尚月地の人気漫画『艶漢』で詩郎と光路郎を演じる!水澤賢人・末原拓馬インタビュー
漫画雑誌「WINGS」で好評連載中の尚 月地原作「艶漢(アデカン)」が舞台化される。原作漫画は、妖艶な傘職人・吉原詩郎と熱血正義漢の巡査・山田光路郎が、エログロ猟奇な事件に巻き込まれるアンダーグラウンド事件簿。耽美的で華麗に描き込まれた画と物語のサスペンス感が相まって、読むものを魅了している。
脚本・演出を手がけるのは、演劇プロデュースユニット空想組曲のほさかよう。キャストは、傘職人の詩郎役にはミュージカルなどで注目の若手男優・水澤賢人、巡査の光路郎役には劇団おぼんろ主宰の末原拓馬、詩郎の兄の安里役には元スタジオライフの三上俊が扮する。ほかに田上真里奈、林野健志をはじめイメージ通りの顔ぶれが揃った。その作品について、詩郎役の水澤賢人と光路郎役の末原拓馬に、お互いに印象や役柄について語ってもらった。
舞台「艶漢(アデカン)」
「演劇的に勝ちにいきたい」という言葉を聞いて
──まずお二人のこれまでの演劇歴を簡単に話していただきたいのですが。
水澤:僕は舞台はまだ4本目です。初めての舞台は、月刊「根本宗子」の本公演に誘われて、まったく経験のないところからいきなり舞台を踏みました。僕みたいな人間を探していたそうで「そのままでいてくれればいい」ということで。舞台はもともと観るのが好きだったし、やってみて面白いなと思いましたから、本格的に俳優になろうと思って事務所に入って、次にこのクリエさんのミュージカル『八犬伝─東方八犬異聞─』に出て、そこから本格的にスタートしたという感じです。
──末原さんは早稲田の演劇研究会の出身で、劇団おぼんろの主宰ですね。どんな芝居を作っているのですか?
末原:最初は独り芝居で、路上で大道芸をやってました。今も劇場ではない場所でもやることがあって、身体と言葉を用いて参加者の想像力を手がかりに紡いで行く「物語り」と言うスタイルなんですが。
──そんなお二人にとってこの『艶漢』の原作は、どんな印象でしたか?
水澤:読むまでは「艶やかな漢」とタイトルに付いているけど、どんな話だろうと、全然イメージが湧かなかったんです。でも、あまり漫画を読まない自分が最後までとても面白く読めて、作品世界に興味を持つことができた。だからこれを舞台でやれることは、すごく嬉しかったです。
末原:僕は最初聞いたとき「あべかん」と聞こえて、歴史上の人かなとか(笑)、しかも主人公がふんどしをはいてないとか、正直ビックリしました(笑)。でもプロデューサーさんと話をしているうちに「演劇的に勝ちにいきたい」という言葉が出てきて、ただカッコよくて美しければいいのかなと思っていたので、クリエィティブな方向性を目指したいというのがいいなと。演出のほさかようさんも、色々な仕掛けをすると言ってましたから、そこも楽しみです。でも絵を見たらあまりにも美しいから、さすがにやれるかなと思いますけど(笑)、でも舞台のほうが美しいという瞬間もあったりするので、そっちにかけたいし、勝負に参加したいなと思いました。
舞台「艶漢(アデカン)」
見せたいコマのために「ちゃんと鍛えておけよ」と
──それぞれの役へのアプローチはどう考えていますか?
水澤:僕は太らないようにするより痩せすぎないように。すぐ痩せてしまうので。それに筋肉もつけて詩郎のようにしなやかで筋肉質な体に近づけたいなと思います。闘う場面も多いと思いますし。
末原:詩郎はめちゃくちゃ強いからね。
水澤:傘職人なので傘で闘うんですが、それが特殊な傘なんです。
──水澤さんはとても華奢ですが、アクションは?
水澤:まあまあいけると思います。この前出演した『ハートの国のアリス~The Best Revival~』では斧を振り回してました(笑)。
舞台「艶漢(アデカン)」
──末原さんの光路郎は巡査で、やはり強そうな人ですね?
末原:強いんですが、守ってあげるはずの詩郎のほうがめちゃくちゃ強いという(笑)。キャラ的には正義感が強くて、だらしないことが許せないという人なんですが、僕自身は全然そういう人間じゃなくて、普段ゆるっとしていることが多いかな(笑)。でも、ほさかさんに「ちゃんと鍛えておけよ」、「このコマは絶対やるから。お茶は濁さないから」と。
水澤:読者が見たいコマってあるからね。
末原:それを見せなかったら名がすたると(笑)。だから僕も鍛えようと思ってます。筋肉は一応つけないといけないのでプロテイン飲んでます(笑)。
──みなさん身体作りがたいへんですね。光路郎さんの武器はサーベルですか?
末原:そうです。明治とか大正あたりの軍人さんが腰に差しているあの感じのもので、それで闘うのですが、アクションが普通じゃなさそうです。相手のアクロバットチームが尋常でない動きをするので。簡単に言うと飛びますから(笑)。
水澤:重力がない動きをやってのけるみたいだよね。
末原:普通の演劇なら照明とか音の効果で誤魔化したりするけど、演出家が普通じゃないので(笑)。
舞台「艶漢(アデカン)」
──ほさかさんはかなりこの作品を気に入っているようですね?
末原:絵面もすごく好きみたいですし、とにかく派手というかこの豪奢な世界が好きなんだと思います。ほさかさんの世界観自体が耽美で破滅的ですからね。
──それから、詩郎の衣装の着こなしが気になるのですが。
末原:着こなしてないというか。
水澤:引っ掛かってるだけだから(笑)。
──舞台もキャラクタービジュアルのままですか?
