ミュージカル『LAZARUS』上演記念特別対談~より楽しみ、理解するために~ 立川直樹×SUGIZOが語る“デヴィッド・ボウイという天才の宇宙” ──音・言葉・時代の軌跡/主演・松岡充を迎えて【連載第5回】

特集
舞台
2025.5.28

画像を全て表示(6件)


“20世紀で最も影響力を持ったアーティスト”と称される伝説のロックミュージシャン、デヴィッド・ボウイ。彼の遺作であり、このたび2025年5月31日(土)より待望の日本初演を果たすこととなったミュージカル『LAZARUS』。

その魅力を伝えるべく実現した、立川直樹氏とSUGIZO氏との特別連載もついに第5回目。前回に続いて主人公・ニュートン役の松岡充氏を交えた対話は、ボウイが遺した『LAZARUS』の魅力により一層深く迫っていく。

デヴィッド・ボウイが『LAZARUS』に込めたメッセージとは一体何なのか、そしてそのメッセージを松岡充の“ニュートン”は果たしてどう伝えていくのかーー。

前回「ミュージカル『LAZARUS』上演記念特別対談~より楽しみ、理解するために~ 立川直樹×SUGIZOが語る“デヴィッド・ボウイという天才の宇宙” ──音・言葉・時代の軌跡 【連載第4回】」より続く。

●“スター”となったデヴィッド・ボウイが感じた“虚無”

SUGIZO(以下、S):僕は、ボウイももともとは“ロックスター”になりたかった人だと思うんです。世界的に成功したかったはずだし、お金も名声も全て欲しかった人なんですよ。でも何度も挫折して、何度も“チェンジ”して。結局、最も成功した80年代、『レッツ・ダンス』(※1)の頃、世界的な成功を手にし悲願を果たしたとき、多分ボウイが感じたのは“虚無”だったと思うんですよね。

立川(以下、T):それは、間違いない。

S:アンダーグラウンドのときに、自分が本当にやりたい表現をしていたときとは、多分ボタンがズレてしまって。世界的ポップスターにはなったけども、おそらく虚しさが大きかったんだと思います。それでその後は、僕ら大ファンから見ると、どんどん迷っていくんですよね。成功したがゆえに、軸がぶれて。

T:そうだね。

S:結局、いい曲もだんだん書けなくなって、一度ティン・マシーン(※2)というバンドを作ってまたちょっとおかしなことにもなって。結局90年代に復活はしたけど、80年代初期までは世界の最先端で誰よりも時代を引っ張ってきた人だったはずが、90年代はもう逆に時代に追いつくのに必死で、ちょっとだけ滑稽だったところもある。

松岡(以下、M):さすがの分析ですね。

S:90年代のオルタナティブ(※3)とか、インダストリアル(※4)を取り入れようとしたりとか、あと例えば、90年代の中盤にやっぱりすごく勃興したドラムンベース(※5)を取り入れたりとか…

M:『アースリング』(※6)でやっていましたね。

S:そう。そのどれもが、何かちょっとズレてて、一段階遅れてたんだよね。


※1:1983年にリリースされたデヴィッド・ボウイ14枚目のアルバム。
※2:1988年にデヴィッド・ボウイを中心に結成されたイギリスのロックバンド。
※3:商業主義的な産業ロックやポピュラー音楽とは一線を画し、アンダーグラウンドの精神を持つロックのジャンル
※4:無機質なビートと機械的なノイズを特徴とする、工業的で反体制的な音楽ジャンル
※5:1990年代にイギリスで生まれた電子音楽のジャンルの1つで、非常に速いテンポのドラムビートと重低音のベースが特徴。
※6:1997年にリリースされたデヴィッド・ボウイ19枚目のアルバム。

●デヴィッド・ボウイが抱えていた“闇”

T:『アウトサイド』(※7)はどう思ったの?僕は評価してるんだけど……

S:あ、だから『アウトサイド』だけが、僕が90年代のボウイでかっこいいと思ったやつです。あと『ブラック・タイ・ホワイト・ノイズ』(※8)が大好きです。それ以降はやっぱりもう、正直年齢による、次の世代に対してのズレが隠しきれなくなって、ボウイ本人も多分「これは駄目だ!」と思ったはずで。だから彼は1回ひっこんだじゃないですか。

T:でも10年ぶりに復活した『ザ・ネクスト・デイ』(※9)は素晴らしかったよね

S:すごく良かった。

T:素に戻った感じで……

S:同時に、トニー・ヴィスコンティ(※10)がプロデューサーに戻ったっていうのも重要だったんじゃないですか。おそらく流行ってるもの、ヒットするものを創ることとか、スターでいることとかに限界を感じたと思うんですよね。それで晩年は素の、本当の自分ができることをやろうと思ったはず。やっぱりボウイの根はアンダーグラウンドであり、芸術家であり、ポップスターの部分よりも、そういうドロッとした、なんて言うのかな、闇や、傷や、痛み……

