モネ《睡蓮、柳の反映》が初公開 数奇な運命をたどった傑作たちが集結する『松方コレクション展』、記者発表会レポート
クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
『国立西洋美術館開館60周年記念 松方コレクション展』が、2019年6月11日(火)〜9月23日(月・祝)まで、東京・上野の国立西洋美術館にて開催される。開館60周年を記念した本展では、名高いゴッホ《アルルの寝室》や、2016年に発見されたモネの《睡蓮、柳の反映》などが出展。国内外に散逸した名品も含めた作品約160点や歴史資料とともに、時代の荒波に翻弄され続けた「松方コレクション」の100年に及ぶ航海の軌跡をたどる。3月5日(火)に開催された記者発表会より、本展の見どころを紹介しよう。
「松方コレクション」とは?
松方幸次郎 写真提供:川崎重工業株式会社
「松方コレクション」とは、神戸の川崎造船所(現・川崎重工業株式会社)を率いた実業家・松方幸次郎が1910年代半ばから1920年代半ばにかけて、ロンドンやパリなどで買い集めた西洋の絵画や素描、版画、彫刻、装飾芸術品などからなるコレクション。現在では、特にモネやマネ、ゴーガン、ゴッホ、ロダンなど、近代フランス美術の優品で知られている。
松方には、「日本に最初の西洋美術館を作る」という明確な目標があり、画家や研究者の助けを得て、3,000点にのぼるコレクションを築いた。また、パリで買い戻した浮世絵約8,000点も加えれば、その総数は1万点に及ぶ。
フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
しかし、関東大震災とそれに続く昭和金融恐慌のあおりを受け、1927年に川崎造船所が経営破綻に陥ったことから、松方の美術館建設計画は頓挫し、コレクションも散逸していく。すでに日本へ到着していた1,000点以上の美術品は債権者によって売り立てられ、ロンドンの倉庫に預けていた約900点も1939年の火災で焼失。一方、パリで保管されていた約400点は、第二次世界大戦末期、フランス政府に敵国財産として接収されるが、戦後、日仏政府間交渉の末、一部を残して375点の「松方コレクション」が日本政府へ寄贈返還されることになった。これを保管展示するための美術館として1959年、国立西洋美術館が設立されたのだ。
リュシアン・シモン《墓地のブルターニュの女たち》 1918年頃 水彩・グアッシュ、紙 国立西洋美術館(松方コレクション)
「幻のコレクション」とも呼ばれる松方コレクションだが、ロンドンで焼失した作品のリストや、行方知れずであったモネの大作《睡蓮、柳の反映》の発見など、近年の調査によってその全容が現れ、新たな注目が集まっている。
世界に散逸した名作の数々が、夢の再会
ジョヴァンニ・セガンティーニ《羊の毛刈り》 1883-84年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
8つのセクションと、プロローグ・エピローグからなる本展は、「松方コレクションとは本来どのようなものだったのか」「松方コレクションはどのように形成され、散逸したのか」というふたつのテーマによって構成されている。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》 1872年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
国立西洋美術館所蔵の作品に加えて、国内外に散逸していた松方コレクションの旧蔵品も出品。常設展示でおなじみの作品はもちろんのこと、それ以外の作品も多く集まるという。また、修復後のモネ《睡蓮、柳の反映》のほかにも、修復作品が複数出品される。さらに、こうした美術作品とともに、歴史的資料も紹介。松方がどのような場所や画廊、人々との交流の中で作品を集めて、散逸せざるを得なかった理由などを、時間軸に沿って紹介する。
時代を生き抜いたコレクションが歩んだ、激動のドラマ
クロード・モネ《睡蓮》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
展覧会の冒頭では、松方コレクションの象徴的存在である、モネの《睡蓮》を紹介。こちらは、《睡蓮、柳の反映》とともに、1921年に松方がモネのアトリエを訪れて購入したもの。国立西洋美術館の常設展ではおなじみの作品で、他館への貸出しも極力控えているのだという。
展示前半では、第一次世界大戦のさなかにあったロンドンを拠点に、松方が美術品の収集を始めた当時の足取りを追う。松方コレクションは、多くの専門家や批評家の助けを借りながら作られた。画家であるフランク・プラングィンら強力な助言者を得た松方コレクションは、まずはイギリス美術や工芸を中心として急速に成長し、やがて美術館構想へと発展する。
オーギュスト・ロダン《考える人》 1881-82年 ブロンズ 国立西洋美術館(松方コレクション)撮影:上野則宏
美術館設立という明確な目標を定めた松方は、やがて近代彫刻の父・ロダンの作品収集へ向かう。1918年にはパリのロダン美術館とも契約を結び、大作《地獄の門》を含め、最終的には50点を超える彫刻作品を入手して、世界有数のロダン・コレクションを築いた。こうしたロダンの作品を中心に、ブールデルやダルデらの彫刻作品も紹介する。
ゴッホやゴーガン、ルノワールなど、近代美術の華やかな重要作も出展
フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》 1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館 Paris, musée d'Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo (C) RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
展示後半では、松方コレクションが飛躍の時を迎えたパリ滞在から、第二次世界大戦に至るまでの日々を追う。1921〜1922年にかけて、パリの数々の画廊で次々と重要作品を購入し、コレクターとしての名を知らしめた松方。この時期には、モネのほかにもルノワールやゴーガン、ゴッホといった、近代美術の重要作を多数購入している。ここでは、ゴッホ《アルルの寝室》やモネ《舟遊び》なども出品され、本展の中でも特に華やかなセクションとなっている。
クロード・モネ《舟遊び》 1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
ポール・ゴーガン《扇のある静物》 1889年頃 油彩、カンヴァス オルセー美術館 Paris, musée d'Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo (C) RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の女》 1891年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
松方はその後、コペンハーゲンの実業家であるウィルヘルム・ハンセンのコレクションから34点の重要な近代絵画の入手にも成功。国内外の公共・個人コレクションに入って現在もその重要な核となっているこれらの作品群から、マネ《自画像》やドガ《マネとマネ夫人像》など、10点も出展される。
エドゥアール・マネ《自画像》 1878-79年 油彩、カンヴァス 石橋財団ブリヂストン美術館/石橋財団アーティゾン美術館
エドガー・ドガ《マネとマネ夫人像》 1868-69年 油彩、カンヴァス 北九州市立美術館
モネの大作《睡蓮、柳の反映》が、修復を経て初公開
エピローグでは、2016年に破損した状態で発見され、国立西洋美術館に寄贈されたことで大きな話題となったモネの大作《睡蓮、柳の反映》が、現存部分の修復を経て初公開される。また、ロダン美術館の礼拝堂に保管されていた時代の松方コレクションのうち、348点を撮影したガラス乾板が2018年に発見され、本展ではそのうち10点前後が展示される予定だ。
クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》 1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
世界に名を馳せつつも、時代の荒波のなかで散逸、焼失、接収と苦難の歴史を歩んできた松方コレクション。数奇な運命をたどった傑作たちの足取りを、ぜひ本展で目の当たりにしてみてほしい。
イベント情報
〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7
※7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開館。