伊丹のハイド・パークをキャンパスにした「ボーダレス表現文化祭」――11回目を迎えた関西最大級の無料ローカルフェス『ITAMI GREENJAM’24』を振り返る
『ITAMI GREENJAM』
『ITAMI GREENJAM’24』 2024.9.22(SUN)・23(MON・HOL) 兵庫・昆陽池公園
関西屈指の無料野外フェス『ITAMI GREENJAM’24』が9月22日(日)、23日(月・祝)の2日間にわたり兵庫県伊丹市の昆陽池公園で開催された。2014年に歴史をスタートさせたこのイベントは、数々のアーティストによるライブを主軸に複数のマーケットエリア&フードエリア、子どもたちが思い切り遊べるキッズエリア、デコラティブに彩られたアートゾーンなどが自然豊かな市民公園を舞台に展開される地域密着型イベントだ。特筆すべき点としては、地方で開催される無料の野外フェスとしては関西最大級規模でありながら「市民表現のプラットフォーム」を掲げ、実行委員をはじめ企画・制作・運営などに地元を愛する人々が携わりDIYで行うことだ。主催者たちの言葉を借りるならば、「最高の素人達で作る市民表現文化祭」であり、「ボーダレス表現文化祭」。実は存在を知っていながらも『ITAMI GREENJAM』初体験だった筆者。2日間たっぷりとこのイベントに身を置いて感じたのは「こんなフェスは他にはない……!」というかなり強烈な肌感覚。なぜそう感じたのか、このレポートで追体験してもらえたら嬉しい。
◾️『ITAMI GREENJAM’24』の魅力とは
会場である昆陽池公園は最寄りの阪急伊丹駅からバスで約10分、都市部では珍しい渡り鳥の飛来地として知られており、大きな溜池を要する緑豊かな市民のオアシスだ。近くに伊丹空港もあり、かなり頻繁に旅客機が飛んでいく景色もここならではだ。その公園内に2つのメインステージを擁するライブエリア&フリーピクニックエリア、キッズエリア、マーケットエリア、フードエリアなどが公園のさまざまなスペースを使って展開される。ものすごくギュっと凝縮した小さなフジロックのよう、と言うとなんとなくイメージを掴んでもらえるのではないかと思う。
このイベントのすごいところは、入場無料という点にある(実は今年、あることを理由にライブエリアのみサポーターパスという有料制へと舵を切り、そのも早々にソールドアウトとなったのだがその詳細については後ほど)。つまりライブエリア以外のマーケット、フード、さまざまなコンテンツを楽しむのは「ご自由にどうぞ!」というウェルカムスタンスだ。
そういった背景もあってか、通常の音楽フェスにはない空気感と雰囲気が満ちているのだ。音楽フェスと街に根付く市民祭りがゆるいグラデーションというか、程よくマーブル状に交わる。ライブエリアに集う音楽フリークたちや、それ以外のエリアには純粋に休日を過ごしにきたファミリーや親子連れ、マーケットを楽しみにきたカップルや中高生、フードエリアにはご飯を食べにきたシニアたちまでが共存する。特に一番広いフードエリアでは、昼ご飯を食べつつ会話を楽しむシニアたちのそばで、DJが音を鳴らし続けていたのも興味深い光景だった。
そして個人的に最高! と感じたのはキッズが楽しめるコンテンツの充実ぶり。キッズエリアには子どもDJ体験や楽器を作るワークショップ、木に括り付けられたブランコや公園の木を利用した巨大迷路、伊丹昆虫館の展示や射的、プログラミング体験までが揃ううえ、キッズエリアの外にも水鉄砲を使ったサバゲー体験や手形でのアート制作、ミニ四駆大会やBMX体験会、くじびきに動物の餌やり体験まで。書き出したらキリがないほどのコンテンツが揃う。中でも目にとまったのはかわいい歯ブラシをはじめとした歯みがきグッズや子ども用歯みがき粉をその場でいろいろ試せる「ハミガキ団」のブース。団長であるハミージョさんは大阪市内で歯科医として活躍しながら、歯みがきを身近に感じてもらおうとイベントに出展している他、なんと救護の資格も持っているという。小さな子どもから小学生までがワクワクできること揃いで、子どもが帰りたがらない。
『ITAMI GREENJAM』
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個人的に2歳になる娘を連れて行ってみて驚いたのは、フェスには不慣れな低年齢の子ども連れでも1日楽しく過ごせる工夫の多さと快適性だった。
『ITAMI GREENJAM』
『ITAMI GREENJAM』
会場に設置されていた「むつまるくんのベビールーム」。休憩室や授乳室、おむつ替えスペースに加えなんとおまる体験もできる。ここでのおまる体験を機におむつを卒業できた子どももいるそうだ。なんといっても嬉しかったのは休憩室に保育士経験を持つボランティアさんが常駐していて、子どもを見てもらえること。ワンオペで訪れると困ることの第1位が、自分がトイレに行きたくなった時。フェスのトイレには子連れでは入れない。そういう時に、ここで子どもを見てもらい慌てずにトイレに行くことができる。
