オフィスコットーネプロデュース公演『ザ・ダーク』──中山祐一朗、碓井将大、綿貫凜に聞く

インタビュー
舞台
2017.3.5


オフィスコットーネが、3つの家族の、ある一夜を描いた、不思議な物語『ザ・ダーク』を、吉祥寺シアターで上演する。稽古場に、中山祐一朗さんと碓井将大さんをたずね、プロデューサーの綿貫さんにも加わってもらい、それぞれに『ザ・ダーク』の魅力について語ってもらった。

『ザ・ダーク』の上演を決めた理由

──はじめに『ザ・ダーク』を上演しようと思われたきっかけについて、聞かせていただけますか?

綿貫 2年ぐらい前に、演出の高橋正徳さんから粗訳をいただいて、当時は小さな劇場で上演する作品ものを探していたので、『ザ・ダーク』を読んですごく面白いと思ったんですけど、広い劇場でしっかりやりたかったので、2年間企画を温めて。

最初にもらったのは、ひとりひとりの役の心情も全部が直訳だったので、ストーリーと舞台の状態しかわからないものだったんですけど、タイトルの『ザ・ダーク』に惹かれたのと、あとは登場人物がバランスよく、小道具や台詞が内容とリンクしていく感じがわかったんです。それがすごく面白いと思って。それから、あらゆる世代が登場していること。この戯曲、ちょっと面白くできないかな、上演したいなと思いました。

──2004年、ロンドンのドンマー・ウエアハウスが初演ですね。

綿貫 初演の舞台を、演出の高橋さんがご覧になって、すぐ台本を買って、彼のなかでも温めていたんですが、その後、震災とかいろんなことが重なり、こういう暗い内容はどうかなと思われていたようです。

見ていただければわかるんですが、かなり大がかりな舞台装置があり、そこで実験的なことをやっているので、他のプロデューサーはちょっと二の足を踏むというところもあるんじゃないかなと思います(笑)。

──3つの家族を描いた複雑な構成になっていますし、丁寧に作りこんでいかないと成立しないし、照明も全部が本番と同じようにやらないと、演技のきっかけがとりにくいという、ちょっとプロデューサー泣かせの舞台になってますね。

綿貫 キャスティングにすごく時間をかけて、ひとりひとり、じっくりと決めていったんですけど、身体能力的なものも、すごく求められる。アングラ、新劇、小劇場といろんな出身の役者を集めたんですけど、すごく難しいなとは思いましたね。

左から、碓井将大さん、中山祐一朗さん、綿貫凜さん。

左から、碓井将大さん、中山祐一朗さん、綿貫凜さん。

3つの家族の生活をひとつの空間で表現

──同じひとつの空間で、1階には、ダイニング・キッチン、リビングルーム、書斎という3つの部屋があって、2階には、寝室がふたつとバスルームという3つの部屋がある。そのなかに3つの家族が住んでいるという設定です。そのように入り組んでいるだけでなく、ある家族が言った台詞を、別の家族が受けるようなかたちで語ったり、また、その台詞をさらに別の家族の者が受けて語ったり……3つの家族の生活が、あるひとつの台詞を中心に響きあっているようなところもあって……。

綿貫 共鳴しあうところがすごく面白いと思うんです。起きている状況は、3家族ともちがうんですけど、発する言葉が共鳴していく。そして、小道具も、登場人物のあいだで順番に渡っていったり……。

──最初は、ベッドの下に置かれたハンマーが手渡されていったり、他にもいろいろありますね。

綿貫 サンドイッチとか……。

中山 クレームブリュレもそう……。

──台所用品が、その後の場面では、凶器に近いかたちで用いられそうになったり。役者のかたは、実際に稽古してみて、どうですか?

中山 面白いは面白いですね。面白いのは、ある家族で使われる言葉が、別の家族でも使われる。でも、そこで起きていることはちがうみたいな……そういう他の家族の言葉によって、自分の家族が共鳴していくとなると、気持ちが盛りあがっていくように書かれているんだけど、単純にそれに頼るとつまらなくなるから、こっちはこっちの家族だけで、その言葉を使わなくてもそこまであげていかなきゃいけないという感じには面白いというか、難しいというか。それが無理だったら、使っちゃえばいいんだけど、まあ、極力使わないで、気持ちだけでリアルにあがっていかないかなっていうところを探ったり。まあ、3家族で同じ言葉が使われたり、リンクしたり、共鳴したりしてるんだけど、それは台本上でわかることであって、稽古場でわかるのは、状態とか空気がかぶってたりするんです。そこが面白いところですね。

