“毒”を正しく知って、正しく恐れよう 特別展『毒』オフィシャルサポーター・伊沢拓司インタビュー

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2022.12.9
毒をもつ生物の巨大模型と、伊沢拓司

毒をもつ生物の巨大模型と、伊沢拓司

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特別展『毒』が東京・国立科学博物館(以下、科博)にて、2023年2月19日(日)まで開催中だ。動物、植物、菌類、そして鉱物や人工毒など、自然界のあらゆるところに存在する “毒” について、動物学や植物学など各分野のスペシャリストが徹底的に掘り下げた本展。どのような魅力があるのだろうか。「QuizKnock」のCEOで、本展のオフィシャルサポーターも務める伊沢拓司に話を聞いた。

キングコブラの骨格標本

キングコブラの骨格標本

ーー伊沢さんが考える、特別展『毒』の見どころをぜひ教えてください。

今回、僕が一番良かったなと思うのは、その重厚さですね。ただただ毒の怖い生き物を展示して、きゃー! わー! で終わりではなくて、毒と人類の関わりという歴史の部分や、毒を防ぐこと、毒と共存すること、そういったことも含めて「毒」についてあらゆる観点から展示を作っている。ただただ怖いで終わらないで、毒に対しての考えをしっかりと深められるところが僕は一番魅力かなと思います。だから、本当にちゃんと見ようと思うと、3時間コースだと思うんです(笑)。展覧会を薦めるとしても「2、3時間空けて来てください」って、なかなか難しいですよね。気軽に来られなくなるから……。でもそれぐらいの気合いの入った展示だなと思っています。

ーーいろいろな展示がある中で、見せ方もインパクトがありましたよね。特に気になった展示があったら教えていただけますか?

僕が衝撃的だなと思ったのは、ブルーノイシアタマガエルというカエル。このカエルは頭の突起で頭突きをして、相手に毒を注入するという、およそカエルとは思えないような戦略を取ってるわけです。そのカエルの頭部骨格の3Dモデルがこの展覧会のために作られて、分かりやすい形で展示されているんです。頭部の突起が見えて……わかりやすくなっているので、作り手の情熱が感じられる展示でした。ここに来るまで知らなかったので、またひとつ面白い知識をゲットできました。

ーー「ブルーノイシアタマガエル」という名前も含めて、惹かれますよね。

そうですね。和名をつけた人も格好いいですよね。子供も一発で覚えちゃうんじゃないですか(笑)。そういったところも含めて、すごくよくできていますよね。
 
ーーそのほか、この展示を通して伊沢さんでも初めて知ったことはありましたか?

めちゃくちゃありましたね。例えば、バルカン半島の麦畑で、麦畑の脇に生えてるような草の種子が麦に混入してしまって、バルカン腎症という病気が起こったということ。本当に人類の身近なところに毒ってあるんだなと思いますよね。痛い! 死ぬ! みたいな展示だけではなくて、こうした「忍び寄ってくる感じの怖さ」も毒を構成する要素のひとつだな、と再確認できました。

それから、毒きのことそれに似ているきのこを並べている展示や、熟れているマンゴーと熟れていないマンゴーの香りを実際に嗅げるコーナーもありました。なるほど「渋い」というのは、毒の一種なんだなと。知っていたけどわかっていなかったことを、体感型の展示で体に覚え込ませる学習体験ができるのもいいですね。大人から子供まで学べる要素はいっぱいあるなと思います。

毒きのこと似ているきのこの比較展示

毒きのこと似ているきのこの比較展示

ーー特別展『毒』のためのクイズも作られました。作問はどのようにされたんですか?

今回はQuizKnockのメンバーで作問したんですけれども、あくまでクイズはおまけであると思っています。展示内容を見ていただくための補助にすぎません。今回の展示は説明がちゃんと書いてあるわけですけれども、子供たちにとってはなかなか展示の説明をじっくり読む機会がないと思うですよね。インパクトのある展示を見て終わり。全然それでいいと思うんですけど、その一歩先を行ってもらうためにクイズを利用してほしいと思います。

今回のクイズは、展示の説明文の中に答えが書いてあるものなので、クイズを埋めるという目的で展示を見ていくと、「意外と説明にも面白いこと書いてあるじゃん」ってお子さんに思ってもらえるかもしれない。そうすることで、この特別展『毒』だけでなく、今後の展覧会や博物館、美術館をまわる上でも、「意外とあそこには面白いことが書いてあるぞ」と思ってもらえるきっかけになるんじゃないかなと思っています。

ということで、あくまでも展示のおまけやきっかけ作りとして、クイズを作っています。

ーー伊沢さんは監修の先生方ともお話されたそうですが、研究者の方たちの魅力や面白さについてはいかがでしょう?

