「バンドリ!」シリーズがリアルライブなどを通じて表現してきたもの――Poppin'Party×MyGO!!!!! 合同ライブ『Divide/Unite』ライブレポート
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
■2024.04.29Poppin'Party×MyGO!!!!! 合同ライブ「Divide/Unite」@神奈川・横浜アリーナ
(C)BanG Dream! Project
メディアミックスコンテンツ「BanG Dream!(バンドリ!)」発のガールズバンド、Poppin'PartyとMyGO!!!!!による合同ライブ「Divide/Unite」が、4月29日(月・祝)、神奈川・横浜アリーナにて開催された。
Poppin'Party(以下、ポピパ)といえば、キャストが実際にバンド活動を行う「BanG Dream!(バンドリ!)」(以後バンドリ!)シリーズの原点にして象徴と言うべき、同コンテンツから生まれた最初のリアルバンド。一方のMyGO!!!!!は、2022年に始動して以来アニメやライブで快進撃を続ける、シリーズの新世代を担う“現実(リアル)”と“仮想(キャラクター)”が同期するバンド。2023年にはMyGO!!!!!がポピパとRAISE A SUILENによる合同ライブ「GALAXY to GALAXY」でオープニングアクトを務める機会もあったが、この2組で合同ライブを行うのは今回が初めてのことだ。
一見すると対照的にも思えるこの2バンドがステージで相まみえたとき、どのような化学反応が起こるのか? バンドリーマー(「バンドリ!」のファンの総称)や両バンドのファンならずとも注目の好カードは、「バンドリ!」というコンテンツの奥深さを改めて気づかせてくれる素晴らしいライブとなった。
は完売し、リアルタイム配信も行われた本公演。開演前の会場ではBGMとして各バンドの楽曲のインストバージョンが流されて、ファンの期待を高める。なかでもポピパの代表曲の1つ「キズナミュージック♪」のインスト版が流れ出すと、会場からはひと際大きな歓声が。そしてライトが暗転すると、スクリーンに本公演のキービジュアルを用いたオープニングムービーが上映されて、ついにライブが開幕する。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
先攻を飾ったのは、羊宮妃那(燈/Vo.)、立石凛(愛音/Gt.)、青木陽菜(楽奈/Gt.)、小日向美香(そよ/Ba.)、林鼓子(立希/Dr.)から成るMyGO!!!!!。彼女たちを主人公にしたTVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』のOPテーマ「壱雫空」で勢いよくライブをスタートさせる。羊宮が燈として表現する胸のすくような歌声と2ビートの疾走感溢れるパンクロック。それらが生み出す昂揚感は、まるで雨上がりの空のように気持ちを解放させてくれる。さらに注目すべきトピックとして、5人はこの日が初披露となった新衣装を着用。本公演のキービジュアルでキャラクターが着ている衣装を再現した、ややサイバーなデザインがかっこ良く、各キャラクターのイメージカラーをワンポイントに採り入れているのも見どころだ(ちなみに立石は愛音の髪色と同じピンクのエクステを付けていた)。
続いて彼女たちの最初のオリジナル曲「迷星叫」を披露し、“迷子”であることも自分たちだけの個性として受け止めるバンドの矜持を改めて示すと、MCへ。前提としてMyGO!!!!!は、ライブ本編では常にキャラクターとしてステージに立ち、MCもキャラを演じながら行うスタイルなので、ここでも「あとで(ポピパと)一緒に写真撮ってもらわない?」と語る愛音(立石)に対して立希(林)が「ちょっと!遊びに来たわけじゃないんだよ」ときつめに返すなど、キャラの関係性を踏まえたトークを展開していく。1st LIVEの頃からポピパの楽曲をカバーしてきたバンドにとって、今日は特別な公演。各々が話の端々でそんな気持ちを滲ませながら、次の曲へ。
「たとえ心がほつれそうでも、君と響き合えるなら」――燈(羊宮)のそんな言葉に続き、楽奈(青木)の荒々しいギターを前奏に「無路矢」に突入。そよ(小日向)のうねるようなベースが下支えするどっしりとしたアンサンブルに、燈(羊宮)の力強い歌声と楽奈(青木)による超高音のホイッスルボイスが響き合う。その音の余韻が残るなか始まった次の「回層浮」は、浮遊感あるサウンドと燈(羊宮)の感情表現豊かなポエトリーリーディング、メンバーによるわらべ歌のようなコーラスが合わさった不思議な感触の楽曲。照明も深い藍色にスイッチして、まるで音楽と感情の海の中をたゆたい、渦に巻き込まれるような感覚に陥る。
