さユりが過去最大規模のワンマンライブで明かした、自身にとっての“空白”と曲を作り歌う理由

レポート
音楽
2017.12.27
さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

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夜明けのパラレル実験室2017 ~それぞれの空白編『       』~ 2017.11.24 TOKYO DOME CITY HALL

さユりが11月24日にTOKYO DOME CITY HALLにて開催したワンマンライブ「夜明けのパラレル実験室2017 ~それぞれの空白編『       』~」。1stアルバム『ミカヅキの航海』を携えた全国ツアーおよび、9月に行った追加公演が即完売したこともあり、この日はその流れを汲む、いわば再追加公演的な位置づけのライブになるのかも?という憶測もしていたのだが、結果から言うとアルバムツアーとは演出も、おそらくはコンセプト自体も異なる、さユりの立つ新たな地平を印象付けるライブとなっていた。

思えば、ここ最近のインタビューで彼女が語っているような「他者(聴き手)との関わりを意識するようになったことで歌う意味が生まれた」という意識の変化が、ライブを観ることで感覚的に伝わってきた初めてのライブは、昨年の同時期に開催された『夜明けのパラレル実験室 in新宿 ~ここに宣戦布告編~』だった。きっと「夜明けのパラレル実験室」と銘打ったワンマンライブには、“実験”の名の通り、それまでと違った何かを打ち出していこうとする意志が込められているのだろう。

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

とはいっても、目指す方向性やライブそのものの在り方がガラッと違っていたわけではない。
演出面でいえば、透過スクリーンをステージと客席の間に貼り、そこと背後のスクリーンに別々のモチーフを投影することで立体的な映像と、実際にそこに立つさユりとが巧みに融合を果たす――といったブラッシュアップされた箇所は多々あったものの、あくまでこれまでの流れを踏襲しながらより洗練させていたという印象。パフォーマンス面でも、客席とのコミュニケーションが格段に増えたとか、シンガロングやコールがガンガン巻き起こるようになったとか、そういうハッキリと目に見える変化は見られなかった。
それよりも、曲順を含めた全体の構成やMCのいれ方、そこで彼女が話すトーン、その内容といった些細な変化を積み重ねることによって、ライブ全体の印象が以前とは違ったものになった――という方が近い。曲が終わるごとに沸き上がる歓声以外は、さユりの一挙手一投足と言葉の一つひとつを逃さず受け止めんとばかり、ジッと食い入るようにステージを見つめ続けていた3000人のオーディエンスたちにも、その変化はきっと感覚として伝わっていたのではないだろうか。

例えば、新曲を3曲もやったという事実や、これまでのライブでは終盤に配されることの多かった彼女のスタートラインを象徴する曲「ミカヅキ」を冒頭から披露したり、「光と闇」「プルースト」あたりのシングルのカップリング曲も交えるなど、ツアー時とはセットリストを大きく組み替えていた点。「平行線」や「アノニマス」あたりのライブアンセムぶりがより際立ち大きなリアクションを生んでいたこと。ときに突き放すような鋭さを帯びたシリアスな演奏と歌唱。この日のさユりから感じ取れた変化やその兆しは数多くあったわけだが、とりわけ筆者の印象に残り、これまでの彼女のライブを観るごとに味わっていた感覚の答え合わせのようでもあったのは、ライブのサブタイトル「それぞれの空白」について触れた、終盤のMCだった。

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

彼女にとっての空白とは埋まらない何かや失くしてしまったもの、もう手に入らないものであること。それは過去や今にあるもので、誰にでも平等に訪れる未来に対して感じるものではないということ。自分だけが失くしてしまったと感じる、まわりと比べて欠けている何かだということ。
さユりにとっての空白とは何なのか、彼女はそんな言葉で説明してくれた。それはとても大事なもので、ここに集まった一人ひとりの感じる空白がこのライブの色になるのだ、とも。そしてさらにこう続けた。

「あと百年もすれば、たぶんここにいる全員がいなくなって、違う形になって、宇宙を漂うでしょう。今、『私』っていう形で何ができるんだろう? 何をしたいって思うだろう? ここにいる一人ひとりは、どんなふうに光るんだろう? そんなことを思いながら、私は曲を作ったり、歌を歌ったりしています」

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

ああ、そうか。彼女のライブを観るたびに訪れる、胸の奥底の何かを撃ち抜かれるような感覚の正体は、聴き手一人ひとりの色んな形をした空白を、自身の空白とずっと対峙してきた彼女の歌が浮き彫りにし、共振し、埋めていくことで生まれていたんだ。2次元と3次元が織り混ざるようなパラレルな演出や、コンセプチュアルな部分も彼女の魅力であることは間違いないが、さユりの本質は、その空白から生まれ空白に作用することのできる、歌と言葉である――そのことが初めて言語化され、はっきりと理解できた瞬間であった。そうして歌われたのは「十億年」。この楽曲が描き出す「巨大な巨大な奇跡」は、いつにも増して得難いものとして響いたし、間違いなくこの日のハイライトであった。

本編をアルバムのラストを飾る「birthday song」で締めくくった後、アンコールで一人だけで透過スクリーンのこちら側に登場したさユりが、マイクを通さずにアコギと生声だけで届けた、「夜明けの詩」。これまでもライブの最後を飾ることの多い楽曲を、物理的にも精神的にもこの日のレパートリーの中で一番聴き手との距離が近い“生身”で歌い上げる姿から、これまでに増してぬくもりを感じたことも記しておきたい。

デビューから1stアルバムのリリース、そしてそこからの一連のツアーをさユりの第1幕とするならば、「月と花束」リリースで幕を開ける2018年からの第2幕へ向けたインターリュードとも言えるこの日のライブは、彼女の次なる航海へ向けた指針であり、同時に大いなる期待を抱かせる進水式であった。


取材・文=風間大洋 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

さユり 撮影=北村勇祐 -Yusuke Kitamura-

リリース情報
6thシングル「月と花束」
2018年2月28日発売
 
《初回生産限定盤》CD+DVD
CD
1. 月と花束
2. 未定①
3. 未定②
DVD
月と花束 MV(フルレングスver.)
《特典》
①全面箔三方背BOX仕様
②酸欠少女キャラカード(数種の中からランダム封入)
価格:\ 1,574+税
BVCL-857~858
 
《期間生産限定盤》CD+DVD
CD
1. 月と花束
2. 未定③
3. 月と花束-アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」EDver.-
DVD
アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」-ノンクレジットED映像-
《特典》
① 「Fate/EXTRA Last Encore」描き下ろしアニメジャケットデジパック仕様
②   アニメ「Fate/EXTRA Last Encore」キャラカード数種封入
価格:\ 1,481+税
BVCL- 860~861
 
《通常盤》CD
1. 月と花束
2.  未定④
《初回仕様限定 特典》
酸欠少女キャラカード(数種の中からランダム封入)
価格:\926 +税
BVCL-859
 
※ c/wは3形態全てで違う楽曲を収録

 

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