ワンフェス特別企画 武田康廣、神村靖宏、宮脇センムが語る「DAICON FILM」の実像 ロング鼎談インタビュー
■200人のボランティアの集め方
――改めて『DAICONⅣ』では、武田さんと神村さんは、どういった役割をされていたんですか?
神村:『DAICONⅣ』のときには、ゼネプロがもう出来上がってきてましたから、武田さん、岡田さんは、本業はそれなりに忙しいんですよ。『DAICONⅢ』が81年の8月に終わり、その年の秋口からゼネプロの準備にかかって、年明けにゼネプロをオープンしてるわけですから。そのゼネプロのオープンあたりのところから『DAICONⅣ』をやろうって話が本格的になってくる。
武田:オープニングアニメ自体は、何やかんやで2~3か月で作ったっけ?
神村:いや、準備から行くともうちょいかかってますね。4月には冒頭の部分の作画にとりかかってますから。
――オープニングアニメを作るのは、既定路線だったんですね。
神村:そうです。やっぱり『DAICONⅢ』の成功体験が一番大きいのはオープニングアニメだから、それをもう一回やるぞっていうのは当たり前のようにあったんです。庵野・赤井・山賀もいるし。で、82年の春ぐらいから、1年以上先のスタッフ集めを始めるわけですよ。その時スタッフが200人要るっていう計算だったんです。『DAICONⅢ』が参加者が1500人ぐらい。で、『DAICONⅣ』では5000人集めようって話になって。
――実際はどれくらい参加者がいたんですか?
神村:4000人集まりましたね。でもそうなると、規模を計算するとどう考えてもスタッフ200人要るぞって計算が出てきた。あれ、結構正しい計算でしたよね。
武田:そうやったと思うよ。なかなか正確なシミュレーションやったね。
神村:でも、200人集めるのってハンパじゃないし、それ以上に、200人に言うことを聞かせるっていうことが、至難の業だと思ったわけです。そこで「じゃあ映画を作ろう」って言いだして。「映画作ってるぞ!」というのを面白いと思った人を集められるぞと。そいつらに仕事を与えられて、訓練ができ、かつ指揮系統も作れる。で、出来上がった作品は宣伝に使えるじゃないかと。一石三鳥も四鳥も狙って、映画を作りはじめるわけです。それが、結果、すごくうまくいきました。
――集まってくるスタッフっていうのは、ボランティア?
神村:全員ボランティアです。
武田:タイミングが良かったのは、ちょうど僕が大学のSF研に入って、先輩が「関西SF研究会連盟」という組織を作ると言い出したんです。当時、東京の本部の「関大連」というのがあって。関西でも「関S連」を作るぞって先輩が動いて、先輩に「武田、お前も手伝え」って言われて、近畿圏の大学を回ってですね、「こういうのやるから協力してくれ」っていう話をしたんですよ。
神村:8大学ありましたね。
武田:そう、8つの大学のSF研のみんなに、ちょっと協力をしてくれって言って、最初の人数はそこで集めてるんです。
神村:『DAICONⅢ』はそうでしたね。
武田:『DAICONⅣ』のときは、それとは別に、当時いろんな雑誌で募集とかしましたね。まだインターネットとかないですから、とにかくアニメ雑誌、当時は『アニメック』かな。『SFマガジン』とかにも募集を出して。それと『DAICONⅣ』のときには、ゼネプロという、ある種固定された場所がありますから、そこにみんな連絡してくるんですよ。大学生だけじゃなくて、社会人だったりとか、誰かが他に友達連れてきたりとか、後輩連れてきたりだとか。
――場所ができたのは大きかったんですね。
■悪魔のささやき「実写映画を撮りましょう」
武田:そういう人数集めたところに、スタッフ育成も兼ねて映画を作るんですけど、確か赤井君か庵野君かどっちかが僕の耳元で悪魔のささやきをしたんですよ。「スタッフを育てるなら、実写映画撮るのがいいですよ」って(笑)。「映画はいろんな段取りがあるから、スタッフ使えるし、何よりスタッフの訓練になりますよ」って。「実写映画がいいですよ!」って。「なるほど、そうか!」って僕はそれを真に受けて、いくつもの実写映画の企画を作って、とりあえずやるんです。
――でも映画を作るには費用もかかると思いますが。
武田:それができた一つには、『DAICONⅢ』のオープニングアニメを売ったのがあります。『DAICONⅢ』自体は赤字やったけど、オープニングアニメのビデオとフィルムを販売したことで資金があったんですよ。それで大会の準備も、次のアニメの製作費も、初動資金があったんです。で、82年の東京のSF大会に一部完成したフィルムを持って、我々は乗り込むわけです。
宮脇:一番最初、何ができたんですか?
