日本美術の入門編にピッタリの展覧会が来春開催 『名作誕生-つながる日本美術』記者発表会レポート
美術雑誌『國華』をご存じだろうか。1889(明治22)年10月に日本近代美術の祖、岡倉天心、高橋健三らによって創刊され、現在も刊行を続ける世界最古の美術誌だ。日本美術や東洋美術を研究し、精巧に印刷された美しい大判の図版を用いて優れた作品を紹介してきた。そんな日本美術・東洋美術研究の第一線を担ってきた同誌の創刊130周年を記念して、2018年春に特別展『名作誕生-つながる日本美術』が開催される。本展に先駆けて開かれた報道発表会から、その見どころを紹介しよう。
日本美術の入門編にピッタリ
本展は全体を通じて、さまざまな“つながり”に焦点を当てた展示構成となっている。
重要文化財 伝薬師如来立像 奈良時代・8 世紀 奈良・唐招提寺蔵(撮影:森村欣司、提供:奈良国立博物館)
重要文化財 伝衆宝王菩薩立像 奈良時代・8 世紀 奈良・唐招提寺蔵 (撮影:森村欣司、提供:奈良国立博物館)
第1章「祈りをつなぐ」では、人々の信仰がつないだ仏教美術の名作を紹介。古代から中世へと受け継がれた仏像や仏画、説話画が並ぶ。
重要文化財 四季花鳥図屛風 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀 京都国立博物館蔵 【展示期間:4月13 日~5月6日】
続く第2章は「巨匠のつながり」。雪舟、宗達、若冲の3人の巨匠を取り上げ、それぞれの代表作に垣間見える“つながり”を探る。
伊勢物語図屛風 江戸時代・17 世紀 三重・斎宮歴史博物館蔵
第3章「古典文学につながる」では、『伊勢物語』『源氏物語』の場面を想起させるモチーフに着目。古典文学の名作から生まれた意匠が美術作品にどのように反映されていったのかを見ることができる。
そして最終章「つながるモチーフ/イメージ」では、既存の名作から継承された技法や型を、新たな解釈や手法で昇華させた名作を紹介する。
各章はさらに詳細なテーマにわけられ、全12テーマの切り口で名作たちの“つながり”が紐解かれる。約120件という出品作品はざっと見ただけでも、仏教美術に始まり、水墨画、やまと絵、工芸、近代洋画と、ジャンルはもちろん、時代も地域も超えたものばかり。それぞれの名作は別の作品、あるいは別の作者による作品との“つながり”から生まれているというのだから、日本美術の入門編としても楽しめそうだ。もちろん、日本美術好きにとっても新たな気づきを与えてくれるだろう。
雪舟、若冲ら巨匠作品に見出す「つながり」
なかでも、期待が高まるのは第2章「巨匠のつながり」だ。
水墨画の巨匠、雪舟は中国とのつながりが深い。雪舟が活躍した室町時代は、中国絵画の人気が高く、中国絵画を模倣して学ぶことは稀ではなかった。雪舟も多分に漏れず、南宋時代の名画家、夏珪(かけい)や玉㵎(ぎょくかん)の倣古図を残している。
重要文化財 四季花鳥図 呂紀筆 中国・明時代・15 ~16 世紀 東京国立博物館蔵 【展示期間:4月13日~5月6日】
さらに雪舟の画風に大きな影響を与えたのが、47歳で明に渡った経験だ。足かけ3年の滞在中に中国絵画のさまざまな技法を吸収し、中国絵画の過去の名作に学ぶだけでなく、同時代の画風も取り入れているという。《四季花鳥図屛風》(室町時代・15世紀、京都国立博物館蔵)はその顕著な例だとのこと。明時代の花鳥画の典型作品だという呂紀(りょき)の《四季花鳥図》(中国・明時代・15~16世紀、東京国立博物館蔵)と比較してみると、どちらも岩や木の枝、鳥などのモチーフが重なり合い、複雑な空間構成になっている。
重要文化財 仙人掌群鶏図襖 伊藤若冲筆 江戸時代・18世紀 大阪・西福寺蔵
近年人気の奇才の巨匠、伊藤若冲も中国絵画を模倣した一人。その一方で、若冲は既存の自作を模倣しながら、新たな作品を生み出してきた。本展では、そんな自己模倣の一つとして、初期作《雪梅雄鶏図》(江戸時代・18世紀、京都・両足院蔵)や代表作《仙人掌群鶏図襖》(江戸時代・18世紀、大阪・西福寺蔵)を取り上げ、若冲の鶏の描写に注目する。
《仙人掌群鶏図襖》には、若冲が多数描いた水墨画の影響が見てとれるとのこと。水墨画にも描かれたような楕円や三角形に単純化された鶏の身体は金地に映え、荒っぽいタッチの「C」の字の形をした尾羽や鶏の視線は画面にリズムや動きを生んでいる。過去に描いた鶏のポーズや形を取り入れながらも、単なる模倣にとどまらず進化しているのだ。
見返り美人図 菱川師宣筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
国宝 八橋蒔絵螺鈿硯箱 尾形光琳作 江戸時代・18 世紀 東京国立博物館蔵 【展示期間:4月13 日~5月6日】
このように、本展では名作と名作に影響を与えた作品を見比べながら、そのつながりを見ていくことで、作品に対する理解を深めることができる。名作誕生の美術的背景を知ることで、これまで「点」だった美術鑑賞が「線」となってつながっていくのは、かなりエキサイティングな体験になりそうだ。
『名作誕生-つながる日本美術』は、2018年4月13日(金)から5月27日(日)まで東京・上野の東京国立博物館 平成館で開催。巡回はしないとのことなので、この名作鑑賞の機会をお見逃しなきよう。
会期:2018年4月13日(金)~5月27日(日)
前期展示は4月13日~5月6日、後期展示は5月8日~5月27日
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:9:30~17:00(金・土曜日は21:00まで、日曜・祝日は18:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月30日は開館)
http://meisaku2018.jp/