TVアニメ『ピアノの森』メインピアニスト連続インタビューvol.4~シモン・ネーリング(レフ・シマノフスキの演奏を担当)
シモン・ネーリング
NHK総合テレビにて2018年4月8日より放送中のTVアニメ『ピアノの森』が話題を呼んでいる。一色まことの同名漫画作品をアニメ化した本作は、森に捨てられたピアノをおもちゃ代りにして育った主人公の一ノ瀬海(カイ)が、かつて天才ピアニストと呼ばれた阿字野壮介や、偉大なピアニストの父を持つ雨宮修平などとの出会いの中でピアノの才能を開花させていき、やがてショパン・コンクールで世界に挑む姿を描く、感動のストーリーである。
TVアニメ「ピアノの森」PV ©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
さらに、このアニメに登場するクラシックピアノ曲は、世界で活躍する気鋭のピアニストたちが各キャラクターの役を担いつつ実際の演奏に参加している。阿字野壮介の演奏には反田恭平、雨宮修平には髙木竜馬、パン・ウェイにはニュウニュウ、レフ・シマノフスキにはシモン・ネーリング、そしてソフィ・オルメッソンにはジュリエット・ジュルノーと、それぞれのキャラクターの出身国と雰囲気に合せながら、高い実力と人気を兼ねた若手ピアニストたちが"メインピアニスト"として起用されている。
TVアニメ「ピアノの森」ピアニスト紹介VTR ©一色まこと・講談社/ピアノの森アニメパートナーズ
SPICEでは、この"メインピアニスト"たち5人に焦点をあてたインタビューを連続リレー企画として掲載してゆく。その第4弾として登場するのは、ショパンの故郷ポーランドで現在最も注目を集める若手トップ・ピアニスト、シモン・ネーリングである。2017年ルービンシュタイン・ コンクール優勝者であり、2015年ショパン・コンクールのファイナリストでもある。アニメではポーランドの新星として期待を集めるレフ・シマノフスキの演奏を担当する。
――ピアノとの出会いについてお教えいただけますか?
「5歳からピアノを始めたので、その当時のことはあまりよく覚えていませんが、これまでの人生でピアノはつねに私と一緒でした。ピアノは一台でオーケストラのような役割を果たすこともできますし、歌手のように歌うこともできます。私にとってピアノは、世の中で想像しうる、もっとも美しい音色を持つ楽器なのです」
――そんなピアノが与えてくれたものとは?
「ピアノそのものというより、ピアノを通して音楽にたくさんのものを与えてもらいました。私には、音楽のない人生がまったく想像できないのです。一日でもピアノを弾かなかったり、音楽を聴かなかったりすると、身体の調子が悪くなるくらい(笑)。音楽はまず第一に、はかり知れない喜びを与えてくれます。それから、多くの方々との素晴らしい出会いをもたらしてくれます。まったく初対面の音楽家であっても、2時間くらい充実したリハーサルができれば、もう何年も知っているような感覚を持つことができるんですよ。そして音楽のおかげで、私はいろいろな土地へ旅することができます。旅は趣味でもありますが、ここ2年ほど本当に多くの演奏旅行をし、その経験が私を大きく変えました」
――ショパン・コンクールは、やはりピアニストにとって特別な場ですか?
「多くのピアニストにとって、夢であることは確かでしょう。ライバルと競い合って勝ち抜き、自分の夢を達成する場。ショパン・コンクールに限らず、世界的なコンクールとはそういうものです。私もかつてはそうでしたが、18~19歳くらいの頃から意識が変わり、コンクールは競い合う場ではないと考えるようになりました。ですから20歳でショパン・コンクールに参加したときも、今の自分が持っているものを聴衆の方々と分かち合う場のように感じていましたね。一次予選の前日は一晩中眠れなくて、そんなことは私の人生で初めてというほど強いストレスがありましたが、聴衆は私の音楽のすべてを敏感に聴き取ってくれましたし、ファイナルでのオーケストラとの共演も非常に意義のある瞬間でした。コンクールの結果はほとんど関係なくて、それとは別次元の充実した気持ちを味わっていたのです」
――今回、レフ・シマノフスキとして演奏するにあたり、意識したことは?
「レフというキャラクターに、どこか親しみを感じました。私自身、ショパン・コンクールから2年あまりの月日が過ぎて、あのときステージ上で一体なにが起きていたのか、当時よりはっきりと理解できている気がしています。そうして振り返ったとき、自分にもレフと同じような感情があったのではないかと思うんです。経験の少なさからくる子どもっぽさというのでしょうか、決して悪いものではないのですが。そうしたレフへの気持ちと、作品そのものに対する私の解釈を通して演奏しました」
――最後にご覧になるみなさんへメッセージを。
「大きなコンクールであっても、少人数のために弾くささやかな演奏会であっても、音楽はつねに等しく大切な存在です。ですから競争の手段としてではなく、喜びや楽しみをもたらしてくれるものとして、音楽に触れていただけたらと思います」
シモン・ネーリング Szymon Nehring (レフ・シマノフスキ):
1995年ポーランドに生まれる。クラクフのF.ショパン中等音楽学校でオルガ・ラツァルスカに11年間にわたり学び、2013年よりビドゴシュチュの音楽院でステファン・ヴォイタス教授のもとで学び、現在米国イェール大学にてボリス・ベルマン教授に師事している。2014年若手ピアニストのためのアルトゥール・ルービンシュタイン・イン・メモリアム国際コンクールで優勝。2015年クリスティアン・ツィマーマン奨学金を授与された。第17回フレドリック・ショパン国際ピアノコンクールではファイナリストとなり、聴衆賞を始めとする数々の栄誉ある賞を授与された。2017年にはアルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクールで第1位に輝き、ベスト・ショパン・パフォーマンス賞を始めとする多くの賞を手にした。ポーランドの作曲家による作品を収めた彼のデビューCDは、2016年度フレドリック賞(ソロリサイタル‐年間アルバム部門)をポーランド録音協会から授与された。2016年にはショパンのピアノ協奏曲第1番、2番をユレク・ディバウ、そしてクシシュトフ・ペンデレツキ指揮のもと、シンフォニエッタ・クラコヴィアと共に、さらにクシシュトフ・ペンデレツキのピアノ協奏曲《復活》を指揮者自身の指揮で録音している。最新録音はピリオド楽器(エラート1858)を用いてのショパン作品の演奏を収めたCDとなっている。将来を嘱望される次世代のポーランドのピアニストである。