T:“闇”だね。

S:“闇”ですね。それで、もう一つ言うと、実はやっぱり外せないのが、ドラッグですよね。完全にドラッグ舞台だと思います。

M:ドラッグ舞台ですか(笑)

S:なので、そういう持っている闇を、ポップスターとしては出せなかった自分の最も大切な本質を、やっぱり最後に遠慮せずに表現したかったんじゃないかなあ。

T:だから、2015年頃から身体が悪くなったときに発表した最後の『★(ブラックスター)』(※11)は、本当に自分の死を意識した作品。デレク・ジャーマン(※12)が自分の遺作を撮ったのと同じ。『ザ・ネクスト・デイ』でもうその予兆は既に感じられたけど・・・

M:今作のタイトルになってる「Lazarus」の歌詞なんか、完全にそうですよね。


※7:1995年にリリースされたデヴィッド・ボウイ18枚目のアルバム。
※8:1993年にリリースされたデヴィッド・ボウイ17枚目のアルバム。
※9:2013年にリリースされたデヴィッド・ボウイ27枚目のアルバム。
※10:1944年生まれ。アメリカの音楽プロデューサー、編曲家。1968年よりロンドンに移住し、イギリスのミュージシャンの作品を数多く手がける。
※11:2016年1月8日にリリースされたデヴィッド・ボウイ28枚目にして最後のアルバム。リリース日はボウイの69歳の誕生日だった。その2日後に彼は亡くなる。
※12:1942年生まれ。イギリスの映画監督。1994年にエイズにより亡くなる。遺作となった『Derek Jarman's Blue』は自らを苦しめたエイズをテーマにした作品。

●『LAZARUS』の楽曲のセレクトに込められた意図

T:ボウイは『LAZARUS』でどこか集大成的なことをしようとしたのかもしれない。SUGIZOとも話したけど、「This Is Not America」とか、「Absolute Beginners」とか、なんでこんなものまで突っ込んだのかなと思うぐらいに、自分のアルバム以外の楽曲をうまく使っているよね。

S:ええ。だから、逆にすごいなと思うのが、誰もが知ってる「Let's Dance」とか「China Girl」とかが入ってないんですよね。

M:たしかに入ってないですね、ごっそりと。

T:あの辺の曲ってボウイのトラウマだったんだろうかなとも思うね。

M:ああ、なるほど……。

S:すごく僕らは影響を受けたわけだけどさ。

M:そうですねえ……。もう最後は自分の死期を悟っているわけで、別にこの『LAZARUS』で評価される必要もないし、成功する必要はないでしょうからね。

S:うん、ポップスターでいる必要がない。

M:曲のアレンジが皆さんが聴き慣れたオリジナルともまるで違っていて、聴こえ方も全然違うじゃないですか。「Life on Mars?」も最初に聴いた時はびっくりしました。

S:「Life on Mars?」と「Heroes」は本当にびっくりするよね。松岡に聞いたんだっけ? ボウイは、最初は「Heroes」を使いたくないって言い張ったって。

M:そうそう。そうおっしゃってたらしいんです。びっくりですよね。

S:うん。最後の一番重要なあの「Heroes」を。だから、それほど本人はド真ん中のことをやりたくなかったんでしょうね。自分を象徴するイメージのことは外したかった。

T:外してるよね。「Starman」も出てこないし。

S:そう。だから、もしLUNA SEAの舞台があったとして「I for You」や「ROSIER」を使いたくないっていうのと同じようなことで(笑)

M:アハハハ(笑)代表曲が聴けないのはそれはやっぱりちょっと…。でも、そういうことなんでしょうね。

S:本人としては、もうそこに捉われたくないってことなのかもしれない。

●ボウイの遺言を伝えるメッセンジャーとしての“ニュートン”

ミュージカル『LAZARUS』稽古場の様子

ミュージカル『LAZARUS』稽古場の様子

T:だから、多分この『LAZARUS』は、もしかしたらボウイの次の世代とか、あるいは同世代の人たちへの、ある種の遺言みたいなところがあると思うんだよ。

M:はい、そう感じました。

T:そしてニュートンは、その遺言を伝達してくる、一つのメッセンジャーみたいな役割を果たしているような気がする。

M:なるほど……

S:ニュートンの存在が、実は自身がこの世から旅立つことへの揶揄、そういう存在だったのかもしれない。

M:そうですね……。映画の『地球に落ちて来た男』(※13)には原作もあるじゃないですか。そのニュートンはまた全然映画とは違う。そこからデヴィッド・ボウイの下で、あの映画のニュートンが生まれた。そして、その後のニュートンで僕らが今参考にできるのは、やっぱりニューヨークのオフ・ブロードウェイ版とか、ロンドンのイースト・エンド版とかになりますよね。あとはドイツ版もちょっとだけYouTubeに上がってるんですけど……。

