『シャガール 三次元の世界』展をレポート 国内初公開を含む“シャガール彫刻”が一挙公開!

レポート
アート
2017.9.20

東京ステーションギャラリーにて『シャガール 三次元の世界』(2017年9月16日〜12月3日)が開幕した。本展覧会は、晩年のシャガールが手がけた彫刻や陶芸作品を、国内ではじめて本格的に紹介するもの。日本初公開を含む50点の立体作品に加え、浮遊する恋人たちや、色鮮やかな動物モチーフが特徴的なシャガールの絵画作品を合わせて展示している。一般公開に先立ち催された内覧会より、本展の見どころを紹介しよう。

シャガールの定番モチーフ・浮遊する恋人たち

1915年のシャガールの誕生日に、恋人ベラが花束を持って画家のアトリエを訪れるワンシーンを描いた《誕生日》。本作では、喜びのあまり身体を大胆にねじり、宙に浮かんだまま恋人へ口付けする画家の姿が印象的だ。この「浮遊する恋人たち」は、定番のモチーフとして、作品の中に繰り返し用いられている。

シャガールが本格的に立体作品に取り組んだのは、第二次世界大戦中、アメリカへ亡命した画家がフランスに戻り、南仏に住まいを移した1949年頃。すでに60歳をこえていたシャガールは、約50年の時を経て《誕生日》を大理石の彫刻にしている。東京ステーションギャラリー館長の冨田章氏は、2点の《誕生日》について、次のように解説した。

「絵画に描かれた空間は室内ですが、彫刻になると、恋人たちの周りには家の屋根があり、動物がいて、太陽がある。彫刻には、屋外の様子が描かれているんです。画家が若き日のモチーフと再会する興味深い作品であると共に、平面と立体を見比べる面白さがあります」

シャガールの立体作品は「子供が、自由に楽しんで物作りをしているよう」

シャガールは、まず1949年頃に陶芸作品を、続いて1951年頃から彫刻作品に着手している。冨田氏は、シャガールの立体作品について「はじめて粘土をもらった子供が、自由に楽しんで物作りをしているような雰囲気です」と語る。

陶芸の技術がなかったシャガールは、職人と共同作業によって作品制作をしていたと考えられる。本展では、陶芸の完成品だけではなく、作品の下絵も並行して展示することで、平面から立体に至る前後関係を辿ることができる。

《青いロバ》(1954年)では、陶器にロバの頭部を加え、取っ手を前足のように見立てるユーモラスなアイディアを《青いロバ》のための下絵(同年)からも感じられる。さらに、《彫刻された陶器》(1952年)では、本来壺の形をしていたであろう原型は大胆にくり抜かれ、女性の横顔が強調される形になっている。《彫刻された陶器》のための下絵(同年)では、壺の中から女性の頭部が浮かぶようなイメージが描かれ、平面の世界を立体にする際の、画家の創意工夫を想像するのも面白いだろう。

石彫、複数モチーフの混在、形の制約
シャガールの彫刻作品3つの特徴

本ギャラリー館長の冨田氏が、シャガールの彫刻作品の特徴について一つ目に挙げたのが、「石彫」である。画家が彫刻を作るケースは珍しいことではないが、簡単に造形できる塑像(粘土で作った像)を選ぶことが多い中で、シャガールは、あえて造形の難しい、硬い素材を用いた石彫に挑んでいる。その理由について、氏は「石の持っている素材の感覚や、石そのものの存在感を画家が面白がっていた可能性がある」と推測している。

二つ目の特徴は、一つの彫刻の中に「複数のモチーフが混在している」とのこと。単体のモチーフを彫刻する画家が多い中、シャガールは人物、植物、動物など複数のモチーフを一つの像に集約させた。冨田氏は、「20世紀の彫刻としては珍しく、こうしたケースはロマネスク時代、あるいはアフリカやオセアニアのプリミティヴ(原始的)な彫刻に見られるものです」と解説する。

三つ目には、「石の形を活かしている」ことが挙げられた。シャガール自身、「素材の前では謙虚で、従順でなければならない」と言葉を残しているように、彼の制作においてはあらかじめ決まった枠(形)が活かされている。

絵画であれば情景を描き足せる部分も、立体になると決められた形の中で造形しなければならない。しかし、その制約を楽しむような彫刻作品からは、二次元と三次元を往復する自由自在な画家の姿勢を見ることができる。《空想の動物》(1959-60年)では、浮遊する恋人たちの姿が、動物の腹部に張り付けられたような状態で一体化している。

ロシア・パリ時代の絵画作品から、二人の妻を描き続けた晩年の作品まで

シャガールの立体作品はもちろんのこと、絵画作品も見逃せない。ロシア時代から空間へ意識を向けていることが伺える《座る赤い裸婦》(1909年)や、パリ時代に出会ったキュビズムを取り込んだ作品にも注目だ。晩年には彫刻だけでなく、版画やコラージュなど、素材や手法も多様化していく。《紫色の裸婦》(1967年)では激しい色彩と荒々しいタッチに加え、顔料に砂を混ぜていたという。晩年を迎えても創作の意欲は衰えず、実験的な試みに挑む画家のエネルギーが感じられるだろう。また、生涯愛した女性ベラや、後妻のヴァヴァ(ヴァージニア・ハガード)を描いた作品からは、シャガールの深い愛情が溢れ出ている。

シャガール 三次元の世界』展は2017年12月3日まで。シャガールの立体作品を複数見られるこの機会に、ぜひ足を運んでほしい。

イベント情報
シャガール 三次元の世界

会期:2017年9月16日(土)〜12月3日(日) 休館日:月曜日(10月9日は開館)、10月10日(火)
会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで ※入館は閉館の30分前まで)
入場料:一般1300円(800円)高校・大学生1100円(600円) 中学生以下無料 ※()内は団体(20名以上)
主催:東京ステーションギャラリー(公益財団法人東日本鉄道文化財団)、東京新聞http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201709_chagall.html
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