《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 15 鶴澤友之助(文楽三味線弾き)

インタビュー
舞台
2026.4.13


清友師匠のもとで学び、作曲の才能も開花

2017年、友之助さんは大きな転機を迎える。文楽を辞めるかどうかの瀬戸際に立った末、鶴澤清友の弟子となったのだ。その清友からの稽古での言葉に、友之助さんは衝撃を受けた。

「弟子入りして最初のお稽古は、6月の若手会の『菅原伝授手習鑑』寺子屋の段。15年やってきて、プロとしての自負もそれなりにあったのに、コテンパンでした。怒られたわけではないのですが、『君、そんなに弾かれへんのか』と言われて。音を真似てそれらしく弾いてはいたけれど、義太夫節の仕組みへの理解が浅かったんです。例えば、太夫の呼吸や音程の推移、三味線が何故このタイミングで入るのか、文楽ではお決まりの旋律をここで弾くのはどうしてなのかといった細かいところを明確に教わって。それまでよりも“ピント”が合うようになってきたと感じます」

実は研修生時代から、印象深い師匠だった清友。

「色々な師匠が入れ代わり立ち代わり教えに来てくださっていたのですが、『曾根崎心中』天神森の段を清友師匠が教えてくださるという授業の時、手違いで楽譜が用意されていなかったんです。東京での研修だったので取りに行くこともできない。清友師匠は『とりあえず、なしでやりましょうか』とおっしゃったのですが、翌日、すごく綺麗な楽譜が配られました。実は清友師匠が一晩で、僕のために書いてきてくださったんです。ご自身も本番中なのに。そのことを師匠は覚えていないのですが、感動して、今でもその譜面はとってあります」

だが清友は「人の人生を預かるなんて」と弟子は取らない主義。2017年当時、友之助さんの文楽の道を繋げてくれたのは、人間国宝の3人、故・七世竹本住太夫、故・七世鶴澤寛治、鶴澤清治だった。

「ある日、人間国宝の師匠方が清友師匠を会議室に呼びはったんです。そして、僕もいる前で、住太夫師匠が『君、この子、預かったり!』。『いや、私は年齢も行っていますし、この間病気しましたし』と答える清友師匠に、住太夫師匠は重ねて『ほんでな、友之助っていう名前がええと思うんや』、清治師匠も『いいんじゃないの。君に似合っているよ』と頷かれ、会議が終わって。清友師匠はその場では一度も『うん』とおっしゃらなかったのですが、『よろしくお願い致します』と挨拶に行くと、『あない、言われたらな……。でも一応家内に相談する』とおっしゃったあと、受けてくださいました」

厳しくシビアな世界にあって人情味を感じるエピソードである。

さて、清友が作曲も積極的にこなす一門に属していることもあり、前述の『フィガロの結婚』を皮切りに、近年の友之助さんは作曲の仕事を受けることが多くなった。ゲーム会社と文楽のコラボレーション動画であるCAPCOM×国立文楽劇場『祇(くにつがみ):Path of the Goddess』人形浄瑠璃文楽スペシャル『⼭祇祭祀傳 巫⼥の定の段』では、ゲームの世界の前日譚をドラマティックに表現。関西国際空港から国立文楽劇場までの行き方を案内する文楽協会作成の動画では、依頼には入っていなかったが友之助さんが自主的に使用駅の発車メロディを調べ、義太夫節風の音楽にさり気なく入れ込む工夫も。また、俳優の金子あい、文楽の芳穂太夫と3人で自由に創作し再演を重ねている『琵琶法師耳無譚(びわほうしみみなしたん)』は、通常は『七福神宝の入舩』以外に使われることがほぼない“琵琶駒”で琵琶の音色を再現したほか、ギターの奏法やフラメンコのリズム、さらにオリジナルの奏法も駆使して、三味線一挺のみとは信じ難い多彩で劇的な音色を繰り出すなど、和洋両方で音楽センスを磨いてきた友之助の面目躍如だった。

