太子ゆかりの寺宝が過去最大規模で一挙公開 特別展『聖徳太子と法隆寺』報道発表会レポート
特別展『聖徳太子と法隆寺』報道発表会
冠位十二階や憲法十七条などの政治制度を整え、仏教を中心とした国づくりを行なった聖徳太子。太子が創建した法隆寺の寺宝を中心に、聖徳太子と太子信仰の世界に迫る特別展『聖徳太子と法隆寺』が奈良国立博物館(会期:2021年4月27日〜6月20日)と東京国立博物館(会期:2021年7月13日〜9月5日)にて開催される。
聖徳太子1400年遠忌記念 特別展『聖徳太子と法隆寺』ポスター(チラシ)ビジュアル
両会場合わせて国宝約40件、重要文化財約90件の出品を予定する本展では、最も有名な太子の肖像や遺品と伝わる宝物、古代染織美術の傑作や飛鳥時代を代表する金銅仏など、貴重な文化財が一堂に会する。
国宝《灌頂幡》(部分) 飛鳥時代 7世紀、東京国立博物館蔵(法隆寺献納宝物)、奈良展・東京展ともに通期展示
法隆寺に関する展覧会は過去にも何度か開催されてきたが、「特に今回は100年に1度の大遠忌ということから、質量ともに過去最大規模のものになっている」と、東京国立博物館副館長・井上洋一氏は語る。また、和の精神を唱えた太子その人に焦点をあてた本展について、法隆寺管長・古谷正覚氏は「あらためて聖徳太子というお方を再認識していただき、太子への思いを何か感じていただければと思っております」とコメントを寄せた。
法隆寺管長 古谷正覚氏
各会場で一部異なるテーマを扱った展覧会の構成にも注目したい。奈良国立博物館では、法隆寺東院伽藍にある絵殿より、太子の伝記を絵画化した国宝《聖徳太子絵伝》が出品される。一方、東京国立博物館では東院伽藍にある舎利殿に着目し、太子信仰の中心であるご本尊《南無仏舎利》を展示。どちらも各会場でしか見られない特別な機会となっている。
開幕に先立ち、2月25日に行われた報道発表会より、本展覧会の見どころを紹介しよう。
法隆寺
太子や法隆寺ゆかりの宝物が勢ぞろい!
全5章からなる本展の第1章「聖徳太子と仏法興隆」には、御物(皇室の所有品)である法華義疏(ほっけぎしょ)をはじめとした聖徳太子ゆかりの宝物が登場する。
本章には、三尊形式で描かれた最も有名な太子像《聖徳太子二王子像》や、太子自らが書いたと伝わる法華経の解説書(法華義疏)など、貴重な御物が集う。東京展を担当する東京国立博物館 学芸研究部主任研究員・三田覚之氏は「太子の肖像は、奈良時代には聖徳太子が仏に等しい方として認識されていたことをよく示す画像。法華義疏は非常に素早い筆跡で書かれているのが特徴で、太子の人柄をしのばせている」と解説した。
《聖徳太子二王子像》(模本) 狩野養信筆 江戸時代 天保13年(1842)、東京国立博物館蔵、東京展のみ通期展示
聖徳太子の実像に迫る上で重要な作品《夾紵棺断片(きょうちょかんだんぺん)》も見逃せない。夾紵棺は、古墳時代の終末期に作られた高級な棺であり、通常は麻布を漆で貼り重ねて作るものだそう。しかし、本展で出品される棺の断片は、絹を45層も重ねている豪華な作りで、これまでの調査研究から太子の棺である可能性が指摘されているとのこと。
《夾紵棺断片》 飛鳥時代 7世紀、大阪・安福寺蔵、奈良展・東京展ともに通期展示
ほかにも、太子に重用された飛鳥時代の仏師・鞍作止利(くらつくりのとり)を中心とした止利派の代表的な金銅仏が本展で揃い踏みするなど、見どころの多い章になりそうだ。
重要文化財《菩薩立像》 飛鳥時代 7世紀、奈良・法隆寺蔵、奈良展・東京展ともに通期展示
