「武将の美意識の高さに驚かされました」歌舞伎俳優・中村隼人が読み解く特別展『妙心寺 禅の継承』の美と精神

レポート
アート
2026.3.30
歌舞伎俳優・中村隼人が特別展『妙心寺 禅の継承』PRイベントに登場

歌舞伎俳優・中村隼人が特別展『妙心寺 禅の継承』PRイベントに登場

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興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展『妙心寺 禅の継承』 歌舞伎俳優・中村隼人PRイベント 2026.3.11(WED)大阪市立美術館

4月5日(日)に閉幕が迫った、大阪市立美術館で開催中の興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展『妙心寺 禅の継承』。音声ガイドのナビゲーターに初挑戦した歌舞伎俳優の中村隼人が、3月11日(水)に緊急来阪。歴代の武将の寄進で各時代の絵師の名品が受け継がれてきた妙心寺の魅力を語った。その模様をレポートする。

■お気に入りは、狩野山楽の「龍虎図屏風」

『妙心寺展』の魅力について語る中村隼人

『妙心寺展』の魅力について語る中村隼人

同展の鑑賞は初めてという中村隼人は、「圧倒されました。力強さと繊細さがあり、歴史を感じます」と第一印象を明かす。音声ガイドの収録は、作品写真をもとに美術や禅、歴史の解説を受けながら時間をかけて行ったというが、「写真で見て理解していたつもりでも、実物の前では感動がまったく違う。屏風や襖絵を日常的に目にしていた当時の武将の美意識の高さにも驚かされました」と語る。あわせて、「今回は知識があるとより深く観ることができることを発見しました」と、音声ガイドの楽しみ方もアピールした。

重要文化財 狩野山楽 「龍虎図屏風」(部分) 桃山時代(17世紀) 妙心寺

重要文化財 狩野山楽 「龍虎図屏風」(部分) 桃山時代(17世紀) 妙心寺

印象に残った作品として最初に挙げたのは、狩野山楽の「龍虎図屏風」。展示室の入口で来場者を迎える豊臣秀吉に仕えた京狩野派筆頭の大作に、「舞い降りる龍の勢いと風を感じます。草木や雲の表現からも動きが伝わってくる。迎え撃つ虎の表情も勇ましく、この感動を言葉にするのは難しいですね」と目を見張る。一方で、狩野山楽・山雪による「竹林猛虎図襖」(部分)には、「龍虎が“動”なら、こちらは“静”。当時の絵師は虎を見たことがなく、想像で描いたそうですが、雄が虎で、雌はヒョウと思われていたとか。猫みたいな可愛らしさがありますね」と視線を向けた。

重要文化財 狩野山楽・山雪 「竹林猛虎図襖」  江戸時代 寛永8年(1631) 京都・天球院

重要文化財 狩野山楽・山雪 「竹林猛虎図襖」  江戸時代 寛永8年(1631) 京都・天球院

■「絵師を演じることはできても、なれないな(笑)」

話題は歌舞伎の演目「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)」にも及ぶ。室町時代に生きた絵師たちの師弟愛、夫婦愛があふれる近松門左衛門作の狂言には、狩野派の絵師が登場。「襖絵の虎があまりに見事なので虎に魂が入って、襖を抜き出てしまう。もちろんフィクションですが、実物の虎図を見ると理解できなくもない」と笑みを見せる。「絵師を演じることはできても、絵師にはなれないなと思います(笑)」とも語った。もし当時の絵師に生まれ変わったらと問われると、「名前に“隼(はやぶさ)”が入っているので鳥を描きましょうか。白鷺などがいいですね」と想像を膨らませた。

真中が妙心寺の興祖・授翁宗弼がのこした墨蹟「少水魚有楽」南北朝時代(14世紀)京都・天授院

真中が妙心寺の興祖・授翁宗弼がのこした墨蹟「少水魚有楽」南北朝時代(14世紀)京都・天授院

近松に空想物語まで書かせた狩野元信の絵は、同展でも存在感を放つ。元信が手掛けた枯山水「元信の庭」がのこる妙心寺の子院・退蔵院で禅の修行を体験した中村隼人は、微妙大師(みみょうだいし/授翁宗弼)の書「少水魚有楽」にも心を動かされたという。「魚を人、水を寿命に例えた言葉で、「無常の中にも楽しみがある」という教え。今が大事という教えは心に留めておきたい」と語る。また座右の銘として老子の言葉「上善如水」を挙げ、「一番上手な生き方は水の如く生きること。先人の教えから学ぶことは多い」と続けた。

■禅と歌舞伎は対局に見えて、繋がっている

中村隼人

中村隼人

禅と美術、そして歌舞伎――。中村隼人の言葉からは、数百年の時代を超えて連なる文化の系譜が浮かび上がる。「禅の修行では、自分と向き合うことや心を鎮めることを学びます。命をかけて戦に挑む武将たちが、その教えを求めたのはよくわかります。一方で、歌舞伎の舞台に立つこととは、その対局にあるかもしれません。けれど、武将が心を鎮めるために嗜んだ能は、平和な世の中になって、歌舞伎という新たな芸能として生まれ変わり、絵を鑑賞することも、茶道や書を嗜むことも、平和になってからは庶民の楽しみにもなった。禅の文化は、現在までずっと繋がってきたと感じています」と話した。

この春、中村隼人は5月末で100年余の歴史に幕を下ろす、大阪松竹座の『大阪松竹座さよなら公演』に出演する。4月3日(金)~26日(日)に上演の『御名残四月大歌舞伎』では「毛谷村」「寺子屋」、5月2日(土)~26日(火)に上演の『御名残五月大歌舞伎』では「義賢最期」「近江源氏先陣館」と、2ヶ月にわたり名作に挑む。「歴史のある劇場がなくなってしまうのは悲しいことですが、明るく見送りたい。いつかまた大阪で歌舞伎の公演ができるように、願いを込めて舞台に立ちたい」と意気込む。最後に「また心を鎮めに訪れたい」と同展再訪を誓った。

取材・文=田中奈都子 写真=川井美波(SPICE編集部)

イベント情報

興祖微妙大師六百五十年遠諱記念特別展『妙心寺 禅の継承』
会 期:2026年2月7日(土)~4月5日(日)※展示替えあり
前期:2月7日(土)~3月8日(日)
後期:3月10日(火)~4月5日(日)
会 場:大阪市立美術館(大阪府大阪市天王寺区茶臼山町1-82 天王寺公園内)
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は閉館の30分前まで)
休 館 日 :月曜日
主 催:大阪市立美術館、臨済宗妙心寺派、日本経済新聞社、テレビ大阪
協 賛:オムロン、西鶴(さいかく)、野崎印刷紙業、非破壊検査、桃谷順天館
後 援:公益財団法人大阪観光局
特別協力:京都国立博物館
企画協力:浅野研究所
料金:一般2000円、高大生1300円、小中生500円、団体1800円、1100円、300円
※団体は20名以上。
※未就学児、障がい者手帳等をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料(要証明)。
※障がい者手帳等は日本の法律に基づき交付されたものに限る。
※大阪市内在住の65歳以上の方も一般料金が必要。
※本展の観覧券で、企画展示(常設展)も観覧可能。
https://art.nikkei.com/myoshin-ji/
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