武田:『愛國戰隊大日本』・『快傑のうてんき』、その2つだけかな。で、『大日本』を上映したらですね、あれは反ロシアみたいな話だから揉めるんですけど、それはまた別の話になります(笑)。
――じゃあ武田さんと神村さんは、プロデューサーであったりとか製作で動いていたイメージなんですね。
神村:今考えると、僕は制作デスクかラインプロデューサーみたいな立ち位置ですね。
武田:僕はSF大会にとっては、いわゆる企画者であって、プロデューサー。営業に関して言えば基本プロデューサーであり、出展者でしたね。『帰ってきたウルトラマン』作る時に、基地のシーンあるじゃないですか。
――はい。
武田:あのシーンというのは、実は僕の実家のすぐ近所に、友達の電気工事屋があるんですけど。そこのビルの2階か3階に倉庫があって。そこを「貸してくれ」って頼んで、セットを組んだんです。だから、今終わった後にセットをガーッって取ったら、天井とかバリバリ剥がれてですね、「あーっ!」ってなったの覚えてますね。今でも行くと剥がれた跡が残ってますからね。
神村:あはは(笑)。
武田:そういう場所を手配したりもしましたね。あとは備品とか、お金を他の人に頼んで管理してもらったりとか様々です。
――『愛国戦隊大日本』や『快傑のーてんき』、それに『八岐之大蛇の逆襲』に『帰ってきたウルトラマン』。いま観ても面白い映像作品ですよね。
武田:ありがとうございます。
――今回のワンダーフェスティバル、具体的にどういうものを展示するんでしょうか?
神村:『DAICONⅣ』の原画・セル画は、ほとんど現存してるんですよ。『DAICONⅢ』のセルや動画もけっこうあります。だから、生原画・生セル画、結構な量の資料を展示できるかなと思ってます。
――それって、どなたが保存してたんですか?
神村:撮影が終わった時から、ゼネプロの倉庫にぶち込んであったんですね。一部は当時のスタッフが持ち帰って保管していたのが戻ってきたり、変遷はあるんですけど。
武田:そういうものはなるだけ残そうってことで、無理やり残してた。
宮脇:それはゼネプロの思想として聞いてますね。アーカイブを昔からずっと捨てずに残すっていう。
神村:アーカイブって言うと、かっこいいですけどね(笑)。
武田:残しておこう、っていうのはずっとありましたね。
神村:オタクはモノを捨てられませんから(笑)。
宮脇:オタク心が強いと残しますよね。哀しい性ですかね?
武田:まぁ、哀しいとも言えるし、結果オーライっていうのはありますね。
――今のお話を聞いて、作品を作るならばアーカイブは何かしら残していかなきゃいけないんだなって本当に思います。
神村:そうですね。先日『帰ってきたウルトラマン』はアマプラで2Kのリマスター版が見られるようになりましたが、それは、最近になってカラーとATAC(NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構)の協力でオリジナルの8ミリフィルムを保全できたことが大きいです。DAICON FILMの全作品がリカバーできそうで、今もデジタルリマスター作業を継続しています。なかなか時間はかかってるんですけれども、いずれ何らかの方法で公開できればいいなと準備は始めています。
■ワンフェスで『のーてんき』のサイン会をやりたい
――今回の展示では、撮影のときに使ったプロップだったり、アイテムみたいなものも出るんでしょうか?