第2章「法隆寺の創建」では、太子が建てた最初の伽藍と考えられている若草伽藍から出土した作品も含めて、法隆寺創建期の美術作品が出品される。若草伽藍から発見された《蓮華文鬼瓦》は、日本に残されている最も古い鬼瓦として貴重な作品だという。
次に、「我が国に伝来する最古の染織作品として重要なもの」と三田氏が紹介したのは、国宝《天寿国繡帳(てんじゅこくしゅうちょう)》(東京展前期展示のみ:会期7月13日〜8月9日)。本作は、聖徳太子が死去後に、太子が往生した天寿国という浄土の姿を見たいという橘妃の願いを受け、推古天皇の勅命によって作られたとされる帳(カーテン)の断片である。
国宝《天寿国繡帳》 飛鳥時代 622年頃、中宮寺蔵、東京展のみ前期展示
さらなる本章の見どころについて、三田氏は「第2章では、唐時代の中国における錦の最高傑作として世界的に有名な《四騎獅子狩文錦(しきししかりもんきん)》や、飛鳥時代に作られた蜀江錦(しょっこうきん)という、非常に鮮やかな飛鳥時代ならではの赤地の経錦など、古代染織美術の重要な作品を展示します」とコメント。色鮮やかな染織品の数々を通して、法隆寺の荘厳美術を楽しみたい。
絵殿と舎利殿の世界
法隆寺の伽藍は夢殿のある東院と、五重塔や金堂のある西院に分かれていて、かつて太子の住んでいた斑鳩宮の跡地に東院が建てられた。ここには、太子ゆかりの宝物が奈良時代以来集められ、太子を供養する殿堂として守り伝えられてきたという。
東院伽藍において、太子信仰のなかで重要なものが、夢殿の後ろにある「絵殿」と「舎利殿」という二つの建物だ。絵殿には聖徳太子絵伝を、舎利殿には太子信仰の中核である仏舎利を祀っている。第3章「法隆寺東院とその宝物」では、両会場で異なるテーマを取り扱い、奈良の展示会場は絵殿の世界を再構成し、東京会場では舎利殿の世界を中心に展開する。
国宝《観音菩薩立像》(夢違観音) 飛鳥時代 7~8世紀、奈良・法隆寺蔵、奈良展のみ通期展示
奈良会場では、絵殿のご本尊である国宝《観音菩薩立像(夢違観音)》と共に、国宝《聖徳太子絵伝》を公開。太子の伝記絵である本作は、法隆寺東院絵殿の内壁を飾っていた10面からなる障子絵であり、奈良国立博物館において全面を一挙公開する(奈良展前期展示のみ:会期4月27日〜5月23日)。
国宝《聖徳太子絵伝》第1面 (部分) 秦致貞筆 平安時代 延久元年(1069)、東京国立博物館蔵(法隆寺献納宝物)、奈良展のみ前期展示
一方、東京会場では、法隆寺東院舎利殿のご本尊である《南無仏舎利》がお出まし。《南無仏舎利》は、聖徳太子が2歳の2月15日に「南無仏」と唱えたところ、手のひらからこぼれ落ちたという仏舎利が、水晶の五輪塔の中に祀られているもの。
また「東院の舎利殿は、聖徳太子ゆかりの宝物を集める収蔵庫的な役割も担っていて、その中でも重要なものとして “七種の宝物” というものがある」と三田氏。これまで個別に展示されたことはあるが、本展ではすべての宝物が一挙集結するとのこと。太子信仰のなかで重要な位置を占める宝物は、ぜひ会場でチェックしてみてほしい。
第3章では、聖霊会(聖徳太子を讃える儀式)にも注目する。なかでも大会式(だいえしき)は、10年に1度行われる大きな儀式で、《南無仏舎利》と《聖徳太子坐像(七歳像)》を神輿に乗せて御運びするもの。本章では、大会式の様子も各会場で再現される。華やかな法要の雰囲気を間近に体感したい。
重要文化財《聖徳太子坐像(伝七歳像)》 平安時代 治暦5年(1069)、奈良・法隆寺蔵、奈良展のみ通期展示
バリエーション豊かな太子信仰
