熊本ミュージカル、in.K. Musical Studio冬期公演を観る

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落語ミュージカル『初天神』より

落語ミュージカル『初天神』より

先日リポートした熊本のミュージカル劇団in.K. Musical Studioの2016冬期公演を観てきた。

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1月30日(土)、31日(日)と2日間に渡り、昼と夜、計4回上演された。筆者が観に行ったのはその最終回である。
場所は熊本市内のStadio in.K.で、普段彼らが練習に使っている貸しビルの1室だが、フラットな舞台と手作りの客席が設けられ、4~50人ほど座れるスペースがある。
常設の小屋を持つのはローカル劇団としては珍しく、恵まれた環境である。
そのスペースがほぼ一杯に埋まっている。開演10分前には満席状態となった。客層はまさに老若男女さまざまだが、強いて言えば若い女性から主婦層にかけてが若干目立つ。筆者が若い女性ばかり見ていたから、そう言う印象を受けたのかも知れないが。
聞くと前日はもっと多かったそうで、旗揚げ間もない劇団としてはなかなかの動員数だと思う。
主催者への挨拶もそこそこに、写真が撮りやすい最後列に場所を確保する。この記事のためにの撮影許可は事前にいただいている。

ただ、それに関して、筆者には若干、いや結構な不安があった。
それというのも手持ちのカメラがスマホだったからである。
去年の年末、少女時代のコンサートを観に神戸に行った際、普段使いのデジカメを紛失してしまったのだ。
多分ポケットから滑り落ちて、伊丹空港のどこかで誰かに拾われたはずだが、縁なく筆者の手元には戻って来なかった。
なくしたからすぐまた代わりを買いますと言うほど富豪ではないので、それ以来スマホで代用している。
先日のリポートの際に、主催の小松野希海さんや団員の練習風景などを撮影したのもスマホだった。ランチをブログに載せる程度ならこれで事足りる。
ただ、スマホのレンズというのは針の先で突いた程度の大きさであり、光量不足をカバーするためにシャッター速度が遅い。つまり動きのある被写体だと流れてしまってキチンと撮れない恐れがあるのだ。
そしてご存じのように、ミュージカルというモノは、被写体が跳ねたり舞ったりしがちである。
前回の、比較的明るい練習時の撮影でもだいぶ滲んでいたので、周りが暗い本番となったら、記事に載せられる様な写真が撮れるかどうか、まったく自信がなかった。
「そもそもピントがちゃんと合うのだろうか」
などと脇汗かいていると、本番が始まった。こうなったら仕方がない。ボケボケになってもちゃんと撮れた顔してこの場は乗り切ろう。

2016冬期公演は2部構成。事前の情報と違って一部と二部が逆になっていた。
【第一部】落語ミュージカル『初天神』は、上方落語の演目で正月に演じられることが多い『初天神』をミュージカルに仕立てたもの。
毎年1月25日に天満宮で行なわれる祭に出かけた父親。横には嫁に押しつけられて渋々連れてきた息子がいる。息子は何もねだらないことを条件に連れてこられたのだが、賑やかな祭の場に来るとそうも行かず、あれが欲しい、これを見たいとついついねだってしまう。
その滑稽なやりとりを『三文オペラ』の“アラバマソング”に乗せて、父親役の小松野希海さんと息子役の少女が歌う。もちろん歌詞はお話しに合わせて変えてある。
この二人が狂言回しの様な役割となっていて、あの手この手でねだった出し物が、次々とミュージカルの名曲に乗せて現れるという仕掛けだ。
よく考えられていて、不自然さもなく、廻り灯籠のようなステージングが楽しい。
曲目は、『メリーポピンズ』より“チムチムチェリー”、『雨に唄えば』より“雨に唄えば”、『キャッツ』より“メモリー”など、誰もが知っているポピュラーな歌で、初めて観る人にも親しみやすい。

そんな感想を抱きながら、しかし筆者は、スマホと汗だくになって格闘していた。
やはり、まともな写真が撮れないのである。
シャッタースピードも露出もマニュアルで操作するようになっていないから、機械任せに撮るしかないのだが、結果、少しでも動いている部分は流れてしまうし、ライトが強く当たった顔など白く飛んでしまう。
そこで、演者の動きを予想し、決めのポーズで一瞬止まった時にシャッターを押すと言う作戦に切り替えたが、それでも数回に一度しかちゃんと映らない。

