《連載》もっと文楽!~文楽技芸員インタビュー~ Vol. 10 吉田簑二郎(文楽人形遣い)
「技芸員への3つの質問」
【その1】入門したての頃の忘れられないエピソード
お酒が好きなので明け方まで飲んでいて、気がついたら師匠が楽屋入りされる時刻に目が覚め、慌てて楽屋に入ったら、たまたまその日は師匠が浅草に用事でいらしていたので遅れたのが発覚せず、兄弟子の勘十郎に「日頃の行いが良かったおかげやな」と言われたことはあります。勘十郎兄とは若い頃からしょっちゅう一緒に飲んで、それこそ左の遣い方などをその時に教えていただきました。よく二人で言っていたのは「今頃、仲間も色々なところで飲んでるやろうけど、舞台の話をしてるのは我々だけやろうな」。勘十郎兄は子ども向けの新作などを多く作っていますが、飲んでいる時に出たアイデアが形になったこともありますね。
【その2】初代国立劇場の思い出と、二代目の劇場に期待・妄想すること
研修は東京で始まったので、2階に上がれば養成課の職員がいたり、講義を受けていた部屋があったりと、思い出深いですね。国立劇場は、浄瑠璃の寸法に合った劇場で、大好きでした。
私は、同じ国立なのだから、二代目国立劇場と文楽劇場の間口は一緒にしてほしいんです。床の浄瑠璃の寸法は同じだけれど、人形だと、例えば『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の寺入りの千代と小太郎が舞台に出てくる時、東京に比べて大阪の方が広い分、少し早く出ないといけない。甲子園にあったラッキーゾーンのように、文楽劇場もちょっと狭めて使うことができないかな、なんて思うんですけどね。
【その3】オフの過ごし方
オフは孫と遊んでいます。あと、韓国ドラマが好きで。ドロドロさ加減だとか、実は……みたいな展開が、完全に文楽の世界ですよね。それから、散歩。コロナ禍で公演が中止になって、初めは昼間からお酒を飲んでいたのですが、このままではダメだ、散歩を仕事にしよう、と思い、朝2〜3時間、夕方2〜3時間、歩いていました。住吉大社が家の近所なのですが、太鼓橋があって池があって、下に鯉がたくさんいるんです。毎日見ていたら見分けがつくようになり、名前をつけて。最初に名前をつけたのがコイちゃんと言って、『夏祭浪花鑑』の団七じゃないけど眉間に赤い斑点があったのですが、ある時、いなくなっちゃったんですよ。でも、今でも10匹はわかります。頭が赤い“レッドヘッド三兄弟”というのもいて、『菅原伝授手習鑑』にちなんで、一番大きいのを梅王、次を松王、ちょっと小さいのを桜丸、なんて呼んでいます。
取材・文=高橋彩子(演劇・舞踊ライター)
公演情報
2024年12月4日(水) ~12月13日(金)江東区文化センター ホール
2024年12月17日(火)~2024年12月19日(木)神奈川県立青少年センター(紅葉坂ホール)
第一部 午前11時開演(午後1時40分終演予定)
第二部 午後2時30分開演(午後5時50分終演予定)
第三部 午後6時45分開演(午後8時25分終演予定)
渡し場の段
木下順二=作 二代野澤喜左衛門=作曲
瓜子姫とあまんじゃく(うりこひめとあまんじゃく)
井上ひさし生誕90年記念
井上ひさし=作 野澤松之輔=作曲
望月太明藏=作調
金壺親父恋達引(かなつぼおやじこいのたてひき)
―モリエール「守銭奴」より―
第二部 (午後2時30分開演)
熊谷桜の段
熊谷陣屋の段
壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)
阿古屋琴責の段
第三部 (午後6時45分開演)
曾根崎心中(そねざきしんじゅう)
生玉社前の段
天満屋の段
天神森の段
共催=江東区/公益財団法人江東区文化コミュニティ財団(江東区文化センター公演のみ)
研修生募集
令和7年度研修生募集
国立文楽劇場企画制作課養成係
TEL : 06-6212-5529 ※平日10時~18時(土・日・祝日を除く)
E-mail : bunraku2021@ntj.jac.go.jp