秋田勇魚(クラシックギター)インタビュー~リサイタル『L‘atelier ISANA-合縁奇縁-』で魅せるギター×チェロの可能性
秋田勇魚(C)Takafumi-Ueno
180センチを超える長身で、2016年のミスター慶應SFCファイナリストだったという秋田 勇魚(あきた・いさな)。フランスをこよなく愛し、アルビ国際ギターコンクール優勝、台湾国際ギターコンクール審査員特別賞、イーストエンド国際ギターコンクール第2位・聴衆賞など数々の輝かしい受賞歴をもつ、今、聴きたい新進気鋭のクラシック・ギタリストだ。秋田は、昨秋、フランス・パリでの留学を終え、日本での活動を本格的にスタートさせた。来る2021年11月19日(金)、銀座 王子ホールで行われる『秋田勇魚 ギターリサイタル《L‘atelier ISANA-合縁奇縁-》』は、彼の魅力を堪能するまたとない機会になるだろう。
今回のリサイタルのコンセプトは、クラシック・ギターとチェロがもつ可能性の追求。ゲストには、同い年のチェリスト笹沼 樹(ささぬま・たつき)を迎える。エネルギッシュな曲からしっとりとした詩的な作品まで、古今東西の多彩なレパートリーが並ぶ。秋田にリサイタルに向けた意気込みを訊いた。
ギターとチェロの対話を聞いて欲しい
――今回のコンサートは、『L'atelier ISANA(アトリエ勇魚)』というシリーズの一環ですね。このシリーズはどういったものなのでしょうか?
『L'atelier ISANA』は、クラシック・ギターの可能性を追求するコンサートシリーズです。第1回は歌とヴァイオリンとの共演、そして2回目は光がテーマでした。そして第3回目となる今回は、チェロとギターでお届けします。
――副題の「合縁奇縁」という言葉にはどういった想いが込められているのでしょうか。
共演する笹沼樹くんと僕は、同じ94年生まれの戌年で、ふたりとも長身! 日本コロムビアのレーベル、Opus One(オーパス・ワン)でのCDデビューも同期(2019年)で、そのお披露目コンサートが初めての共演でした。それまで、ギターとチェロという組み合わせで演奏した経験はほとんどなかったのですが、お互いのもっていない要素がうまく掛け合わさって、いい音楽が作れたと感じました。相性の良さを実感しましたし、二人でもっとギターとチェロでできることに挑戦したいと話しました。ですから、「合縁奇縁」という副題は、笹沼くんのことを念頭に付けたものです。
フランス留学中の「旅ギター」(ISANA AKITA YouTubeチャンネルで配信)スナップ
――プログラムはギターのソロ曲から始まりますね。
はい。「トッカータ・イン・ブルー」です。この曲は学生の時に優勝したコンクールで演奏しました。和音をエネルギッシュにかき鳴らす冒頭部分から始まって、ブルーノート調の勢いのあるパッセージで進んでいくカッコいい曲です。クラシック・ギターというと、「繊細な音」や「優しい音」というイメージをもたれがちですが、インパクトや鮮烈さをこの曲でまず打ち出していきたいですね。ソロ作品でも、「新しさ」や今までにない響きを追求したいという気持ちが強くあります。
――続く一曲は、ポンセの「主題と変奏と終曲」です。
ポンセは、数多くのクラシック・ギター作品を残したメキシコの重要な作曲家。彼の作品を据えることで、コンサートに軸を作りました。この作品は、クラシック・ギターの「オリジナリティ」を感じさせてくれます。この曲には、フラメンコのかき鳴らしやスペイン音楽に出てくるようなメロディの歌いまわしが実に効果的に使われています。フラメンコの要素を含みつつも、クラシカルなスタイルをもつ重厚な王道レパートリーを楽しんでいただきたいですね。
――そしてガラッと雰囲気を変えて、横尾幸弘「『さくら』による主題と変奏曲」が続きます。
日本の歌として親しまれている「さくら」をギターで演奏します。弦をはじいて音を出すという点で、ギターと琴は近い。この曲は、操作性や技術といったギターらしさもある作品です。特に音響にはこだわりました。ヤマハで開発されたトランス・アコースティック・ギターを使います。見た目は普通のクラシック・ギターと変わりありませんが、振動をコントロールする機械がボディに内蔵されています。楽器だけでリバーブをかけることができたり、アンプに直接つないで自然なギターの音色のまま音量をあげたりすることができます。ホールに、より自然なギターの音を響かせることができる革新的な技術だと思っています。
フランス留学中の「旅ギター」(ISANA AKITA YouTubeチャンネルで配信)スナップ
――どういった部分で、技術が活きてくるのでしょうか。
変奏曲には、桜の花びらが一枚ひらひらと落ちていく様子や、風に吹かれて何百枚、何千枚の花びらが落ちていく様子が描かれています。今までのアコースティック・ギターを使ったコンサートでは、耳を澄まして繊細な音を聞いていただいてきました。トランス・アコースティック・ギターを使うと、全身がクラシック・ギターのサウンドに包まれるという新しい経験を楽しんでいただけます。
――今回のコンサートでは、一曲一曲をこれまでとは全く違った楽しみ方で聞けそうですね。