SPICE「舞台」編集長からは「動画で紹介することも考えてみてください」と言われていたが、静止画さえまともに撮れないのに動画なんか夢のまた夢である。
ヒーヒー言ってる内に【第一部】は佳境に入った。30分という短い演目ながら、全員登場してのグランドフィナーレまであるという豪華さだ。
観客席は大いに盛り上がり、演者も最後とあって満面の笑顔で歌い踊る。幸福感に満ちた舞台だった。
特に最後の方に登場した2歳の女の子、ゆいかわあもちゃんの演技には感動した。

歌こそひと言だけだったが、常に笑顔を絶やさず、演出の希望通りの視線、動線を保ってお芝居していたと思う。素晴らしく芝居勘がいい。
こう言う子が熊本の演劇界を支えていくのだな、と頼もしく感じた。
そう思うのならアップのひとつでも撮ってこいと、編集長は言うであろう。
だが、それが出来ない物理的な事情がこっちにはあるのである。諦めて下さい。もしくは、実際に見に来てください。すいません(土下座)。

15分の休憩の後、【第二部】文芸ミュージカル『羅生門』が始まった。
こちらは芥川龍之介の有名な短編小説を元に、ミュージカルに仕立てたもの。
今回の冬期公演のテーマは“ダンス”と言うことで、【第二部】では歌より踊りに比重が置かれている。
小松野さんは今度は芥川龍之介本人となり、舞台袖でまさに『羅生門』を執筆中である。
芥川の口から『羅生門』の名場面が朗々と流れる。と、その状況に合わせて、登場人物たちが、時に怪しく、時には激しく、踊るのである。
音楽はクラシックの名曲ばかりで、ベートーヴェンの『運命』、ハチャトゥリアンの『剣の舞』、エリック・サティの『ジムノペディ第1番』、バッハの『G線上のアリア』などこれも観客に親しみやすい曲を選んでいる。
歌は少ないが、ほぼ全編舞踊で構成されているので、ダンスするだけでも演者には大変だったろうと思う。
【第一部】と対比して、陰影感たっぷりで、なかなか立体的なメリハリのある舞台だった。
惜しむらくは二部になるとさらに舞台が暗くなり、スマホ撮影者にとってはまさに羅生門、地獄のような環境となったことである。

全体としてみると、やはり劇団四季の経験者だけあって、小松野さんの演技、歌、ダンスは群を抜いていた。
が、決して彼女を中心とした舞台ではなく、一部でも二部でも狂言回しに徹していたため、演者全員に見所があった。
再び言うが、二部でもゆいかわあもちゃんの演技は素晴らしかったのである。

また、観客と一体となって歌やダンスを楽しむという部分についても、ある程度は成功していたと思う。
ただ、一部当たり30分という上演時間はちょっと短いと思う。せっかく楽しい舞台に仕上がっているのだから、もっと長くても観客は文句を言わないだろう。
むしろ、もっと深みや奥行きのあるステージを観たいと思うのではないだろうか?

今後の課題としては、スキル向上もさることながら、どのように熊本と言う地域性を加味していくかである。
小松野さん自身が熊本産にこだわっている以上、当然の命題だろう。
『おてもやん』や『ガラシャ夫人』、あるいは水俣病など、題材を地元にとればいいというものではないはずだ。

熊本と言う土地は、城下町であり、もともと侍気質が強い。プライドが高く「武士は食わねど高楊枝」のようなやせ我慢をする。苦しくてもなかなか心の内を見せない気質がある。
また“もっこす”と言う言葉があるほど、他人に安易に迎合するのを嫌がる。新入りにはなかなか厳しい土地柄だ。
そう言う土地で演劇の中でもエンターテインメント要素が強いミュージカルをどのように溶け込ませていくのか、あるいは逆に、どのように風土を汲み上げていくのか、今後のお手並み拝見であり、非常に楽しみだ。
まぁ、ゆいかわあもちゃんがいる限り安心はしているが。

追記:その夜、筆者は家に帰るなり、Amazonでデジタルカメラを注文しました。しばらくはローンで羅生門です。

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