ノゾエ征爾が三島由紀夫のエンターテインメント小説に挑む! 東啓介主演『命売ります』が開幕

レポート
舞台
2018.11.25
「命売ります」舞台写真 (公式提供)

「命売ります」舞台写真 (公式提供)

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人間は多面体である。見えている一面だけで、その人物のすべてを語ることはできない。三島由紀夫の作品についてもそうであろう。「三島文学」といえば、耽美的で流麗な文体、内省的で人間の業の深淵をのぞき込むような内容が特徴で、悲劇性の強いものとして語られることが多いが、それが三島文学のすべてではない。それを強烈に教えてくれるのが、この「命売ります」という三島の長編小説だ。題材こそ、死にたいと願う青年といういかにも「三島らしい」主人公だが、それを娯楽性の高いユーモラスな文体で軽やかに描いており、これもまた三島文学なのか、と驚かされる作品だ。

「命売ります」舞台写真 (公式提供)

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この三島による、生と死をテーマにした“エンターテインメント小説”が、近年脚本家・演出家として活躍目覚ましいノゾエ征爾により舞台化され、2018年11月24日(土)から12月9日(日)までサンシャイン劇場にて上演される。

脚本・演出・出演のノゾエ征爾、出演の東啓介上村海成から届いた初日コメントと、開幕に先立ち行われたゲネプロの様子をお伝えする。

開幕初日オフィシャルコメント

◆脚本・演出 警官役 :ノゾエ征爾

三島由紀夫の驚きのパンクな小説。を演劇化したらこんな風になったと、別に奇をてらったようなことは何もしていませんが、ともかく面白な原作に面白な役者が乗っかったらこんなんになりました。

◆羽仁男役 :東啓介

三島由紀夫でありながらノゾエさんの脚本・演出で、とてもエンターテインメントな作品に仕上がっていると思います。
山田羽仁男という人物が愛されるよう、僕はひたむきに演じていきます。
キャスト、スタッフ全員で作り上げてきましたので、是非劇場でご覧ください!

◆薫役 :上村海成

「半分、青い。」等、最近やらせていただいた役とかなり違うタイプの役柄で、しかも初のストレートプレイなのでとてもドキドキしていますが精一杯演じます!お客様に観ていただくのがとても楽しみです!


「死のう」と思い立ち自殺を試みるも未遂に終わった羽仁男(はにお)は、「命売ります」という新聞広告を出す。すると訳ありげな怪しい男女がつぎつぎに現れ、様々な目にあわされるうちに、羽仁男の心にも変化が現れていく……。

「命売ります」舞台写真 (公式提供)

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「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

テンポよく進むストーリー、次から次へと登場する強烈なキャラクター、そしてやはり三島らしいロマンティックな展開に引き付けられる見事なエンターテインメント作品だが、それと同時に「生」と「死」に対する人間の欺瞞、「愛」の複雑性、そしてデカダンスを気取っていた男の行く末が、人間らしい切実さを持って描かれている。

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

今舞台は、PARCOが2018 PARCO PRODUCE “三島 × MISHIMA”シリーズとして上演する第二弾で、どこまでが現実で、どこまでが夢なのか、その境界線があいまいになっていく様は、先に上演された第一弾の『豊饒の海』にも共通する部分だ。自分が蝶になった夢を見たのか、それとも自分は蝶が見ている夢なのか、という夢と現実について説いた荘子の話を思い出させるものがあり、夢と現実、そして自己と他者の間には、実ははっきりとした境目はない、と三島は考えていたのかもしれない。そして、自分の命を買った人のために、死に向けてその命を燃やす日々を送る羽仁男が、次第に生きる意味に目覚めるという皮肉な話の中に、生きることとはすなわち死ぬことであり、生と死の境目などない、という三島の美学が込められているのではないだろうか。

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

しかし人はその境目で思い悩む。現実がままならないことを嘆き、他者が自分のことを理解してくれない、受け入れてくれないと絶望する。そんなことで思い悩む境地から脱すること、それが三島の理想としたところなのだろう。その境地でもがき苦しむ人間の愚かさを、どこか突き放したような冷静さで描いた作品の中に、三島自身の苦悩も透けて見えるような気がした。

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

ノゾエの演出は、エンターテインメント性を無理に押し出すことはせず、むしろ小説に描かれている一つひとつのドラマを写実的に見せる方法を取った。努めてデフォルメしてとにかく笑いを取る方向に持っていくという選択肢もあったはずだが、そちらに走らなかったのは大きな決断だろう。三島の「多面体」というべきこの小説の姿を、一義的に抑え込むことなく立体的に舞台上に立ち上げて見せている。

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

「命売ります」舞台写真 撮影:久田絢子

個性的なキャラクターたちに翻弄されていく主人公・羽仁男を、これがストレートプレイ初挑戦となった東啓介が舞台のうねりに身を任せて柔軟に演じている。物語が進むにつれ羽仁男が“必死”に“生きる”姿が悲哀を帯びて見る者の胸に迫ってくる。前半に彼がまとっていた真っ白なスーツが後半変化していく様にも注目だ。羽仁男の命を買いに来る高校生を演じる上村海成が、純真さと残酷さを併せ持つ美の象徴のような存在感を放つ。最初に羽仁男の命を買いに来る老人を演じる温水洋一、その老人の妻を愛人にしている男を演じる不破万作、羽仁男に間貸しする女を演じる馬渕英里何、吸血鬼の女を演じる樹里咲穂ら、羽仁男を取り巻く登場人物がいずれも芸達者で個性際立つキャラクターを生き生きと演じており見ごたえがある。

取材・文・撮影(一部)=久田絢子

公演情報

2018 PARCO PRODUCE “三島 × MISHIMA”『命売ります』 
 
■原作:三島由紀夫
■脚本・演出:ノゾエ征爾
■美術:深沢襟
■照明:吉本有輝子
■音楽:田中馨
■音響:井上直裕(atSound)
■衣裳:駒井友美子
■ヘアメイク:西川直子
■演出助手:神野真理亜
■舞台監督:榎太郎
■企画:田中希世子
■プロデューサー:藤井綾子
■製作:井上肇
■企画製作:株式会社パルコ
■出演:
東啓介 上村海成 馬渕英里何 莉奈 樹里咲穂 家納ジュンコ
市川しんぺー 平田敦子 川上友里 町田水城 ノゾエ征爾 不破万作 温水洋一 
 
■公演日程 :2018年11月24日(土)〜12月9日(日)
■会場 :サンシャイン劇場
■入場料金 :S 席 8,500 円 A 席 7,000 円(全席指定・税込)
■問合せ :パルコステージ 03-3477-5858(月~土 11:00~19:00 日・祝 11:00~15:00)
■公式サイト:http://www.parco-play.com/web/play/inochi/​
 
<大阪公演>
■公演日程:2018年12月22日(土)
■会場: 森ノ宮ピロティホール
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