2日間・7公演にパワーアップ! 初参戦の石田泰尚&ピアクロに、石井琢磨プロデュースの新企画も 『スタクラ 2026 in 横浜』初日レポート

レポート
クラシック
2026.8.4

魅力的なソリストたちが誘う異次元的世界へ

『シンフォニック・メモリーズ』
【日時】8月1日(土)18:00開演@大ホール
 【出演】田中祐子(指揮)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団(オーケストラ)
上野耕平(サクソフォン)、高木竜馬(ピアノ)、高野百合絵(ソプラノ)、ニュウニュウ(ピアノ)、紀平凱成(ピアノソロ)(高木竜馬の「高」ははしごだかが正式表記です)

スタクラ初日、8月1日(土)18時から大ホールで開催された『シンフォニック・メモリーズ』は、主に久石譲×ジブリ作品の醍醐味をオーケストラと魅力的なソリストたちとの共演で堪能するダイナミックな企画だ。指揮はオペラからポップス系のジャンルまでを幅広くカバーする田中祐子。神奈川フィルハーモニーの芸達者ぶりも存分に発揮され、文字通りスケールの大きな演奏会となった。

見わたす限りほぼ満席という盛況ぶりの中、コンサートはピアニストの紀平凱成のソロ演奏でスタートした。荒井由実の「やさしさに包まれたなら」「ひこうき雲」「ルージュの伝言」と三曲続けての演奏。一曲目の冒頭で聴かせた、軽やかながらも華麗なるアルペッジョで客席はアッという間に異次元の世界へと誘われる。まさに紀平マジックで演奏会は始まった感じだ。続く二曲目、三曲目は音のプリズムを感じさせるかのように多彩な音色が躍動し、視覚化できそうなほど鮮烈な印象を放っていた。紀平による贈り物のような演奏に触れ、客席全体もいよいよジブリ作品を聴く準備が整った感じだ。

続いては、サクソフォンの上野耕平をソリストに迎えての『天空の城ラピュタ』から同名曲と「君をのせて」の二曲。厚みのあるオーケストレーションから繰り出される芳醇な響きに乗せて、ソプラノサックスの無垢であたたかみのある響きが時空間を超えて我々一人ひとりの心の中に宿る原風景のようなものを抉りだす。懐かしい郷愁と深い共鳴は、聴き手をさらなる深遠へと誘う。

続いてはピアニスト髙木竜馬を迎え、『もののけ姫』より「アシタカせっ記」「アシタカとサン」の二曲。ダイナミックレンジ、スケールともに懐の大きさを感じさせる一曲目では、ピアノ、オケ両者ともに、悠かなる大河の流れのように、どっしりとした壮大な音楽を描きだしていたのが印象的だった。

続いてもピアニスト・ニュウニュウを迎え、『ハウルの動く城』より「星を飲んだ少年」「人生のメリーゴーランド」の二曲。一曲目では神秘的で謎めいた空気感を漂わせるこの作品を、端正なつくりながら芳醇な響きで聴かせ、作品が持つ無限の可能性を感じさせた。二曲目はピアノの独壇場で始まる作品だが、次第にコケティッシなワルツへと変容してゆくにつれ、まるで映画のワンシーンを見ているかのような夢の世界が濃密に描きだされていった。それを支える田中&オケによる絶妙なアクセントもまた見事に華を添えた。

前半プログラム最後は、ソプラノの高野百合絵を迎え、『千と千尋の神隠し』より「いつも何度でも」「いのちの名前」の二曲。高野は透明な声の美しさを活かし一つひとつの言葉を噛みしめるように歌い紡ぐ。ルルル…やラララなどの歌詞のない部分での優しくあたたかみのある歌声に多くの人々が癒されたに違いない。二曲目は中音域を主体的とした音域も手伝って、言葉の重みとメッセージ性が強く感じられた。大人の童話を感じさせるような神秘性と深みの中にある輝きに満ちた命ある言葉の数々が、会場全体に深く染みわたっていたのが印象的だった。

休憩を挟んでの後半は、久石譲オリジナルバージョンによる オーケストラシリーズ『となりのトトロ』。こちらもソプラノの高野によるストーリー語りとともに進行し、オーケストラもストーリーに即した情景描写を通して各セクションがさまざまな奏法を聴かせるというユニークな作品だ。事前のインタビューで田中自身、「ブリテンの『青少年のための管弦楽入門』やプロコフィエフ『ピーターと狼』のスタイルを踏襲しており、練り上げられたオーケストレーションのハードルの高さとともに親しみやすさもある何とも魅力的な作品」と語っていたが、まさにトトロのテーマをはじめお馴染みの旋律が随所に聞こえほのぼのとさせてくれるが、変拍子をはじめ変幻自在な色彩を描きだす凝りに凝ったオーケストレーションが聴きごたえ充分の骨太な作品だ。

しかし、この作品の持ち味を存分に引き出したのは何と言っても田中の手腕だろう。細身の身体全体を使って描きだすその豊かでしなやかなバトン捌きは、流れるような美しい弧を描きながらも音の点が気持ち良い程に明確に取られており、おのずと推進力が満ち満ちてゆく。聴いている我々も不思議なほど同時に躍動しているかのような感覚にさせられるのだ。
この長尺の作品を締めくくるのは、やはりトトロのあのテーマ。力強いエンディングで見事に着地すると、会場から惜しみない喝采が贈られた。

アンコールも、やはりソリスト全員とオケによる「となりのトトロ」。ニュウニュウはヴァイオリンを持って登場というサプライズ付きだ。フェスならではの祝祭性のあるゴージャスな作品に仕上がっており、この2時間の至福の時を一同が一つになって華麗に締めくくった。何ともあたたかく愛に満ちた演奏会だった。

取材・文=朝岡久美子 撮影=福岡諒祠

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