「承認欲求もここまで暴走したら気持ちいいわ」[Alexandros]川上洋平、承認欲求が暴走する“セルフラブ”メディケーションホラー『シック・オブ・マイセルフ』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

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2023.9.22
 撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは『ミッドサマー』で知られるA24&アリ・アスター監督に見出された新鋭、クリストファー・ボルグリ監督による“セルフラブ”メディケーションホラー『シック・オブ・マイセルフ』。何者にもなれない主人公が異常な承認欲求によって、自らを滅ぼしていく様をシニカル且つ残酷に描いた異色作を語ります。

『シック・オブ・マイセルフ』

『シック・オブ・マイセルフ』

──『シック・オブ・マイセルフ』はどうでした?

めっちゃおもしろかったです! どことなく『Swallow スワロウ』を思い出す、マゾヒズム的な快感を堪能できちゃう不思議な映画でした。ノルウェー映画ということですが、やっぱり北欧らしく、綺麗な映像の中に鮮血が入ってきたりすると途端におどろおどろしくなりますね。好き。
 
──オスロが舞台でしたね。
 
ポスターとか見るとすごくお洒落でかわいい雰囲気だけど、それでジャケ観した人はびっくりするかもね。でも確かにポップで楽しめるところもあるし、そんなことないか。
 
──カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で絶賛されたり、ノルウェーのアカデミー賞であるアマンダ賞で5部門にノミネートされたり、ブルックリンフィルムフェスティバルでは作品賞を受賞しています。
 
Rotten Tomatoesでも88%だし、評価も上々。今の令和のギャルたちが観て「どう思うか?」っていう興味もありますね。
 
──SNSによって、承認欲求にフォーカスが当たりやすい時代ですし。
 
そうですね。いろいろな人に観てほしいですね。 

『シック・オブ・マイセルフ』より

『シック・オブ・マイセルフ』より

■ちょっと『逆転のトライアングル』っぽい雰囲気もあった 

──おしゃれしたり着飾ったりしている状態で人に見られて嬉しいのはわかりますが、血まみれだったり怪我をしている状態で人に見られることにも快感を覚える主人公・シグネのキャラクター設定が特殊ですよね。
 
そうなんです。僕、何の前情報もなく観たんですけど、シグネが働いているカフェに犬に噛まれて流血した女性が飛び込んできて、その女性を介抱してあげて自分も血まみれになるんだけど、警察の事情聴取を受けた後、その血を拭かずに彼氏と住んでいる家に帰宅するシーン。「あまりにも起きたことがショックで血を拭くことに気が回らなかったのかな?」と思ったんですが、「人に注目される快感を覚えたから」っていう理由を理解するのに少し時間がかかりました。
 
──なるほど。
 
芸術家の彼氏が注目を浴びだしているのが羨ましいのかなとか、何かしら不満を持っているんだろうなっていう雰囲気はありつつ。あと冒頭ちょっと『逆転のトライアングル』っぽい雰囲気もあったな。
 
──ああ、確かに。男女のカップル間のヒエラルキーとか。
 
そう。でも、どんどん違う方向に進んでいきましたが。
 
──恋人同士で競い合って、それが切磋琢磨に繋がるのは良い関係性だと思うんですが、シグネは彼の成功をねたんで足を引っ張ろうとします。
 
健気なのか何なのか……無意識に振り回されてる感じもした。
 
──彼を囲むパーティーでナッツアレルギーだと偽って、自分に注目が集まるように仕掛けたり。
 
あのあたりで、「あ、この映画はそういうことなんだな」っていう風にわかってきましたね(笑)。 

『シック・オブ・マイセルフ』より

『シック・オブ・マイセルフ』より

年齢を重ねていくうちに、認められることよりも「自分がどうしたいか」っていう部分が強くなっていってる 

──特に印象的だったシーンはどこでした?
 
映画のメインビジュアルにもなっている、シグネが病院で包帯ぐるぐる巻きの状態でタバコを吸ってるシーンですかね。ほんの少し前まですごい美人だったのに、自ら飲み始めた薬のせいで顔がただれて、大変な状態になってるのに、それでも自分が注目されてるかどうかだけを気にしてる。ある種のかっこよさも感じました。
 
──見た目がどうなろうが、注目を浴びることしか頭にない。
 
その滑稽さがこの作品のブラックでシニカルなところですよね。タイトルは『シック・オブ・マイセルフ』で、ノルウェー語に訳すと“シック・ガール”になるみたいだけど、『シック・オブ・マイセルフ』は“自分に嫌気がさす“みたいな意味で、”シック・ガール“だと他人目線。シグネはやりたくてそういうことをやってるわけだから、原題の方が忠実かもね。
 
──アーティストもそうですが、表に出る職業は大なり小なり承認欲求がないと成り立たないですよね。それについて思うところはありましたか?
 
なんとなくはね。俺もライブやったり、新曲出したりすると、どんな風に受け取られるかもちろん気になりますから。でも何かを作って、その評価を気にするのと、何もしないでただ評価を気にするのはまた違うよね。120%ぐらい満たすことを目指すと品がなくなってしまうこともあるし。年齢を重ねていくうちに、認められることよりも「自分がどうしたいか」っていう部分が強くなっていってる気が個人的にはしてますね。だから、シグネももっと成長したら変わってくるところはあると思うんですが、そうなる前にとんでもないことになってしまいました(笑)。
 
──確かに(笑)。
 
この『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリ監督の次回作はニコラス・ケイジ主演の『DREAM SCENARIO(原題)』らしいですね。
 
──A24制作でアリ・アスターがプロデュースするという。
 
そう。どんぴしゃですよね。
 
──『シック・オブ・マイセルフ』もどこかアリ・アスター感ありますもんね。
 
ありましたね。質感というか。あとやっぱり『逆転のトライアングル』感。
 
──カップルのエゴとエゴのぶつかり合いというか。
 
でも、彼氏はあんなことになった彼女を見捨てないのが意外でした。
 
──しっかり介抱してましたもんね。
 
シグネの生い立ちとかが全く描かれてないから、彼女のあの病的な承認欲求がどうやって芽生えたのかも気になりました。

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