました。例えば、昔ならば公演を広く知ってもらおうと思って、軽トラにチラシを貼って、下北沢の街を走るということをしていたんですよ。アホな発想で面白いと思ってそれをやっていたわけですが、今だとSNSで告知した方がよっぽどいいと言われてしまう。発想が広がっているようで狭まっている感じがするんです。そうした生きにくい世の中を突破する発想の強さがダリにはある気がします。彼の言葉を受けて、今までの自分にはなかった考えがフッと浮かんだら、それがこのお芝居を作って良かったと思える瞬間かなと思います。

雷太:僕自身、ダリの言葉に勇気をもらっています。僕が演劇をやっているのは、弱い自分を隠すためというのが一つの理由でもあります。僕は昔から、何事もマイナスに捉えがちなんですよ(苦笑)。そういう自分を隠せる場所が舞台やパフォーマンスなんです。ダリもきっと根底には脆い部分も持っていたと思いますが、それをパフォーマンスやアートに昇華している。その姿から、勇気をもらっています。今の時代、そして日本では、個性がありすぎると叩かれてしまいがちです。逆に個性がないことを苦しんでいる人もいます。そうした状況に一石を投じられる作品になったらいいなと思います。何よりも、ダリが残した言葉を明確に伝えるのが今回の僕らの役目でもあると思うので、それも大切にして作っていきたいです。

取材・文=嶋田真己 撮影=池上夢貢

公演情報

座・高円寺 春の劇場30
日本劇作家協会プログラム
OFFICE SHIKA PRODUCE

『ダリとガラ』
 
■日程・会場:
<東京公演>2023年3月2日(木)~12日(日)座・高円寺
<大阪公演>2023年3月24日(金)~26日(日)ABCホール
 
■脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
■振付:辻本知彦  ※辻のつじは正しくは一点しんにょう
 
■出演:
雷太 / 北野日奈子 / 三浦海里 
鷺沼恵美子 / 島田惇平 / 久保田武人 / 須藤茉麻
小早川俊輔 / 前川ゆう / 若月海里  / 山形匠 
田邉成虎 / 飛香まい / 佐々木ありさ
 
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