草間彌生美術館がついにオープン! 『創造は孤高の営みだ、愛こそはまさに芸術の近づき』展をレポート
世界的前衛芸術家・草間彌生の美術館が、10月1日に新宿区弁天町に開館する。
白い水玉模様が目印の5階建ての美術館は、草間自身も「これが私の終生の念願でした。私の生涯における最大の感激です」と語るように、88歳の現役アーティストにとって、特別な想いが詰まった場所でもある。
今年1月に発足した草間彌生記念芸術財団が運営を行う同美術館では、年2回の展覧会に加えて出版やレクチャーを定期的に行うなど、草間が作品を通じて繰り返し訴えかけてきた「世界平和」や「人間愛」というメッセージを広く伝えていく予定だという。
そんな待望の美術館のオープニングを飾るのは、『創造は孤高の営みだ、愛こそはまさに芸術の近づき』展(会期:2017年10月1日〜2018年2月25日)。そこで新しく誕生する草間彌生美術館の全貌に迫るとともに、こけら落としとなる本展の見どころを、9月26日に行われた内覧会より紹介していきたい。
草間作品を象徴する、“水玉模様”の連続する世界
上を目指すようにして螺旋状に設計された階段をのぼっていくと、2階の展示室へと導かれる。
こちらのスペースでは、2004年から製作をスタートした《愛はとこしえ》シリーズが、白い壁面を埋め尽くすように展示されている。黒のマーカーペンを使って描かれたモノクロのドローイングは、草間作品を象徴する“水玉”や“線”の反復をフラットな目線で楽しめる構成となっている。アーティストの創作の原点が垣間見えるような瞬間が、ふとしたタイミングで訪れるかもしれない。
《愛はとこしえ》シリーズは、厳選された27点を展示している。
草間は幼少期に強迫性障害を患っており、数々の幻覚から逃れるために水玉模様を描きとめるようになったという。本シリーズをじっと見ていると連続したドットや抽象的なかたちが、不思議と何かを語りかけてくるような気分にさせられてしまう。
アメリカのポップアートの騎手であるアンディ・ウォーホールも、かつて展示会で見た草間作品がきっかけとなって「同じパターンの反復のイメージが閃いた」そう。どこまでも繰り返されるモチーフには、無意識を喚起する力を潜在的に秘めているのではないだろうか。
草間芸術の集大成ともいえる《わが永遠の魂》シリーズ
続く3階のギャラリーには、2009年に着手され今も創作が続いている大型アクリル絵画《わが永遠の魂》シリーズが、天井高の空間に目一杯展示されている。
天井高のスペースにはカラフルで力強い《わが永遠の魂》シリーズの展示が。
本シリーズは1日に1点もしくは2点という驚異的なペースで制作されており、現時点で530点を超える草間作品のなかでも過去最大の作品群である。今回こちらでは未公開作品を含む16点を紹介しているが、色という色が自在にキャンバスを飛び交い、はみ出すようにダイナミックに描かれた作品からは、飽くなき制作欲求と生命賛歌ともいえる底なしのエネルギーが力強く迫ってきた。
鏡の間に無限に広がる、かぼちゃのビジョン
フロアをあがっていきながら鑑賞していくという、これまでの美術館では体験したことのない珍しい空間構成となっている本館。一段一段、階段を上がるにつれ「今度はどんな展示に出会えるのだろう?」というと期待感に胸を躍らせながら次なる空間を目指す。するとそこには、不意を突かれるような予想外の展開が待っていた。
まるでかぼちゃ畑にいるかのような気分にさせられる、没入型の作品
こちらでは、本展初公開となる最新のミラールーム《無限の彼方へかぼちゃは愛を叫んでゆく》のインスタレーション作品を、暗転した空間のなかで体感することができる。約2分という短い時間ではあるが、小さな鏡張りの空間に閉じ込められた状態で、くっきりと目の前に映し出されるかぼちゃを鑑賞するという摩訶不思議な体験は、おとぎ話の世界を自由に行き来するに等しい。草間ファンにとっても、童心に返るような新鮮な気分を味わえるかも知れない。
また種苗業を営む生家に生まれた草間は、小さな頃からかぼちゃを「太っ腹の飾らぬ容貌」であると感じ、格別な想いで眺めていたという。こちらではそんな草間のかぼちゃへの並々ならぬ愛と、子ども心に抱いたアーティスト自身の純粋無垢な感情を、しっかりと感じられる。草間作品にかぼちゃモチーフのものが多い理由の一端を知ることができよう。
私はかぼちゃを見る時に、かぼちゃは私の全てであるという喜びと、畏敬の念を拭い去ることはできませんでした。そのようなかぼちゃから生まれ出た威厳と、永遠に尽きることなき人間たちへの愛の姿を私はこの鏡の部屋に閉じ込めました。この広大なかぼちゃ畑を見てこれからの人間の生き様を是非見つけてください。そして、みなさん自身の人生の生き様を見出してください。
草間彌生
“最愛のかぼちゃ”のオブジェに出会える、天空のスペース
最上階の5階では、彼女のアートワークが閲覧できる出版物の展示とともに屋外のスペースもあり、こちらでも“最愛のかぼちゃ”の大きなオブジェを目にすることができる。
草間彌生のアートワークの多彩さや表現の幅に触れることができる5階のコーナー
完全に吹き抜けとなっているこちらのスペースにはこの日、秋晴れの太陽が燦々と注ぎ、オブジェの金色が一段と光を放っている様子が、強く印象に残った。
宙から突如舞い降りたかのような、新作のかぼちゃのオブジェ
最上階は開放感ある吹き抜けのスペースが魅力。
1階の入り口付近のスペースには、グッズが購入できるコーナーも
一つ一つの展示室は小規模でありながらも、天上に向かってまっすぐに伸びる美術館は、今なお創作活動に向き合い、高みを目指して日々闘い続けている彼女自身の姿にも重なる。
草間彌生の長年の芸術へのひたむきで真摯な取り組みと未だ尽きぬ表現への膨大なエネルギー、さらに人々に対する無限大の愛や世界平和へのメッセージを、ぜひともこの場所で感じ取ってほしい。
日時:2017年10月1日(日)〜2018年2月25日(日)
会場:草間彌生美術館
開館時間:11:00〜17:00
開館日:木・金・土・日曜日および国民の祝日
休館日:月・火・水曜日
観覧料(税込):一般 1,000円 / 小中高生 600円
http://yayoikusamamuseum.jp