S:ドイツ版って、あの派手なやつだよね。

M:はい。

S:『ベルベット・ゴールド・マイン』(※14)みたいなね(笑)

M:そうそう(笑)だからやっぱり、「これが答えだ」というものは、なかなかないなと思ってるんですけど……

T:それは、さっきSUGIZOが言ってた、ボウイが持っていた“闇”だとか、それに“謎”とか、そういうボウイが残したものと、例えば「Time」とか、ああいう曲を、自分の血肉にすることによって、何かリフレクトできるんじゃないかな。

S:「Time」で、僕がすごく感じるのは、“闇”と、あの歌詞とは関係ないんですけど、“道化師の痛み”みたいなもの。「Time」こそ実は「Ashes to Ashes」の MVと僕のイメージでは繋がっています。

T:言えてる!

S:「Ashes to Ashes」の MVこそ、僕はとてもボウイ的だと思っていて。

T:完全にそうだね

S:“道化師”と、“ドラッグ”と。

T:あれはさ、ちょっと、あそこにフェリーニ(※15)風味が入ってるよね

S:そうそう。ちょっとフリークスが入ってる感じですね。

T:フェリーニとなると、また寺山修司(※16)が繋がってくる。

S:なるほど、なるほど。小人とかね。

T:そうそう、完全にもう寺山修司の世界。

S:見世物小屋のイメージですね。

M:『8 1/2』(※17)のラストシーンみたいなね。

S:そうそう。


※13:1976年公開のニコラス・ローグ監督の映画作品。デヴィッド・ボウイの初主演映画。
※14:1998年公開のトッド・ヘインズ監督の映画作品。
※15:フェデリコ・フェリーニ。1920年生まれ。イタリアの映画監督・脚本家。1993年没。 
※16:1935年生まれ。日本の劇作家、歌人。1983年没。 
※17:1963年公開のフェデリコ・フェリーニ監督の映画作品。フェリーニの代表作の一つ。

●松岡充の“ニュートン”をどう作り上げるのか

M:だから僕は、この『LAZARUS』の日本初演で、いみじくも“ニュートン”をやらせていただけるということなので、もう一回、自分の中のデヴィッド・ボウイを見つめ直すということもやろうとしていて…。

S:うん、うん。

M:それをやってるんですけど、でもまたちょっと違うというか…。「違うところに行ってるな」っていうメッセージを感じるんですよ。だから、もちろんこういうふうに(日本初演の)ポスタービジュアルとかは、リスペクトしてオマージュさせていただいてるんですけど、ステージ上では「あのデヴィッド・ボウイの“ニュートン”を松岡充がやる」っていうことからは、1回外れるんじゃないかなと思っています。

S:だから、やっぱり前回僕が言った話が肝だと思う。“ニュートン”のイメージをどこに着地させるかだよね。

T:その通りだと思うよ

S:ギラギラなものじゃないはずなんですよね。

T:なんかすごく内省的だもの。

S:そうそう。

T:ものすごく内省的なんだけど、でも地味じゃない。それがとてもボウイっぽいんだよね。

M:なるほど……

S:考えてみたら、『LAZARUS』の日本初演で、誰がニュートンをやるかって松岡以外にイメージができないもんね。この前も話したけど、歌うことができて、なおかつグラマラスな魅力もあって、でもそれをコントロールができて、そして、本当に歌が良くなきゃ駄目じゃないですか、この舞台は。だから、それは本当に松岡充か、河村隆一かと思ったものね(笑)。でも、ギラつきの加減だったらやっぱり松岡の方が合っているかも。そういうすごく主演を選ぶ話だと思います。

M:本当にこれはでっかい役割だなと。そのポストマン、メッセンジャーだっていうところもあると思うんですけど。

S:ボウイの遺言の伝え手ですよね。

M:そうなんですよ。それもボウイが愛した日本で、それをどう伝えるのか。

T:3人で話していて改めてわかった。遺言だな、間違いなく。全体の構造とかもそうだけど、やっぱり今の時代、作られてくるものが何か雑で、全部似たようなものがワーッと溢れている中で、明らかにちゃんとした“異質感”がある作品なんだよね。

M:めちゃくちゃ“異質感”ありますよね(笑)こんな作品は他にはない。

T:だから、その“異質感”が、やっぱりボウイなんだよ。

M:なんか、今日お話しさせていただいてとっても納得できました。

T:ボウイって、60年代、70年代、80年代、90年代、2000年代、それで2016年まで生きて、俗に言う“音楽業界”では、ハマってはいるんだけど常になんかちょっと居心地が悪そうだった感じがあって。多分この『LAZARUS』も、いわゆる普通に世間でワーッと出てくるミュージカルっていうものとは、多分異質なもの。

M:まったく異質ですね。

T:だから、どういうふうにその魅力を伝えていくのかっていうのが、やっぱり肝じゃないかな?

