草間彌生初の大規模版画展『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』全6章の展示構成を紹介
草間彌生が4月25日(金)~9月7日(日)の期間、京都市京セラ美術館 新館 東山キューブにて開催される、初の大規模版画展『松本市美術館所蔵 草間彌生 版画の世界―反復と増殖―』。故郷・長野県松本市にある松本市美術館が所蔵する版画作品に作家蔵の作品を加えた約330点の版画作品が京都に集う、同展の展示構成を紹介する。
わたしのお気に入り
「靴をはいて野にゆこう」1979年 (C)YAYOI KUSAMA【後期展示】
1929年、草間彌生は長野県松本市で種苗業を営む旧家に生まれる。草間は花園に囲まれた少女期を過ごし、スケッチをするのが日課となっていた。その類まれな観察眼とデッサン力でいつしか世界を舞台に闘うことを決意する。1957年、28歳で単身渡米。網目、水玉といった独自のイメージを確立し、約16年間、ニューヨークを中心に創作活動を行う。しかし、体調や心の不調を感じ、1973年に帰国。この時期の作品には、苦しい胸のうちを反映するように、「死」を想起させるものが多く存在する。版画作品が登場したのもその頃から。版画作品には、死や苦悩を前面に押し出した作品とは対極にあるような華やかなモチーフが色彩ゆたかに表現され、生命力に満ちている。
輝きの世界
「帽子 (I) 」2000年 (C)YAYOI KUSAMA【後期展示】
草間は渡米後、1959年に発表した網目でキャンバスを覆いつくす絵画「無限の網(ネット・ペインティング)」シリーズによって、画家として鮮烈なデビューを飾る。そして、1965年頃からは、電飾と鏡を用いた立体作品の制作を始めた。「ミラールーム」に代表される光の彫刻作品だ。合わせ鏡によって明滅しながらどこまでも増殖する光(水玉)は、草間の永遠なるイメージを代弁しているよう。その輝きの世界は版画作品にも見ることができる。「無限の網」は、心の中のイメージと視覚的、体感的な経験の堆積を整理し、極々シンプルなかたちへ集約したものと言える。故郷・松本のせせらぎ、渡米時に飛行機の窓から見た太平洋の揺らめきもその要素になっている。版画作品のラメの粒子による瞬きはそれらの記憶と通底しているのかもしれない。
愛すべき南瓜たち
「南瓜」1982年 (C)YAYOI KUSAMA【前期展示】
草間彌生は植物に囲まれて育った。家の周りに広がる畑に出かけてはスケッチをする少女時代を過ごす。特にお気に入りは南瓜。その太っ腹で愛らしい姿に惹かれ、幾度も幾度も描いてきた。時を経て、心の葛藤を自己分析によって昇華させた水玉や網目が、草間の幼少期の記憶にあった植物たちと結びつく。南瓜など身近なモチーフが水玉を纏(まと)うことで鑑賞者は草間彌生の表現に寄り添いやすくなったのかもしれない。鑑賞者と草間の心をつないだ南瓜は、今なお草間芸術の代表的なイメージとして君臨し続けている。
境界なきイメージ
「波(1)」1998年 (c)YAYOI KUSAMA【後期展示】
草間は、キャンバスや彫刻作品、さらには空間全体を水玉や網目など同じパターンで覆いつくすことで、自身の中から浮かび上がるイメージは無限であることを高らかに宣言してた。幼少期から共存を強いられた得体の知れない内的イメージを、草間は芸術によって自らの個性に昇華させることに成功する。それは葛藤と分析を繰り返し、永い闘いの末に手に入れた成果でもあった。常同反復によるイメージの増殖が創作活動の根幹にあった草間と、複製芸術である版画の出合いは必然だったのかもしれない。それまでの画面上、または同一空間でのイメージの増殖であったものが、版画作品の登場により、草間自身の手を離れた増殖を可能としたと言えるだろう。
単色のメッセージ
「無限」1953年-1984年 (C)YAYOI KUSAMA【前期展示】
シルクスクリーン、リトグラフは草間彌生の原画をもとに刷師が版を作成しているが、本章で紹介するエッチングの作品では、草間自身が銅板に線を描いているため、より直接的なイメージの再現ができていると言える。指先のわずかな振幅や強弱さえも版に刻まれ、それをあえて補正せずに刷り上げられている。小さな銅板にギリギリとねじ込んだ草間のイメージは、色彩のない単色の表現によって、より鮮明に浮かび上がる。振り返れば、草間芸術の大きな転機にはいつもモノクロームの作品が誕生してきた。新たな表現領域に踏み込むにあたり、まず形状を徹底的に突き詰め、湧き上がって来るイメージを完全にその手中に捉えた後、色彩が溢れ出してくる。土台としてのフォルムが揺るがないからこそ、草間の色彩は天高く舞い上がることができる。
愛はとこしえ
「朝のかがやき (TWHIOW) 」2007年 (c)YAYOI KUSAMA【前期展示】
「愛はとこしえ」は2004年から約4年をかけて制作されたシリーズで、黒色のマーカーペンで100号のキャンバスに描いた50点を原画としたシルクスクリーン作品。顔や目、植物など具体的なモチーフが前面に押し出され、草間芸術の深遠性を知らしめる。帰国後の版画作品によって、つなぎ留められた記憶は、「愛はとこしえ」によって表出した。それは、かつて幼少期を過ごした故郷・松本の花園で想像した数多のイメージで、脈々と草間の中に息づいていた大切な記憶であったのかもしれない。本シリーズは、その後のアクリル画「わが永遠の魂」シリーズへと繋がり、最新シリーズ「毎日愛について祈っている」へ発展を続ける近年の躍進の起点となった作品でもある。
4月26日には松本市美術館の渋田見美術担当係長による記念講演会「前衛芸術家・草間彌生 創作の軌跡」が開催。5月1日(木)~5日(月・祝)には京都新聞朝刊掲載の「草間彌生 版画の世界」紙面を使って「草間彌生カブト」を折り、持参すると、小学生以下は無料で入場できるなど、会期中に様々なイベントも開催予定。詳細は展覧会公式サイトをチェックしよう。
ペアなど、入場券はイープラスにて販売中。
イベント情報
前期:4月25日(金)~6月29日(日) / 後期:7月1日(火)~9月7日(日)
※本展は、前期・後期で全点を入れ替えます。
休 館 日 :月曜日(ただし4/28、5/5、7/21、8/11は開館)
開場時間:10:00~18:00(最終入場は17:30まで)
※未就学児無料(要保護者同伴)
※団体料金は20名以上
※障がい者手帳等ご提示の方はご本人及び介護者1名無料
(障がい者手帳等確認できるものをご持参ください。)
主 催:朝日新聞社、朝日放送テレビ、京都新聞、京都市
特別協力:松本市美術館
協 力:株式会社草間彌生
協 賛:阿部出版株式会社
美術館公式WEBサイト: https://kyotocity-kyocera.museum/
展覧会公式サイト:https://yayoikusamahanga.exhibit.jp/
展覧会公式 X @ yk_printworks
展覧会公式Instagram @yayoikusama_printworks2024_27