『永井豪×オーケストラ ダイナミックコンサート』和田一樹氏(編曲・指揮)× 臼田典生氏(構成・演出)× 竹澤寿之氏(プロデューサー)ロングインタビュー 〜前篇〜
来る2016年9月18日、東京都豊島区池袋の東京芸術劇場で開催される『世界に発信・劇場版アニソンワールド 永井豪×オーケストラ ダイナミックコンサート~映像とオーケストラサウンドで蘇る永井豪の世界~』。新しい形でアニメとオーケストラを融合させた「アニケストラ」企画の第1弾公演だ。あなたは、永井豪の名前を聞いてどんな作品を思い出すだろうか。『マジンガーZ』『デビルマン』『キュー ティーハニー』『ドロロンえん魔くん』?『バイオレンスジャック』や『ゲッターロボ』『ハレンチ学園』や『イヤハヤ南友』などの作品を思い出される方も多いかもしれない。
1967年のデビューから現在まで、第一線で描き続け、来年2017年にはデビュー50周年を迎える漫画界の巨匠、永井豪。数多い彼の作品の中から、アニメ化された作品をテーマしたフルオーケストラによるコンサートが、スペシャルゲストにアニソン界のアニキ「水木一郎」を迎え開催される。フィルムコンサートを超え進化した「アニケストラ」で永井豪の世界にどっぷり浸ってみてはいかがだろうか。今回、編曲・指揮の和田一樹氏、ステージの演出を手掛ける臼田典生氏、プロデューサーの竹澤寿之氏に今回のステージへの意気込みや見どころなどを伺い、前後編に分けてお届けします。(8月26日 池袋にて)
提供=2.5news
アニメとオーケストラの企画、永井豪先生と豊島区の縁、永井豪先生の画業50周年。
様々な「縁」と「タイミング」が1つに収斂していった。
和田・臼田・竹澤:(質問内容の紙を見ながら)なになに? 企画の発端、企画意図ですか?
――今回、永井豪とオーケストラのコラボレーションという大きな企画ですよね。この企画はどういった経緯で発案され、進んできたのでしょうか?
和田・臼田:そうですね、企画意図と発端は、竹澤プロデューサーに聞いていただいたほうがいいかな。
――では、竹澤プロデューサーにお聞きします。この企画は、どういう経緯でスタートしたんでしょうか。
竹澤:豊島区と公益財団法人としま未来文化財団(以下 未来文化財団)から、アニメとオーケストラという組み合わせで何かしたいと言う話がありました。色々企画を練り上げる中で、豊島区から「もし可能だったら区にゆかりの方でお願いしたい」という希望が出て、それだったら一番ゆかりがあるのは永井豪先生ですよという話になりました。もともとダイナミックプロさんは、豊島区の大塚のほうにあったというのもあるし、永井先生が小学生の頃から豊島区に住まわれていたのもあったので。
話は少し戻りますが、僕は3年前に臼田さんと国際フォーラムで、アニソンのイベントをやらせてもらったんですね。たまたまその年は、永井先生の『デビルマン』と『マジンガーZ』の40周年だったので、第2部は永井豪縛りでやらせていただいたんです。そんなこともあり、僕も永井豪先生の事務所、ダイナミックプロダクションとは懇意にしていたので、趣旨をご説明させてもらったら、御快諾いただけました。
ちょうど来年永井先生が来年に画業50周年を迎えるという事もあって、今年から来年にかけて、50周年に向けた様々な企画が進行中でした。映像化の企画もあって、もう発表されているものとしては、西内まりやさんが出演される『キューティハニー』などもありますよね。そういうタイミングということもあり、なぜ今、永井豪かというところもふまえて、永井豪作品をオーケストレーションしましょう、だけど、いま流行の映像をただ流してのフィルムコンサートにはしたくないねという話になりました。そこで、演出の臼田さんと相談をさせてもらって、ダンスあり、映像あり、あとゲストもありみたいに、「新しい形でアニメとオーケストラを融合させる」ということにしました。「アニケストラ」という名前も造語として作って、アニケストラ企画第1弾として、この『世界に発信・劇場版アニソンワールド 永井豪×オーケストラ ダイナミックコンサート~映像とオーケストラサウンドで蘇る永井豪の世界~』の企画がスタートしました。
