2日間・7公演にパワーアップ! 初参戦の石田泰尚&ピアクロに、石井琢磨プロデュースの新企画も 『スタクラ 2026 in 横浜』初日レポート
4人の名手によるアコースティックなピアソラ
『ピアソラの総てーALL ABOUT PIAZZOLLAー』
【日時】8月1日(土)11:45開演@小ホール
【出演】三浦一馬(バンドネオン)、関朋岳(ヴァイオリン)、辻本玲(チェロ)、ニュウニュウ(ピアノ)
(辻本玲の「辻」は一点しんにょうが正式表記です)
『STAND UP! CLASSIC 2026 IN 横浜』小ホールのオープニングは、8月1日(土)11時45分から、バンドネオンの三浦一馬を中心とする『ピアソラの総て』。
まず、三浦とピアノのニュウニュウが登場し、デュオで「フーガと神秘」。三浦のバンドネオンのソロで始まり、ニュウニュウのピアノが加わり、フーガが展開される。このコンサートは、タンゴの革命家、アストル・ピアソラの作品だけによってプログラミングされていたが、フーガという、ある意味クラシカルな音楽でスタートしたのが『スタクラ』らしい。二人による音の躍動。そして、ニュウニュウがゆったりと哀愁を帯びたメロディを奏で、三浦が受け継ぐ。そして再び躍動。
三浦のMCが入り、挨拶のあと、「『ピアソラの総て』を45分で、ということですが……(笑)」と話す。三浦のMC中にニュウニュウがさりげなくBGMを入れるところが心憎い。
「天使のミロンガ」では、しみじみとしたバンドネオンの音色に魅せられる。この楽器らしい最弱音を含む味わい深い音で、三浦がピアソラの情感を歌い込む。ニュウニュウは繊細なピアノを披露。「ビオレンタンゴ」は、激しいナンバー。白熱のアンサンブルが繰り広げられる。
次に、チェロの辻本玲とニュウニュウが登場し、「ル・グラン・タンゴ」を演奏。ピアソラは若き日にパリで、名教師ナディア・ブーランジェに師事するなど、クラシック音楽の作曲も学んでいた。「ル・グラン・タンゴ」は、20世紀後半を代表する、偉大なチェリスト、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチのために書かれた作品である。辻本は、NHK交響楽団の首席チェロ奏者を務めるなど、日本を代表するチェリストの一人。そんな彼が、あたたかみのある深々とした音やエスプレッシーヴォな表現で、チェロの魅力を伝える。心にしみる弱音表現もあった。また、ニュウニュウのクリアな音色と洗練された表現が美しい。そして二人でスケールの大きな演奏を展開。クラシカルなピアソラの真骨頂が示された。
そして再び、三浦のMC。今日は「ル・グラン・タンゴ」のみがオリジナルの楽器編成であり、その他の曲は、今日の編成のために自分自身で編曲したと述べ、「編曲の妙を楽しんでほしい」と語った。
最後は、2024年のハチャトゥリアン国際コンクール優勝者であるヴァイオリンの関朋岳も加わり、4人で「ブエノスアイレスの四季」を「冬」、「夏」、「秋」、「春」の順番で演奏。これは、ピアソラが生前に自身の五重奏団で演奏した曲順によっている。今日は、バンドネオン、ヴァイオリン、チェロ、ピアノというピアソラ作品を弾くには珍しいややクラシカルな四重奏で演奏された。
「ブエノスアイレスの冬」では、ヴァイオリンとチェロが情感を込めて歌い始める。そしてニュウニュウのカンタービレ。関は濃厚なヴァイオリンを奏でる。最後も弦楽器中心でクラシカルに。
「ブエノスアイレスの夏」は、バンドネオンを中心に熱い演奏。ヴァイオリンもパワフルなソロを弾く。4人で迫力のあるアンサンブル。最後にニュウニュウが妙技を示す。
「ブエノスアイレスの秋」では、辻本が即興的なソロのあと、情感豊かに歌う。ヴァイオリンのチチャーラ(駒と緒留めの間で弦をギシギシと弾く特殊奏法)が印象的。三浦が見事なリーダーシップ。
「ブエノスアイレスの春」では、シンコペーションをきかせて、各楽器が対位法的に躍動。中間部では、三浦がしみじみとしたソロを奏でる。そして高揚とともに大団円。
アンコールには「リベルタンゴ」が演奏された。洋酒のCMでチェリストのヨーヨー・マが弾いていたことでも知られる名曲。ニュウニュウの速く激しいソロで始まり、チェロの辻本が渾身のソロを披露。そのあと、関や三浦も鮮烈に奏でる。三浦の巧みなアレンジと速いテンポでの攻めた演奏で『ピアソラの総て』は締め括られた。音響の良い室内楽向けの小ホールでの4人の名手によるアコースティックなピアソラは格別であった。
取材・文=山田治生 撮影=福岡諒祠