ReoNa 2ndフルアルバム『HUMAN』で歌う「人として生きるということ」そして未来の物語
■この曲順が、アルバムに対する最大公約数なんじゃないかと思ってる
――次は6曲目、「FRIENDS」はruiさんが担当している楽曲ですが、アメリカンロック・ポップスの空気を感じる曲です。そこにReoNa的なワードが凄い入ってくるのが良くて。「ヒールはあんよが痛い」とからしさを感じました。そのアンバランス感がすごく面白かったし、最初にこれ聴いて思ったのは神崎エルザに対するリスペクトでした。
あ、そう感じてくれましたか。
――ある意味原点的というか。
凄く原点だと思います。まずruiさん×ReoNaっていうところがそうですよね。神埼エルザとの出会いがアニソンシンガーReoNaとしての一つの原点なので、「ピルグリム」だったり「レプリカ」だったり、そういうところから始まって歩んできて今こうしてここにいるというか。実はここまで作詞をReoNaがさせていただいたのもほぼほぼ初めてに近いぐらいなんです。
――ruiさんと共作となっていますけど、結構ReoNaさんが担当している?
日本語部分は全部私なんです。英詞をruiさんにお願いしました。
――神崎エルザを感じさせるような楽曲のテーマが「FRIENDS」ってとてもいいですよね。
そうですね。「I love you」って言ってるけど最後に「Friends」って言ってる部分とか。
――5年経ったReoNaにエルザからの手紙のような曲だなと思いました。
正に手紙っていうのはキーワードでした。楽曲を書くにあたって具体的に思い浮かべた友人がいるんです。デビューすることになって会えなくなった。それまで週に3~4日一緒にいるぐらいの友達だったんですけど、デビューするにあたって連絡先も消して遊びに行くこともなくなって。
――そこまでですか。
それくらい真剣に音楽と向き合わないといけないと思って……事務所の社長さん経由でライブとかには来てもらってるんですけど、会話するのもはその終演後の数分間。
――その友達への思いが詰まっている。
具体的な思い出だったり、その友達に対する想いだったりは歌詞に載せています。歌詞を書くとなった時に、どうしても大層なことを考えようとしてしまって。
――大層なことですか(笑)。
ケイさんや毛蟹さん、トータさんっていう一流の作詞家さん達が周りにいる中で、そんな人達が紡いだくれた言葉と一緒にお歌をお届けしていくとなったら、凄いこと歌詞に書かないといけない! みたいなイメージが最初あったんですけど、事務所の社長に「手紙でいいんだよ」と言ってもらったんです。例の一つとして、ビートルズの「HEY JUDE」はジュリアン・レノンに対して「ヘイ ジュード」って語りかける楽曲なのに、今世界中の誰もが知ってて、みんながシンガロングできる楽曲になって。
――たしかにそうですね。
誰か一人に向けたお歌が、たくさんの人に自分事にしてもらえて、届いていくっていうのが良いなって。そこから「ヒールはあんよが痛くて」とか、普段使ってる飾り気のない言葉で作詞できたと思います。
――「朝帰りヒールは あんよが痛くて コンビニで買ったお揃いのスリッパはダサくて」ってめっちゃリアルですよね。
100円ローソンでスリッパ買いました(笑)。 「ここからめっちゃ下り坂だけど二人ともヒールじゃん、無理じゃない?」とか言って。スリッパ買うかって(笑)。
――ReoNaの始まりはさっき仰ったように「神崎エルザstarting ReoNa」として始まったわけじゃないですか。それも相まって比較的謎が多いアーティストだったと思うんです。
あまり私生活とかは詳らかにしない方だなと思います。
――その人が書いた歌詞が自分の過去を思い出している内容で、歌詞にも楽曲にも凄いこだわりがあるチームReoNaの面々が「手紙でいいよ、これで行こうぜ!」ってこの曲を作り上げたというのは、ReoNaさんに対するチームの信頼かなって思いました。
でも、いざ歌詞をはめてみてドキドキはしたんですよ。大丈夫かな? 通じるかな? とか。楽曲出来上がってからもずっと「本当に受け入れてもらえるんだろうか?」みたいな不安があったからこそ、ラジオでオンエアがあったり、インタビューでいいねって言ってもらえて。自分の言葉で作詞したことに対するアンサーを頂いている最中です。
――ずっと言ってる言葉も散りばめられていますよね、「懐かしいは優しい」とか。歌詞でも「狭すぎる世界で」って言ってますけど、10代後半とかって親と、友達とっていう、あれが世界の全てなんですよね。