そうして、未来文化財団さんと一緒にお話を進める中で、指揮者には豊島区管弦楽団で指揮をしていただいている和田一樹さんはどうかという話が出て、ご紹介いただいてお話させていただいたら、ちょうど和田さんが『デビルマン』の大ファンだと。
和田:はいっ(強くうなずく)
竹澤:それで、ご一緒にと言うことで、企画進行中、という次第です。
――じゃあ豊島区と未来文化財団のほうから、企画をやりたいというお話があったところからはじまっている。その中で永井先生の50周年とか、竹澤さんと臼田さんが以前デビルマンとマジンガーZ40周年のときに東京国際フォーラムでアニソンイベントをやられた件とかが色々タイミングよく集まってきたという感じですね。
竹澤:そうなんですよ。集まってきた感じですね。
単なるフィルムコンサートはつまらないから見る・聞く・参加するコンサートを目指した。
自分自身の永井豪体験を追体験して欲しい。
――ありがとうございます。臼田さんのお名前が出たので、まずは臼田さんから先にお話を伺いたいのですが、今回の話が来て、国際フォーラムのときは『マジンガーZ』と『デビルマン』をやって、今回永井豪作品で全面的にという話になったときに演出としてどういうことを仕掛けていこうと思われましたか。
臼田:具体的に、なにかこうピンポイントで仕掛けるということじゃなかったですね。さっき竹澤さんもおっしゃったように、素材としてはフィルムとオーケストラと音楽というものしかないわけです。でも単にフィルムコンサートというのだと、皆さん各所でやられているので、それだけだと面白くない。そこで何か1つ違った要素を入れられないか、オーケストラのクラッシックコンサートのようにただ音楽を聞くというだけじゃなくて、見ている人も一緒に何かできないか、聞くだけじゃなくて、ステージを見る、聞く、参加するみたいなことができないかなっていう風にはまず思いましたね。
――見る、聞く、参加する……その参加するという部分ですが、どういう風に?
臼田:ステージに全員が一緒に上がるのはできないので、観客として楽しむっていうんですか、それこそ自分が、永井豪作品に関わった事……読者として読むでもいいし、映像を見るでもいいし、作品を楽しむということで場を共有していたこと、その作品を読んだり見たりしたときの、自分の居た時代や思いを掘り起こして再体験というか感じてもらえれば良いなとは思いますね。
――臼田さんが演出していた中で、この部分が見どころとか、特に楽しんで欲しいというところはありますか。
臼田:今回、全体の構成を作品ごとに分けているんですよ。たとえば、デビルマンだったらデビルマンの主題歌エンディング、他の作品だとあまり聞きなじみの無い挿入歌だけを並べてみたりとか。
竹澤:今回の話を受けて、臼田さんに永井豪作品からの楽曲の選定とコーナー割とかを考えていただい企画がスタートしてるわけです。
――じゃあ、そのコーナーごとに特色があるわけですね。永井豪先生の作品は、アニメ化作品だけでも大量にありますからね。
臼田:だから、全部の作品を網羅するわけにはいかないので、今回アニソンワールドと付いてるわけですから、アニメ化されたものに限定されますよね。それをなるべく沢山となると作品があまりにも多すぎるので、なるべく耳なじみのあるものと無いものを織り交ぜて、網羅できるようにということは考えましたね。
――今回ゲストとして水木一郎さんが来られるというのをリリースで拝見しましたが、水木さんも非常に個性の強い方なんで、出し方の演出が非常に難しいんじゃないかなと思うんですが。
臼田:普通にね「水木一郎さんです。どうぞ」っていうのだと面白くないなっていうのは思ってます。そこはね、竹澤プロデューサーを通じて水木さんの事務所から1つアイデアをいただいているので、それは当日のお楽しみ「乞うご期待」ですね。
――見所の1つですね。お客様にはそれを楽しみにしていただければと……。
臼田:やはりメインゲストですからね。クライマックスに向けての1つの見せ場でもありますから。
――臼田さんにもう1つお伺いいたしますが、永井豪作品で「この作品が好き」というのはありますか?
