『ブリューゲル展』記者発表会レポート 日本初公開のコレクションから、画家一族150年の系譜に迫る!
ピーテル・ブリューゲル1世は、16世紀フランドルを代表する画家だ。彼の才能は、息子であるピーテル・ブリューゲル2世とヤン・ブリューゲル1世、さらには孫、ひ孫にも受け継がれた。
『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』は、ブリューゲル一族の画業を辿り、16~17世紀に確立したブリューゲル様式の全体像に迫る。同展に先駆けて行われた記者発表会より、その見どころを紹介しよう。
現実を見つめる観察眼
ピーテル・ブリューゲル1 世(下絵)ピーテル・ファン・デル・ヘイデン(彫版) 《最後の審判》1558年 Private Collection
全7章で構成される本展の第1章は宗教画に焦点を当てる。15~16世紀に活躍した奇想の画家、ヒエロニムス・ボスは、死後に人気が再燃した。ピーテル1世が下絵を手掛けた作品のひとつ《最後の審判》は、ボスの作品に通じる。これには、ボスの作品に通じる異形の怪物たちが描かれている。一方で、ボスの作品とは違って、道徳的なメッセージ性が希薄である代わりに、現実をつぶさに見つめ忠実に描き出そうとする姿勢が表れている。ピーテル1世の観察眼が子や孫、さらに下の世代へと伝わり、ブリューゲル一族の絵画伝統となっていく。
ヤン・ブリューゲル1世《水浴をする人たちのいる川の風景》1595-1600年頃 Private Collection, Switzerland
ピーテル1世とヤーコブ・グリンメルの共作《種をまく人のたとえがある風景》は、キリスト教の寓話が主題であるが、画面全体には、世界の構成要素全てを一望するパノラマ的風景が広がる。これは「世界風景」と呼ばれる。一方、ヤン1世《水浴をする人たちのいる川の風景》は、視点が低く、世界の構成要素を全て描くのではなく、特定の一風景を描くにとどめている。「世界風景」から次の段階へ進んだのである。第2章に展示される風景画では、ピーテル1世とヤン1世の観察眼の対比を楽しめる。
ピーテル・ブリューゲル2世《鳥罠》 1601年 Private Collection, Luxembourg
風景画のうち、ピーテル2世が父から受け継いだのが第3章の「冬の風景」だ。ピーテル2世は、生涯に渡って父の模倣作を描き続け、父の名声を広める役割を担った。特に、《鳥罠》は、「冬の風景」というジャンルの確立に貢献し、風景画の歴史に大きな影響を与えた題材である。
ブリューゲル一族と時代背景
ヤン・ブリューゲル2世《嗅覚の寓意》1645-1650年頃 Private Collection
ヤン・ブリューゲル2世《聴覚の寓意》1645-1650年頃 Private Collection
ブリューゲル一族と時代背景との関係を考えるのも面白い。たとえば、第5章の寓意画に見られる擬人化は、愛や平和といった抽象的な概念を視覚的に理解する手段として、古くからヨーロッパで行われてきた。ヤン2世の《嗅覚の寓意》、《聴覚の寓意》は、父ヤン1世がルーベンスと共同で描いた絵を模した作品で、連綿と受け継がれる擬人化の歴史を物語っている。
アブラハム・ブリューゲル《果物の静物がある風景》1670年 Private Collection
第6章のアブラハムの《果物の静物がある風景》では、ブリューゲル一族の伝統的な静物画に、屋外に静物を配置するという、当時流行した画面構成を組み合わせている。一族の伝統的な画題に流行を取り入れることで、ブリューゲル一族は何世代にも渡って不動の地位を築いていったのだ。
ピーテル・ブリューゲル1世(下絵)フランス・ハイス(彫版) 《イカロスの墜落の状景を伴う3本マストの武装帆船》1561-1562年頃 Private Collection
ピーテル・ブリューゲル2世《野外での婚礼の踊り》1610年頃 Private Collection
第4章のピーテル1世が下絵を描いた《イカロスの墜落の情景を伴う3本マストの武装帆船》は、船の描写が緻密で、今日、当時の船の細部を知るための資料となっているほどだ。ピーテル1世は実際に船の製造現場などを観察したと考えられている。また、第7章のピーテル2世の《野外での婚礼の踊り》には、結婚するとき以外髪を隠さなければいけなかった農村の女性たちが、頭巾でお洒落を楽しんでいた、という当時のファッション事情が表されている。確かに、踊っている女性たが表れている。そこから、当時の風俗を読み取るのも一興だ。
日本初公開のプライベート・コレクション
東京都美術館 真室佳武館長
本展で展示される約100点は、その多くが、日本初公開のプライベート・コレクションだ。貴重な作品で構成される本展について、東京都美術館の真室佳武館長は「この展覧会が、ブリューゲル一族とその周辺の芸術の素晴らしさに触れるまたとない機会であることは申すまでもございません。と同時に、16、17世紀のフランドルの歴史と文化への理解を深めるまたとない機会でもあります」と語った。
オフィシャルサポーターの俳優、渡辺裕太
オフィシャルサポーターの俳優、渡辺裕太は、ピーテル1世と2人の息子たちとの関係を両親と自分との関係に重ね合わせながら、本展の魅力を熱くPRした。
「ピーテル・ブリューゲル1世の注意深い観察力から生まれる繊細なタッチは、本当にひ孫の世代まで続いています。皆さんの目で実際にブリューゲル一族の伝統を発見していただきたいな、と思います」
東京展は、2018年1月28日(火)から4月1日(日)に東京都美術館で開催される。その後、愛知県、北海道、広島県、福島県へと巡回予定だ。日本初公開のコレクションを通して、ブリューゲル一族に受け継がれた観察眼を堪能してみてはいかがだろうか。
日時:2018年1月23日(火)~4月1日(日)
会場:東京都美術館 企画棟 企画展示室
休室日:月曜日、2月13日(火) ※ただし、2月12日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般 1,600(1,400)円 / 大学生・専門学校生1,300(1,100)円 / 高校生 800(600)円 / 65歳以上 1,000(800)円
※2月21日(水)、3月21日(水・祝)はシルバーデーにより65歳以上の方は無料。当日は混雑が予想されます。