染五郎が初座頭で全国を巡演!東コース『松竹大歌舞伎』製作発表レポート
市川染五郎
この夏、若手メンバーを中心に、暑さにも負けない熱い歌舞伎巡業がやってくる!
昭和42年の第1回以来、東京で上演される公演にも負けないクオリティの舞台を、日本全国津々浦々の劇場、ホールに届けている(公社)全国公立文化施設協会(公文協)主催の『松竹大歌舞伎』。その「東コース」が、6月30日の江戸川区総合文化センター(東京)を皮切りに、7月31日の厚木市文化会館(神奈川県)での千穐楽まで、全国27か所、休演日なしという驚異的なスケジュールで予定されている。
出演者は、古典に新作に果敢に挑戦を続け、今回初めて座頭を勤める市川染五郎をはじめ、このところめきめき力をつけている中村歌昇、中村壱太郎のフレッシュな若手花形、芯のある女方の市川高麗蔵、いぶし銀の味わいのベテラン嵐橘三郎ほか。
演目だが、巡業には珍しく、今回は染五郎がスーツ姿で登場する「ご挨拶」に始まり、躍動的な布晒しが眼目の舞踊『晒三番叟』。叔父・中村吉右衛門の当り役を染五郎が満を持して演じる、期待の『松浦の太鼓』。江戸の街で粟餅を売る夫婦の楽しい舞踊『粟餅』と、歌舞伎好きにはもちろん、初心者にも親しみやすいラインナップとなっている。
4月14日、この製作発表が都内で行われた。会見には市川染五郎、松本辰明(公社)全国公立文化施設協会専務理事・事務局長、安孫子正松竹株式会社取締役副社長・演劇本部長が出席。それぞれの挨拶の後、質疑応答に移った。
【挨拶】
市川染五郎 巡業には何度か参加させていただいていますが、今回座頭としては初めてで、大きな責任を感じています。『松浦の太鼓』は大高源吾を何度か勤めており、大好きなお芝居の1つであり、憧れのお芝居の1つ。叔父の松浦(鎮信)を、大高源吾で出ていた時もずっと感じ、出ていない時は袖から見ていましたが、一生懸命やって成立するお芝居ではなく、自由自在に台詞術、心を動かすことができないと成立しないと思っています。自分は誰よりも演じる回数が多くなることを目標にして憧れていたものを、今回やらせていただくのはとても嬉しく、興奮しています。もちろん叔父に教えていただきます。(市川)高麗蔵さん、(中村)歌昇君、初めて役々を勤める人たちばかりですが、何とか素晴らしいお芝居を目指して勤めたいと思います。『粟餅』はそれほど上演されませんが、とても賑やかで楽しい踊り。坂東(流)さんの振付で(中村)壱太郎君と踊らせていただきます。始まって以来のハードスケジュールだと今聞いたので、すすんで誰よりも多く回数をやるということは望んではいないのですが(笑)、それだけお声をかけていただいたことをありがたく受け止め、1回1回を大事に勤めたいと思います。役を勤めるだけでも大きなことですが、座頭で行くこと、また巡業は何年かに1回、わずか1日しか伺えない公演でもあります。その大事な公演で、皆様に歌舞伎を知っていただく、歌舞伎の普及、そして興味をもっていただいて、東京の歌舞伎座に、常打ちの歌舞伎専用の劇場に足を運んでいただく。それを目標にした興行だと思いますので、演じることももちろん、何年かに1回しかない1日の公演を、盛り上げていきたい。比較的平均年齢の若い座組ですので、1日すべての時間を使い、精一杯みんなで勤めたいと思います。
【質疑応答】
──季節は夏ですが、『松浦の太鼓』は雪が降っていたり、『粟餅』も季語は秋ですが、どうしてこの演目を選ばれたましたか。
染五郎 正直、お話をいただいたということですが、毎月常打ちの小屋がある場所ではないので、7月、9月、11月あたりで巡業が行われますが、季節感も大事ではありますが、いろいろな歌舞伎を実際に生で観ていただくという意味では、劇場に入ったら時間も季節も、いろんなところに皆様をお連れするのが演目選びの1つではないかと思います。ホール、劇場に入った時から歌舞伎の世界に引っ張っていくことができればいいのではないかと。それぐらい傑作の3本だと思うので、まずはそれをご覧いただくことを第一に考えて公演をしたいと思います。
──東日本大震災の被災地から足を運ばれる方もいると思いますが、被災地での公演について思われることは。
染五郎 歌舞伎は昔から全国いろいろなところで公演をする歴史があり、その1つの目的に、もちろん歌舞伎を知っていただくということもありますが、歌舞伎の公演をするとその土地を清める、祓うという意味もあると伺いました。お芝居の力というものがあれば、それで皆様に現実の疲れを晴らしていただく、夢の世界にこの時間誘っていければと思います。最初の「ご挨拶」で、簡単ですが歌舞伎の歴史、演目の紹介をした上で、作品をご覧いただく形をとらせていただきました。「普及」が公演に出る1つの目的ではないかと思いますので、そのために何ができるか。素晴らしいお芝居をお見せするのが第一ですが、ご挨拶で私の口からご紹介することもありますし、イヤホンガイドが必ずあるので、それでできる限りのこと、土地土地でのお話をできればと打ち合わせさせていただいています。あらゆる角度で歌舞伎を楽しんでいただくことを考えながら準備している段階です。
──巡業ならではの苦労などあると思いますが、全国を回ることへの思いや楽しみなどは。