その後、燈(羊宮)が「横浜アリーナ盛り上がってますか!」「まだまだ声出せますか!」と気迫のこもった声で客席を煽って熱を引き出すと、ここから「砂寸奏」「影色舞」「碧天伴走」を連続でパフォーマンス。アグレッシブなロックチューン「砂寸奏」では“Uh Wow wow”というコーラスパートで客席にマイクを向けて歌唱をうながすなど、燈(羊宮)が観客により積極的なアプローチを行うようになったのは、近年のライブでの大きな変化だ。他のメンバーも笑顔で演奏していたのが印象的で、今春のツアーで初披露された「砂寸奏」は彼女たちにとって歓びの歌になっているのかもしれない。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
ワンマンだけでなくイベント出演時もほぼ披露されるライブの定番曲「影色舞」では、燈(羊宮)、愛音(立石)、楽奈(青木)が軽快なステップを踏みながらパフォーマンスしてノリ良く盛り上げると、続く「碧天伴走」では燈(羊宮)が文字通りステージの端まで走って客席により近い場所で歌を届ける。2番のサビでは愛音(立石)と楽奈(青木)もそれぞれステージ両サイドの端まで行って演奏。“迷っても君と走っていたいんだよ”と呼び掛けるMyGO!!!!!なりの応援ソングなだけに、近づいて寄り添ってくれるような演出が嬉しい。
続くMCで本公演のタイトル「Divide/Unite」には「不和/融和」という意味があることに触れ、「なんか、私たちみたい」と感想を漏らす燈(羊宮)。メンバー全員がそれぞれの迷いを抱えながら、紆余曲折を経て結成されたMyGO!!!!!(詳しくはTVアニメを観てほしい)。だが迷いながらも足を止めることなく進んできたからこそ、彼女たちは今、5人でこのステージに立つことができている。「迷いながらでも歌いたい、歌い続けたい」。燈(羊宮)がそう語ると、彼女たちの迷子としての歩みの集大成となるTVアニメ #12の劇中歌「迷路日々」を披露。テンポを落として探り探り進むようなA・Bメロから、バンド全体の気持ちが1つになって加速していくサビへ。その曲調自体が彼女たちの“曲がりくねった道”を表しているようで、だからこそ演奏している姿がよりエモーショナルに映る。
そして燈(羊宮)が「次が最後の曲です。今日はありがとうございました!」と告げ、メロコアとポエトリーリーディングが交差する「音一会」を締めに投入。激走する2ビートを晴れやかな表情で叩く立希(林)、サビでにこやかに微笑みながらコーラスを添える竿隊の3人、ライブという音を介したこの日のすべての出会いに“ありがとう”の言葉を届ける燈(羊宮)。彼女たちが放出する熱にあてられて会場のボルテージは最高潮に高まる。ラストは燈(羊宮)の「皆さんもこぶしを上に上げてください!」という声に応えて、誰もが握りこぶしを掲げながら「Oh-oh-oh...」と歌って一体となるなか、MyGO!!!!!のライブはオーラスを迎えた。
その後、ステージに1人残る燈(羊宮)。すると後ろからポピパの戸山香澄(愛美)が現れて、燈は手にしていたハンドマイクを香澄に託す。TVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』 #12で、これからステージに向かう燈に香澄がマイクを渡すシーンがあったが、その逆をキャストがステージ上で行うとは、天晴と言わざるを得ない演出だ。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
