『神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展』レポート 膨大なコレクションから、ヨーロッパ史上最強のオタクの謎に迫る!

レポート
アート
2018.1.24

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『神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展』(会期:2018年1月6日〜3月11日)が、東京・Bunkamura ザ・ミュージアムにて開幕した。

プラハに宮廷を構え、神聖ローマ帝国の皇帝として君臨した、ハプスブルク家のルドルフ2世(1552-1612)。芸術や科学、占星術とあらゆるジャンルに興味を示した彼は、“稀代のコレクター”としても知られている。なかでも膨大な数を誇る約3,000点の絵画作品をはじめ、最高水準の芸術作品と珍奇な品々で構成された壮大なコレクションは、プラハの宮廷に独自の文化を花開かせた。

ヨーロッパ史上“最強のオタク”の誕生

15世紀に幕を開けた大航海時代。ヨーロッパでは領土の拡大のみならず、コロンブスの新大陸の発見、マゼランの世界一周航海といった未知への探索が行われ、世界地図が大きく広がりを見せた時代でもあった。さらに、17世紀になると、望遠鏡による天体観測が始まる。ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)が地動説を唱えるなど、人々の関心は宇宙や星々へと、ますます拡張を広げていった。

そんな世界の広がりに呼応するように、ルドルフ2世はコレクションという独自の手法を用いて、森羅万象を手の内に収めようとしていた。第1章「拡大される世界」では、彼の飽くなき好奇心と情熱が、作品を通して垣間見える。

ルドルフ2世の宮廷専属の数学者として仕えていた、ヨハネス・ケプラーが作成した《ルドルフ表》

ルドルフ2世の宮廷専属の数学者として仕えていた、ヨハネス・ケプラーが作成した《ルドルフ表》

本章の見どころは、ルーカス・ファン・ファルケンボルフによる《バベルの塔の建設》だ。「バベルの塔」といえば、旧約聖書の「創世記」に記された物語。元々ひとつの言語を話していた人間が、あるとき神の逆鱗にふれ、70の言語と民族に分裂したという悲劇のストーリーだ。また、「バベルの塔」は、ネーデルラントで活躍した画家、ピーテル・ブリューゲルによる傑作をはじめ、16世紀のヨーロッパで画家たちによって盛んに描かれた代表的なモチーフでもある。

右:ルーカス・ファン・ファルケンボルフによる《バベルの塔の建設》

右:ルーカス・ファン・ファルケンボルフによる《バベルの塔の建設》

当時、世界中からあらゆるものを収集していたルドルフ2世にとって、コレクションとは、単に自身の好奇心を満たしたり歴史の表層をなぞるためのものではなく、より深いテーマを孕んでいたのではないだろうか。拡大される一方で、侵略によって分断されていく地図を眺めながら、世界をひとつに統合し、平和を希求する強い意志が秘められていたのかもしれない。

コレクションの中でも、圧倒的な数を誇る絵画作品

第2章「収集される世界」と第3章「変容する世界」では、ルドルフ2世が最も寵愛した画家のひとりであるジュゼッペ・アルチンボルドをはじめ、花の静物画の先駆者として才能を発揮したヤン・ブリューゲル、動植物画を得意としたルーラント・サーフェリーなど、皇帝のコレクションのメインテーマとなった一流画家たちの重要作品が一挙公開されている。

ヤン・ブリューゲル、ルーラント・サーフェリーによる花の絵画作品

ヤン・ブリューゲル、ルーラント・サーフェリーによる花の絵画作品

なかでも目を引くのは、ジュゼッペ・アルチンボルドによる《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》だ。巡りゆく季節、基本元素、物の変転を司る神・ウェルトゥムヌスが描かれた寓意的な絵画は、森羅万象を統べる主として、ルドルフ2世への讃辞が込められた最高傑作である。アルチンボルドは植物や動物、魚などの生き物から、本や日用品などを自在に組み合わせて人物像をつくり上げる名手であった。それゆえに、この奇想天外ともいえる構図には、さまざまなトリックが隠されていて、見る者の好奇心を大きく揺さぶってイメージを喚起してくれる。

右:ジュゼッペ・アルチンボルド作《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》

右:ジュゼッペ・アルチンボルド作《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》

また、こちらでは、馬の愛好家として知られていたルドルフ2世のために描かれたルーラント・サーフェリーの作品群も必見だ。サーフェリーは、ルドルフ2世がプラハ城内外につくった動物園や植物園の記録係を担う画家であった。

ルーラント・サーフェリー 《動物に音楽を奏でるオルフェウス》 1625年、油彩・キャンヴァス、プラハ国立美術館、チェコ共和国 The National Gallery in Prague

ルーラント・サーフェリー 《動物に音楽を奏でるオルフェウス》 1625年、油彩・キャンヴァス、プラハ国立美術館、チェコ共和国 The National Gallery in Prague

この時代の絵画全般に言えることだが、サーフェリーの作品は写実的な技法で描かれながらも、一枚の絵のなかにアレゴリーやシンボル、さらに神話の世界など、抽象表現が無数に閉じ込められている。

ルドルフ2世は、新しい帝都に神話やキリスト教に根差した知の体系を打ち立てるには、絵画によって全体を総括するのがもっとも適していると考えていた。サーフェリーの絵画からは、「広大な世界を小さな絵のなかにいかに凝縮して描き込むか」というテーマに心血を注いでいた、皇帝の知性と情熱が伝わってくるようだった。

 
ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン作《ルドルフ2世の治世の寓意》

ディルク・ド・クワード・ファン・ラーフェステイン作《ルドルフ2世の治世の寓意》

占星術や錬金術への興味がうかがえる、“驚くべき部屋”

本展の結びとなる「驚異の部屋」では、鉱物、貴石、貝殻などをモチーフにした美しい工芸品の数々を紹介している。

会場風景

会場風景

数万点に及ぶルドルフ2世のコレクションは、絵画をはじめ版画や天文道具、工芸品に至るまで様々だが、それらは決して無秩序に集められたのではなかった。総体としてひとつの世界を、宇宙を捉えようとしていた彼にとって、優れた品々を収集すると同時に、それらを分析して自然や宇宙を解明しようという壮大な試みでもあったのだ。

ドイツ語で「ヴンダーカマー」と呼ばれていた、“驚くべき部屋”をモチーフにしたこの特別室。収集品の分析や解釈の手がかりとして、魔術や占星術、錬金術などの知識が求められていたためか、実に神秘的な空間となっている。

展示会場の後半では、現代美術作家、フィリップ・ハースの作品展示も!

展示会場の後半では、現代美術作家、フィリップ・ハースの作品展示も!

“収集の時代”と呼ばれていた16〜17世紀の西欧宮廷社会において、ハプスブルク家の“スーパー・オタク”、ルドルフ2世の右に出る者はいなかった。本展では、稀代の皇帝が集めてきたコレクションの一部、彼の旺盛な知識欲や世界への飽くなき探究心、さらには子どものような遊び心や好奇心を、ぜひ追体験してほしい。

イベント情報
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展

日時:2018年1月6日(土)〜3月11日(日)2月13(火)のみ休館
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
開館時間:10:00-18:00(入館は17:30まで) 毎週金・土曜日は21:00まで(入館は20:30まで)
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_rudolf/

 
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