THE ROB CARLTON新作『藤原HINOMOTO』ボブ・マーサム×村角ダイチ×満腹満×高阪勝之インタビュー~「日本らしさを生かした舞台で、このメンバーにできることを探りたいです」
THE ROB CARLTON『藤原HINOMOTO』出演者。(左から)満腹満、ボブ・マーサム(村角太洋)、高阪勝之、村角ダイチ。 [撮影]吉永美和子(人物すべて)。
京都を拠点に「限りなく喜劇に近い会話劇」を送り出し、2020年に結成10周年を迎えた「THE ROB CARLTON」(以下ROB)。最近はキャプテンのボブ・マーサム(作・演出は、本名の村角太洋名義)が「松竹新喜劇」の演出に抜擢されたり、メンバーの満腹満がNHK朝ドラ『おちょやん』にレギュラー出演を果たしたりなど、着実に活動の場を広げている所だ。
そんな彼らが、2年ぶりの新作『藤原HINOMOTO』を、昨年の10周年記念公演に引き続き[京都劇場]のプロデュースで上演。平安時代の貴族の遊戯「蹴鞠」をテーマに、雅にしてアクティブな会話劇を展開するという。ゲストは準レギュラーと言える高阪勝之(男肉 du Soleil)のみと、あえて少数精鋭で挑む新作について、ROBの3人(村角ダイチ、満腹、ボブ)と高阪に話を聞いた。
■会議モノだけど、ROBには珍しく動きが激しい。
──2018年の『SINGER-SONGWRITERS』で、長年の夢だった平安貴族の芝居を実現しましたが、今回も引き続き平安モノで行くのは、やはりこの設定に味をしめたのでしょうか?
ボブ これは劇場サイドから「ぜひ京都らしい、貴族モノの芝居で」と、リクエストがあったからです。でも平安貴族モノって、やっぱりあの衣裳を着ると、貴族のスイッチが入る面白さがありますからね。
高阪 キュッと伸びますよね、背中が。(注:高阪は『SINGER-SONGWRITERS』にも出演)
ボブ そうそう。普段よくやってる英国貴族モノだと、そうはならない。言っても普通のスーツを着てるだけっちゃあ、着てるだけなので。平安貴族のコスチュームは大きな袖があって、独特の所作とかが入ってくるから、だいぶ変わります。
ダイチ 流れてるDNAがね、ワナワナと……。
ボブ ジャパニーズDNAが。ただ侍のDNAはよく聞くけど、平安貴族のDNAってあまり聞いたことがない(笑)。
『SINGER-SONGWRITERS』(2018-2019年)では、古今和歌集を編纂する貴族たちの会話を描いた。 Photo Toru Imanishi
──そこで蹴鞠をテーマにしたのは、ラグビーを愛するROBらしい視点ですね。
ボブ そのアイディアは、実は『SINGER-SONGWRITERS』よりも前にあったんです。でも歌人=シンガーソングライターというタイトルを思いついた時に、その面白さの方が勝っちゃって、歌人の話を先に上演しました。それでいよいよ蹴鞠を取り上げることになって、どうしようかな? と考えている時に、イギリスとアイルランドの合同ラグビーチームの、スコッド(選手団)発表の中継がありまして。そこでチェアマンが「○○、××所属……」って読み上げる姿を見て、蹴鞠の選手……鞠足(まりあし)のメンバーを発表する儀式を行うのって、いいなあと思いました。
──ということは、蹴鞠の試合を見せるとかではない。
ボブ そうですね。かつて鞠足だった貴族が「御門の御前で鞠会をすることになったので、日の本(ひのもと)一のチームを作ってくれ」と命じられます。それで、元チームメイトと一緒にメンバーを決めるけど、そこに政治が絡んでくる。やはり御門の御前で蹴鞠ができる、その名誉ある一員に選ばれたいということで「△△を入れてくれ」とか、横車を押されるわけです。実力以外の所でゴチャゴチャと宮中の思惑が絡んでくる中、その外圧を彼らがどうやって調整するか? というのが見どころになります。
──スポーツ芝居と思いきや、まさかの会議モノに。
ボブ でも、彼らがテーブルで話し合うというよりは「ちょっと、左大臣と話をつけてくる」という感じで、結構出入りがあるんですよ。実際に鞠を蹴るシーンもあるから、意外と動きは激しいです。
高阪 ROBでこんなに動きがあるのは珍しいっていうぐらい、動いてますよ。
ダイチ 確かに今まで、あんまりなかったね。台詞を言いながらリフティングをするのが、こんなにしんどいとは思わなかった(笑)。