そしていよいよ、愛美(Gt.&Vo.)、大塚紗英(Gt.)、西本りみ(Ba.)、大橋彩香(Dr.)、伊藤彩沙(Key.)によるPoppin'Partyが登場。オーバーチュア代わりのしっとりしたピアノ音源に続いて、伊藤がキーボードでイントロのフレーズを弾き始めると会場からはどよめきの声が上がる。その楽曲は「Light Delight」。ポピパ屈指の泣きエモ曲としてファンから愛されているナンバーだ(5th LIVEのアンコールでの熱演は語り草になっている)。ポピパといえばキラキラドキドキのポジティブな楽曲のイメージが強く、実際、ライブの初手はそういう楽曲を持ってくることがほとんどだが、まさか「Light Delight」から始めるとは。だが、ポピパも(アニメやゲームのストーリー上は)決して順風満帆なバンドではなく、香澄も声が出なくなって挫けた経験があることを踏まえると、この楽曲がMyGO!!!!!との合同ライブのセトリに組み込まれた意味がわかる。この世界は独りきりではないということ、一緒に泣いてくれる人がいるということ。この楽曲に込められたメッセージは、きっとMyGO!!!!!の楽曲とも共鳴するはずだ。2バンドのファンの気持ちを繋いでみせるエモーショナルな立ち上がりに、ポピパというバンドの奥深さを感じた。
続いては最新Singleの表題曲「新しい季節に」をライブ初披露。この楽曲も環境の変化に伴う不安や切なさ、揺れ動く気持ちが投影されていて、ただ前向きなだけではないところがある。桜の舞い散る映像とリリックを背にしながら、どこか哀愁を伴ったメロディーを紡ぎ歌うポピパが新鮮だった。そんな2曲からアニメ『BanG Dream! 3rd Season』のOPテーマ「イニシャル」に繋げ、熱さと煌めきを同時に発散していく。サビの“ア・イ・シ・テ・イ・ル!”のフレーズで右手を目元にあててポーズを決める愛美、地面に膝をつきながらギターを弾く大塚、Dメロでのメンバーが1人ずつ歌い繋いでいくパートなど、心を熱くするポイントが続出だ。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
MCを挿み、愛美が「この合同ライブにぴったりな、久しぶりの曲」と紹介して次に披露したのは「NO GIRL NO CRY」。SILENT SIRENとのコラボレーションで生まれた楽曲で、同じ夢を抱いて前に進む2バンドの関係性を描いた歌詞は、まさに合同ライブに相応しい。間奏では各楽器の見せ場も用意されていて、バンドの楽しさ、みんなで音を合わせて一体になる特別感が伝わってくる。そして夏ライブの定番曲「夏空 SUN! SUN! SEVEN!」を夏を先取りして披露。大橋は前に出てきてスタンドセットにてドラムを演奏する。過去にも水鉄砲やダンスなど趣向を凝らした楽しいステージングが繰り広げられてきた本楽曲、今回も途中で香澄(愛美)が「ちょっとストップストップ」と演奏を止めて、何か物足りないらしく、三三七拍子のフレーズに合わせて応援合戦を行うことに。客席を半分に分けてステージの上手側は市ヶ谷有咲(伊藤)、下手側は香澄(愛美)の音頭に合わせて“POPIPA! PIPOPA! POPIPA! PA! PIPOPA!”と声を出し合う。さらに「ぽぴぱ・まいご・ぽぴぱぱ・まいご」とポピパとMyGO!!!!!の応援も同時に行って盛り上げると香澄も大満足。楽曲の演奏に戻ると、そこから徐々にスピードアップして“POPIPAN! PIPOPAN! POPIPAPIPOPAN!”と似たコーラスのフレーズが入っている楽曲「ぽっぴん'どりーむ!」に移行。超アッパーなこの楽曲ではメンバーもファンもジャンプしまくるのが恒例で、盛大なジャンプ合戦に発展する(有咲(伊藤)曰く「テーマはポップコーン」とのこと)。ラストは香澄(愛美)が「上手にできました、いえーい!」とピースサインして締め括った。
その後のMCでは、MyGO!!!!!と同じく本公演のキービジュアルをイメージした新衣装を1人ずつアピール。さらにMyGO!!!!!のキャッチコピー「迷子でもいい、前へ進め――」のことに触れた流れで、5人で肩を寄せ合ってポピパの楽曲「前へススメ!」をアカペラで歌い始める一幕も。今年で結成9周年を迎えたとのことだが、バンドとしてのステージ力は高まっている一方で、このゆるくて風通しのいい感じもまたポピパの魅力だ。
そしてポピパのライブはラストブロックへ。「Time Lapse」の鈍く唸るギターリフが流れ出すと、会場の熱気は一気に上昇し、こぶしを上げて盛り上がる。2番では愛美が歌う後ろで、大塚と西本がたがいに膝をついて弾き合う演奏合戦も勃発。さらに活動初期からの人気曲「STAR BEAT!~ホシノコドウ~」を星の降り注ぐ映像をバックに披露し、愛美の「一緒に歌ってください!」という声に応じて、“Lalalala”というフレーズでは大合唱が巻き起こる。ラスサビでは客席のあちこちでペンライトが光り、美しい光景が広がる。ラストはAyaseが提供した「イントロダクション」。MyGO!!!!!という新しい仲間も加わって、これからも続くであろうキラキラドキドキの未来への希望を、軽快なメロディーと共に紡いでいく。2番では愛美、西本、大塚が肩を寄せ合って演奏する場面も(大塚は愛美の肩に顔を乗せていた)。ポピパらしい笑顔に溢れた締め括りだった。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