皆さん自分の領域に関しては、その正確性にこだわりつつ、面白く見てほしいとも思っていらっしゃる。両方とも取ろうとしているんですよね。それがとてもありがたいことだなと思います。今回は「毒」というテーマを通して、いろいろな分野の研究者の先生が全力を尽くされているからこそ、「学びってこんなに取っ掛かりやきっかけがあるんだな」と思いました。

先生方の執念やこだわりの強さは展示で感じていただけるんじゃないでしょうか。展示の最後には、先生方がそれぞれ毒について語っているパネルも用意されていて、それを読むと、もう一回頭から展示を見たくなる。裏側までちゃんと見せるので、そこは大人も楽しめると思います。

ーー改めてオフィシャルサポーターとしての意気込みをお聞かせください。

幸せです。僕はオフィシャルサポーターと言いつつ、この展示の素晴らしさの半分も分かっていないと思うんです。学術的に本当に優れた点や、子供視点でないと分からない優れた点があると思うので。でも半分も分かっていないと思いながら、十分楽しいと思っている。自分が楽しいと思ったものを自分の言葉で語って、その上でそれをみた他の人経由でまた新しい楽しさを教えてもらえる……とても幸せなことですよね。そのためにも、多くの人にこの楽しさを知っていただきたいなと思っているので、僕たちの特技であるクイズをこの場で活かせたのはとても嬉しいですし、これからもいろいろな人にこの特別展『毒』の魅力を伝えていきたいと思います。

何より子供の頃から来ていた科博で仕事ができるということ自体が自慢したいですよね、子供の頃の自分に。大変誇らしく思います。まだまだ会期があるので、僕も職場で「見に行け、見に行け」と宣伝しています(笑)。皆さんに見てほしいです。

ーー子供の頃から科博にいらしていた、と。伊沢さんは子供の頃に見たもので、何か印象に残っている展示などはありますか?

僕にとって科博の一番古い記憶が「うわ、エスカレーターの中ってこうなってるんだ!」と思ったことなんです。科博のエスカレーターは透明になっていて、構造が見えるんですよ。「エスカレーター乗るとこって、下で回収されているんだ!」と思った記憶があります。多分、親が見てほしいところではなかったと思うんですけど(笑)。

物理学のコーナーにあった体感型の展示もよく覚えていて、そこでレバーを回すタイプの力学の展示があって。別に科学の不思議が知りたいからレバーを回したわけではなく、ただレバーを速く回すという行為が面白くてやっていたんですけど、振り返ってみるとそこでの経験は中学とかの学習に役立っていた気もしています。学習の価値は即効性のあるものではないので、ただ楽しんでいるだけでも十分良かったはず。骨格標本とか動物の剥製とかも好きで長く眺めていましたけど​、単純に「大きいな〜」と思って見ていました。

僕は子供の頃、学ぶために科博に来ていたかというと、そんなことはなくて。インパクトのある展示はいくつか覚えていますが、その展示が今に直結しているのかというと、よく分かりません。でも、両親はそこで、学ばせることを焦らなかった。

学ぼうと強いること、何かに役立てようと強いることの方が抵抗感を生む気がします。展覧会に来た、特別展に来た。それが何かの役に立つまでのルートをこちら(大人)が作ろうと思わなくてもいいのかなと思います。本当に脈絡なく、10年後とかに時限爆弾のように「ああ、あのときの体験ってあれだったのか」と爆発することはあるので、やはりその気長さが結果的に僕を助けてくれた気がしています。

イラガの幼虫の巨大模型

イラガの幼虫の巨大模型

ーー確かに親が面白いと言って見せても、子供にとってはなかなかすぐに面白いとは思えないこともありますよね。

そういう感性は人それぞれだから難しいなと思いますね。でも僕は僕で楽しんではいましたし、逆に言えば親御さんが無理して「解説をしなきゃ!」とか「面白いポイントを伝えなきゃ!」とか「何も伝えられないから博物館に行くのは止めておこう」とならなくていいと思うんです。そんなカンタンにはいかないものかなと。
 
ーーとはいえ、子供の頃から科博に親しんでいたということは、何かしら惹きつけられるものがあったんでしょうね。

そうですね。多分僕は生き物の大きさとか、そういったものに惹きつけられていたと思います。僕自身、テレビに出ている「小学生物知り博士」みたいな少年では全くなかったので。そういった学び方ができる子はいいですけど、全員がそうなるものではないですからね。大人になって分かること、大人になってから輝く子供の頃の体験もあるのではと僕は思います。

ーーこの特別展『毒』もまさにそうだと思うんですけど、なぜ人間は「毒」が危険と知りながら、魅力を感じてしまうのでしょう。伊沢さんとしてはどう思われますか?

