世界的コレクターが「Funny!」と惚れ込んだ河鍋暁斎の底知れぬ創造の世界――『ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界』
特別展『ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界』 撮影=浜村晴奈
特別展『ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界』 2026.7.11(SAT)〜9.23(WED) 神戸市立博物館
伝統を継承しながら、既存の枠を超えて独自の画風を創り上げた絵師・河鍋暁斎。その魅力を存分に味わえる展覧会『ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界』が、9月23日(水・祝)まで神戸市立博物館で開かれている。同展は世界屈指の暁斎コレクターであるイスラエル・ゴールドマン氏が、約45年にわたり蒐集したコレクションの中から、日本初出品約60点を含む約110点を厳選。鬼や妖怪、動物、歴史画まで、多彩な作品を通して、天才絵師の深奥に迫る。
「半身達磨図」が結んだ、暁斎との縁
プレス内覧会に出席したイスラエル・ゴールドマン氏
「It's funny!(おもしろい)」
プレス内覧会で暁斎の魅力を尋ねられたゴールドマン氏は、そう答えた。そして「期待してください! 猫も鬼も踊っているんですから」と続けた。ゴールドマン氏は浮世絵や江戸絵画を専門とする美術商。初めて暁斎の作品を手に入れたのは1980年代初頭、ロンドンで偶然見つけた「半身達磨図」だった。その出合いが、ゴールドマン氏に暁斎の蒐集を決意させた。
同展に寄せたメッセージで「この絵が放つ崇高なオーラは、当時住んでいた質素な下宿の小さな部屋を満たした。その特別な空気に身を包まれながら、私はこの作品を手放すことはできないであろうことを早々に悟った」と当時を振り返っている。作品に宿る精神性こそ、暁斎最大の魅力だという。
ゴールドマン氏が初めて手にした河鍋暁斎作品「半身達磨図」(中央)
衝撃的な出会いを果たした暁斎に「本気で惚れた」のは、動物画を見たとき。同時期の西洋絵画には見られない「驚くほど機知に富んだ、愛らしい表現に強く惹かれた」と語る。
展示室で最初に出迎えてくれる「象と子熊」は、ゴールドマン氏が寝室に掛け、毎日愛でている「本気で惚れた」作品。かつて一度手放したものの、その夜、後悔の念で目が覚めてしまい、何年もかけて取り戻したという、まるで恋物語のようなエピソードもある。
河鍋暁斎「象と小熊」慶応元年(1865)頃~明治3年(1870)紙本淡彩 イスラエル・ゴールドマン・コレクション
蒐集を始めて約45年。コレクションは増え続け、まもなく1000点を超えるが、ゴールドマン氏は「暁斎の絵ほど私の胸を高鳴らせるものはない」と、現在も研究に勤しむ。「暁斎をもっと知りたい」。暁斎との恋物語はまだまだ続きそうだ。
暁斎の代表作「枯木に夜鴉」(左)
内覧会では、ゴールドマン氏自ら展示室を案内。蛙や閻魔大王を指して「ね、いいでしょう!」と誰よりも笑顔だった。胸には「枯木に夜鴉」をデザインしたネクタイ。狩野派で学んだ画技を駆使して描かれている。「百鬼夜行図屏風」の前では、「楽しいでしょう!」「ここ、ここ!」と妖怪たちを指差していた。
河鍋暁斎「百鬼夜行図屏風」明治4~22年(1871-89)紙本着彩 イスラエル・ゴールドマン・コレクション
「作品を人々と分かち合うことは、私にとって大きな喜びです」とメッセージに記された言葉をそのまま感じた。
「蛙の学校」(左)
万物の生きる喜びを描いた‟画鬼”
河鍋暁斎「地獄太夫と一休」明治4~22年(1871-89)絹本着彩 イスラエル・ゴールドマン・コレクション
河鍋暁斎の名が広く知られるようになったのは、近年の浮世絵ブームの始まりと同時期。「あまりに多才で色んなジャンルを描いたので、代表作が見えにくくなってしまったのかも」。忘れ去られていた理由を塚原晃学芸員はそう話す。「それは良くも悪くも暁斎が生まれた時期が関係しているのかもしれません」
