平田オリザ、大阪の会見で青年団公演『さよならだけが人生か』&城崎移転について語る

インタビュー
舞台
2018.1.7
平田オリザ(青年団) [撮影]吉永美和子(人物すべて)

平田オリザ(青年団) [撮影]吉永美和子(人物すべて)


「最も何も起こらない、最も筋らしい筋のない、最も私らしい作品です」

劇団の本拠地を兵庫県・城崎(豊岡市)に移すことを、今年の夏に発表したばかりの青年団。主宰で作・演出家の平田オリザも2019年春には城崎に転居し、これまでの創作活動と並行して、同市の演劇教育などにも深く関わっていくという。そんな青年団が、1992年に発表し、劇団の知名度を一躍上げる記念碑的作品となった『さよならだけが人生か』を再々演。「青年団史上最もくだらない人情喜劇」という本作の全国ツアーを前に、平田オリザが大阪で会見を行った。

まず会見の冒頭「せっかくお集まりいただいたので、まだ東京のマスコミ陣も知らないスクープを……」と切り出してから、この日の午前中に長男が生まれたことを報告した平田。その時は「できるだけ普通の名前にしたい」と話していたが、結局は「国破れて山河あり」の詩で有名な中国の詩人・杜甫にちなんで「とほ」と命名したことを、後日自身のフェイスブックで明かしていた。

本作初演は、劇団本拠地の[こまばアゴラ劇場]を初めて飛び出し、当時の若手劇団の登竜門的な劇場だった[シードホール]にて上演。遺跡が発見されたために作業がストップした工事現場の飯場に、工事の作業員や発掘に駆り出された学生などの様々な人々が出入りし、何ともダラダラした会話を展開していく。平田が提唱する「現代口語演劇」と「同時多発会話」の妙を駆使した群像会話劇であると同時に、当時は「平田オリザ版、明るい『ゴドーを待ちながら』みたいなイメージで書いた作品」だったという。

青年団『さよならだけが人生か』東京公演より ©青木司

青年団『さよならだけが人生か』東京公演より ©青木司

私の初期の作品の中ではにぎやかで、そして最も何も起こらない、最も筋らしい筋のない、最も私らしい作品と言えます。このタイミングで再々演を行うのは、再演に耐えうる作品を、あるローテーションでずうっと再演を続けているので、そういう意味では“順番だから”としか言いようがないです。唯一最もらしい理由をつけるとすれば、最近とみに政治の季節が続いて、若い作家たちの作品も、すごく直接的に政治を描いた作品が多い。その気持ちはわかるんだけど、それではつまらないと思っていて。だからできるだけ、何もない作品をぶつけようと思ってこれを選んだ、という所はあります。今回の上演では、(今回出演する)俳優に合わせて稽古場で台詞を変えたし、演出もずいぶん変えまして。(先に行われた)東京公演では“こんなに笑うシーンがありましたっけ?”とよく言われるほど、笑いあふれる上演となりました。92年の初演は相当荒削りだったと思うので、今回が完成版みたいな感じがあります

初演時には、この上演をきっかけに観客の動員が一気に倍増し、平田の口を借りると「今に到る、最初のとば口を開いた作品」となった。しかし2000年の初めての再演の時には、公演中止が検討されるほどの事件に巻き込まれた、いわくつきの作品でもある。

青年団の初のアメリカツアー中に“ゴッドハンド”の事件(旧石器捏造事件)が毎日新聞にスクープされまして。ツアーの直後にこの作品を再演することが、すでに決まっていたのですが、どう見ても世間では“あの事件があったから、これを作ったんだろう”と思われるぐらいの感じになっていたので、公演中止にするかのミーティングを行ったぐらい悩みました。結局は、その事件に触れた台詞をちょっと足して上演したんですが、今回(の再々演では)その部分は全部なくしています

一見益体もない会話の中から、転勤や恋愛などの、人間の様々な「さよなら」の形が浮かび上がってくるという本作。その中ではあえて謎のまま残される謎もあるが、そういったことの答や、隠されたメッセージなどに関しては「観る人にお任せしたい」と語る。

遺跡……考古学という人類の長い歴史のスパンの中で、人間はそういう出会いと別れを繰り返してきたという重構造になってます。その中で謎が残るので、2人以上で観に来たら、必ず“あれは何だったんだ?”と話さざるをえない作品です。ヨーロッパの劇場とかフェスティバルの一つのミッションというのは、その国の社会的な課題について、答を出したり、イデオロギーを伝えるような作品ではなく、“あれは何だったんだ?”という議論になるような作品を提供することなんです。僕も常にそういう作品を作りたいと思いますし、その答や本作のテーマなどはお客様が考えることだと思います。それが話せないとしたら、その人は(上演中)寝てたってことですね(笑)」。

平田オリザ(青年団)

平田オリザ(青年団)

また演劇界を騒然とさせた劇団の城崎移転の方も、現在の状況やその理由について以下のように話してくれた。

東京は消費の場所であり、創造の場所ではないので。創造する場所は首都にある必要はないと思うし、創作のことだけを考えると地方に移転した方が、じっくり作品に取り組めると思います。また豊岡市は学校で演劇を用いた教育が実施されていますし、県立のアートと観光の大学創設の計画も進んでいるという状況。ここでなら演劇のシステムに関しても実験的なことをさせていただけるし、東京では絶対にできない、エディンバラやアヴィニヨン並みの国際演劇祭も地理的に可能なので、世界と戦えるという気がします。城崎移住を希望する劇団員は思った以上にいて、劇場や稽古場の話も具体化してきたので、19年から20年には本格的に移転する予定です。また[こまばアゴラ劇場]に関しては、オーナーとしては(私が)そのままなんですけど、まずは評議委員会を作って、そこから芸術監督を指名するという形にしようと。あと3年ぐらいで(劇場の)借金が全部なくなるので、そこから他の人にお任せしたいと思っています」。

この劇団移転も含めて、2018年も話題を振りまいてくれそうな平田オリザ青年団。疑いようのない自信作で、2018年のスタートダッシュを飾ることになりそうだ。人情喜劇の裏に隠された別れの数々、現代社会が抱える問題、そして最後まで語られない謎。その自分なりの回答の発掘に、劇場で挑戦してみてほしい。

取材・文=吉永美和子

公演情報
青年団第76回公演『さよならだけが人生か』
 
《長野公演》
■日程:2018年1月13日(土)・14日(日) 
■会場:長野市芸術館 アクトスペース

 
《埼玉公演》
■日程:2018年1月20日(土)・21日(日) 
■会場:富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ マルチホール

 
《兵庫公演》
■日程:2018年1月26日(金)~29日(月) 
■会場:アイホール(伊丹市立演劇ホール)
※一部前売完売の回あり。詳細は劇場サイトでご確認を。

 
《愛媛公演》
■日程:2018年2月2日(金)・3日(土) 
■会場:西条市総合文化会館 大ホール舞台上舞台

 
《香川公演》
■日程:2018年2月6日(火)~8日(木) 
■会場:四国学院大学 ノトススタジオ

 
■作・演出:平田オリザ
■出演:山内健司、小林智、太田宏、石橋亜希子、荻野友里、小林亮子、立蔵葉子、森内美由紀、石松太一、伊藤毅、井上みなみ、小瀧万梨子、佐藤滋、前原瑞樹、串尾一輝、藤松祥子、大村わたる、寺田凜
■公式サイト:http://www.seinendan.org
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