染五郎 だいたい歌舞伎座では25日間興行があり、それが通例なので、油断してしまうと「何とか明日…」という思いになってしまいますが、その日1日しかないことの連続が25日あるということを忘れずにと思ってやらなければいけないと思います。巡業は1年に1日かもしれないし、何年かに1回しか伺うことができない。僕自身を観ていただくことも、それ以上かもしれませんので、僕という歌舞伎役者がどういうお芝居をするかもその1回で判断されてしまう気がするので、歌舞伎というものに対しても。とても大きな責任があると思います。ですので、その日1日で興味をもっていただく、魅力を感じていただくことを目指して勤めたいと思います。やはりこういうことでもないと全国を旅する機会はないので、それも1つの楽しみではありますが、交通の便が良くなり過ぎているので、これだけの日数でこれだけの土地を回ることができちゃうという(笑)。場所によっては、その日に入って劇場に行って劇場から次の場所に移る、その土地に行っても泊まれないということもあって。ただ、舞台と客席ということで土地を感じるということだけかもしれませんが、実際まったく違うので、それは楽しみでもあるし新鮮でもありますね。歌舞伎の定式的な演出方法、でも独特な演出方法、定式幕であったり浅葱幕、振り落とし、ツケでバッタリとすることだったり、そういうことで反応があるんですね。歌舞伎ではツケはクローズアップとかよく言いますが、アクセントをつける、そこをドラマチックに見せるということですが、新鮮に反応があると、歌舞伎の独特さを改めて実感させられるというか。土地土地、劇場での反応が、歌舞伎座に来られるお客さんとは違う楽しみ、刺激があります。
──初めての座頭としての意気込みと、健康管理でお考えになっていることは。
染五郎 座頭としてはもちろん素晴らしいお芝居をお見せすること、また普及を考えればどういうことができるのかということ、まだまだどうなるかわかりませんか、イヤホンガイドとご相談しているところもありますし。座組としては、壱太郎君が変わった人間ですので、変わったところを活かして楽しいことができればいいなと思いますし。とにかく普及、その日1日を楽しんでいただけことを考えて実行したい。1日中働くということが、平均年齢の若い公文協の武器ではないかと思うので、頑張りたいです。健康管理は、毎月大きな役をやらせていただき、大きな刺激を受けさせていただいていますが、それをし続けることが健康管理ではないかと。マグロは止めれば死んでしまうと言いますが、僕はマグロほど価値があるかわかりませんが、人間マグロと自分では思っていますので、とにかく舞台に立ち続け、いろいろな刺激を受け、またお客様からも舞台に立つことでエネルギーをいただくこともあるので、まずは大好きな歌舞伎をやる場をいただいていることをエネルギーに舞台に立ち続けることかなと思います。
──ずっと憧れていた(松浦)鎮信を初役でなさいますが、大高源吾を勤められていた時にどういう風に(鎮信を)なさろうと思っていましたか。
染五郎 叔父を観ていて、聞いていると本当に楽しくなるというか。もちろん勉強しないといけないのですが、いつもそれを忘れてしまう。観ている、聞いているほうが操られてしまうというか、感情を思うままに操られてしまう快感をいつも感じておりましたので、とにかくそれを目指してという思いです。役自体は比較的年齢の高い役ですので、もともとは、若さというよりはゆとりというか、大きさを忘れずに勤めることができればと思います。
〈公演情報〉
平成二十八年度(公社)全国公立文化施設協会主催 東コース『松竹大歌舞伎』
一、 ご挨拶
二、 晒三番叟
三、 秀山十種の内 松浦の太鼓
一、 粟餅
出演◇市川染五郎 市川高麗蔵 中村歌昇 中村壱太郎 嵐橘三郎ほか
●6/30◎江戸川区総合文化センター(東京都)
●7/1◎北とぴあ(東京都)
●7/2◎茨城県立県民文化センター(茨城県)
●7/3◎相模女子大学グリーンホール(神奈川県)
●7/5◎札幌市教育文化会館(北海道)
●7/6◎函館市民会館(北海道)
●7/7◎八戸市公会堂(青森県)
●7/9◎北上市文化交流センター(岩手県)
●7/10◎東京エレクトロンホール宮城(宮城県)
●7/11◎山形市民会館(山形県)
●7/12◎福島県文化センター(福島県)
●7/13◎栃木県総合文化センター(栃木県)
●7/15◎いちょうホール(東京都)
●7/16◎ロゼシアター(静岡県)
●7/17◎アクトシティ浜松(静岡県)
●7/18◎春日井市民会館(愛知県)
●7/20◎三重県文化会館(三重県)
●7/21◎可児市文化創造センター 宇宙のホール(岐阜県)
●7/22◎越前市文化センター(福井県)
●7/23◎石川県立音楽堂(石川県)
●7/24◎富山市芸術文化ホール(富山県)
●7/26◎新潟県民会館(新潟県)
●7/27◎群馬音楽センター(群馬県)
●7/28◎熊谷文化創造館さくらめいと(埼玉県)
●7/29◎練馬文化センター(東京都)
●7/30◎鎌倉芸術館(神奈川県)
●7/31◎厚木市文化会館(神奈川県)
〈料金〉各劇場へお問い合わせください。
〈松竹ホームページ〉http://www.shochiku.co.jp/play/jungyo/
【取材・文・撮影/内河 文】