亜沙「もっと良い曲を作ってこれからもお届けしていこうと思ってます」 約1年ぶりとなるバンド編成ソロ公演、バースデーライブをレポート
亜沙
亜沙バースデーライブ2022〜花街暗中膝栗毛〜
2022.12.17 原宿RUIDO
憂き世の暗澹たる渾沌はそれとして、夜に唄えば降りしきる雨もやがては景色を変えて行くに違いない。
和楽器バンドのベーシストであるのはもちろんのこと、ネットミュージックシーンにおいては名曲「吉原ラメント」で名を馳せた敏腕ボカロPとして積極的な活動を展開している亜沙が、このたび原宿RUIDOにて開催したのは1年ぶりのバンド編成となるソロ公演『亜沙バースデーライブ2022〜花街暗中膝栗毛〜』だ。2022年は5月に新曲「盲目スレッド」を発表した後、アコースティックツアー『悠久哀歌 Vol.5 ~風に乗って届くでしょうか~』でも各地を行脚していたが、亜沙の描き出す世界をより全方位的に楽しみたいのであれば、やはりこの毎年恒例となってきているバンドスタイルでのソロバースデーライブの場に参加するのがおすすめである。
ちなみに、今回の『亜沙バースデーライブ2022〜花街暗中膝栗毛〜』を前に亜沙は「花街暗中膝栗毛 feat.重音テト」という新曲をデジタルシングルとして発表していたのだが、今宵のオープニングを華々しく飾ったのは他ならぬその「花街暗中膝栗毛」。音源では重音テトとのコラボレーションがある種の妙味を生んでいた一方、ステージ上にて亜沙の生歌とバンドサウンドによって綴られていったこの曲にはさらなる奥深さが加わることになり、この曲の持っている趣深いドラマ性は必然的にブーストされていくことになったと言っていいだろう。〈病気も流行れば戦争も起きる なんて世に生まれたもんだ〉というシニカルでシュールな歌詞世界も含めて、そこには強い説得力が宿っていた。
また、これまでの亜沙は代表曲「吉原ラメント」のイメージを継承しつつソロでのビジュアルイメージについては基本的に和の要素を重んじてきたところがあったように思うものの、今回のステージ衣装は緋色をベースにした和装のようでありながらも随所に台湾民族衣装の雰囲気やシノワズリの概念など、オリエンタルな異国情緒がふんだんに取り入れられた華やかで艶やかな仕上がりとなっており、もはや国籍もジェンダーも超越した亜沙の蠱惑的な姿は、彼の生み出す自由にして良い意味での猥雑な音楽世界と完全にリンクしていた、と考えられる。
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実際のところ、亜沙は今回のライブで自身の作ったアッパーチューン「哀愁レインカフェテリア」などに交えながら、昭和歌謡の名曲である沢田研二の「TOKIO」をカバーするという一幕もあったのだが、それら全てを違和感なく自分のものとして表現出来る才覚は亜沙ならでは。ましてや歌のみならず楽器も弾きながらのベースボーカル・スタイルでこれを体現出来るのは、まさに彼だからこその離れ業であるはず。また、和楽器バンドでは5弦ベースを操る一方でソロの現場では敢えて4弦ベースを駆使しているというところも、亜沙のファンにとっては大変興味深い点となろう。
「昼の部に続いて、夜の部が始まりましたが皆さん楽しんでますか。両方の部に来てくれた人、ありがとうございます。夜の部から参加されるという方、いらっしゃいませ。昼の部も非常にブチあがりまして「これはやべーな!」となったんですけれども(笑)、夜の部は2022年最後のライブでもありますからね。さらに盛り上がっていきましょう!!」