神村:出します。
宮脇:この前話したけど、『のーてんき』のサイン会とかやりたいですね。それこそアクリルスタンドでも作って、本人がサインするというのはやらないかんよね。『のーてんき』のスーツ、オリジナルがまだあるんですよね。
武田:ありますよ、残ってます。正確に言うと2代目のオリジナルスーツですけどね。
神村:『のーてんき2』で使ったやつね。
武田:だから今度取りに行かなきゃいけないんですよ(笑)。
神村:サイン会やるかどうか、ちょっと考えましょう。ほら、コミコンみたいに、5,000円の寄付金を募ってサインをするとか(笑)。
一同:それはいいね!(笑)
神村:だって、ブロマイドに武田康廣が直筆で『のーてんき』参上って書いてたら、欲しいでしょ?5,000円払っても買うでしょ(笑)?
――正直、世代としては僕は欲しいですね(笑)。
武田:でも余ったらめっちゃ哀しいよね(笑)。
宮脇:そういうコミコン的な要素は、SF大会としてはやらんとね(笑)。
武田:のーてんきスーツも着るし、サイン会もぜんぜんやぶさかではございませんので(笑)。なんせ、僕はDAICONに関しては絵を描いてるわけでもないし、なんでもないんだけど、『のーてんき』の本人です、っていうやつは言える。
神村:一番強いですよ。『スター・ウォーズ』で言ったら、ルーク・スカイウォーカーですからね(笑)。
武田:うまいこと言うなあ。
神村:脱線しちゃうな(笑)。 ワンフェスの展示のPRをしなきゃいけないんですよ。DAICON FILM全作品の何らかの資料が展示されますので。具体的に言うと、『愛国戦隊大日本』のミンスク仮面などはわりといい状態で残ってます。
――そうなんですか!?
神村:だいぶ直さないといけないですけど。あと、ジャボチンスキー将軍の衣装もありますし、『帰ってきたウルトラマン』のMAT隊員の衣装もある。
――素朴な疑問なんですけど、どうやって保存してるんですか?
神村:倉庫にぜんぶ突っ込んであったんです。会社が引っ越しするたびに、その荷物も動かして。まあ扱いは良くなかったですし、時間も経ってるので、だいぶ状況は面白くなってますけど(笑)。
――セル画とかそういうのは?
神村:セル画に関して言うと、ほとんど出し入れをしていないんで、あまり外気に晒されてないんですよ。立派な箱には入れてないですよ。でも、暗い所であるがゆえに、温度変化も少なかったのかもしれないですね。セルはわりといい状態です。
武田:結果オーライ的に、良かったということですね。『八岐之大蛇の逆襲』は何がある?