そのことを僕も考えたんですよね。会場で展示を見ながら。でもやっぱり、怖いからこそ知っておきたいという防衛本能が働くのかなと思いました。僕もその危険なもの、怖いものに対して、どうしても好奇心が湧いてしまうところがある。怖いからこそ知っておきたいという好奇心が人を突き動かすのではないでしょうか。どうせ「毒」について知るんだったら、より正しく、そして重厚に知ることができる、この特別展『毒』をご覧いただきたいです!

ーー改めて、どのような人が特別展『毒』を楽しめると思われますか?

大人から子供まで、ちょっとでも興味があれば楽しめると思います。あまりにも幅広い展示だからこそ、誰にとっても刺さるような要素がきっとあると思います。見た目が毒々しい生き物が嫌いだったとしても、十二分に楽しめる内容になっているので、怖いなと思っている人こそ、正しく怖がるために来てほしいですね。

ーー最後に一言、お願いします!

「毒」にまつわるありとあらゆることが展示されています。そういう意味では誰にでも刺さるような要素もきっと入っていると思います。「毒」というのは、身近なところにたくさんあるからこそ、正しく知って、正しく恐れることが最後にはできているような展示になっていますし、それでいてすごくキャッチーな内容になっています。会場には、「鷹の爪団」がいたり、「QuizKnock」がいたりしますから、本当に気軽に来てください!

時間だけ空けて、特に予習もせず来ていただいても、きっと楽しい思いができると思うので、ぜひ特別展『毒』、よろしくお願いいたします!


取材・文=五月女菜穂 写真=オフィシャル提供

展覧会情報

国立科学博物館 特別展『毒』
◆会 期:2022年11月1日(火)~2023年2月19日(日)
◆会 場:国立科学博物館(東京・上野公園)
所在地:〒110-8718 東京都台東区上野公園7-20
◆開館時間:9時~17時(入場は16時30分まで)
毎週土曜日は19時まで延長(入場は18時30分まで)
◆休館日 :月曜日、12月28日(水)~1月1日(日・祝)、1月10日(火)
※ただし1月2日(月・休)、9日(月・祝)、2月13日(月)は開館
※会期等は変更になる場合がございます。
※入場方法等の詳細は公式サイトをご確認ください。
◆入場料(税込):一般・大学生:2,000円、小・中・高校生:600円
※未就学児は無料。※障害者手帳をお持ちの方とその介護者1名は無料。
◆オフィシャルサポーター:伊沢拓司(クイズプレイヤー)
◆音声ガイドナビゲーター:中村悠一(声優)
◆クイズコラボ:QuizKnock(クイズノック)
◆キャラクターコラボ:秘密結社 鷹の爪
◆タイアップソング:BiSH「UP to ME」
◆お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)・03-5814-9898(FAX)
◆公式サイト:https://www.dokuten.jp
◆主催:国立科学博物館、読売新聞社、フジテレビジョン
◆協賛:DNP大日本印刷
◆協力:海洋研究開発機構、国立アイヌ民族博物館、国立民族学博物館、水産無脊椎動物研究所、第一三共、大日本除虫菊、東京都薬用植物園、東京農工大学、東京薬科大学、日本蛇族学術研究所、農業・食品産業技術総合研究機構、ブリヂストン、星薬科大学、北海道大学植物園・博物館、ポーラ・オルビスホールディングス ポーラ文化研究所、舞鶴引揚記念館、ミュージアムパーク茨城県自然博物館、MeijiSeika ファルマ

【鑑賞券プレゼント】

本展覧会の鑑賞券をペアで3組6名様にプレゼントいたします。
応募方法はSPICE記事もしくはSPICEアートTwitterをご確認ください。

URL:https://spice.eplus.jp/articles/311920
SPICE[アート情報]/イープラス:https://twitter.com/spice_art_
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