アンコールでは、ポピパとMyGO!!!!!のメンバー全員がライブTシャツに着替えて登場し、まずは合同ライブの感想を1人ずつ伝えていく。特に小日向は「バンドリ!」とポピパがきっかけでベースを弾き始め、最初に練習した楽曲が「STAR BEAT!~ホシノコドウ~」、MyGO!!!!!のオーディションで弾いた楽曲が「キズナミュージック♪」だったとのことで、想いが溢れて涙を流していたのが印象的だった(そんな彼女を見て西本が寄り添ってあげていた)。そしてせっかくの合同ライブということで、アンコールは一緒に演奏することに。まずはMyGO!!!!!の楽曲より「歌いましょう鳴らしましょう」を10人で合奏する。タンバリンを叩きながら林の元による伊藤、背中合わせでギターを弾く大塚と青木など、バンドの枠を超えたコラボレーションに、こちらの胸もキラキラドキドキしっぱなしだ。終盤で珍しく嬉しそうに飛び跳ねながら歌っていた羊宮も印象に残った。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
もう1曲、合同ライブのラストを飾る曲として歌われたのが、ポピパの「ティアドロップス」。MyGO!!!!!も1st LIVEの頃からレパートリーにしてきた、ポピパだけでなく「バンドリ!」を代表する楽曲の1つだ。両バンドともライブでこの楽曲を披露するときは熱のこもったパフォーマンスを行うが、この日はその熱量が掛け算されるだけでなく、共演の特別感が合わさってハイな状態に。特に竿隊はステージをあちこちと動きながら楽しそうに演奏する(間奏では愛美、大塚、立石、青木のギター4人が並んで演奏する場面も)。そんななか、いつも以上に熱く決めてくれたのがボーカルの2人。サビ前のキメの部分“この指とまれ!”で一緒に指を突き出す姿、そしてラスサビの“この手を離さない”のフレーズをユニゾンで歌って2人でポーズを決めた瞬間のかっこ良さは筆舌に尽くし難かった。香澄と燈、ポピパとMyGO!!!!!、現在の「バンドリ!」の顔役と言うべき両組の共演は、大盛況で幕を閉じた。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
今回の合同ライブを観て改めて感じたのは、対照的な存在に見えていたポピパとMyGO!!!!!だが、根本の部分では同じ熱を持っているということだ。バンドという運命共同体にしか放つことのできない特別な輝き、苦難や逆境を共に乗り越えてきたからこそ育まれる絆の音楽。それらの要素はまた、「バンドリ!」シリーズがアニメやゲーム、リアルライブなどを通じて表現してきたものでもある。ポピパが9周年ということは「バンドリ!」も9周年を迎えたわけだが、それだけの長い時間、芯をブレさせることなく、常に新しいことに取り組んできた「バンドリ!」のコンテンツとしての強度、キャリアを重ねるごとに音楽的成熟を増していくリアルバンドの厚みをより実感できたのが、今回のライブだったように思う。
写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
取材・文:北野創 写真:ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)
セットリスト
2024.04.29「Divide/Unite」@神奈川・横浜アリーナ
01.壱雫空
02.迷星叫
03.無路矢
04.回層浮
05.砂寸奏
06.影色舞
07.碧天伴走
08.迷路日々
09.音一会
01.Light Delight
02.新しい季節に
03.イニシャル
04.NO GIRL NO CRY
05.夏空 SUN! SUN! SEVEN!
06.ぽっぴん'どりーむ!
07.Time Lapse
08.STAR BEAT!~ホシノコドウ~
09.イントロダクション
EN1.歌いましょう鳴らしましょう
EN2.ティアドロップス
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