神村:宇宙人とか、オロチの首とか。あとヘリコプターとか戦車とかかな。今回は、SF大会からDAICON FILM、ゼネプロ、ワンフェスに至る流れっていうもの見えるような展示にしたいなぁとは思ってます。
■ワンフェスに来る人達に、歴史を知ってもらいたい
――DAICONって、インディーズで面白いもの作るという企画の走りなんじゃないかなと思ってるんです。素人が好きでやってるものが、プロが作ってるものとぜんぜん変わりないレベルで作られてる。そのキャラクターである『のーてんき』がサイン会するかもっていうのもとんでもない話ですよ(笑)。
宮脇:今回ぜったい伝えて欲しいのは、今言われたように、アマチュアがプロ以上のものを作ったってこと。今第一線でやってる人たちの原点と言うか、スタートになったのが、言うたらこの『DAICONⅢ』、『DAICONⅣ』のオープニングアニメと、実写映像だと思うんです。僕らが作ったガレージキットだって、それこそバンダイとかアオシマとか、タカラやらトミーやらより、僕らがええもの作るんじゃい! っていう気持ちで作られていたし。今のワンフェスに来ている人たちは、こういう源流と言うか、歴史を知らんといかんと思うんですわ。
宮脇修一氏
――オリジンですからね、同人活動の。
宮脇:お前らもっと心を清めて、しっかりいいものを作れ! っていうのが、ゼネプロが始めたワンフェスの原点ですから。今回の展示を通じて、みんな少しでも心に刻んでもらいたいというのが主催者の気持ちなので、そこは一番伝えて欲しいですね。
――前回(2023年冬)のワンフェスに参加させてもらって、まだまだオタクって元気だなと思ったんです。今オタクって言葉が微妙になってきてるんで、「マニア」の方が言葉が合うかもしれないですけど。その若いマニアの人たちに対して、なんか一言いただけたらなと思ったんですが。
神村:若者に? 俺、自分がまだ若手の気分なんですけど(笑)。
武田:まぁでも、そうなりますよね。なんかこういうことやってると、気分は若いつもりですから。たぶんここにいる人たちは皆さんそうやと思うんやけど。「これからは若い者に道を譲って……」みたいな気持ちは無いと思うんですよ。
宮脇:まったく無いね!(笑)
武田:でも僕が若い者に対して言えるのは、すごいことやってるやつは「すげえなお前!」って歳は関係なく感心するけど、迷ってるやつに対しては「邪魔だ、どけ!」って気持ちになるってことかな。10代だろうが20代だろうが30代だろうが、ガッ!とやってる人間には、純粋に「すげえな」と思う。その次に「これには負けてられんな」って気持ちになるんですよ。これは死ぬまで変わらないんじゃないかなって気はしてるんですけどね。
――歳は関係なくリスペクトも出来るし、ライバルだと思える。
武田:よく言い古された言葉だけど、死ぬときは前のめりになって死ぬ、みたいな。そういう感じがいいですね。
――オタクとして前のめりに死ぬんですね(笑)。
武田:そうそう!
神村:オタクっていう言葉自体が、僕ら世代を表現する言葉が無かったから産まれた言葉ですから。僕らのことを指さして言われていた頃と現在では、受け取られ方も違いますしね。
宮脇:そもそもオタクっていうのは、SFの中でも蔑視と言うか。オタクの中の世界で、言うたら嫌なアカンやつのことを「あいつ、オタクやから」っていうのがありましたね。オタクの中の差別用語が「オタク」って言葉だった。だから言われたら、ムカッときますよ(笑)。
武田:でも、ずいぶん前に逆転するわけですよ。オタクって言葉が、海外のファンからしてみたら、「僕もオタクです!」っていうね。「オタク=好きな世界の中にどっぷり浸かってる人」っていうことになった。そうだなぁ……何か今の若い人に関して言うなら、とにかく「オタクとしての誇りを持て」かな。オタクなんて、かっこよくないんだよ。かっこわるいんだよ。だって好きなものにしがみついてるんだから。それをね、大事にしなさいよっていうところかな。
――僕も、オタクの誇りを持って生きてきたいと思いました(笑)。
宮脇:一応、お二人はオタクなわけですね。
神村:じゃなかったら、ここにはいないですよね(笑)。
武田:あはは!(笑) あと一つだけ言うと、今度のワンフェスの一週間後、8月5~6日に栃木でSF大会をやりますので。興味がある人は、行くのがいいかもしれないですね。参加費は高いんですけど(笑)。
宮脇:まぁでも、ワンフェスも、まだまだ僕ら説教臭いジジイがやってますから。僕らはまだこの座は譲れへんぞ、という気持ちではあります。
武田:その通りですね。
宮脇:それこそ松本零士が亡くなったときも、もっとすごい出来事になれや!とか思いましたからね。そういった意味では、なんとかやれるうちに色々と爪痕は残しておきたいので。まだまだ僕らジタバタしますよ!
取材・文:加東岳史・林信行
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『ワンダーフェスティバル2023[夏]』
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