3つの家族があり、この家族はすごく母性をはっきりさせてる、別の家族はうっすらと母性が見えてる、もうひとつの家族では母性が揺れてる……とか、そういうのが面白い。それは稽古をしてみないとなかなか気づかない。

──舞台上で演じてみて、ようやく重層的に見えてくるところがある。

中山 そういう発見が面白い。

綿貫 同じ空間にいて、一応、別の家族には見えてないという設定の自分の家。でも、実際には同じ空間上に全員がいる。それぞれがいろんな状況に追いこまれていて、いっせいに台詞がリンクしていくときに、やっぱり俳優の生理として、影響はされるんですよね。それはあえて感じないように?

中山 感じないようにというか、それはお客さんが感じてくれればいいことで……同じニュースをふたつの家族が同時にテレビで見ながら、ぽそぽそと感想を言っていく場面は、合計4人で、ふたり、ふたりでそれぞれやってるんだけど、4人の会話にしちゃえば簡単なんですよ。でも、そうしないほうが面白いんじゃないかなっていう……。

もうちょっと難しいことも考えていて、隣から来る雑音とか、いろんなものから来るストレスみたいな、体に感じるストレスを、他の家族の喧嘩とかも、ストレスに入れてしまえば簡単だけど、とりあえずそれはやめておく。壁から洩れる声とかいうのは、ストレスとして入れてもいいと思うんだけど……。

──赤ん坊の声とかね。

中山 ただ、面白いのは、聞こえてないはずの台詞を、1個、2個、面白く自分の気持ちをあげるときに利用して、それが面白くなれば使っていいと思うんだけど、安易に使うと、4人の会話としても成立する台本ですから、それがあえて聞こえないはずの2つとしてやってるから。でも、盛りあがる感情の高さは、4人の会話でしか起こりえないくらいに書かれている。だから、それを分担して、ふたりでも成立するぐらいにあげていかなきゃいけない。もともと抱えているストレスだったり、ふたりの関係とかは、たぶんストイックに構えながら、たまに利用してやれば面白いんじゃないかなって。

──それは面白いですね。

『ザ・ダーク』の稽古場。ジョンを演じる中山祐一朗さん。

『ザ・ダーク』の稽古場。ジョンを演じる中山祐一朗さん。

暗闇のなかで覚醒する感覚

綿貫 では、碓井さん、同じように、稽古をやってみてどうですか。

碓井 今日は稽古場で、電気を初めて消したんです。やっぱりすごかった。電気を消してからの場面では、みんなが稽古してるのをぼくは客席で見ることができたので、これまで暗いなかという設定で演じていたものと、実際なにも見えないなかで、言葉だけが文字みたいに聞こえてくるのとでは、受ける印象というか、見ている印象はちがって、本当になにも見えないと、この3つの家族が抱えているそれぞれの問題みたいに、なにかにすがらないと、いまこの暗闇を生きられないみたいな……そういうのが、『ザ・ダーク』というタイトルに結びついたというか、ああ、こういうお芝居なのかなと、今日初めて暗闇のなかで思いました。

暗いと、人って五感のどこが使えるかを考えはじめるように見えるんですよ。言葉でコミュニケーションを図ろうとするだけでなくて、匂いとか音とか、ちがう機能を働かせていくところがすごく面白くて、そういう意味でも、実験的だなと思う。

──暗くなると同時に、登場人物のそれぞれが、心の闇や一瞬立ち現れる狂気みたいなものを抱えています。

綿貫 タイトルの『ザ・ダーク』は、深いし、いろんな意味でとらえることができますね。

中山 でも、意外と想像しやすい悩みなんだよね。

──たしかに、悩んでる内容はありきたりかもしれない(笑)。

綿貫 どこの家族にもありそうな……。

中山 まあ、そういうものを代弁してるところもありますよね。こんなこと、家でよく起きてるんだけど、他人(ひと)様には言えないこととか。舞台上ですごく怒鳴ってる姿を、改めて他人事として見ると、意外と面白い。面白いなあ、人生って。こんなことでキャンキャン、ガヤガヤやってるんだと思えたりもすると思う。

