27年間ありがとう!最後の営業日レポ「大宮健康センターゆの郷」(大衆演劇の入り口から・番外編)

レポート
2015.9.2
ゆの郷外観 筆者撮影

ゆの郷外観 筆者撮影

歴代の公演した劇団のポスターがズラリと並ぶ 秋扇さん撮影

歴代の公演した劇団のポスターがズラリと並ぶ 秋扇さん撮影

ずっと覚えておきたい。埼玉・大宮の地に、健康センター「ゆの郷」があった。毎月新たな劇団が来て、日替わりの芝居が観られた。ロビーでは、歴代の劇団のポスターがズラリと見下ろしていた。食堂には名物メニュー「座長御膳」があった。家族連れや友達同士でくつろぐ、ゆるみきった笑顔がたくさんあった。

「ゆの郷が閉まっちゃうんだって!」

関東の大衆演劇ファンに衝撃が走った。3/17(火)、ゆの郷webサイトに掲載された「閉館のお知らせ」。土地建物の賃貸借契約の更新が難しく、平成元年からの営業を終了するという。閉館は8/30(日)20:00。大衆演劇の大切な舞台が、一つなくなってしまう…。最後の営業日を過ごすべく、友人と共にゆの郷へ向かった。

12:00 大衆演劇 最後の通常公演

8/30(日)当日は小雨が降っていた。東大宮駅東口ロータリーから、30分おきの無料送迎バスに乗る。

筆者撮影

筆者撮影

15分足らずでゆの郷到着。筆者が外観の写真を撮っていると、バスの運転手さんが「今日で最後だからねえ、最後、最後…」とつぶやいた。受付には長い行列ができていた。

12:00から「レストラン平成」で大衆演劇公演があった。客席は超満員。300人近くいただろうか。8月公演を担う「劇団美山」が、一部・芝居、二部・舞踊ショーを披露した。芝居中、里美たかし座長が客席を見てアドリブのセリフを飛ばした。

「ぎゅうぎゅう詰めだなこりゃ、最後だから頑張んなきゃいけねえなぁ!」

芝居はコメディ「次郎長外伝 小川の兄弟」。たかし座長演じる三枚目がトボけた言動をするたびに、すし詰めの客席に笑いがドッと広がる。中村エクボさん演じる芸者が死んでいく場面では、こんな遺言の手紙(?)が読み上げられた。

「ゆの郷ドッグ、おいしかった…でも1個じゃ足りなかった…」

ゆの郷への愛情あふれた演出は大いにウケた。芝居後、たかし座長の口上挨拶があった。

「最後は楽しく笑ってお別れにしたほうがいいんじゃないかなと思って、明るい芝居にしました。ゆの郷があればこそ、我々劇団も舞台に立つことができました。27年間という長い間、本当にありがとうございました!」

続く舞踊ショーは、さみしい空気まで華やかに染めるようだった。

里美たかし座長 渋みのある格好よさで客席を魅了した 筆者撮影

里美たかし座長 渋みのある格好よさで客席を魅了した 筆者撮影

左・里美こうた若座長 右・里美京馬さん ピッタリ合った扇子の舞に大喝采 筆者撮影

左・里美こうた若座長 右・里美京馬さん ピッタリ合った扇子の舞に大喝采 筆者撮影

「アンコール!アンコール!」

終演後、観客の声に応えて再度幕が開いた。

「お客さんも一緒に踊ってくださいね!」

流れてきたのは『恋するフォーチュンクッキー』。

『恋するフォーチュンクッキー』を舞台と客席が一緒に踊った 秋扇さん撮影

『恋するフォーチュンクッキー』を舞台と客席が一緒に踊った 秋扇さん撮影

ターラタタタッ♪という軽快なメロディに合わせて、舞台と客席が手をくるくる動かす。ゆの郷の大衆演劇は、最後まで楽しくにぎやかに。一緒に。幕が閉まる直前、たかし座長が叫んだ。

「ゆの郷最高!さようならー!」

※通常公演は8/30(日)で終了し、翌8/31(月)には緞帳下ろし特別公演が行われた。

15:30 お風呂で談笑

公演後、露天風呂に浸かっていると、見知った大衆演劇ファンに出会って観劇トークに花が咲いた。隣では、常連の女性客のグループが「今日の芝居どうだった?」と話している。子どもが大きなお風呂に興奮して泳ぎ、「早く上がりなさい!もう」とお母さんがたしなめる。いつものゆの郷だ。この光景が今日で最後なんて、なんだか嘘のようだ。それでも夕方に差し掛かり、20:00の閉館時刻は段々迫って来ていた。

17:00 ゆの郷支配人&若旦那インタビュー

ゆの郷の特色は、従業員がとにかくお客さんに愛されていたことだ。「ゆの郷一座」と名づけられ、従業員が劇団と一緒に公演をすることもあった。友人の紹介を経て、ロビーでゆの郷の支配人と若旦那に話を伺うことができた。

左・支配人 右・若旦那 お客さんからも劇団からも愛されたゆの郷従業員 筆者撮影

左・支配人 右・若旦那 お客さんからも劇団からも愛されたゆの郷従業員 筆者撮影

【支配人インタビュー】

2009年から7年間、ゆの郷の顔だった支配人。時折きれいな女形を披露することも。

―7年で、特に楽しかったことはありますか?