水澤:全場面がそうなるかはまだわからないのですが。
末原:やっぱり近づけないと。ふんどししてたら嘘じゃないですか。
水澤:ははは(笑)。
末原:原作に忠実に(笑)。
水澤:そうだね(笑)。
末原:僕も、色々な意味で「やってやろうぜ」と鬼のような覚悟をしてるから(笑)。
舞台「艶漢(アデカン)」
磁石の対極だから惹かれ合う詩郎と光路郎
──キャラクターと自分の性格で近いところはありますか?
水澤:詩郎は傘職人ですけど僕もモノを作るのは好きで、洋服とか自分で作ったりするんです。だから役どころを聞いて嬉しかったし、できれば傘も作ってみたいなと。
末原:よし、作っちゃうか(笑)。
──詩郎は正義感が強いそうですね。
水澤:そうです。詩郎がよく口にする「胸くそ悪いこと」という部分は自分も共感する部分がありますね。
──光路郎も熱血正義感の人ですね。
末原:しかも詩郎のだらしなさが許せないという、曲がったことが大嫌いで典型的な日本男児。でも詩郎は強制されることが嫌いな自由人で正反対だから合うみたいな関係かなと。
水澤:磁石の対極だから惹かれ合うところがあるんだろうね。
──お互いから見て、この部分はぴったりだなというところは?
末原:さっきの「胸くそわるい」とかいうむき出し感は似合いそうですね。詩郎は弱いんだけど攻撃的な性格で、あるむき出し感というか、いわゆる自分をオブラートする技術がなくて、そこはそのままやれそうな雰囲気があるので。それにいい意味でオーラが攻撃的というか、そういう瞬発力があって、それが役として出ると面白いと思う。
水澤:末原さんは、普段はこういうナチュラルな感じで、何も作らないでそのままの自分でいるという感じがあるし、いい意味で流れに乗ったり、自分で流れを作ったりしていく人だと思うんですけど、光路郎は逆に堅いというイメージがありますよね。そこは、そうじゃない末原さんだからこその面白さが出ると思うし、ただ堅いだけじゃない、ただ純粋なだけじゃない、ただ正義というものだけじゃない、光路郎のそういうところをすごく見せてくれそうだなと。そして、そういう巡査どのの気持ちを詩郎が引っかきまわして、ごちゃごちゃにかき乱したりするのが、詩郎役としては楽しみです。
舞台「艶漢(アデカン)」
見た人の記憶の中で長く生きるものに
──この2人に詩郎の兄(兄貴分)の安里も絡んでくるのですか?
水澤:詩郎と兄や(にいや)は幼い頃は同じ組織にいたんですが、今は敵対しているんです。組織から抜けた詩郎は姿を隠していたんですが、でも光路郎と兄やが偶然知りあって、また新たな関係へと変化していきます。その中で、兄弟であるがゆえの葛藤などもあったり、人間ドラマも描かれていきます。
末原:すごく複雑な関係が描かれてますね。いわゆるモラルに合っているわけではない正義というものがあったり、オフィシャルなコモンセンスの正義もあったり、色々な立場でのドラマがあるので。
──今回のストーリーは原作のどの部分とかはあるのですか?
水澤:原作漫画は一話完結で描かれていますけれど、この舞台は何話分かを入れてあって、それを繋げるようなストーリーもあるという形になってます。
──ということは会話劇で見せる部分も多そうですね。
水澤:基本サスペンスなので説明的な部分があるんですが、そこをいかに面白く見せるかですね。
末原:お客様さんが殺陣のときだけ起きてたりしないように、他の部分もがんばらないと(笑)。
舞台「艶漢(アデカン)」
──最後に改めて意気込みを。
水澤:尚月地先生の描いた『艶漢』という作品はそのままでも面白いんですけど、それにほさかようさんという才能が加わって、このように個性的なキャストが揃ったので、その融合でまた新しい『艶漢』の世界が作れるように、さらに素晴らしい世界を観ていただけるように、僕達もがんばりますので、ぜひ観にいらしてください。
末原:2.5次元という言葉がありますが、2次元と3次元があって、そこの融合であると同時に、そこからさらに上がったものを作らないといけないなと思っています。舞台ってすごく瞬発的で、花火みたいなもので、すごく短いものなんですけど、その時間が観た方の記憶の中でどれだけ生きるかが大事で、我々は1か月以上かけて稽古して、でも本番はすごく短い期間しかない。でも、そこにいらしてくださった方々にとって、1冊の本より長いものになっていくことを目指そうと思いますので、ぜひ観にいらしてください。
舞台「艶漢(アデカン)」
みずさわけんと○1995年生まれ、東京都出身。最近の主な出演作品は、舞台、月刊「根本宗子」『夢も希望もなく。』(14年)、ミュージカル『八犬伝―東方八犬異聞―』(15年)ミュージカル『ハートの国のアリス~The Best Revival~』(16年)。
舞台「艶漢(アデカン)」
すえはらたくま○1985年生まれ、鹿児島県出身。06年、早稲田大学在学中に劇団おぼんろを旗揚し主宰、脚本を手がける。最近の主な出演作品は、映画は『さぬき巡礼ツアー』(主演)がさぬき映画祭2011で上映作品・奨励賞受賞、『月の鏡にうつる聲』で最優秀脚本賞を受賞。劇団以外の舞台は、『The Waiting Room』『DIABOLIK LOVERS』『ドラマ・ドクター』『末原拓馬のひとりじゃできねぇもん#1ー#12』『値千金のキャバレー』『キミが読む物語』など。5月にはT FACTORY『愛情の内乱』(吉祥寺シアター)が控えている。
〈公演情報〉
舞台「艶漢(アデカン)」
浪漫活劇譚『艶漢』