──いろんな問題をシリアスに受けとめるよりも、視点をずらして、他人事みたいな感じで……。

綿貫 当事者たちは、当然苦しいし、もがいてるところが、客席から見てるとかなりおかしいんです。30代、40代、50代と3世代登場するので、それぞれの家族の行く末みたいにも見えてくる。あの赤ちゃんが、こんなふうに成長してみたいな感じで……。

そういうのを、客観的に客席から見ていると「他人の不幸は蜜の味」みたいに楽しめてしまう(笑)。とにかくブライアンとジャネット夫妻を演じる福士惠二さんと松本紀保さんの会話は、どの夫婦でもある会話だと思うので、どんな世代の人が見ても、どこかに自分の家族を投影している感じになる。だから、すごく楽しめると思いますね。

『ザ・ダーク』の稽古場。ジョシュを演じる碓井将大さん。

『ザ・ダーク』の稽古場。ジョシュを演じる碓井将大さん。

暗闇のなかのわずかな癒し

──どの登場人物も孤独を抱えていて、最も身近な存在である家族とうまくコミュニケーションがとれない状態が続いている。中山さんが演じるジョンは、ある秘密を抱えているという設定で、長年、そのことを母親に伝えられないでいる。碓井さんが演じる15歳の少年ジョシュは、両親のどちらとも口をききたくないし、顔を合わせたくない。引きこもりみたいな生活をおくっているが、チャットでは会話するし、赤ちゃんをあやそうとしたりする。暗闇のなか、ジョシュは、隣人の赤ちゃんを抱きかかえるが、危害を加えるそぶりは見せず、ただあやしたようにも見えます。

碓井 どこかにあるような話だと思いますけど、たとえば、犬を飼ってて、それがとてもかわいく感じて、ちょっといじわるしたくなっちゃう気持ちって、誰にでもあると思うんですよ。

もうひとつ、誰かとつながっていたいという感覚は、この世代の子にはあるのかなと。いまは全部がこういうインターネットとか携帯電話とかっていう、現実との対比で世界が作られていきますけど、これはもうジョシュだけではなく、ほとんどの中高生に起こりうることになってきて、モニター画面の世界のほうが、あたかもリアルな世界みたいな……いまはそういう風潮があるけれども、そういう世代の人たちが見て、何を投影してくれるのかは、ぼくも楽しみです。

──途中で、ジョシュは、自分の部屋から出て、家を飛び出し、暗闇のなかへ出ていく。そのときに目出し帽をかぶるんですが、そうすることで、もうひとつ「ダーク」をかぶる感じがする。闇のなかで、そのうえ、さらに目出し帽をかぶることで、二重に見えなくする。そういう状態だからこそ、解放できる何かがある。赤ちゃんをめぐるやりとりがあった後、ジョシュは次にジョンの家に侵入しますが、すでにジョンは正体を見破っていて、大人の対応をする。あれはいい場面ですね。

中山 ジョンには、ジョシュが自分と同じように不幸になってほしくないという気持ちがある。ジョシュは、いまやってることは、数年経ったら、すべてなかったことにしたいと思うことしかやってない。そういう少年から青年になるあいだの揺れでやってるんだったら、恥ずかしいとか、それくらいで終わりだったらいいんじゃないかと思って演じてるんだけど。

でも、ジョン自身、ほんとはゲイなんで、それをどのくらい封印するかという匙加減が難しいところではありますね。お客さんには、見た目的には、もうちょっとゲイだと見せたほうがスリリングで面白いかもしれない。ぼくの気持ち的には、この子にはゲイとして接しないという固い気持ちはあるんだけど、稽古場で楽しんで、匙加減を調節するという感じです。なるべく簡単に作らない。簡単に演じるようにしないほうが、たぶん、お客さんには面白い。

──暗闇に入っていけばいくほど、自分自身をより深く見つめるところが、『ザ・ダーク』にはありますね。

中山 でも、結局は、ぼくらの家族も最後は穏やかに過ごしてますけど、ああいう一夜を過ごしたことによって穏やかに過ごしてるようで、また、明日か明後日には、元の状態に戻るかもしれない。

碓井 なかなか暗闇からは解放されないですね(笑)。

中山 これは暗闇ではないということには気づけたかもしれないけど、やってる生活はあんまり変わらない感じかもしれない。

綿貫 この後、これら3つの家族がどうなっていくのかということについても、お客さんによっても、たぶん、いろんな受け取りかたができて、いい終わりかたができればいいなと。