[京都劇場]初進出となった『THE CIGER ROOM』(2020年)は、大富豪の豪邸を、舞台のスケールを生かして再現。
高阪 台詞回しの速度も『SINGER-SONGWRITERS』は「いかにも平安貴族」という、ゆったりとしたテンポでやってましたけど、今回は割とポーン、ポーンという感じ。
ボブ 台詞もツッコミが結構多いし、スピーディーに思えるでしょうね、確かに。
高阪 ちょっと庭に出て、鞠を蹴ったりとか。だから今回、靴の脱ぎ履きがあるというのが、なかなか新鮮です。
ボブ 確かにねえ。靴の脱ぎ履きって珍しいよね。ずっと洋モノをやっていたから、靴を脱ぐという発想がなかった(笑)。
満腹 『SINGER-SONGWRITERS』はずっと屋内やったから、靴を履かなかったしね。
ボブ だから稽古中に「あれ? 今ここで靴を脱いだら、暗転明けでは靴をどうするかなあ?」「靴って今、どこにある?」などの確認が、結構大事なポイントになってます(笑)。
満腹 靴を上手いこと脱げるかどうかも心配だし。
ボブ そんなこと知らないよ(一同笑)。それは上手くやってください。
ボブ・マーサム(村角太洋)。
──靴の脱ぎ履きという些細なことで盛り上がるのが、またROBらしいですね。今回演じてみて、やはりいつもと違う面白さを感じてますか?
ダイチ これまでROBでは、3人それぞれの役割が何となく決まってたんです。僕は上の立場で、物語を回す役だとか。それが今回は、今までと違う配置になっているので、やっぱり感覚が違ってきています。
──今回は、満腹さんが上の立場なんですか?
高阪 中心ですよね、一番。
満腹 鞠足撰定団の責任者、いわゆるヘッドコーチです。
ダイチ ……ということを書いたら、お客さん減るかもしれんなあ。
ボブ だから反応が悪いんか、の(一同笑)。
満腹 止めや! 止めや! 配役変えよう!!(笑)
満腹満。
■日本ならではのアナログな方法で、鞠を操るのに注目です。
──高阪さんは、もう準レギュラーみたいになってますよね。
高阪 『STING OPERATION』(2014年)からなので、7年目ですかね? 本当にありがたい話です。京都劇場にまで連れてきてもらって(笑)。
──本人を前にしてアレですが、高阪さんをよく呼ばれる理由は何ですか?
ボブ 多分両方とも、90年代の洋画が好きっていう所じゃないですか?
高阪 あ、僕もマジでそう思ってました。
ダイチ 僕の一個下やから、世代的にも同じようなものを観てきてるんですよ。
村角ダイチ。
ボブ それだけで一個共通言語があるから、さんざん説明しなくても理解が早いんです。「『ザ・ロック』のあのシーンの、ニコラス・ケイジはこうやったから」みたいな(笑)。その一方で、僕らはお芝居を全然知らない状態からこの世界に入っていったけど、K(高阪)は高校演劇出身で、大学にも演劇を勉強しに行ってるという、僕らとはまったく演劇のスタート地点が違う人でもあるんです。芝居もずっとたくさん観ているはずだし、だからこそ演劇的な面では、僕らにはわからない感覚を持っている。その視点から、足りない所を補足してくれるというのは、僕らにはできないことだなあと思います。
高阪 最初にROBを観た時「洋画の吹き替えみたいなことを、演劇でこんな風にやるんだ」というのが、割と衝撃でした。それをこうやって自分でやらせてもらえるのは、すごく面白いです。あとはやっぱり、テンポが独特。このテンポで芝居をやってる所って、なかなかないですよ。
──わりかしアップテンポ。
高阪 そうそう。最近は特に掛け合いのテンポが上がっていて、結構スリリングだけど楽しいです。あと、役の内面を掘り下げるというより、外側に開放しながらバーっと作ってる感があります。やっぱりラグビーをずっとやってた人たちだから、このテンポと感覚があるのかな? と思いますね。
ボブ それはあるかもしれないです。
高阪勝之。
──高阪さんが所属する「男肉 du Soleil」とは正反対の世界に思えるけど、どちらもテーマが大仰であるとか、役の内面がどうとか言わないとか、実はいろいろ共通してますね。
ボブ あー、根本的な所で似ている気がします。僕も男肉に出たことがある(注:2017年の『お祭りフェスティバルまつり』)からわかるけど、しょうもないことに異常な熱量をかけるじゃないですか?