そう、あれが世界の全てでした。
――そのミニマムな関係値がすごくリアルでした。「さよナラ」の後に配置されてるのもいいですよね。トータさんの書くいい意味で狭い世界と、ReoNaさんの狭い世界の“果て”が違うから面白い。
このアルバムって凄い妙な作りになってるって思うんです。一つのものに対して一つの絶望だったりとかに対して視点が一つじゃないというか。「シャル・ウィ・ダンス?」と「ないない」もどっちも『シャドーハウス』の曲ですけど、向き合う視点が違ったりとか。全部を通して人について歌ってるんですけど、その人間というものに対しての目線が違ったりとか。
――ああ、なるほど……それはそうかもしれないですね。
「さよナラ」と「FRIENDS」も、誰かとの関係に対する絶望に対する向き合い方が違うんですよね。届ける側としてはそういう部分も受け取ってもらえたらいいなと思っています。
――凄く狭い世界の話が二つ続いた後に「ライフ・イズ・ビューティフォー」。ここにしか置けないと思いました。この前でもないし、この間でもない。
ぜひ加東さんにも考えていただきたいんですけど、このアルバムって曲順の直しようがなくないですか?
――ああ……ないかもしれないですね(笑)。
この曲順って、私アルバムに対する最大公約数なんじゃないかなって思ってるんです。なので順に聞いてもらえたら嬉しいです。
■物語や作品が終わってしまうことが得意じゃない
――その「ライフ・イズ・ビューティフォー」があって「メメント・モリ」。毛蟹さん作詞作曲ですが、100%毛蟹さんというか…聴けば聴くほど良くなるというか。
わかります。
――その毛蟹さんが「死を忘れるな」という意味の曲を作ってきたのが凄いなと。
これは全部毛蟹さん全開ですね。何ならギターも毛蟹さんが弾いてますし。
――本当に100%ですね。最初の印象はどうでした?
私の中にいるアニメ・サブカル好きの少女が「あ、もう好き!」って言ってました(笑)。たぶんこの楽曲にデビューする前の10代の時に出会ってたら、この曲を聴きたいがためにライブ行くだろうなって思うぐらいの楽曲です。
――毛蟹さんとの関係値も長いですよね。
そうですね。「怪物の詩」が初めて貰ったオリジナルの曲なので。
――そういう意味では一番タッグを組んでる。
そうですね、一番多いです。
――毛蟹さんはTYPE-MOONの楽曲も多く担当されてますし、そういう空気も感じるような一曲ですね。
多分その軸も毛蟹さんの中にあるんだと思います、「生命線」があったからこそ頂いたものかもしれませんね。
――それはありそうですね、この曲は毛蟹さんが自分はこういうものが好き! というのをあんまり隠してないというか、自分の好きなものをちゃんと出してきたというか。
凄くわかります。毛蟹さんが純度100%だった時に生まれる爆発力みたいなものって、結構今までの歩みの中でも要所で感じているんです。「生命線」はReoNaのこと1ミリも考えないで作ったとおっしゃってたんですけど、毛蟹さんが真っ直ぐ曲を描いたからこそ、心揺されるものって凄く凄くあるなと思っています。
――「まっさら」とかもそういう楽曲ですよね。良い意味で毛蟹さんの我が出ている曲を、ReoNaさんがちゃんと乗りこなして、自分の物にしているのが曲の良さを引き上げていると思います。
毛蟹さんはReoNaに挑戦状を叩きつけてくる人でもあり、ReoNaのことを研究し続けてきた人でもあると思っているんです。最初の頃、私の歌のレンジが今より狭くて何も歌えなかった頃に、私が歌いづらいって言った一言をずっと気にしてるみたいで、どうしたら歌いやすいだろうか、どのレンジだったらReoNaの声を生かしていい歌を歌えるんだろうかっていうのは、とても研究して楽曲を作り続けてくださっているのが毛蟹さんです。だからこそ毛蟹さんも自分の好きなものを入れつつ、ReoNaっていう一つのスピーカに対して挑戦を叩き付けてきているというか、そういう関係値なんだと思います。
――そういう意味では真にオタク気質を持っていますよね。
そうなんです、だからずっと博士だと思ってます。毛蟹博士。
――この5年でReoNaさんが凄く成長したと感じるのは、この曲がどういう作品なのか、どういう想いなのかというのを受け取る感受性はもともと凄く優れてると思うんです。ある意味マイクとしての性能というか。それに対する表現力、スピーカーとしての性能も上がっていると思っていて、それを「メメント・モリ」からは感じられたんです。