臼田:そうですね、僕は世代的にいうと、『ハレンチ学園』だとか『イヤハヤ南友』だとかちょっとセクシーな作品の初期の頃の世代なんですね。アニメで見るというよりも雑誌で連載をよく見てたなぁという記憶がありますね。だから、ちょっとロボット世代とかとは開きがある世代なんですよ。だから永井豪作品については、今回のアニメの音楽を楽しんだ世代よりもちょっと前の……
――作品が映画化されたりの……『ハレンチ学園』とかそうですよね。
臼田:十兵衛役が児島みゆきさんでしたっけ、映画化された頃とか初の実写化の頃じゃないかな。
音楽の気持ちよさの種を解説する、和田一樹コーナーもやります。もちろん『デビルマン』で。
――お待たせいたしました。和田さんにお話をお聞きしたいんですが、今回臼田さんが演出としてコーナーを考えられたりある程度選曲とかされて、そこから今回のオーケストラに向けての編曲とか編成などの作業が出てくると思うんですが、苦労されたところとか、楽しかったところとかはありますか。
和田:先ほど竹澤さんや臼田さんがおっしゃったように、永井豪先生の作品というのは世代を越えているので、僕らの世代だけにとって……というのがあるかどうか定かではないんですよ。今回の編曲をする中で音楽をあらためて聴いて、もちろん知っている作品なんだけど、凄い曲だなって感動するっていう事が何度もあったんですね。
僕は今35歳で、通称松坂世代って言われてるんですけど、だいたい僕らの同級生は永井豪作品だと『デビルマン』ってなることが多くて。僕はたぶん再放送で見たのかな。TVでデビルマンをやっていて、詞が阿久悠さんで、すごく詞と曲のインパクトがあって、もう刷り込まれている状態で大好きなんです。ほかには、今回あらためて編曲していくなかでは、もちろんデビルマンにも思い入れがあるんですが、『ゲッターロボ』がちょっと凄い音楽だなって思いましたね。この『ゲッターロボ』のコーナーは、音楽的に充実しているかなって考えてます。もちろん水木さんが登場するところっていうのは、これはもう楽しみでしかないんですけどね。
――劇伴として作られているものなので、作品ごとに多岐にわたると思うんですね。僕らがインパクトがあって覚えているのは、『デビルマン』『キューティハニー』『マジンガーZ』『ゲッターロボ』あたりですね。その後にも『グレンダイザー』とか。
和田:『グレンダイザー』もすばらしいですね。今回の編曲で特に意識したのは、シンフォニーですね。コンサートでオーケストラということもあるので『キューティハニー』みたいな音楽的にアクティブなものをどれだけシンフォニー的に聞かせるか。ただ、リズムセクションを全部取っちゃうっていうのじゃなくて、ちゃんと来てくれた人が「これだよ!」って思えるけどちゃんとシンフォニーになってるっていう両方を併せ持たせる編曲っていうのが難しかったかな。
――逆にそこが聞かせどころでもあるっていう?
