『トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美』記者発表会レポート チューリップを通して知る、トルコの文化と歴史

レポート
アート
2018.11.28

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2019年3月20日(水)〜5月20日(月)の期間、東京・六本木の国立新美術館で『トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美』が開催される。イスタンブルのトプカプ宮殿博物館の所蔵品より、16世紀から19世紀における約170点もの至宝が来日する本展。展示物の約9割が日本初公開という、またとない機会となっている。以下、記者発表会の様子と共に、見逃したくない展示の内容を紹介する。

2019年はトルコ文化年 文化交流の促進への期待

駐日トルコ共和国大使館 特命全権大使 ハサン・ムラット・メルジャン閣下

駐日トルコ共和国大使館 特命全権大使 ハサン・ムラット・メルジャン閣下

記者発表会は、まず駐日トルコ共和国大使館 特命全権大使 ハサン・ムラット・メルジャン閣下の挨拶から始まった。閣下は開催の喜びと期待を語りながら、トルコと日本は、地震などの自然災害や国難の時に助け合うことができる、ゆるぎない友好関係が確立していることを主張。その上で自身が大使として課されているのは、「互いの文化を理解する機会を、より多く設けること」であるとし、「トルコの美しさや文化を日本に届けつつ、富士山や日本人の心の美しさをトルコに紹介したい」と熱弁、文化交流にかける野望を示した。

国立新美術館長 青木保氏

国立新美術館長 青木保氏

次に国立新美術館長 青木保氏が登壇。青木氏は「トルコと日本の関係性はずっと良好だった。2019年はトルコ文化年であるし、このタイミングで展覧会が開催されるのは大変嬉しい」と語り、本展にあたっての喜びを示した。2019年は、日本でトルコの文化や芸術を紹介するさまざまなイベントが開催されるトルコ文化年だ。本展によってトルコと日本の文化交流は、ますます促進されることだろう。

トルコの歴史と文化に迫る キーワードは「チューリップ」

国立新美術館 学芸課企画室長 有木宏二氏

国立新美術館 学芸課企画室長 有木宏二氏

過去に日本で開催されたトルコに関する展覧会の展示物は宝飾品が主だったが、2010年以降、宝飾品の類の至宝をトルコ国外に出すのが難しくなったのだという。そうした状況の中で、本展は「チューリップ」が主題に据えられている。

トプカプ宮殿のチューリップ

トプカプ宮殿のチューリップ

これまでに開催されたトルコに関する展覧会の中でも、チューリップにまつわる作品はあったが、チューリップに大きくスポットを当てたものはなかった。しかし実は、チューリップはトルコを語るにおいて、なくてはならない存在である。というのも、トルコでのチューリップの名称「ラーレ」は、もともと「赤い花」という意味だったが、綴りを組み替えると「アッラー」という神の名となる。また、逆から読むと、トルコの国旗のシンボルである「ヒラール(三日月)」という言葉にもなるのだ。つまり、チューリップは神、またはトルコという国そのもの、もしくは両方を示す重層的なシンボルだと考えられる。今回チューリップに着目することは、トルコの歴史と文化を知ることでもあるのだ。

左:現在のトルコの国旗 右:オスマン帝国旗

左:現在のトルコの国旗 右:オスマン帝国旗

トルコの歴史の中で、アフメト3世の治世である18世紀に「チューリップ時代」が到来。チューリップは高騰し、家一軒と同じ価値を持つ球根もあったそうだ。今回、チューリップが描かれたアフメト3世の施水場の模型を見ることができる。また本展では、トプカプ宮殿のさまざまな空間を国立新美術館の中で再構成している点も見どころのひとつ。

《スルタン・アフメト3世の施水場 模型》1893年

《スルタン・アフメト3世の施水場 模型》1893年

アフメト3世のフルーツの間

アフメト3世のフルーツの間

トルコの人々は、チューリップを屋外で楽しむだけでは飽き足らず、室内にも持ち込んだ。今回はチューリップを愛でるための華やかな花器も出品される。細くたおやかな茎に鮮やかな花を頂くチューリップを引き立てる花器を鑑賞し、そこに挿されていたはずの見えないチューリップを想像するのも面白い。その他、メッカの方向を示す宗教的な道具も出品されるが、土台にチューリップが描かれており、使っていた人が花と共に神を連想していたことがうかがえる。

チューリップの花器、左3点が18世紀の作品、右2点が19世紀の作品

チューリップの花器、左3点が18世紀の作品、右2点が19世紀の作品

メッカの方向を示すための道具

メッカの方向を示すための道具

かつては2,000種類もの品種を誇ったチューリップも、今は1割程度の品種しか残っていないという。チューリップはイランなどにもあるが、主に文学の中で扱われているそうだ。一方、トルコにおけるチューリップは絵画的に扱われることが多いため、タイルや絵画などの美術の中に、今は存在しない珍しいチューリップの姿を発見できる。チューリップを主題にした絵においては、人物表現の平面性や空間の余白(間)の取り方など、どこか日本の美術に似た要素を見出すこともできるだろう。

《タイル》16世紀

《タイル》16世紀

《花の書》18世紀後半

《花の書》18世紀後半

レヴ二 細密画 18世紀前半

レヴ二 細密画 18世紀前半

トルコと日本 菊とチューリップの友好関係

本展では、明治天皇がアブデュル・ハミト2世に捧呈した大勲位菊花大綬章のほか、1890年にトルコ海軍の軍艦が和歌山県串本町沖で座礁・沈没した海難事故の際、義援金をトルコへ持参した山田寅次郎(実業家、後に茶道宗徧流の第8世家元)に関わる品々や、また山田寅次郎を介してアブデュル・ハミト2世に収められた日本の家具や陶芸などの工芸品なども紹介される予定だ。本展には数々の名品が集まるだけでなく、より深くトルコと日本の関係性を示す、かつてない展示内容となっている。

《大勲位菊花大綬章》スルタン・アブデュル・ハミト2世時代(1876-1909)

《大勲位菊花大綬章》スルタン・アブデュル・ハミト2世時代(1876-1909)

今回、日本未公開の展示物が集結している理由のひとつは、チューリップを主題にして作品を取り揃えている点だろう。ひとつのコンセプトで展示を見せるには、それにまつわる品を収集する必要があるが、チューリップという切り口で約170点もの作品が一堂に会する展示は、今回を逃すとなかなか目にすることができないはずだ。トルコ文化年を迎える2019年、東京展の後に京都にも6月より巡回する。是非お見逃しなく。

イベント情報

トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美
会期:2019年3月20日(水)~2019年5月20日(月)
休館日:毎週火曜日
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
展覧会サイト:https://turkey2019.exhn.jp/
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