スピーカーとしての性能は上げていきたいです。最初は確かに感受性の方が強かった気がするんですけど、声のレンジが広がるというのも含めてスピーカーとしてのReoNaをもっと強くしたいですね。
――そして「SACRA」です。cAnONさんが作詞、澤野弘之さんが作曲されています。SawanoHiroyuki[nZk]の「time」の時は澤野さんの世界にReoNaさんが入っていった感がありましたが、今回は澤野さんがこちらに来たというか、その交換が良かったです。
ありがとうございます。
――澤野さんから見たReoNaの絶望を書いてるというか、桜が舞う卒業や別れを感じさせてくれました。
春って出会いと別れの季節だと思っていて、その中でも数々日本に「さくら」という名前の名曲が残されてきてますけど、ReoNaと澤野さんが描く桜だったらこの「SACRA」。
――所属レーベルの名前でもありますからね。
澤野さんとReoNaの共通項でもありますし、きっとこれはReoNa一人では背負えない「SACRA」。澤野さんとだからこのタイトルにできたと思います。
――澤野さんの持っているダイナミズムだったりエモーショナルな部分というのを、極力押さえ込んでReoNaのために作ってるというか。
私もアニメ好きの一人として、いろんな作品で澤野さんの楽曲と出会ってきて、澤野さんの音楽って、分厚く荘厳なサウンドのイメージがあったんですけど、このピアノの旋律が美しいはかなげな音にしてくださったのは、ReoNaのことを思い浮かべてくださってたのかなって。
――曲が3分ちょっとで終わる短めなのもなんか素敵でした。気になった時には終わってるというのも儚さを感じました。コーラスも美しい。
今回最後の混声になる所は五人で歌ってます。私を含めて五人のコーラスが、桜の花びらみたいだなと思いながらレコーディングしました。
――ラスト前に持ってくるのは洒落てるし、素敵だなと思いました。そして最後「VITA」です。さっきのアルバムの対担っている曲という話をすると「Weaker」と『SAO』のつながりがある曲ですが、なおかつこれは裏に「ANIMA」の影を感じます。
アルバムを飛び越えた話になりますが、「ANIMA」という魂の物語があって、「Scar/let」という情熱の物語があって、命……「VITA」っていうところに辿りつく。
――「Weaker」とは『SAO』でつながっていますが、この曲で歌われているテーマって、「HUMAN」の対になるとも思えるんです。「VITA」の最後の歌詞が「HUMAN」の「I'm human」「どうしようもなく生きていく」と、なにかつながっているようなものを感じました。
一つキーワードとして、この楽曲をお届けする前後に武道館ワンマンがあるんです。それが楽曲を作っていく中でヒントになっていて。
――やはり武道館というものは意識にあるんですね。
武道館のことをずっと新たな一つのスタート地点という言い方をしてきたんですけど、まだまだこの先にも紡いでいきたいお歌もあるし、みんなと見ていきたい未来があるので、「まだ終われない」って歌詞は私自身の事でもあるし、『SAO』に対しても終わって欲しくないという思いを「Till the End」の時から持っていて。そういうものが楽曲に込められています。
――ああ、『SAO』に対する思いというのもあるんですね。
私は元々物語や作品が終わってしまうことが得意じゃないんです。ReoNaのアーティスト人生の中でも凄く重要な作品になっている『SAO』はまだまだ続いて欲しいし、まだまだ終わって欲しくない。そんな『SAO』に対する想いとReoNa自身の想いが凄く重なっています。「HUMAN」とも重なってくる部分としては、「アリシゼーション」の物語って、魂や記憶がテーマの一つで、人間とAIの違いってなんだろう? とか、人として生きるというのが物語の芯になる部分だと思っていて、そういう意味で「HUMAN」と対になってるかもしれません。
――ご自身のターニングポイントに対する思いだけではなく、作品への思いを込められるという意味では、本当にReoNaさんはアニソンシンガーですよね。
そうありたいですね、アニソンシンガーでいたいです。
■武道館のその先もずっと「1対1」で
――そういう軸としても見てくださいと言えるじゃないですか。それはアニソンシンガーだからの武器だし、そこも考えて曲を作って紡いでいかなきゃいけないのは大変な事になるなと。ご自身はやっぱりこれからもアニソンシンガーでいたい?