『⼭祇祭祀傳 巫⼥の定の段』の友之助さん作曲の楽譜。 提供:鶴澤友之助

『⼭祇祭祀傳 巫⼥の定の段』の友之助さん作曲の楽譜。 提供:鶴澤友之助

「作曲ではいつも、『ここは導入部分だからこの旋律かな』『でも世話だから軽めの旋律でスタートしようかな』『じゃあここは新しく旋律を作るか』といった具合に考えて構成しています。僕は三味線を持たずに作曲をするのですが、頭の中にパッと降りてきた節回しをメモして、声を出しながらあれこれ試して決めていくことが多いですね」

今年7〜8月には国立文楽劇場で、チャールズ・チャップリンの映画『街の灯』に基づく新作文楽『まちの灯』で作曲を担当する。同じ原作を歌舞伎にした国立劇場の『蝙蝠の安さん』(2019年)と同じ大野裕之脚本・演出で、大阪が舞台の物語として書き下ろされた。

「義太夫節っぽく作りつつ今まで使われていないフレーズも入れています。奏法的には、(弦の特定の箇所に軽く触れながら弾くことで一オクターブ高い音を響かせる)ハーモニクスも使っていますし、ミュートしながら弾くようなところもあって、それは僕の手が大きくて長いからできること。僕が弾かない段は改良するかもしれません。映画の旋律も数カ所、古典的な旋律の中に混ぜ込んでいて、分かる人には『あ!』と気づいてもらえるでしょうし、知らない人には『ちょっと不思議な旋律だな』と感じていただけるはず。映画のラストのチャップリンのなんとも言えない表情から着想した最後の旋律にも、ぜひ耳を傾けてほしいです」

勿論、古典の奏者としても研鑽は続く。5月は『生写朝顔話』真葛が原茶店の段に出演。上演機会の少ない段で、これまで竹澤團七、清介、清友と、作曲も手掛ける三味線弾きが演奏を担ってきた。『生写朝顔話』は互いに想い合う阿曾次郎と深雪が運命に翻弄され、すれ違う物語だが、その深雪に横恋慕する藪医者・萩の祐仙は悪役ながら滑稽なコメディリリーフを担う。真葛が原茶店の段は、祐仙が悪徳医師の立花桂庵に偽の惚れ薬を掴まされ、桂庵と内通している茶屋のお由が惚れたふうを装って祐仙に抱きつくチャリ場(滑稽な登場人物が活躍するコミカルな場面)だ。

「滅多に上演されない段は準備が大変ですし、頻繁に上演する曲と違って覚えにくい曲が多いのでヒヤヒヤしますが、師匠にお稽古してもらい、相談しながら自分らしく作りたいですね。この段は桂庵がお由と一緒に祐仙を騙すくだりがとても面白く、三味線の手数も多いので、どのように弾くことができるか今から楽しみです。騙す方と騙される方と人物の切り替えは勿論、心境の変化を音色で表現するなど、工夫を凝らせたら、と。お由が惚れたふりをして色気を出すところなども、色気をコミカルさのある音色で表現したいと考えています」

組むのは、住太夫の三番弟子、竹本小住太夫。

「住太夫師匠に厳しく稽古してもらっただけあって義太夫の理屈がきちんと分かっているので、やりやすいです。太い良い声が出る小住くんと一緒に楽しく面白く表現し、お客さんを大いに笑わせたいですね」

現在、45歳。50代も視界に入ってきた。今後、どのような三味線弾きを目指していくのだろうか。

「とにかく清友師匠の教えをできるだけ受けて、古典の手をしっかり理解し、良い演奏ができるようになりたいです。両輪として、作曲も引き続き頑張りたいですし。文楽は、観たことのない人にとって敷居が高いところがあるので、『琵琶法師耳無譚』のような作品を最初の入口にしてもらい、本家を観てみたいという人を増やせたら嬉しいです。あとは、僕が良い音だなと思ったこの三味線の弦楽器としての魅力も、もっと発信していきたいですね。去年、友人の津軽三味線奏者である大野敬正くんと二人会をやったんです。普段は文章と一緒に奏でる三味線ですが、この時は純粋なインストルメンタルとして『ボレロ』やオリジナル曲を演奏したところ、評判が良かったんですよ」

令和8年2月文楽公演『絵本太功記』局注進の段より。  提供:国立劇場

令和8年2月文楽公演『絵本太功記』局注進の段より。 提供:国立劇場


≫「技芸員への3つの質問」
 

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