暁斎が活躍したのは、幕末から明治。社会も文化も大きく変化し、日本美術界は、武家の庇護を受けてきた 御用絵師たちが困窮する激動の最中だった。失業する絵師も多い中、暁斎は、狩野派で学んだ伝統の技術を活かしながら、浮世絵や新しい文化であった風刺画や狂画の創作を始める。開国後は外国人とも親しく付き合い、弟子もとり、時代の変化をむしろ面白がって生きたようだ。
同展のメインビジュアルに起用された「地獄太夫と一休」。この作品を塚原学芸員は「これぞ、暁斎ワールド」と話す。「絵には物語がある。遊郭で宴会を楽しむ一休と彼の本性を試そうとする太夫。そして骸骨の姿になって踊り出す舞妓たち。その様子を見て太夫は一休を信頼する」。自ら地獄と名乗るほどの苦しみをもつ現世から、来世への祈りまで導いた禅問答、伝説の美人を描く精緻な技術と、衣装に隠されたユーモア。リアルな骸骨は西洋の解剖学図から学んだものだ。
河鍋暁斎「三味線を弾く洋装の骸骨と踊る妖怪」明治4~12年(1871-79)紙本淡彩 イスラエル・ゴールドマン・コレクション
創作への姿勢は幼い頃から破天荒。才能は抜きん出ており、師は幼い暁斎を「画鬼」と呼んだ。鬼は後に暁斎が好んだモチーフ。暁斎が描く鬼は人間のように生活し、どこかユーモラス、恐ろしさはない。自らを鬼として描いたとも推測されており、「酒のツマミに鰹を準備する鬼」は自画像的作品とされている。
河鍋暁斎「酒のツマミに鰹を準備する鬼」慶応元年(1865)頃~明治3年(1870)紙本淡彩 イスラエル・ゴールドマン・コレクション
暁斎と鬼には酒好きという共通点がある。暁斎は即興で筆をとる「席画」というパフォーマンスを得意とし、料亭やイベントで描いた。酒を呑みながら描くので乱れた署名も珍しくはない。相当酔って描いたに違いないと言われる作品に「猩々図」がある。「猩々」は酒の神とされている空想上の生きもの。添えられた自賛には、自身を「酒粕でできているような大酒呑み」とし、「この体から絵のつぼみが生まれるだろうか。今日も酒酒、明日も酒酒」と結んでいる。
「猩々図」
59歳でこの世を去るまで、暁斎の絵は人々を楽しませた。書家や絵師が客の目の前で創作し、それを購入できる書画会の様子を描いた作品では、賑やかな会場の中に自身の姿も描いている。
「閻魔大王浄玻璃鏡図」
油井洋明館長は、「仏画や歴史画に見られる精巧な表現技法、動物を描く生々しい写実性、戯画や風刺画に込められたユーモアと反骨精神、妖怪や鬼を表現する豊かな空想力。本当に楽しい絵ばかりです」と話す。
暁斎を知る人も、初めて出合う人も、その"Funny"な世界を存分に楽しみたい。
取材・文=田中奈都子 撮影=浜村晴奈
イベント情報
会期:2026年7月11日(土)~9月23日(水・祝)
前期展示:7月11日(土)~8月16日(日)
後期展示:8月18日(火)~9月23日(水・祝)
※会期中、一部作品に展示替えがあります。
休館日:月曜日(月曜が祝日の場合は翌平日休館)
会場:兵庫・神戸市立博物館(神戸市中央区京町24番地)
開館時間:9時30分~17時30分(金と土は20時まで開館)
※展示室への入場は閉館の30分前まで
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■団体券(20名以上)
一般:1,800円/大学生:900円/高校生以下:無料
■当日券
一般:2,000円/大学生:1,000円/高校生以下:無料
■スペシャル
◎アクリルキーホルダーセット券:2,500円【一般当日料金より400円お得!】
河鍋暁斎の多彩なモチーフから、骸骨と蛙がアクリルキーホルダーに!お好きな1種をお選びいただけます。
主催:神戸市立博物館、朝日新聞社、読売テレビ
協賛:ライブアートブックス(大伸社)、きんでん、竹中工務店、公益財団法人 日本教育公務員弘済会 兵庫支部
後援:ブリティッシュ・カウンシル
協力:全日本空輸
お問合せ:078-391-0035(神戸市立博物館)
公式HP:https://kyosai2026.exhibit.jp/