『ITAMI GREENJAM』
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そして低年齢の子どもとフェスに行って困るのが、食事だ。まだ食べられないものも多い年齢の子どもと行く場合、昼食を済ませてからの方がラクだな、なんならフェスに行くことすら諦めてもいいほど……。しかし、この日見つけた「手延べそうめん」のフードトラックに歓喜! うどんやそうめんは年齢問わず子どもが食べてくれるメニューの筆頭株、うちと似たような年齢の子どもを持つファミリーで長蛇の列ができていた。一般的なそうめんより少し太めのそうめんは食べ応えもあり、添えられた甘めに炊かれたおあげが娘にヒット。おかげで近くのうどん屋を探して駆け込む必要もなく、会場にとどまり続けることに成功した。
実はこのイベントの第1回開催時、予想を遥かに超えて近隣に住む子どもや家族連れが訪れたことに驚いたという主催者たち(なんと来場者の約半分がファミリーだったのだとか)。第2回の開催にあたり、子どもに向けたエンタメコンテンツ&インフラの強化をするべく、地域の子育てママや保育士さんの力を借りてキッズ&ファミリーホスピタリティ部門を立ち上げ、充実を図りブラッシュアップを続けていった結果が今につながっているという。子連れの親代表として伝えたい。本当にありがとうございます!
◾️『ITAMI GREENJAM』、11回目に掲げられたテーマは「Restart」
昨年10回目の開催を迎えた『ITAMI GREENJAM』は、スタッフの創意工夫をもって形を変えながら続いてきたフェスだと言っていい。特に近年では着々と開催を重ね約25000人を動員する規模のフェスへと成長していた矢先、世界はコロナ禍に突入。通常の『ITAMI GREENJAM』を開催できなかった2020年は伊丹市内3会場に分散する形で『ITAMI CITYJAM』を開催。2021年は直前に延期を決定し、急遽大阪のライブハウスで『EVERGREEN LIVE』と題したライブイベントを開催し、その模様を収録したものを地元ケーブルテレビで特別番組として放送した。そして2022年はまたコロナ禍の影響を受け大阪府池田市の猪名川運動公園へと会場変更を余儀なくされ3年ぶりに開催するも2日目は台風で中止となってしまう。記念すべき昨年の第10回は会場を昆陽池公園へと戻し、さらに来場者の安全確保やイベント運営資金調達の一環として昆陽池公園に隣接する住友総合グランドに有料のライブエリアを新設するなど、ここに書き連ねただけでも柔軟なアイデアで続いてきたことがよくわかる。
『ITAMI GREENJAM』
11回目を迎えることとなった『ITAMI GREENJAM’24』についたサブタイトルは「Restart」。主催者の大原智氏の話によれば、「次の5年、10年へと向かう決意ができた」のが前回開催の後のこと。10年一区切りと考えていた大原氏だったが関わるスタッフの継続の意欲は想像以上で、2024年に11年目を迎えるならば15年20年と継続できる形にしようと考えるようになったという。それにあたり今年最大の変化となったのが、メインステージで行われるアーティストのライブをサポーターパスという名のもと、有料へと切り替えたことだ。
『ITAMI GREENJAM』
ライブを行うエリアに関して、これまでステージ前方に一部有料エリアを設けるものの基本的には無料でライブを観覧することができた。しかしイベントの集客数が伸びたことによる会場内での安全性の確保を理由にしたライブエリアの区画化と、この先も『ITAMI GREENJAM』を継続するためには来場者からの資金サポートも必要との判断がなされたというのが有料化へと踏み切った背景だ。そこで今年取り入れられたのが、イベント自体は入場無料、ただし「LIVEステージ前エリアのみサポーターパス制(中学生以下は無料)」というもの。これが一般的なフェスのライブ鑑賞にあたり、メインステージのライブが見られるのはこのエリア内に限定されたことがひとつ、そして代は1000円、3000円、5000円と金額に幅が存在するものの内容は全て同じで、当日会場では特別スポンサーである大阪西成のブルワリーDerailleur Brew Works(ディレイラ ブリュー ワークス)によるイベント限定のオリジナルビールがリターンとして配られる。の販売サイトには「各種に内容の違いはございません。お気持ち次第でお選びください。頂きましたサポート金はありがたくイベント運営費に活用させて頂きます。」との言葉が添えられていた。このは早々に完売。両日共に、たくさんのサポーターがエリアを埋めた。