中村米吉が語る新作歌舞伎『流白浪燦星 碧翠の麗城』ーー「歌舞伎のお約束と『ルパン三世』は驚くほど相性がいい」
中村米吉 撮影=ハヤシマコ
モンキー・パンチ原作の『ルパン三世』と歌舞伎を融合させ、2023年の初演で話題を呼んだ新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』。その第2弾新作となる『流白浪燦星 碧翠の麗城(へきすいのれいじょう)』が、2026年3月の新橋演舞場、4月の御園座での上演を経て、9月2日(水)から26日(土)まで京都・南座で上演される。今回の物語の中心となるのは、春宮家の息女・瀬織姫。父の死によって望まぬ結婚を迫られていた彼女が、流白浪燦星(ルパン三世)と出会い、自由を夢見て歩み始める。瀬織姫を演じるのは中村米吉。歌舞伎らしい姫のたたずまいを基盤に、新しいヒロイン像を作り上げる米吉に、瀬織姫の役作りや、上演を重ねる中での変化、年齢を重ねることで現れる女方としての変化などを聞いた。
歌舞伎らしさを軸に、モダンな瀬織姫へ
中村米吉
——『ルパン三世』には、ルパン、五ェ門、不二子、次元、銭形と強烈な個性を持つ人物がそろっています。その中で、歌舞伎オリジナルの瀬織姫をどう作り上げましたか。
ルパンの登場人物は、それぞれ個性的で、キャラクターがしっかり立っていますから、その中で埋没しないようにしなきゃいけないということはすごく考えました。ただ、だからといって奇抜なことをするのも違うなと。今回の『碧翠の麗城』は、第1作に比べても歌舞伎らしさが強い作品になっています。歌舞伎らしさがより濃くなった作品ですので、私の瀬織姫だけがあまりにも歌舞伎から逸脱してしまうのはいけない。歌舞伎らしい姫が軸にいるからこそ、ルパン一味の特異性や、お姫様としての存在感も際立つと思いました。その上で、ところどころにモダンな部分を出すことで、「この瀬織姫は従来のお姫様とはちょっと違うぞ」というところを見せられたら、という意識で演じました。
——新橋演舞場、御園座と上演して、瀬織姫の演じ方にも変化はありましたか。
そうですね。やっていく中で無駄な部分が見つかったり、逆に足りない部分が見えてきたりして、日々工夫しながら勤めていました。お客様の反応があって初めてわかる部分もありますから、そういうところは、上演を重ねていくことで変わってきますね。
中村米吉
——台詞のやりとりも変化していくのでしょうか。
変わっていきます。ギミック的なことは特にそうですけれど、台詞も、どこで間を作るのか、どこでかぶせていくのか。実際にやっていく中で、だんだんテンポが生まれてくるんです。
——ひとつの役を比較的短い期間のうちに繰り返し演じられることは、俳優としてどのような経験になっていますか。
とてもありがたい経験だと思います。歌舞伎俳優は、古典に限らず同じ役を何度も演じますが、これだけ短期間に何度も同じ役を演じることは、実はそれほど多くありません。古典の役も、何度も演じることで体に入っていき、より自然になる一方で、表現力が強くなったり、段取りがわかることで見せ場がくっきりします。今回のような新作は、一から作った役ではありますが、基本的には古典のパターンを使ってお芝居をしています。続けて演じて、少し期間が空き、記憶が鮮明なうちにもう一度挑めるというのは、自分を見つめ直すうえでもすごくいいんです。いろいろ考えを巡らせながら舞台に臨める。普段のひと月だけのお芝居では試せなかったこと、見つけにくかったことを短期間で見つけやすくなりますから、非常にありがたいですね。
新作に挑むからこそ見える、古典の底力
中村米吉
——新作歌舞伎に取り組むことで、改めて古典歌舞伎のすごさや奥深さに気づくことはありますか。
やはり、練り上げられてきたもののすごさを、新作をやるたびに思います。新しいものを作る場合、どうしても筋を追うことが中心になってしまいます。「この人はどういう人なのか」「なぜこうなるのか」ということを、丁寧に積み上げなければいけない。でも、そこに注力しすぎると、ただただ物語が進んでいくだけになってしまう。歌舞伎の場合は、そこにどういう演出を付けていくのかが大事になります。古典では、「こんなこと、どうして思いついたんだろう」「ここで、こうするんだ」という発見がある。受け継がれてきた所作には、合理的な整合性があるんです。自分でそれを一から作ることは、とても難しいことだと、新作をやることで改めて感じます。