M:そうですね。ボウイが愛してくれた、この日本での初演なので、日本人として、そのメッセージを心して届けたいなと思います。

T:素晴らしい。楽しみだね。

これまでの連載はこちら
ミュージカル『LAZARUS』上演記念特別対談~より楽しみ、理解するために~ 立川直樹×SUGIZOが語る“デヴィッド・ボウイという天才の宇宙” ──音・言葉・時代の軌跡
【第1回】https://spice.eplus.jp/articles/336910
【第2回】https://spice.eplus.jp/articles/337342
【第3回】https://spice.eplus.jp/articles/337646
【第4回】https://spice.eplus.jp/articles/337912(主演・松岡充を迎えて)


 構成=立川直樹、志摩俊太朗 注釈=志摩俊太朗

公演情報

ミュージカル『LAZARUS』
※デヴィッド・ボウイの遺志により、音楽パートは英語での歌唱となります。
音楽・脚本 デヴィッド・ボウイ
脚本エンダ・ウォルシュ
演出 白井 晃 
 
出演
松岡 充
豊原江理佳 鈴木瑛美子 小南満佑子
崎山つばさ 遠山裕介
栁沢明璃咲 渡来美友 小形さくら
渡部豪太 上原理生
 
【ダンサー】 Nami Monroe ANRI KANNA
【演奏】
益田トッシュ [Bandmaster] フィリップ・ウー [Key.] 松原”マツキチ”寛 [Dr.]
 Hank西山 [Gt.] 三尾悠介 [Key.] フユミカワカミ(おふゆ) [Ba.]
【スウィング】 塩 顕治 加瀬友音
 
スタッフ
翻訳 小宮山智津子
音楽監督 益田トッシュ
 
美術 石原 敬
照明 齋藤茂男 
音響 佐藤日出夫
映像 上田大樹
衣裳 髙木阿友子
ヘアメイク 川端富生
振付 Ruu Akiho
振付助手 Kokoro
アクション 渥美 博
歌唱指導 益田トッポ
英語発音指導 六反志織
 
演出助手 河合範子 相原雪月花
 
舞台監督 足立充章
プロダクションマネージャー 平井 徹
 
制作統括 笠原健一
制作 原 佳乃子 藤本綾菜
KAAT神奈川芸術劇場 伊藤文一 金子紘子
キョードー東京 兵藤哲史 小川美紀
イープラス 岸 憲一郎 秋元紗矢佳 増田 萌 多々羅あすか
プロデューサー 熊谷信也
 
宣伝 雲林院康行 佐藤知子(キョードーメディアス)
宣伝美術 永瀬祐一(BATDESIGN)
撮影 加藤アラタ 宮脇進[松岡充]
宣伝衣裳 青柳美智子(Barchetta.)
宣伝ヘアメイク 川端富生 伊荻ユミ 戸倉陽子[松岡充]
宣伝映像 十川利春
 
主催 イープラス/キョードー東京/KAAT神奈川芸術劇場
 
【横浜公演】
日程 2025年5月31日(土)~6月14日(土)
会場 KAAT 神奈川芸術劇場 〈ホール〉
料金(全席指定・税込)
SS席(前方実質3列⽬以内確約&プログラム付き) 18,000円 ※公演プログラムはご鑑賞公演当⽇に会場にて引換を実施いたします。
S席 13,500円 A席 10,000円
 
主催 イープラス/キョードー東京/KAAT神奈川芸術劇場/フジテレビジョン

後援 J-WAVE
お問い合わせ キョードー東京 0570-550-799 (平日11時~18時/土日祝10時~18時)
 
【大阪公演】
日程 2025年6月28日(土)~29日(日)
会場 フェスティバルホール
料金(全席指定・税込) S席13,800円 A席10,000円
 
主催 読売テレビ/サンライズプロモーション大阪
後援 FM802/FM COCOLO
お問い合わせ キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日12:00~17:00 土日祝休業)
 
一般発売日
横浜公演 4月12日(土)10:00発売開始
大阪公演 5月18日(日)10:00 発売開始
 
公式サイト https://lazarus-stage.jp
公式X @LAZARUS2025
公式Instagram @lazarus_musical
シェア / 保存先を選択