もともとはボカロ曲として発表された「盲目スレッド」では原曲以上にアダルティでジャジーな空気感で濃厚なかたちでの演奏が炸裂したほか、歌と手数の多いベースプレイを両立させていた「浮気者エンドロール」ではサビ前に派手なスラップフレーズをきめてみせたりと、この日もソロアーティストとしてのポテンシャルをおおいに発揮してくれた亜沙だが、それでいてMCでは気心の知れたバンドメンバーたちと和気あいあいとしたやりとりをみせるくだりもあり、そんな彼のラフでくだけた表情からは“久しぶりの亜沙バンドとしてのライブ”を心から堪能している様子をうかがうことができたのも、このライブにおけるひとつの特色だったと言えるかもしれない。(なお、このMCのシメでは「やばい。さっきから笑い過ぎて顔の筋肉がちょっと痛いんですけど。でも、今日はカメラマンとライターさんが入ってくれてるんでね。一応、記事の方ではここで感動的なMCをした亜沙が泣き出したとでも書いておいてください(笑)」とのオーダーがあったことも付記しておきたい)
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その後、本編中盤では亜沙がベースを置きハンドマイクを手にしてのアクティブなパフォーマンスで観衆たちを惹きつけた「Moonwalker -月の踊り手-」で場内が沸いた一幕があったり、メンバー全員で客席フロアの様子を背にTikTok用の動画を撮ったり(既にTikTokおよびYouTubeで配信中)もしつつ、本編ラストでは今年で発表から遂に10周年を迎えたという「吉原ラメント」をこの日の天候にあわせて〈吉原 今日は雨〉を〈原宿 今日は雨〉と歌い替えてこのライブを締めくくってみせたのだが、その前には以下のようなコメントをしてくれていたのも実に印象的だった。
「今年で「吉原ラメント」が10周年ということなんですが、いろいろなところで愛されている曲になっているというのがいまだに俺の耳にも入ってきていまして、本当に嬉しいなと思っております。この1曲で人生を変えてもらったところがありますし、ありがたいなと感じているのは間違いないんですが、でもここから次の10年やその先に向けてということを考えると「吉原ラメント」が最高傑作というかたちでミュージシャン人生を終えるわけにはまだいかないので、もっと良い曲を作ってこれからもお届けしていこうと思ってます。引き続き、応援のほどよろしくお願いします!!」
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そこからのアンコールでは「桜の歌が流れる頃に」を亜沙がいざ歌い出そうとするタイミングでバースデーライブらしく「ハッピーバースデー」の歌が場内に流されることになり、突然のことに「え?今ここで?!」と戸惑う亜沙の元へフルーツ満載のケーキが届けられることに。とりあえずイチゴをひとつまみしてからあらためて歌うことになった「桜の歌が流れる頃に」は、いよいよ35歳を迎えた亜沙と彼の音楽を愛する人々にとって格別なものとなったのではなかろうか。
そのうえ、Wアンコールでは場の盛り上がりぶりを受けて予定外の国民的ボカロ曲「千本桜」を急遽演奏することになったほか、最後の最後には“終わり”といよりもむしろここからに向けた流れを感じさせるような「To be continued」を選曲してみせた亜沙は、このライブをもって憂き世の暗澹たる渾沌はそれとしても、夜に唄えば降りしきる雨もやがては景色を変えて行くに違いない、ということを提示してくれたと言えそうだ。
「みなさん、ありがとうございました。良いお年を! 来年また会いましょう!!」
2023年には亜沙としてのメジャーデビュー10周年を迎える彼が、ここからいかなる音楽を生み出してくれることになるのか。今はただただそれが楽しみでならない。
文=杉江由紀 撮影=釘野孝宏
セットリスト
2022.12.17 原宿RUIDO
01. 花街暗中膝栗毛
02. 哀愁レインカフェテリア
03. TOKIO
04. 盲目スレッド
05. nameless silent
06. 浮気者エンドロール
07. 背徳シュガー
08. 道玄坂ネオンアパート
09. Moonwalker -月の踊り手-
10. 魔王
11. 黄昏昭和の駅前で
12. 明正フィロソフィー
13. 未来世ライフ
14. 吉原ラメント
[ENCORE]
15. 桜の歌が流れる頃に
16. 千本桜
17. To be continued