2日間・7公演にパワーアップ! 初参戦の石田泰尚&ピアクロに、石井琢磨プロデュースの新企画も 『スタクラ 2026 in 横浜』初日レポート
『イープラス presents スタクラ 2026 in 横浜 ーSTAND UP! CLASSICー』
2026年8月1日(土)横浜みなとみらいホールにて『イープラス presents スタクラ 2026 in 横浜 ーSTAND UP! CLASSICー』(通称スタクラ)が開幕。2018年に日本最大級の野外型クラシック音楽祭『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL(スタクラフェス)』として横浜の地でスタートして以来、野外・コンサートホール・配信と様々な形式で開催を重ねてきたスタクラ。今年も、8月1日(土)・2日(日)の2日間、日本屈指のコンサートホール・横浜みなとみらいホールで、多彩なプログラムが展開された。今年は、昨年よりパワーアップし、大ホール・小ホール、2日間合わせて計7公演に加え、マスタークラスも初開催され、“多世代に贈る新感覚クラシック音楽祭” として多くの来場者でにぎわった。
本記事では、初日の模様をレポートする。
互い信頼の上に築かれる深い絆! 8人16手のピアクロが初参戦
『石井琢磨 Produce PIANO CLOVER』
【日時】2026年8月1日(土) 12:40開演@大ホール
【出演】石井琢磨、新井瑛久、追川礼章、大井健、菊池亮太、小瀧俊治、髙木竜馬、米津真浩(ピアノ)
5月に東京の浜離宮朝日ホールでのデビュー演奏会で大成功を収めた『石井琢磨プロデュース PIANO LOVER(通称ピアクロ)』が、ついに8月1日(土)のスタクラ初日、しかもみなとみらいホール大ホールという広いステージを持つ音響空間で実現した。ピアニスト総計8人、フルコンサートグランドを最大4台使用するこの企画においては理想の環境だ。実際、演奏者本人たちが演奏後のコメントで「弾いていて耳に入ってくる音圧に圧倒された」と口々に語っていたのが印象的だった。60分の演奏会の模様をお伝えしよう。
演奏会は石井のソロによるグリーク「抒情小品集第一集」より「アリエッタ」で詩情に満ちた開幕。この石井による挨拶替わりの一曲に続いて奏されたのは、石井と盟友の菊池亮太による二台ピアノ演奏でのピアソラ「アディオス・ノニーノ」。菊池が織りなすメランコリックで細やかな音の動きが悲壮感を漂わせ、石井の描き出す骨太なメロディラインにぴったりと寄り添い、よりいっそうこの作品が湛える悲しみをそそる。盟友同志の強い信頼の絆の上に築かれた男の友情のようなものも感じられ、序盤から心に沁みる名演が繰り出される。
続いては二台8手によるリスト「ハンガリー狂詩曲」(石井/追川礼章/米津真浩/小瀧俊治の4人による演奏)。厳格なリズムを持つマエストーゾ的な前半部分から徐々にチャールダッシュの軽やかで華やかな音楽へと変容してゆくこの作品ならではの展開において、4人の息づかいや音色もぴったりと揺らぎなく一つに同調しており、その様を見て聴くのは小気味良いくらいだ。緩急のダイナミックな揺れも一糸乱れることなく見事なアクセントを効かせ、もはや至芸の域と言えるほどだ。
4曲目はいよいよ、ピアクロ奏者たちが誇るベートーヴェン 交響曲第5番「運命」。四台・計8名のピアニスト全員参加による演奏だ。その前に、配置転換の間は貴重なトークタイム。石井にマイクを向けられた大井健が「盛り上がってますか~?」と会場に声をかけると、その後も流れるように一人ひとりが「さらに盛り上がっていきましょう!」と客席に次々エールが送られた。
いよいよ「運命」が奏でられる。石井の力強いこぶしの振り上げとともに“運命の動機”が高らかに響きわたると、音響空間が一瞬にして緊張感に満ちる。しかし、流れを追うごとに段階的にボルテージがあがってゆくと、その音に光のような明るさが宿り、明らかに彼らの演奏にも高揚感と歓喜があふれてゆくのが手に取るように感じられた。
続いては、もう一つの“十八番作品” ワーグナー「ワルキューレの紀行」(四台8名16手による演奏)。この作品特有のデモーニッシュな前打音や繰り返し地獄の底から轟くような下降型のユニゾンの響きを、全員が一糸乱れることなくエキサイティングなスピード感でどこまでも魅力的に聴かせた。終盤は大地を轟かせるような重量感のあるtutti (全員で全力で奏すること)によるテーマの演奏でドラマティックに映画音楽のように壮大に余韻を残しつつ弾ききった。
プログラム最後を飾るのは、本日初披露の新曲 ビゼー 歌劇「カルメン」より(この作品も四台・8人16手による演奏)。「ハバネラ」の旋律から始まり、第3幕への「間奏曲」と耳慣れた旋律が続くが、あたかもオーケストラ伴奏で実際の舞台を見ているかのような臨場感あふれるサウンドでカルメン特有の奔放な世界へと誘ってくれたようだ。ジプシーの踊り の小粋なスリリングさも、舞台で踊るカルメンの姿を映像化させるかのような迫真の演奏で、見事なフィナーレを飾った。
興奮冷めやらぬ客席の大喝采を遮るように最後に石井が重大発表をアナウンス。
「12月23日に東京のオペラシティ・コンサートホールでのピアクロ公演が決まりました」との一言に会場はさらに興奮気味だ。そして、ステージ上では、奏者一人ひとりが新たな演奏会に向けて、そして‟Road to 武道館(!)”へ向けて意気込みを語った。
最後は客席の熱狂に応えてアンコールの一曲。しかし……四台のピアノに椅子が置かれていない……、この状態でのアンコール演奏というのだ。何とあの速度が極めて速いロッシーニ「ウィリアム・テル序曲」を椅子取りゲームのように奏者たちがポジションを変えてラウンドしながら演奏するという試みだ。
これが見事にセンセーショナルな大成功を収めた。手が空いた奏者は踊りながら走り、ポジションを変えてまた演奏……という前代未聞のスタイルだが、これを完璧なオーガナイズで、一つも落とすことなくパフォーマンスとして聴かせてしまうのだから、やはりこの8人は押しも押されもせぬ奇跡のピアニストたちなのだ。
そのさらなる進化ぶりと彼らの実力をあらゆる角度から証明してくれた今日のスタクラでの大舞台。数か月後に迫った年末の演奏会ではどんな“技”を繰り出してくれることだろう。
取材・文=朝岡久美子 撮影=福岡諒祠