タイを舞台にした、MONO流の時代劇『アユタヤ』公演、主宰の土田英生が会見~「いろいろな人がお互いを大切にする“現代のユートピア”を探したいです」
MONO本公演『アユタヤ』作・演出を務める、劇団主宰の土田英生。
劇作家・演出家の土田英生が率いる、京都の劇団「MONO」。昨年は、劇団結成30周年記念公演の最後を飾る『その鉄塔に男たちはいるという+』を、新型コロナウイルスの自粛の嵐をかいくぐり、無事に全公演をやり遂げるという快挙を見せた。そして今年も、年に一度の劇団本公演を、大阪・広島・東京の3都市で実施する。
日本のどこかに実際にありそうな場所で起こる、複雑な人間模様を描く作品が多いMONOだが、『アユタヤ』はかつてタイに実在した、日本人の街が舞台の時代劇だ。いろんな立場の人間が、分断することなく暮らせる「ユートピア」は可能か? という問いを、幸せなムードで描くという本作について、土田がオンライン会見を行った。
MONO『アユタヤ』公演チラシ。
戦国時代~江戸時代初期には、多くの日本人が東南アジアに渡り、フィリピンやベトナムなどの国に、日本人の街を築いていた。その中でも最も規模が大きくて、現地の政治を動かすほどの力を持っていたのが、タイ・アユタヤ(当時アユチア)の日本人街だ。今回はその街の片すみで暮らす、様々な出自の老若男女の人間模様を描くという。
「弥生時代の日常を描いた『裸に勾玉』(2016年)が、僕のお芝居の中ではケレン味があり、しかも現代につながる話になったということで、すごく手応えを感じたんです。またそういう話がやれるような舞台を探していた時に、鎖国が始まるまでは、アジアのいろんな所に日本人が移住していたことを知って。その中でもタイ……当時のシャムロ(注:日本では「シャム」の呼称が一般的)では、アユタヤ王朝の庇護のもとで日本人街が栄えて、特に山田長政という人は、関ヶ原や大坂の陣で流れ着いた侍たちと日本人部隊を作って、階級的に最高位にまで行ってるんです。ただその後毒殺されて、日本人街も焼き払われてしまうんですが。
江戸時代の時代劇だけど、舞台が海外なので、チャンバラがあるわけではなく、いろんな出自の人たちがそこに集まり、関係を結び、苦境を乗り越えていくという話です。僕はMONOで芝居を作る時は、差別とか、排他的になっていく状況とか、そういったものを描くことが多いけど、この新型コロナの一年があって、そういう話を書くのが嫌になってしまって。これだけ辛い状況で暮らしていると、誰かが死ぬのも、人の心の襞(ひだ)や闇とか、そういったことも描きたくない。舞台上ぐらいは幸せなものが見たいという気持ちに、非常になりました。劇団員と話していても、今はやっぱり、多少ベタでも幸せなドラマを演じたい……というようなことを感じます」
ZOOMで会見中の土田英生。
大坂の陣の後に落ち延びた武家の一家、現地で商売をする商人や職人、そこに出入りするベトナム人などの間で、立場や考え方の違いからいろんな問題が発生。それを少しずつ皆で解決していく中で、一つのドラマが生まれていくという。その影響を受けたのが、90年代のアメリカで大ヒットしたTVドラマ『フレンズ』という意外なエピソードが?!
「大学時代にハマったことがあったんですけど、自粛期間中にまた全部観ちゃって。今とは全然違って幸せな、ユートピアのようなアメリカが描かれていて、それは参考になりました。山田長政殺害などは話の中では出てくるけど、舞台上では大きな不幸は起きないし、最後に裏切り者が出ることもない。小さな摩擦を、みんなでちょっとずつ乗り越えていくという話になってます。
それぞれのキャラクターも、一人ひとりに大きな特徴があって、違いがハッキリしている所も、『フレンズ』的にしたというか。だから今回は、タイを舞台にした、江戸時代のMONO版『フレンズ』ですね(笑)。シリーズ化してほしいくらいです」
2020年の本公演『その鉄塔に男たちはいるという+』より。 [撮影]谷古宇正彦
とはいえ、土田が先に述べたように、コミュニティの中で起こりうる「差別」や「分断」を描き、それがいかに解決する(しない)のかを見せるのは、MONOの永遠のテーマといえるもの。今回もまた、深刻な形にはならないものの、そこかしこで反映されているという。
「たとえば『同じ日本人じゃないか』『俺たちはトランプ派だろ』という感じで、会ったこともないけれど、属性が同じというだけで人を大切にするのって、すごく滑稽だと思うんです。たとえ意見が違っていても、自分が実際に触れ合って、お互いに心を許したり砕きあった人を大事にしたいと、この自粛期間を経てすごく思いました。他者に対する想像力、自分と違う属性の人に対して思いやる力が欠如してきている世の中だけど、『アユタヤ』はいろんな属性の登場人物たちが、お互いを大切にし合う話にしたい。
現代の中で僕たちは、どうしたらユートピアを感じられるのか? という答を探していると思うんですけど、僕は目に見える範囲の人間関係を盤石にすることが、一番のユートピアじゃないか……と感じるんです。今回は“現代の中でユートピアを探す”というモチベーションで書いています」
MONO劇団員。(前列左より)奥村泰彦、土田英生、高橋明日香、金替康博。(後列左より)尾方宣久、渡辺啓太、石丸奈菜美、水沼健、立川茜。
現在京都で、絶賛稽古中のMONO。「パワハラのない演劇環境を実現したい」と、今京都を騒がせている某劇団主宰を皮肉るようなコメントをする一方で、今現在新型コロナによって「分断」されつつある劇団が存在していることを案じている。
「コロナに対する反応や距離感は人それぞれだけど、劇団内でそれが違うと非常にもめて仲が悪くなるという話を、知り合いから聞きました。そういう具体的な事実だけじゃなくて、心理的な問題や、人間関係の問題でお芝居が作れない状態も出てきていると。それにすごくおびえたけど、MONOは誰も“こんな時だから公演をやめよう”とも言わないし、幸せなことにまったく摩擦はないです。稽古場も以前と雰囲気は変わってないですが、演出席はアクリル板に囲われてます。僕がよくしゃべるからという理由で(笑)」
共同体や社会が抱える普遍的な問題を描きつつも、アメリカのシットコムドラマばりの、ハッピーなムードの世界を目指すという、今回のMONO。ツアーでめぐる都市が例年より少ないのは寂しいが、大阪・東京公演ではライブ配信を実施する。10シーズンも続いた『フレンズ』のように、シリーズ化が望まれる作品が生まれるのか? 期待しながら観てみよう。
『アユタヤ』作・演出の土田英生。
取材・文=吉永美和子
公演情報
■作・演出・出演:土田英生
■出演:水沼健、奥村泰彦、尾方宣久、金替康博、石丸奈菜美、高橋明日香、立川茜、渡辺啓太
《大阪公演》
■日時:2021年2月17日(水)~21日(日)
■会場:ABCホール
《広島公演》
■日時:2021年2月26日(金)・27日(土)
■会場:JMSアステールプラザ 多目的スタジオ
《東京公演》
■日時:2021年3月2日(火)~7日(日)
■会場:あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター)
■問い合わせ:075-525-2195(キューカンバー)
■公式サイト:https://c-mono.com/stage/