「全部が面白かったですね!色んなお客さんがいて。閉館が決まった後、“ここの常連だったのに寂しい”ってあまり顔見ない人からも言われました(笑)

―本当に毎日来館してた常連さんもいるんじゃないですか?

「いますね。履歴かけると、1年のうち363日来てるとか」

―常連というより、もう住んでるじゃないですか!

「そんな感じです。住人ですね。配達物が全部ゆの郷に届く人とか。住所をうちにしてるんですよね。こういう人が一人だけじゃないんです」

―その人たちの閉館後が心配ですね…。ゆの郷で支配人がやりたかったことはできましたか?

「できましたね。従業員って従来は接客するだけだったんですけど、お芝居やカラオケで僕らが舞台に立つと、やっぱりお客さん喜んでくれるんですよね。一瞬でも従業員が主役になれるっていう、一つの良い試みだったと思いますね」

―ゆの郷に来るたび、本当に大衆演劇を大事にしているというのが伝わってきました。

「うちのお客さん、ちょっと前までは8割くらいがお芝居目的の人だったんです。だからお芝居を大事にして、劇団さんからも、あのセンター良いね、行きたいねって言ってもらえるゆの郷を目指してました」

 

【若旦那インタビュー】

本社であるホテル会社・バニラリゾート勤務から、直談判して2年前にゆの郷に来た若旦那。閉館後はホテルの仕事に戻るという。

―ゆの郷に来たかった動機はなんですか?

「お客さんとのふれあいがあるじゃないですか。すごいダイレクトに反応が返ってくるのって面白いなと。この小さな規模っていうのも魅力的だと思いますし」

―「若旦那」っていう役職はどうやって決まったんですか?

「お客さんから見て支配人がここのトップという形を崩したくなかったので。そしたら橘菊太郎総座長(橘劇団)が“じゃあお前は若旦那だ”って言って若旦那になりました」

―今朝は最後の日の朝でしたが、目覚めたときどんなお気持ちでした?

「二日酔いでした(笑)。昨夜2時までここ営業してたんで(※閉館前夜のショーが行われていた)。閉館が決まって…正直俺自身もうちょっと泣くかなと思ったんですけど、たまにポロッと来そうな場面というのはあるんですが、忙しすぎて泣くヒマがない…。今はこんなににぎわってますけど、明後日はここに誰もいなくなって、電気も消えた状態かと思うと寂しいですけどね」

―悔いはもうないですか?

「やりきった感みたいなものはあります。今の自分の力量としては、頑張ったんじゃないかな。せっかくここで得た大衆演劇との縁もあるので、またどこかで大衆演劇という文化に関われたらいいですね」

―ゆの郷という場所は大衆演劇にとってどういう場所だったと思いますか?大衆演劇専門の劇場とはまた違う場所だったと思うのですが。

「お世辞かもしれないけど、劇団さんも行きたいセンターだってよく言ってくれました。しかも、お客さんがよう入る!“関東の健康センターで大衆演劇をやってる所”と言って、最初に思い浮かぶ場所だったんじゃないでしょうか」

インタビューの間にも、翌日の緞帳下ろし特別公演のために泊まるお客さんが、「若、明日の朝ごはんってどうしたらいいの?」と話しかけてくる。支配人、若旦那、忙しさのピークの中、応じて下さった心遣いに改めて感謝します。

18:00 御食事処「まくあい」

18:00をまわると、館内に残っている人が少しずつ減ってきた。それでも御食事処「まくあい」は、夕食を取る人で混雑していた。ビール片手の常連さんたちの間には、もう打ち上げ的な雰囲気が漂っていた。

当日夕方の館内 少しずつ人がまばらになってきた 筆者撮影

当日夕方の館内 少しずつ人がまばらになってきた 筆者撮影

20:00 閉館

フロントの時計が20:00を指した。閉館だ。パチパチパチ…と、ひそやかに拍手するお客さんもいた。多くの人が、まだ名残り惜しそうに館内に残っていた。清算時にロッカーの鍵を返すと、ロッカー番号を見たフロントの男性従業員が申し訳なさそうに言った。「端の列のロッカーで使いづらかったでしょう、ごめんなさいね」。ゆの郷スタッフのこういった心配りが、とても好きだった。

「あなた一人?これね、うちで作ったの、よかったら一緒に食べて」。7月には、隣の席で大衆演劇を観ていたお客さんが自家製のキュウリの漬物を分けてくれた。6月には友人たちと泊まりこみ、演歌カラオケが響く中で晩酌をした。正直、これを書いている今もまだ閉館の実感がない。明日も東大宮駅で待っていれば、あのグレーの送迎バスが迎えに来るのじゃないか…?

それでも、「大宮健康センターゆの郷」の歴史はいったん閉じた。あとは大衆演劇ファン、ゆの郷ファンの記憶の中で、いつまでも愛され続けるだろう。

いつ行っても楽しかった。温かかった。たくさんの人に出会った。たくさんの笑顔があった。27年間、ありがとう!ゆの郷よ、永遠に!

※2014年のゆの郷スタッフ・お客さん・劇団による『恋するフォーチュンクッキー』動画。ゆの郷の雰囲気を伝えてくれる。

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