第4章「聖徳太子と仏の姿」では、太子の姿をあらわした代表的な作品とともに法隆寺に伝わった仏教絵画の名品を紹介する。平安時代になると、聖徳太子を救世観音の生まれ変わりとみる信仰が生まれ、太子自身も中心的な信仰の対象となった。その代表作が、太子の500年遠忌に制作された国宝《聖徳太子および侍者像》だ。
国宝《聖徳太子および侍者像のうち聖徳太子》 平安時代 保安2年(1121)、奈良・法隆寺蔵、奈良展・東京展ともに通期展示
「太子像にみる近寄りがたいほどの深淵な面持ちとは対照的に、周囲の侍者像は、それぞれに誇張を交えながらユーモラスな表情を見せる点が見どころ」と解説するのは、奈良国立博物館 学芸部主任研究員・山口隆介氏。本像は平安時代後期における太子信仰の高まりを背景に制作された傑作であり、この度27年ぶりに寺外での公開が叶い、その姿を間近に拝することができる極めて貴重な機会とのこと。
鎌倉時代になると、新しい姿の太子像が次々に生み出されていく。2歳の太子が釈迦入滅の日に東方を向いて合掌し「南無仏」と唱える姿をあらわした “二歳像” や、16歳の太子が、父・用明天皇の病気平癒を願い、柄香炉を手に祈りを捧げる姿をあらわした “孝養像”、太子が推古天皇の摂政になった壮年期の姿をあらわすとされる “摂政像” など、「バリエーション豊かで、太子信仰の広がりがうかがえる」と山口氏は語る。
本章では、さまざまな太子の姿や平安・鎌倉時代の仏教絵画を通じて、多様な信仰世界を垣間見ることができそうだ。
飛鳥時代を代表する国宝《薬師如来坐像》は必見!
法隆寺金堂は、7世紀後半に建てられた世界最古の木造建築として知られる。第5章「法隆寺金堂と五重塔」の一番の見どころは、金堂東の間に安置される国宝《薬師如来坐像》が公開されることだ(両会場にて通期展示)。
国宝《薬師如来坐像》 飛鳥時代 7世紀、奈良・法隆寺蔵、奈良展・東京展ともに通期展示
山口氏は、本像の展示について以下のように説明する。
「薬師如来坐像は、口元に微笑みを浮かべた神秘的な顔立ちや、文様的な裳懸座(もかけざ)に飛鳥時代の様式美があらわれた傑作。明治8年に東大寺大仏殿で開催された『第一次奈良博覧会』への出陳が知られるが、これまで寺外へのお出ましはほとんどありませんでした。お寺では金堂内陣に恭しくお祀りされているが、本展では間近に拝することができる、またとない機会。少なくとも平安時代後期以降、脇侍として祀られてきた二躯の観音菩薩像と共に、かつての安置の様子を再現します」
会場には、金堂内陣の四隅を守護する四天王像から、広目天と多聞天の両像も展示される。日本最古の四天王像として有名な作品であり、「厳しい眼差しを持ちながらも、動きの少ない静謐な姿や、恭しく天王を背に乗せる邪鬼の姿は極めて独特」と山口氏は言う。内陣の後方に祀られることから、普段は拝観の難しい両像とじっくり向き合える絶好の機会だ。
国宝《四天王立像 多聞天》 飛鳥時代 7世紀、奈良・法隆寺蔵、奈良展・東京展ともに通期展示
金堂の隣に位置する五重塔からは、法隆寺の “泣き仏” として著名な塔本塑像が出品される。五十塔の初層内部には、釈迦の伝記をあらわした塔本塑像と呼ばれる群像が安置されていて、特に釈迦の入滅を悲しむ羅漢の姿は、迫真性に富む傑作として知られている。本章では、羅漢をはじめ菩薩像や侍者像など、代表的な11体の像を展示。法隆寺の祈りの世界を心ゆくまで堪能したい。
国宝《塔本塑像 羅漢坐像》 奈良時代 和銅4年(711)、奈良・法隆寺蔵、奈良展・東京展ともに通期展示
特別展『聖徳太子と法隆寺』は、2021年4月27日から6月20日まで、奈良国立博物館にて開幕。その後、7月13日から9月5日まで、東京国立博物館へ巡回予定。