そうですね。他にもキューバの作曲家のブローウェルの「黒いデカメロン」を演奏します。キューバの伝統的なリズムが印象的で、全く新しいグルーヴィーさを感じることが出来る一曲です。クラシック・ギターだからこそ、おいしいとこ取りするように、世界各国の曲をお届けしたいですね。
――コンサートの後半は、笹沼さんとの共演ですが、ギターとチェロの共演にはどういった魅力があるのでしょうか。
やはりギターとチェロが共演することでしかできない表現を聞いていただきたいです。ギターとチェロは音域が近く、音色にも似た部分があります。それぞれがメロディと伴奏の両方を担当することで、様々な可能性が開けていきます。一方的な関係にならない、対等な関係だからこそ、楽器が互いに語りあうような対話を生みだすことができるのです。そこが一番の魅力ですね。
フランス留学中の「旅ギター」(ISANA AKITA YouTubeチャンネルで配信)スナップ
――今回、初めて披露されるニャタリの「チェロとギターとのためのソナタ」は、どんな曲なのでしょうか。
ニャタリは、ギターの文化の中で育った作曲家ですから、ギターの使い方がすごく効果的です。ギターの音の中を、すーっと伸びていく、息の長いチェロのメロディ・ラインが美しい。どんどん世界が広がっていくような作品です。
――ピアソラの「オブリビオン」とフォーレ「パヴァーヌ」は、どちらも有名な曲ですが、ギターとチェロだからこその聴きどころはどういったところでしょう。
ギターとチェロという弦楽器の響きには、切ないけれども、どこか寄り添ってくれるような温かさがあります。どちらの曲も、切なさと温かさという感情を伝えられるギターとチェロには、うってつけの作品です。コンサートが行われるのは11月中旬。ちょっと感傷的になる季節だと思いますので(ギターとチェロの哀愁漂う音色に)入り込みやすいのではないかと思っています。
――他にも魅力的な作品が演奏されますが、一押しの曲はありますか。
「タンゴ・アン・スカイ」ですね。この曲は、クラシック・ギターを演奏したことのある人なら、必ず弾いたことがあるようなカッコよくて華やかな作品です。元々は、ギターのソロ曲なのですが、今回はチェロを足したデュオで演奏します。クラシック・ギターファンの方には、チェロが入ることで「こういう掛け合いができるんだ!」という、意外性のある味わいを楽しんでもらえると思います。
秋田勇魚(C)Takafumi-Ueno
パリでの留学と旅が教えてくれたこと
――ここからは、秋田さんのことを聞かせてください。慶応義塾大学ではどのようなことを学ばれていたのでしょうか。
「環境情報学部」というところです。名前だけで言うと理系なんですが、色々なことを自由に学べる環境でした。デザインや芸術思想を学ぶ授業など。フランス語も、もちろん取っていましたよ。
――そして大学を休学されて、パリに留学されましたね。
はい。3年間留学し、昨年10月に帰国しました。「ギターが上手くなりたい」というよりも、「好きな美術館やバレエ、オペラをたくさん観たい」という芸術全般への興味がありました。以前からフランスの食文化やライフスタイルにも興味があったんです。そういう環境で学生生活を送りたいなと思いパリを選びました。
――ヨーロッパで活動された三年間で、秋田さんのギター演奏はどういう変わってきましたか。
ヨーロッパ各地の講習会に行き、多くの刺激を受けました。例えば、イタリアのシエナ。夏の間、13世紀に建てられた宮殿で音楽アカデミーが開かれました。ルネッサンス時代の巨大な絵画が飾ってある部屋で朝から晩までレッスンを受けるんです。レッスン自体も本当に良い勉強になりましたが、そういった空間ではどういう表現があるべきかを考えさせられました。土地や環境から教えられることも大きかったですね。
フランス留学中の「旅ギター」(ISANA AKITA YouTubeチャンネルで配信)スナップ
――パリ留学中にはYouTubeチャンネルで「旅ギター」の企画を始められました。旅先の街や自然の中でギターを演奏されている姿が印象的でした。どういった背景で始められたのですか。
常日頃から自由な演奏の形があっていいと考えてきました。コロナ禍で人との距離を取らなきゃいけなくなりましたが、屋内ではなく誰もいない屋外で弾けばいいという発想から始めたものです。ヨーロッパだと外の風景も美しいし、綺麗な場所で撮ったらいいなと。楽器を持ってピレネー山脈にも登りましたよ(笑)。実は、この「旅ギター」でも先ほどお話ししたヤマハのトランス・アコースティック・ギターを使っています。あの楽器だからできた部分も大きいですね。
――最後に、コンサートを心待ちにされているお客様に向けて、メッセージお願いします。
『L'atelier ISANA』は、新しいクラシック・ギターの可能性を探る企画です。クラシック・ギターの新しい「色」を楽しんでもらいたいと思います。ぜひ、足をお運びください。
取材・文=大野はな恵
公演情報
C.ドメニコーニ:トッカータ・イン・ブルー
M.ポンセ:主題と変奏と終曲
横尾幸弘:「さくら」による主題と変奏曲
R.ニャタリ:チェロとギターとのためのソナタ *
A.ピアソラ:オブリビオン *
G.フォーレ:パヴァーヌ *
※曲目は変更になる可能性がございます。