高阪 そうですね。本当にどうしようもない所……何やったら、お客さんから観えへん部分に、すごく力を注いでる(一同笑)。でもそれは、ROBにもすごく感じます。あとツッコミがあまりないとかも、近いんとちゃうかなあ?
ボブ 確かにね! それこそ洋画の流れかもしれない。
高阪 作った世界を崩してしまうようなツッコミがないんですね。その世界観を崩さないレベルの、小さなツッコミみたいなものを重ねて進んでいく。
──それで全員がどんどんボケまくって、いつの間にか変なことになっているというパターン。
高阪 もう、そうですね。行く所まで行って「これはどういうシーンなんや?」みたいな空気になるけど、そこが面白かったりもする。それはROBにも男肉にも共通しているかもしれないです。
『藤原HINOMOTO』京都劇場での稽古風景。
──一つ大きな違いがあるとしたら、ROBは誰も舞台上で死なない。
ボブ あー、そう! それがうちの、一番いい所。男肉は毎回全滅しますから。
満腹 団長(池浦さだ夢)が歌ったら生き返りますけどね。
高阪 死が軽いんです、うちは(笑)。
ボブ だから観てても、死に感動しないのよ。「どうせ生き返る前フリやろ」って(一同笑)。ROBはまだ誰も死んだことがないし、今回も死なないです。
──前回のインタビューで「コロナを経て、舞台ならではの面白さをもっと追求したくなった」と語ってましたが、今回特に「舞台だからこそ」な面白ポイントはありますか?
ボブ それこそ蹴鞠のシーンに尽きるんじゃないですか? 今だったらプロジェクションマッピングでやりそうなことを、すごく舞台ならではの、アナログな方法で鞠を操作します。アレを映画やドラマでやられたら本当にアホみたいだけど、舞台だったら成立するギミックだと思うんです。特に日本人にとっては。
──ああ、確かにアレは「日本の伝統芸能のお約束」の極地かもしれない。
ボブ すごく便利ですね(笑)。多分、本来なら使わないやり方も出てくるかと。
ダイチ 滑稽に思いながらも「まあ、そういうお約束だからね」って観てくれるんじゃないかと思います、お客さんは。衣裳とかセットも華やかだから、今回は視覚的にすごく面白いんとちゃうかな?
ボブ いつもの英国紳士モノだと、アレはちょっと使いづらそうですしね。いろんな意味で、和のテイストならではの世界になるかなあと思います。
『藤原HINOMOTO』京都劇場での稽古風景。
■「一緒にやりたい」と思ってもらえる3人+1人に。
──昨年の『THE CIGER ROOM』は再演だったので、2年ぶりの新作だと、また稽古の気分が違うのではとおもいます。
ダイチ あれはずっと座った芝居だったけど、逆にしんどかったです。「ここで間違わないようにしないと」とか、余計なことを考え始めるんで。今回動きがあると、それで一つ気が紛れますね。あと、普段しゃべらないような言葉遣いとか所作があるので、余計に楽しく稽古ができています。
ボブ 『THE CIGER ROOM』は、いかに初演を踏襲しつつ新しいことをするか? ということを考えてたけど、今は「これはお客様にどう見えるのか?」を、一から考えてますからね。これはやっぱり、新作ならではの楽しみだなあと思います。それと今回は、僕が結構ガッツリ出てるんですよ。
──あ、それは珍しいですね。いつもはポイントで登場するという印象ですし。
ダイチ やっぱりボブが前に出ると、だいぶ雰囲気が変わります。
満腹 当たり前だけど、書いた本人が一番面白いんです、演じ手として。そこはすごく、楽しみにしてもらっていいと思います。
ボブ ……と言われて実際に観たら「あれ? あんなこと言ってたのになあ?」と思われるかもしれないけど(笑)。でも前回10周年をやって、今後のROBについて考えた時に、しばらくは少人数体制にしたいと思ったんです。ずっと客演の方々に助けてもらいっぱなしだったけど、11年目からはそれをガラッと変えて、もっと僕ら自身を強めていこうと。
『藤原HINOMOTO』京都劇場での稽古風景。