アニソンシンガーでいたいですね。アニソンシンガーっていう言葉がある時点で、きっとそれを望んでる人たちがいるんだろうなと思ってるんです。この言葉があり続ける限り、楽曲で作品に寄り添う人がいて欲しいし、私はそうありたいと思います。
――更に今回完全数量生産限定盤には、昨年6月10日に行われた『ReoNa Acoustic Concert Tour 2022 “Naked” Lie at Zepp Haneda』の同録ライブCDも収録されますね。
かなり気合の入ったライブCDになってると思います。本当に豪華だと思います。
――ReoNaさんはライブで録ったものをCDとして聴いてもらうって、どういう印象を持たれていますか?
つい先日「unknown」のライブ音源が配信でリリースされたばかりなんですが、やっぱりオリジナル音源とライブバージョンはちょっと違うのが面白いと思います。ツアーを回ってきて、ミュージシャンがもう一歩楽曲への理解を深めて演奏してくれているところとか、私自身も歌ってく中で変化していった部分だったりとか、それを受け取ってもらえるのは凄く特別だと思います。
――ReoNaチームってはライブを大事にしてると思いますし、本数も多いですもんね。
今回「unknown」のライブ音源が配信されて、「Let it Die」に反応してくださっている人が多かったんです。今回も「Let it Die」入っているので、ライブことに同じ曲を聴き比べたりできるのも良さだと思うので、ぜひ聴き比べていただけたら。
――僕も「猫失格」とか「生きてるだけでえらいよ」とかはライブアレンジが素敵だなと思います。
「絶望年表」とかも違いを楽しんでもらえたら嬉しいです。
――アルバム『HUMAN』、改めてすごい魅力的な一枚だと思いました。ReoNaさんのことが好きでこのアルバムを手に取ってくれる人って、12曲目が終わったらもう一回頭に戻って『HUMAN』を聴くんじゃないかな、と。
是非ループしていただきたいです。まずはシャッフルじゃなくこの順番で! ライブのセットリストみたいな感覚で受け取ってもらえたら嬉しいです。全部が「HUMAN」に集約していくという感じを味わってもらえたら。
――このインタビューは武道館まで一週間ちょっと、というタイミングでお話を聞いています。その5月には全国7箇所を回る『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』も発表されました。
“武道館が新たなスタート地点になる”というのは、今まで歩んできた道筋みたいなものを武道館でお届けして、5月の『ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”』では初めてライブでお届けできる曲をたくさん披露できるのではと。武道館に向けて集中していく中ですけど、だからこそその先の未来のことも考えながら日々を過ごしてます。まずは日本武道館での1対1、そしてその先もずっと1対1をお届けできればと思っています。
――凄くそれを楽しみにしています。ある意味第二章のスタートでもありますしね。どう絶望を伝えるか、どう絶望に寄り添うか、寄り添いながらどう生きていくかっていうのをより表現していくターンになっていくのかなと、勝手に思ったりしています。
より深くなっていきますね。
――死ぬまで人間生きなきゃいけないですからね。
死ぬまで生き続けなきゃいけない……本当にそうですね。今日も明日も。
インタビュー・文=加東岳史