——長い年月をかけて、多くの俳優が工夫を重ねてきた結果なんですね。
そうなんです。回数を重ねて、いろいろな方が工夫した結果ですから。そういったものを意識しながら、新しいものを作っていかなきゃいけないんだと思います。
——新作歌舞伎で「新しいもの」を生み出す難しさも感じますか。
ただ、歌舞伎には新しいものを作る時に助けてもらえる材料がすごく多いんですよね。たとえば、正体を見破られたり、名乗りを上げたりする場面は、歌舞伎でもよくあります。有名なところでは『弁天娘女男白浪』もそうですよね。それをルパンでやったらどうなるか、という作り方ができる。だから、「もうやり尽くされていて、何をやっても新しくない」ということではなくて、今までやってきたことの中に新しいエッセンスを入れることで、新しく見せることができるんです。ゼロから作るというよりも、歌舞伎の決まり事やお約束の中にはめ込んでいく。特に『ルパン三世』は、作品そのものにも“お約束”が多いでしょう。その『ルパン三世』のお約束と、歌舞伎のお約束は、実は非常に相性がいいんです。
中村米吉
——テレビ番組などで、歌舞伎を知らない方に向けて女方の魅力や化粧、歌舞伎の技術について言葉で説明する機会も増えています。そうした経験が、舞台での表現に影響することはありますか。
こういう取材もそうなんですが、自分で口に出してしゃべっていくと、頭の中が整理されるんです。瀬織姫も、新橋演舞場での公演に向けて稽古をしている時に取材があって、いろいろお話ししているうちに、「そうか、こういうことか」「そういうふうにやっていけばいいんだ」と発見したことがありました。自分がやっていることを別の角度からお話しすることで、自分がどうしたいのか、どうすればいいのかがはっきりする。それと同時に、「こう言っているけれど、自分は本当にそうできているのかな」と、自分を見つめ直す機会にもなります。女方の魅力は何か、お化粧にはどういう意味があるのかと聞かれることで、「そういえば、こうだったな。でも自分は今、それを忘れていないかな」と考える。そういう機会をいただくことで、歌舞伎俳優として、女方として、自分自身を律することにもつながると思います。
年齢を重ねたことを「武器」に
中村米吉
——20代の頃と比べて、歌舞伎に向き合う意識や、ご自身が成長したと感じるところはありますか。
30代になってすぐに結婚したことは大きいと思います。結婚して家庭を持って、戸籍上の筆頭者になって。筆頭者ですよ。人生でなかなか“筆頭”って言われることないじゃないですか(笑)。でも、そうやって自分自身が独り立ちしたことを意識しましたし、自分がきっちりしなければ、家庭もうまく回らないと感じるようになりました。妻がお客様にご挨拶することもありますから、妻に恥ずかしくないようなお芝居をしなくちゃいけない。もちろん、自分自身に恥ずかしくない芝居をすることが大前提ですけれど、そこにさらに背負うものができた。それは自分の中では大きなことだと思います。それは「だから何をしている」とはっきり言えるものではありませんが、根底にある意識として、そういうものが芽生えたというのはありますね。
——年齢を重ねることで演じる役も変わり、女方としての女性の見せ方も変わっていきますか。
そうですね。立役さんもそうですけれど、特に歌舞伎は、時間を重ねることがいい作用をしていく部分が絶対にあると思います。それを生かせるようにしたいですね。どうしたって見た目は年齢を重ねていきますし、体にも変化が出てきます。若い頃のままではいられません。でも、それが武器になるのも歌舞伎の強みだと思いますし、逆に、それを武器にしていかなければいけない。もちろん、ただ年を取ればいいというわけではありません。若い頃から積み上げてきたものがあるからこそ、その先に見えてくるものだと思います。
中村米吉
取材・文=Iwamoto.K 撮影=ハヤシマコ
公演情報
〔配役〕
流白浪燦星/石川五ェ門 片岡 愛之助
瀬織姫 中村 米吉
次元大介 市川 笑三郎
峰不二子 市川 笑也
銭形刑部 市川 中車
他
〔スタッフ〕
モンキー・パンチ 原作「ルパン三世」より
戸部和久 脚本・演出
■京都
【会場】南座(京都市東山区四条大橋東詰)
【日程】2026年9月2日(水)~9月26日(土)
【会場】博多座(福岡市博多区下川端町2-1)
【日程】2027年2月6日(土)~2月26日(金)