ダイチ 向こうから「一緒にやりたい」と思ってもらえるようなグループにね。そうなると、僕と満腹だけではちょっと弱いんです。ビジュアル的にも。
ボブ やっぱり僕が間に入ると、単純に1人増えて見栄えが違いますからね。なので今後は(作・演出の)村角太洋だけではなく、ちゃんと(役者の)ボブ・マーサムとしてもやっていこうということです。そしてKには、時間が許す限り声をかけようと思っています。
高阪 ああ、ありがとうございます。
ボブ という所で、このトリオだかカルテットだかで、実際は何ができるのか? それを考える第一弾が、この『藤原HINOMOTO』だと思います。
高阪 その第一歩の一員としてやらせてもらえるのは、すごく光栄ですね。ROBって、いい意味で劇団っぽくないんですよ。家族みたいな雰囲気なのが僕は好きだし、ここまでずっと続けてこられている理由なのかなあ? と思います。
『藤原HINOMOTO』京都劇場での稽古風景。
ダイチ だって僕ら、何年一緒にいるか(笑)。まず僕とボブは、35年ぐらい一緒やし。
ボブ それはもう、兄弟ですから。満腹さんとも、小1か小2ぐらいからの関係だし。
ダイチ チェケロー(入江拓郎/演出助手)も、僕とは15年ぐらい付き合ってるから、もうほぼ家族ですよ。ここまで来たら、ケンカ別れすることもないでしょう。満腹さんがスネない限り(笑)。
満腹 まあ、この中で一番スネて消えそうなのは、確かに僕かなあ。
ダイチ それか村角兄弟が、ノエルとリアム(・ギャラガー)兄弟みたいにケンカするか。「演劇性の違いが……」って(笑)。
ボブ ダイチが急に「台詞なんかいらないんだよ!」って言い出すとか。
満腹 どこで影響を受けてん(笑)。
ダイチ 「照明なんか地明かりでいいんだ!」とか。
ボブ そうなったらもう、こっちから終わらすわ(一同笑)。
(左から)満腹満、ボブ・マーサム(村角太洋)、高阪勝之、村角ダイチ。
──そんな日が来ないことを祈りたいですね。では最後に、このまま京都劇場をROBのホームにしていくという野望はおありでしょうか?
ボブ 「ホームにできるのであれば」という伝え方をしておきますね(笑)。でもまあ、2年もやらせていただいて。
ダイチ すごく嬉しいですよね。10年ぐらいずっと「どうしたもんか?」と思いながらやってきて、気づいたら京都劇場でやらせてもらえるほどになったというのは、まあ感慨深いです。
ボブ 去年の公演は、コロナで劇場のスケジュールが空いてたから実現したことかもしれないですけど、ROBとしては10年のいい区切りにできた公演でもあったと思います。あれでいい再スタートが切れたし、今回は新作が作れるということで、また幸先の良い10年の始まりとなりそうな感じではいます。ホームグラウンドにできるというか、自分たちの力だけで本公演が打てるようになったら、素敵ですよね。
ダイチ 確かにねえ。今は(劇場の)プロデュースやから。
ボブ だから「自力で帰ってきました!」ってことになれば、一番カッコいいかなあ。(京都劇場常連の)劇団四季ばりに、2ヶ月ぐらいロングランができるようになればいいなあと思います。
京都劇場プロデュース THE ROB CARLTON KYOTO『藤原HINOMOTO-The Squad Announcement-』公演チラシ。
取材・文=吉永美和子
公演情報
『藤原HINOMOTO-The Squad Announcement-』
■作・演出:村角太洋
■出演:THE ROB CARLTON(村角ダイチ、満腹満、ボブ・マーサム)、高阪勝之(男肉 du Soleil)
■日時:2021年11月5日(金)~7日(日 5日…19:00~、6日…13:00~/18:00~、7日…13:00~
■会場:京都劇場
■料金:前売4,000円 当日4,500円
■問い合わせ:075-341-2360(京都劇場)
■公演サイト:http://www.rob-carlton.jp/nextstage.html