中山 あれだけガミガミ言い続けている家族でも、息子の包帯をお母さんが取り替えてる時間もある。それがまあ、救いだったりとか……。

綿貫 日常って、そういうものですね。ちょっと優しくして、ちょっと怒って、それで溜まってくると、またキレて。でも、やっぱり愛してるっていう……人間の感情は、多面的な感じがする。

複雑な多面体を楽しんでほしい

中山 『ザ・ダーク』を台本で読んでると、すごく言葉でかぶせてるところがあるから、演じると面白いんですよ。戯曲だと「このパターンで、同じセットでやる」と思うだけだけど、演じてみると、同じワードで説明できるシーンが、パキッとしていたり、揺れてたり、洩れてたり……。

綿貫 そうですね。

中山 だから、お客さんはパキッとしてるところを見ておけばいいように書かれてるから、見やすくできてるんだけど、そこばかり見てても面白くなくて、全体をいろんな角度から楽しめるようになっている。

綿貫 そうですね。あとは自分がどこに焦点を当てるか。毎日、稽古場で、俳優のかたもそうなんでしょうけど、客席から見ているわたしたちにも、いろんな発見がある。

──これは一回見るだけじゃ、見尽くせないね(笑)。

中山 それはそう思う。

綿貫 前の客席と後ろの客席とでは、ぜんぜん違うと思います。

──下手の客席と上手の客席でも違ってきますね。

中山 覗き見的なものが好きな人は、何度見ても面白いと思うし。

綿貫 碓井さんは15歳の役ですが、自分の15歳のときを考えて、いま演じてみてどうですか?

中山 あんなにサブくないでしょう。だから大変だよね。25歳になって、あんなにサブい15歳を演じなきゃいけないっていうのは。

碓井 15歳のときは、ちょうど仕事を始めたころで、しっかりしなきゃというのはありましたけど。でも、なんかかっこいい役ではあるというか……演出の高橋さんがそうしてるのかもしれないけど、台本にも「エミネムのスローガンを訴えかけるような音楽」と書いてあるから、いわゆるそっち側に振りきれない人たちの視点でいたほうがいいのかなとはすごく思うんです。

なんかジョシュがエミネムを好きっていうのも、面白いじゃないですか。エミネムは、ドクター・ドレーが惚れこんで契約した人だから、反骨心がある。それがボーダーなのか、アジェンダなのか、親なのか、わからないんですけど、反骨心を示すというディテールまで出ていて面白いなと思います。

中山 うん。まあ、わかりやすいよね。エミネムかっこいいと思って見られたらやばい。

綿貫 うん、そうですね。

中山 それも微妙なところの面白さだからさ。エミネム使って、かっこいいと思ってるんだみたいなのはね。

──今回のキャスティングは、そういった微妙さを表現できる人たちが揃いましたね。

綿貫 そうですね。7人がすごくいいバランスのような気がします。

中山 頭のよさとふざけ心。

綿貫 そうですね。そういう意味では、出身がちがうというところも面白い。やっぱりキャスティングの妙というか、面白さと、やっぱりこの芝居の独特な、同時多発、同じ6部屋で起こる3家族の現象みたいなものを見に、吉祥寺シアターへ足を運んでいただければと思います。

中山 意外と上演時間は短いので、7時30分から始まるけど……。

綿貫 90分を目指して……。

──本当に集中してという感じですね。

中山 7時30分始まりって、金曜日とか、いいよね。仕事終わってからさ、7時30分から90分芝居見て、飲みに行ってさ、土日もしっかり使えるんだからさ。

綿貫 吉祥寺には、おいしいお店がたくさんあるので、そのお芝居を肴に、帰りに飲んでいただければ……。

碓井 作品に参加したいと思うときは、いろんな要素があると思いますけど、吉祥寺シアターはすごくいい劇場だと思うし……。

綿貫 使いやすい、いい劇場だと思います。

中山 舞台美術が吉祥寺シアターに合っている。

──期待したいことはどんどん出てきますが、日本初演の初日が開くのを心待ちにしています。

取材・文/野中広樹

公演情報
オフィスコットーネプロデュース『ザ・ダーク』

■作:シャーロット・ジョーンズ
翻訳:小田島恒志、小田島則子
演出:高橋正徳
日時:3月3日〜12日
会場:吉祥寺シアター
出演:中村祐一朗、小林タカ鹿、松本紀保、碓井将大、ハマカワフミエ、福士惠二、山本道子
■公式サイト:
http://www5d.biglobe.ne.jp/~cottone/​

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