和田:そうですね。あと、今回『デビルマン』を題材に、その曲がどういう曲調で、どうしてそれが名曲になったかっていうところを解説するコーナーもあるんですよ、そこはぜひお楽しみに、といったところですね。
竹澤:和田一樹コーナーなんだよね
――なるほど、和田一樹コーナーで、なぜこの曲は気持ちよく聞こえるのかとかの解説をするわけですね。
和田:本当は全部の作品でやりたいんですけどね。時間がシャレにならなくなるんでデビルマンに絞らせていただいたんですよ。
竹澤:以前『サンダーバード』のフィルムコンサートがあってそこの中で宮川さんが来られて、サンダーバードの曲をテーマ曲や中に入っている挿入曲を自分でピアノを弾かれて、こういう風に編曲して作られてるみたいなコーナーがあって
――作った人間はこんな風な意図で作ったんじゃないだろうかみたいな。
竹澤:そうそう、それが聞いててとても楽しかったので、そういうコーナーをせっかくだったらぜひ和田さんにやってほしいとリクエストしたんです。
――プロデューサーからのリクエストだったんですね。僕は和田さんが『デビルマン』の大ファンだと伺っていますんで、すごく楽しかったんじゃないかなと思うんですが。
和田:楽しかったというよりも、最初は、プロデューサー無理難題言うなぁって思ったんですよ、正直。だけど音楽を聴いてて、なんでこの曲は僕の心をとらえるんだろうと、自問自答的な所からはじまって、きっとこういうところだろうみたいな確認を繰り返した感じですよね。だから楽しかったというよりは、改めて考え直すというか、再確認できたというのはありますね。
竹澤:一応、和田さんの衣装はデビルマン調の燕尾服を特注で作っちゃったから。
――衣装のお披露目は、当日でこうご期待って感じですね。
竹澤:和田さんがビシッとデビルマン燕尾服を着た姿は、当日のお客さんへのお楽しみですね。
――先ほど少しお話ししていただいたんですが、和田さんの永井豪体験はアニメからになりますか。
和田:僕の場合は、時代的にどうしても最初にアニメだったり、『キューティハニー』だったら、倖田來未さんが主題歌を歌っている実写劇場版のほうですね。『キューティハニー』の映画は、ちょうど僕が18ぐらいのときだったのかな、一番すっと入ってきたのはそれですね。今回のアレンジはもちろんオリジナルの方でやってはいるんですけど。
――倖田來未さんのアレンジってほぼオリジナルから変わってないですよね。頭のコントラバスのベベベンベンベンベンのところが入ったぐらいかな。
和田:そうですね。最初はコントラバスのベンベンベン……っていうのをイメージで持ってる人が多かったので、譜面を見て、「あれがないんですけど……」っていう質問をもらったりしもしたんですけど。倖田さんのバージョンは、あとはほとんどオリジナルと一緒ですけどね。
話が変わりますが、たまたま僕の大学の後輩が前川陽子さんの息子だったんです。僕らにとっては、前川さんは『キューティハニー』より『ひょっこりひょうたん島』のイメージが強かったんで、彼はみんなから“ひょっこり”って呼ばれていて「ひょっこりどこ行った?」って感じだったんですよ。
――前川さんといえば『ひょっこりひょうたん島』『キューティハニー』のイメージが強いですよね。
和田:2大看板ですから。残念ながら彼のあだ名は、男だったからキューティにはならずにひょっこりの方だったんですけどね。
――キューティっていったら女子プロレスラーみたいですよね。
和田:そうですね、プロレスラー。
――あと『マジンガーZ』もいいですよね。僕はちょうどリアルタイムで見てたんですよ。
竹澤:僕はちょうど小学校3年生ぐらいで、次の日、学校に行ったらみんな大騒ぎで話題騒然って感じでしたね。(しばしおじさんたちの思い出話)
竹澤:永井先生の作品は『デビルマン』にしても『マジンガーZ』にしても主人公のキャラクター性が強いですね。単なる強いヒーローの主人公じゃなくて、苦しみとか悲しみとかそういうものも出てるじゃないですか。そのへんのところが、見てても非常にドラマ的だね。完璧じゃないっていうのが特に。
――ヒーローだからって、必ず負けないわけじゃないんですよね。『ゲッターロボ』もそうですよね。
和田:『ゲッターロボ』なんて、ホントに人間臭い話ですよね。
~~後編に続く~~
取材・文=菖蒲 剛智 写真=洲脇理恵(MAXPHOTO) 提供=2.5news